甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

文字の大きさ
上 下
84 / 105
最終章 モール・イン・ザ・ダーク・ウォーター

第11話 大切な人

しおりを挟む
 おさなき少年の背中が今にも消えようとしている。
 恋華れんかは必死に手をばし、その細いかたを抱き寄せようとした。
 しかし、やはり恋華れんかの手は少年甘太郎あまたろうの体をすり抜けてしまい、れることは出来ない。

「何でよ……何でなの!」

 それでも恋華れんかはあきらめきれずに、何度ちゅうをかいても甘太郎あまたろうの体をつかもうと必死になる。
 むなしい努力を続ける恋華れんかを見て、身動きをふうじられた状態のフランチェスカは聞く者を不快ふかいにさせる嬌声きょうせいを上げた。

無駄むだなことを。その小僧が消えたら、貴様の首をこの燃えさかつめで焼き切ってくれる』

 だが、恋華れんかはこれを無視して甘太郎あまたろうの体に幾度いくど幾度いくどうでを回す。

「お、お姉さん……」

 必死の形相ぎょうそうでフランチェスカをおさえつけていた少年甘太郎あまたろうは、自分以上に必死な恋華れんかの姿に怪訝けげんな顔で振り返る。
 そんな少年甘太郎あまたろう恋華れんか懸命けんめいうったえかけた。

「アマタローくん。もうそれ以上、力を使っちゃダメ。あなたは消えちゃダメなの!」

 そう言われた少年甘太郎あまたろうは彼女がそれほど必死な理由が分からずに、困惑こんわくの表情を浮かべる。

「お姉さん。どうして……」

 少年甘太郎あまたろうこまったような顔に恋華れんか一抹いちまつさびしさを覚え、たまらなくなっておのれの心情を吐露とろした。

「私は……あなたに消えてほしくないの」

 恋華れんかがそう言ったその時、消えかかっている少年甘太郎あまたろうの体にかさね合わせた彼女の両手が、何の前触まえぶれもなく青と赤の光を放った。

「えっ?」

 恋華れんかおどろいて自分の両手を見る。
 すると左右の人差し指にはまっている指輪型霊具【スクルタートル(調査官)】と【メディクス(医師)】が発動していることをしめす光をびていた。

「は、反応はんのうしてる……まさか!」

 恋華れんか新宮しんぐう総合病院で起きた出来事できごとを即座に思い返す。
 彼女の修正プログラムがまるで水の中を電気が走るように闇穴やみあなの中を伝い、氷上ひかみ恭一きょういちへと投与とうよされたことを。

「あの時と同じことが……」

 そう言うと恋華れんかは顔を上げ、フランチェスカの姿に目をやる。
 恋華れんかの思った通り、怪鳥かいちょうフランチェスカの漆黒しっこくの体に、赤と青の光がスパークしながらまとわりついていた。

『ぐぅぅぅぅぅっ! またもやこざかしい修正プログラムか!』

 フランチェスカは苦悶くもんの声を上げ、その巨体を震わせた。
 少年甘太郎あまたろうの体を通し、彼の穿うがった闇穴やみあなあみからフランチェスカの体へと恋華れんかの修正プログラムがほどこされているのだ。

『ナメた真似まねを。だが、よもや忘れてはおるまい? こうして本来の姿すがたあらわにしたからといって、我が身から抵抗ていこうプラグラムが消え去ったわけではないぞ!』

 フランチェスカは激しい怒声どせいを上げた。

「くっ……」

 腹の底にビリビリとひびくようなフランチェスカの声に、恋華れんかくちびるむ。
 フランチェスカの言う通り、手痛いしっぺ返しがもどってくるのだ。
 だが、その時ふいにうすく消えかかっていた少年甘太郎あまたろうが思いもよらない行動に出た。
 フランチェスカの身をふうじ込め、店を守ることに躍起やっきになっていた彼は突然、闇穴やみあなを解除したのだ。
 その小さな体から放出していた魔気まきが一時的にストップした。
 途端とたんに消えかかっている少年甘太郎あまたろうの姿が再び元の色を取りもどし、同時に怪鳥かいちょうフランチェスカをしばり付けていた漆黒しっこくあみが消え、その巨体を解放する。
 恋華れんかはそのおかげで逆流してくるはずの抵抗ていこうプログラムをまぬがれた。
 彼女は目を丸くして少年甘太郎あまたろうの背中の見つめる。

「な、何で……。も、もしかしてアマタローくん。私を守ってくれたの?」

 恋華れんかの言葉に少年甘太郎あまたろうは振り返った。
 その顔はおどろきの色にまっている。
 自分でも何でそのような行動に出たのか分からないといった顔だ。

「お、お姉さん。僕……」

 戸惑とまどう少年甘太郎あまたろう恋華れんかめ寄った。

「アマタローくん! 記憶が……記憶が残ってるの?」
「記憶? そんなの分からないよ」

 少年甘太郎あまたろうはうつむいて、しぼり出すように言葉を続けた。

「だけど、お姉さんは僕の最初のお客さんだから、大切な人だから……守りたかったんだ」
「ア、アマタローくん……」

 彼の中に元の記憶が残されているのかどうかは分からない。
 その記憶が恋華れんかを守らせたのかどうかも定かではない。
 本当に彼の言う通り、ただ最初の顧客こきゃくとして守りたかったのかもしれない。
 それでも恋華れんかうれしかった。
 甘太郎あまたろうが自分を守ろうと咄嗟とっさに行動してくれたことがうれししかった。
 甘太郎あまたろうの優しさが、彼が本来持っている心として今も息づいていると実感できたからだ。
 だが、状況はそんなあまい思いを抱いていられないほどに切迫せっぱくしていた。
 自由を取りもどしたフランチェスカは大きく翼をはためかせ、発生した突風が恋華れんかと少年甘太郎あまたろうの体を強くあおった。

『フン。抵抗ていこうプログラムの逆流を防いだからといって、難をのがれたと思ったら大間違まちがいだ!』

 フランチェスカは轟然ごうぜんと声をひびかせると、恋華れんかと少年甘太郎あまたろうのいる店に一気に突っ込んだ。
 恋華れんかも少年甘太郎あまたろうも声を出す間もないほどのスピードだった。
 少年甘太郎あまたろうが商店街にかまえたその店は、とうとう彼と恋華れんかき込んで轟音ごうおんとともに大破した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生錬金術師・葉菜花の魔石ごはん~食いしん坊王子様のお気に入り~

豆狸
ファンタジー
異世界に転生した葉菜花には前世の料理を再現するチートなスキルがあった! 食いしん坊の王国ラトニーで俺様王子様と残念聖女様を餌付けしながら、可愛い使い魔ラケル(モフモフわんこ)と一緒に頑張るよ♪ ※基本のんびりスローライフ? で、たまに事件に関わります。 ※本編は葉菜花の一人称、ときどき別視点の三人称です。 ※ひとつの話の中で視点が変わるときは★、同じ視点で場面や時間が変わるときは☆で区切っています。 ※20210114、11話内の神殿からもらったお金がおかしかったので訂正しました。

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

少年探偵レオンの冒険

作家志望の怠惰な学生
大衆娯楽
 著名な青年探偵の助手として、赤毛の少年レオンは親友のチャックと共にニヒルな日常を過ごしていた。彼らはともに正常な感受性が少し欠けており、通常の男子は経験するであろう恋というものにも、まったく興味を抱いていなかった。今までは、だが。  その日二人は、喫茶店で初めての恋バナをしていた。が、突如現れた友人の金髪美女エミリーに、難解な依頼を持ち掛けられる。それはヒマラヤ山脈で遭難している彼女の弟を救出するという、ぶっ飛んだものだった。レオンとチャックは戸惑いを見せるものの、彼らには縛るもの、つまり親がいなかった。それこそ彼らの性格を変異させた元凶でもあったのだ。言い合いの末、覚悟を決める二人。自分たちの上司でもある、青年私立探偵ジェームズを仲間に引き入れ、彼らは雪山へ向かった。  普段とはかけ離れた冒険に仲間と共に赴いたレオンは、その最中に起きた、自身の変化に戸惑うことになる。それは恋愛感情、そして嫉妬の芽生えだった。

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

タイムスリップしたら織田信長の家来になりました!

ファンタジー
時は22世紀初頭。ついに人類の夢であるタイムマシンが完成した。 しかしそれを完成させた発明家はポンコツだった!? 主人公の藤森蘭は大学で歴史学を学ぶ大学生。そしてその父親こそ、タイムマシンを発明した理学博士の藤森吉光だった。 ある日蘭は幼馴染の濃田蝶子と遊び半分でそのタイムマシンに乗ってしまう。 誤作動を起こしたタイムマシンは勝手に過去に戻って、着いた所は戦国時代だった。 ※この世界は別次元の空間にある戦国時代です。 超能力を持っている人間が稀に存在します。 大筋のストーリーは史実に沿っておりますが、あくまでもフィクションです。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

カフェバー「ムーンサイド」~祓い屋アシスタント奮闘記~

みつなつ
キャラ文芸
大学生の俺は、まかない飯が絶品のカフェバー「ムーンサイド」でバイトをしている。 ある日特別客としてやってきたダンディ紳士……彼は店長の副業『祓い屋』の依頼人だった! お祓いに悪戦苦闘する店長を見かねた俺は、思わず『お手伝い』してしまう。 全く霊感のない俺は霊からの攻撃を感じることなく、あっさり悪霊を封印してしまった。 「霊感がないって一種の才能なのかも知れないね」と店長に誘われ、祓い屋のアシスタントになった俺は、店長と共に様々な怪奇現象に立ち向かうことになる。 呪われようと祟られようと全くノーダメージという特異体質を活かして余裕の『お仕事』……かと思いきや、何故か毎回メンタルも体力もぎりぎりで苦労の連続! これは、霊力も霊感もないただのアシスタントの俺が、日々祓い屋に寄せられる依頼と格闘する汗と涙の物語である。 ★表紙イラスト・挿絵はイラストレーターの夜市様にお願いしています。 ★この物語はフィクションです。実際の事件や団体、場所、個人などとはいっさい関係ありません。宗教やそれにともなう術式、伝承、神話などについては、一部独自の解釈が含まれます。 ★この作品は「小説家になろう」と「ノベルアップ+」にも掲載しています。 ★R-15は保険です。

クーヤちゃん ~Legend of Shota~ このかわいい召喚士は、地球からアイテムを召喚してしまったみたいです

ほむらさん
ファンタジー
 どうやら、人は死ぬと【転生ルーレット】で来世を決めるらしい。  知ったのはもちろん自分が死んで最後の大勝負を挑むことになったからだ。  虫や動物で埋め尽くされた非常に危険なルーレット。  その一発勝負で、幸運にも『ショタ召喚士』を的中させることに成功する。  ―――しかし問題はその後だった。  あの野郎、5歳児を原っぱにポイ捨てしやがった!  召喚士うんぬんの前に、まずは一人で異世界を生き抜かねばならなくなったのです。  異世界言語翻訳?そんなもん無い!!  召喚魔法?誰も使い方を教えてくれないからさっぱりわからん!  でも絶体絶命な状況の中、召喚魔法を使うことに成功する。  ・・・うん。この召喚魔法の使い方って、たぶん普通と違うよね? ※この物語は基本的にほのぼのしていますが、いきなり激しい戦闘が始まったりもします。 ※主人公は自分のことを『慎重な男』と思ってるみたいですが、かなり無茶するタイプです。 ※なぜか異世界で家庭用ゲーム機『ファミファミ』で遊んだりもします。 ※誤字・脱字、あとルビをミスっていたら、報告してもらえるとすごく助かります。 ※登場人物紹介は別ページにあります。『ほむらさん』をクリック! ※毎日が明るくて楽しくてほっこりしたい方向けです。是非読んでみてください! クーヤ「かわいい召喚獣をいっぱい集めるよ!」 @カクヨム・なろう・ノベルアップ+にも投稿してます。 ☆祝・100万文字(400話)達成! 皆様に心よりの感謝を!  

処理中です...