86 / 105
最終章 モール・イン・ザ・ダーク・ウォーター
第13話 破壊の悪魔
しおりを挟む
フランチェスカは久々に自分本来の体を使う感覚にまだ慣れずにいた。
溢れ出る力の制御が難しい。
そう感じるのはフランチェスカがもう長いこと人の肉体を仮宿として過ごし続けてきたためだった。
数年前に貿易士である銀髪の修道女の肉体を悪魔憑きの要領で乗っ取って我が物とした際も、フランチェスカはそれ以前に乗っ取った人間の体を使役していた。
彼女はまるで自動車を定期的に乗り換えるように人の体を渡り歩いてきたのだ。
別次元で生まれた己の本来の姿では人の世界に存在することが出来ない。
そうまでして彼女が人の世に執着してきたのは彼女にとって人間の世界は居心地が良かったからだった。
人間は欲深く、傲慢でありながら臆病だった。
そんな人間たちの中に混じって暮らし、彼らを利用して弄びながら時代から時代を生き続ける。
それはフランチェスカにとって何よりも心地良い生き方だった。
自分に敵対しようとする無謀な人間たちを狩ることに夢中になっているフランチェスカは今、自身が本来持っている破壊するための力と破壊への衝動に駆られている。
自分の体を持て余し気味ではあるものの、それでも目の前の獲物にトドメを刺そうとしていた。
『焼き殺してくれる』
そう言うとフランチェスカは燃えたぎる爪で恋華を鷲掴みにしようとした。
だが、今まさにえぐり取ろうとしていた恋華の命は、スルリとフランチェスカの手を逃れた。
『なにっ?』
フランチェスカは苛立った声を上げる。
恋華の体はフランチェスカの爪に捕まる前に、床に現れた黒い穴の中に吸い込まれて消えた。
『またアマタロウか。性懲りもなく邪魔をしおって』
フランチェスカはそう言うと背後を振り返る。
そこには崩れ落ちる店の中でフランチェスカを睨みつけて立つ少年甘太郎の姿があった。
「そのお姉さんは殺させない」
そう言う少年甘太郎の頭上から瓦礫が落下してくるが、それらは少年甘太郎の姿をすり抜けて床に叩きつけられる。
『やはり実体のない魔気の集合体か。忌々しい。忌々しいぞ!』
フランチェスカは怒りのままに声を上げて、暴れ狂う。
店の壁も天井も完全に崩れ去り、商店は瓦礫の山と化した。
すると少年甘太郎の姿がゆらゆらと頼りない陽炎のように揺れる。
店が破壊されたことで、彼は悔しげな、そして苦しげな表情を浮かべていた。
フランチェスカはそんな少年甘太郎の様子を見て、銀色の目を光らせた。
『……ほう。もしやとは思うが……』
フランチェスカは少年甘太郎の店があった場所の両隣の建物も次々と破壊する。
嘴で外壁に大穴を開け、爪で柱を焼き切り、崩落する建物をその翼で吹き飛ばす。
「やめろ! この街を……僕の街を壊すな!」
少年甘太郎は激情に駆られるように大声を張り上げるが、それはフランチェスカの嘲笑を誘うに過ぎなかった。
フランチェスカはその力を存分に振るい、小さな店舗が崩れ落ちるのに数十秒とかからなかった。
そしてフランチェスカは再び少年甘太郎の様子を見て確信を得た。
『なるほど。そういうことか』
少年甘太郎は先ほどよりもさらに弱々しく、その存在は薄くなっている。
『この奇妙な商店街そのものが貴様ということか』
そう言うとフランチェスカは大きな笑い声を立てながら翼をはためかせ上昇した。
商店街は半径100メートルほどの広さがあることを知ると、フランチェスカは降下と上昇を繰り返して建物を次々と破壊し始めた。
「僕の街が……チクチョウ! チクショウ!」
成す術なくこれを見つめる少年甘太郎は苦しげに顔を歪め、徐々にその姿は希薄になっていく。
繰り返すノイズが彼の体を波立たせる。
壊れたテレビを見ているかのように、少年甘太郎の姿は不安定になっていった。
その間もフランチェスカの破壊行動は留まることを知らず、建物を打ち壊し、街灯をなぎ倒し、アーケードの屋根を炎の爪で燃え上がらせる。
十数分に渡って絶え間なく轟音は鳴り響き、ことごとく破壊された商店街は、ほぼ瓦礫の山と化してしまった。
そしてその時には少年甘太郎の姿は、わずかに輪郭を残すだけとなり、ほとんど消えかけていた。
その様子を見た怪鳥フランチェスカは満足げに銀色の目を細めた。
『もはやその忌々しい力を発揮できまい? 貴様には何も守れはしないのだ。この虚像のような街も、梓川恋華も』
そう言うとフランチェスカはほとんど消えかけた少年甘太郎に向かって、破滅の羽音を響かせながらゆっくりと降下していった。
溢れ出る力の制御が難しい。
そう感じるのはフランチェスカがもう長いこと人の肉体を仮宿として過ごし続けてきたためだった。
数年前に貿易士である銀髪の修道女の肉体を悪魔憑きの要領で乗っ取って我が物とした際も、フランチェスカはそれ以前に乗っ取った人間の体を使役していた。
彼女はまるで自動車を定期的に乗り換えるように人の体を渡り歩いてきたのだ。
別次元で生まれた己の本来の姿では人の世界に存在することが出来ない。
そうまでして彼女が人の世に執着してきたのは彼女にとって人間の世界は居心地が良かったからだった。
人間は欲深く、傲慢でありながら臆病だった。
そんな人間たちの中に混じって暮らし、彼らを利用して弄びながら時代から時代を生き続ける。
それはフランチェスカにとって何よりも心地良い生き方だった。
自分に敵対しようとする無謀な人間たちを狩ることに夢中になっているフランチェスカは今、自身が本来持っている破壊するための力と破壊への衝動に駆られている。
自分の体を持て余し気味ではあるものの、それでも目の前の獲物にトドメを刺そうとしていた。
『焼き殺してくれる』
そう言うとフランチェスカは燃えたぎる爪で恋華を鷲掴みにしようとした。
だが、今まさにえぐり取ろうとしていた恋華の命は、スルリとフランチェスカの手を逃れた。
『なにっ?』
フランチェスカは苛立った声を上げる。
恋華の体はフランチェスカの爪に捕まる前に、床に現れた黒い穴の中に吸い込まれて消えた。
『またアマタロウか。性懲りもなく邪魔をしおって』
フランチェスカはそう言うと背後を振り返る。
そこには崩れ落ちる店の中でフランチェスカを睨みつけて立つ少年甘太郎の姿があった。
「そのお姉さんは殺させない」
そう言う少年甘太郎の頭上から瓦礫が落下してくるが、それらは少年甘太郎の姿をすり抜けて床に叩きつけられる。
『やはり実体のない魔気の集合体か。忌々しい。忌々しいぞ!』
フランチェスカは怒りのままに声を上げて、暴れ狂う。
店の壁も天井も完全に崩れ去り、商店は瓦礫の山と化した。
すると少年甘太郎の姿がゆらゆらと頼りない陽炎のように揺れる。
店が破壊されたことで、彼は悔しげな、そして苦しげな表情を浮かべていた。
フランチェスカはそんな少年甘太郎の様子を見て、銀色の目を光らせた。
『……ほう。もしやとは思うが……』
フランチェスカは少年甘太郎の店があった場所の両隣の建物も次々と破壊する。
嘴で外壁に大穴を開け、爪で柱を焼き切り、崩落する建物をその翼で吹き飛ばす。
「やめろ! この街を……僕の街を壊すな!」
少年甘太郎は激情に駆られるように大声を張り上げるが、それはフランチェスカの嘲笑を誘うに過ぎなかった。
フランチェスカはその力を存分に振るい、小さな店舗が崩れ落ちるのに数十秒とかからなかった。
そしてフランチェスカは再び少年甘太郎の様子を見て確信を得た。
『なるほど。そういうことか』
少年甘太郎は先ほどよりもさらに弱々しく、その存在は薄くなっている。
『この奇妙な商店街そのものが貴様ということか』
そう言うとフランチェスカは大きな笑い声を立てながら翼をはためかせ上昇した。
商店街は半径100メートルほどの広さがあることを知ると、フランチェスカは降下と上昇を繰り返して建物を次々と破壊し始めた。
「僕の街が……チクチョウ! チクショウ!」
成す術なくこれを見つめる少年甘太郎は苦しげに顔を歪め、徐々にその姿は希薄になっていく。
繰り返すノイズが彼の体を波立たせる。
壊れたテレビを見ているかのように、少年甘太郎の姿は不安定になっていった。
その間もフランチェスカの破壊行動は留まることを知らず、建物を打ち壊し、街灯をなぎ倒し、アーケードの屋根を炎の爪で燃え上がらせる。
十数分に渡って絶え間なく轟音は鳴り響き、ことごとく破壊された商店街は、ほぼ瓦礫の山と化してしまった。
そしてその時には少年甘太郎の姿は、わずかに輪郭を残すだけとなり、ほとんど消えかけていた。
その様子を見た怪鳥フランチェスカは満足げに銀色の目を細めた。
『もはやその忌々しい力を発揮できまい? 貴様には何も守れはしないのだ。この虚像のような街も、梓川恋華も』
そう言うとフランチェスカはほとんど消えかけた少年甘太郎に向かって、破滅の羽音を響かせながらゆっくりと降下していった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!
枕崎 純之助
ファンタジー
下級悪魔と見習い天使のコンビ再び!
天国の丘と地獄の谷という2つの国で構成されたゲーム世界『アメイジア』。
手の届かぬ強さの極みを欲する下級悪魔バレットと、天使長イザベラの正当後継者として不正プログラム撲滅の使命に邁進する見習い天使ティナ。
互いに相容れない存在であるはずのNPCである悪魔と天使が手を組み、遥かな頂を目指す物語。
堕天使グリフィンが巻き起こした地獄の谷における不正プラグラムの騒動を乗り切った2人は、新たな道を求めて天国の丘へと向かった。
天使たちの国であるその場所で2人を待ち受けているものは……?
敵対する異種族バディが繰り広げる二度目のNPC冒険活劇。
再び開幕!
*イラストACより作者「Kamesan」のイラストを使わせていただいております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
御伽の住み人
佐武ろく
ファンタジー
国内でも上位に入る有名大学を首席で卒業し大手企業に就職した主人公:六条優也は何不自由なく日々の生活を送っていた。そんな彼が残業を終え家に帰るとベランダに見知らぬ女性が座り込んでいた。意識は無く手で押さえたお腹からは大量の血が流れている。そのことに気が付き慌てて救急車を呼ぼうとした優也を止めるように窓ガラスを割り部屋に飛び込んできたソレに思わず手は止まり目を丸くした。その日を境に人間社会の裏で生きる人ならざる者達【御伽】と関り始める。そしてある事件をきっかけに六条優也は人間社会から御伽の世界へ足を踏み入れるのであった。
※この物語はフィクションです。実在の団体や人物と一切関係はありません。
浜薔薇の耳掃除
Toki Jijyaku 時 自若
大衆娯楽
人気の地域紹介ブログ「コニーのおすすめ」にて紹介された浜薔薇の耳掃除、それをきっかけに新しい常連客は確かに増えた。
しかしこの先どうしようかと思う蘆根(ろこん)と、なるようにしかならねえよという職人気質のタモツ、その二人を中心にした耳かき、ひげ剃り、マッサージの話。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
正義のミカタ
永久保セツナ
大衆娯楽
警視庁・捜査一課のヒラ刑事、月下氷人(つきした ひょうと)が『正義のミカタ』を自称するセーラー服姿の少女、角柱寺六花(かくちゅうじ りか)とともに事件を解決していくミステリーではないなにか。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる