甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

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最終章 モール・イン・ザ・ダーク・ウォーター

第12話 圧倒的な力を前にして

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 フランチェスカの巨体が少年甘太郎あまたろうの店の壁をこわし、天井てんじょうを突き破った。
 くずれ落ちる天井てんじょうを目にした恋華れんかは、自分に逃げ場がないことをさとった。
 そう広くない店で巨大なフランチェスカが激しくうごめくと、せま水槽すいそうで大きな魚が暴れくるっているようなもので、同じ店の中にいる恋華れんかはもはや成すすべなく頭を押さえてかがみ込むしかなかった。
 
 瓦礫がれきが舞い散る中で、少年甘太郎あまたろうの姿は見えなくなっている。
 頭上からくずれ落ちてくるかべ恋華れんかの周囲に音を立てて転がり、恋華れんかうようにして必死にカウンターの下に避難ひなんこころみる。
 だが、それを見逃みのがすフランチェスカではなかった。

『地虫のようにい回るしかないか。みじめな女め』

 そう言うとフランチェスカは燃えさかつめを振るって、恋華れんかの目前にあるカウンターをけずり取った。
 破壊されたカウンターは焼けげ、飛び散った火花が恋華れんかかみがす。

おのれ矮小わいしょうさを思い知るがいい』

 そう言うとフランチェスカは真紅しんくくちばし恋華れんかの右足首をくわえた。

「きゃあっ!」

 強い力で足首をはさみ込まれた痛みに恋華れんかは悲鳴を上げる。
 これにかまわずにフランチェスカは恋華れんかくわえたまま持ち上げると、さかりのままの恋華れんかもてあそぶようにして空中でブルンブルンと首を振った。
 恋華れんかは必死にこれにえるが、前後不覚の状態で振り回されて、どうすることも出来ない。

『弱い。人間は何と卑小ひしょうなのだ。我がくちばしに少し力を込めれば、貴様の足首など焼き菓子がしのようにちぎることが出来る。このつめでその身を焼けば、貴様はほんの十数秒で焼死体と化すぞ。ためしてみるか?』

 フランチェスカはそう言ってけたたましい笑い声を上げた。
 振り回されている恋華れんかこらえるのに精一杯で、反論の声を上げることすら出来ない。
 そんな恋華れんかを見下ろしてフランチェスカは問いかける。

『我にさからおうとしたおのれの無力をいているか? おの無謀むぼうに絶望しているのか?』

 なぶるようにそう言うと、フランチェスカは首を振るうのを止めた。
 そして恋華れんかの絶望を確かめるかのように、さかり状態の彼女の様子をうかがう。
 その途端とたん恋華れんかは決死の覚悟で身を丸め、自分の足首をくわえて放さないフランチェスカのくちばしに手でれようとした。

『こざかしい!』

 これを察知さっちしたフランチェスカは恋華れんかを投げ捨てた。

「うぐっ!」

 落下して背中をゆかに打ちつけた恋華れんかは、苦しげにまったような声を上げる。
 ゆかに転がる恋華れんかを見下ろすと、フランチェスカは満足げに言い放った。

抵抗ていこうプログラムをその身にびる覚悟で我に修正プログラムを投じようとするか。見上げた根性こんじょうだが、貴様の執念しゅうねんなど我が前ではこのザマだ』

 そう言うとフランチェスカは燃えさかつめ恋華れんかの眼前に近づける。
 激しい炎が恋華れんかはだを焼く。
 息苦しいまでの熱さに恋華れんかは思わず顔をそむけた。
 そんな彼女を嘲笑あざわらうかのごとく、フランチェスカは恋華れんかの顔をのぞきこむようにくちばしを近づけて言う。

『どんな決死の覚悟も、どれほどの修練しゅうれんによって手にした力であろうとも、人の強さなど我が前では波に押しくずされるすなの城だ。貴様らカントルムも我が必ず瓦解がかいさせてやろう。まずは手始めに貴様の体をこのつめで生きたまま焼き、そのけむりを絶望への狼煙のろしとしてやる』

 そう言うとフランチェスカは燃えさかつめ恋華れんかに向けて降ろしていく。
 背中を強く打ちつけたせいで、恋華れんかは足こしに力が入らなくなっていた。

「ううっ……」

 圧倒的あっとうてきな力を前にして恋華れんかはそれ以上、言葉を発することが出来なかった。
 徐々じょじょに近づいてくるつめの猛烈な熱さが恋華れんかの意識をり取ろうとしていた。

(熱い……もう、ダメだ……)

 何かを考える余裕もなかった。
 自分にせまり来る死を、恋華れんかは今まさにその身に受けようとしていた。
 だが、上からせまり来る死にあらがうようにして、ゆかの下から彼女に救いの手を差しべる者がいた。
 ゆかの上に横たわっていたはずの恋華れんかの体は、スッとゆかの下へとしずみ込んでいく。
 突如とつじょとしてゆかにポッカリと開いたあなの中に、恋華れんかの体は飲み込まれていった。
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