甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

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最終章 モール・イン・ザ・ダーク・ウォーター

第10話 守るために

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 巨大な黒い鳥は禍々まがまがしさをその身から放出させているといっても過言かごんではなかった。
 らめく陽炎かげろうをその身から立ちのぼらせ、怪鳥かいちょうフランチェスカは恋華れんかを見下ろした。

恋華れんか。このほむらつめで焼き殺してやろうか。それでもこの真紅しんくくちばし内臓ないぞうを引きずり出してほしいか?』

 聞く者をふるえ上がらせるようなおぞましい声でそう言うと、フランチェスカはバサバサと巨大な漆黒しっこくの翼をはためかせる。
 途端とたんに巻き起こるつむじ風にあおられて恋華れんか懸命けんめいに吐き気をこらえた。
 あまりにも魔気まき恋華れんかの顔をでる。

『貴様の苦しむ顔をせいぜい楽しませてもらうとするか』

 そう言ったフランチェスカはその巨体をひるがえしてわずかに上昇すると、そこから一気に恋華れんかのいる店舗てんぽに向かって急降下した。
 店にそのまま体ごと突っ込むつもりのフランチェスカに、恋華れんかこしを落としてさけび声を上げた。

「アマタローくん! げて!」

 だが、そう言った恋華れんかの横を素早すばやくすりけて、少年甘太郎あまたろうは店の前に立つと両手を広げた。

「やめろぉ!」

 少年甘太郎あまたろうはそう言ってフランチェスカに立ち向かうが、フランチェスカはかまわず彼を吹き飛ばそうとする。

「きゃあっ! アマタローくん!」

 悲鳴を上げる恋華れんかの目の前で、少年甘太郎あまたろうき飛ばされようとしていたが、店に突っ込む直前でフランチェスカは急にその動きを止めた。
 巨大な漆黒しっこくの体は何かにからめとられたかのように身動きをふうじられていた。
 フランチェスカの体にからみ付いているそれは、漆黒しっこくの糸でみ込まれたかに見えるあみのようなものだった。

『……何だこれは。この糸は……闇穴やみあな?』

 身動きをふうじられたフランチェスカは忌々いまいましそうに身じろぎをする。

「ア、アマタローくん……」

 おどろ恋華れんかの眼前で少年甘太郎あまたろうはフランチェスカに立ち向かうように仁王におう立ちをしている。
 その背中が再びテレビ画面のノイズのようにらぐのを恋華れんかは確かに見た。

「僕のお店をこわさせたりしないぞ」
 
 巨大なフランチェスカにまるでおくすることなくそう言うと、少年甘太郎あまたろうはその小さな体を目一杯大きく見せるかのように両手を頭上にかかげた。
 するとフランチェスカの体にからみつく漆黒しっこくあみが、さらにきつく巨鳥の体躯たいくめつけた。

『うぐああああああっ! 貴様……まさか、アマタロウか!』

 フランチェスカは強い闇穴やみあなの力を持つ少年をにらみつけると、き捨てるように怨嗟えんさの声を上げた。

『おのれぇぇぇぇぇ! またしても邪魔じゃまするとは』

 凄絶せいぜつ光景こうけいを目の当たりにして恋華れんかは身をふるわせながら立ちくしていた。
 信じられないことに小さな体の少年が怪鳥かいちょうフランチェスカをおさえつけていた。
 蜘蛛くものように張りめぐらされた闇穴やみあなあみは、フランチェスカの巨体をしばり上げてその体の自由をうばっている。
 人智じんちえた存在ともべるフランチェスカが子供の甘太郎あまたろうおくれをとっているのだ。
 恋華れんかは息を飲む。
 甘太郎あまたろうの力は高校生の肉体だったころよりもはるかに強まっていることは明らかだった。

 少年甘太郎あまたろうの肉体からは、今やおそろしいほどの魔気まきが放出されている。
 だが、それだけに恋華れんかにはその力があやういように思えて仕方がなかった。
 そして、小さな少年の体があれほどの強い力をるうことに強い危惧きぐを覚えた恋華れんかの直感は正しかった。
 フランチェスカを強くつよえ込むほどに、少年甘太郎あまたろうの背中はうすけていく。
 さらにその体をらがせるノイズはより一掃いっそう強くなっていく。
 少年甘太郎あまたろうの体が変調をきたしているのはだれの目にも明らかだった。
 当然、フランチェスカもそのことに気が付いている。

『ククク……なるほど。しょせんは子供のすることだ。力を使い果たし、ちりのように消え失せるがいい』

 フランチェスカはそう言うとおそろしいほどのたけびを上げた。
 不快なその声に顔をしかめながら、恋華れんかは少年甘太郎あまたろうに向けて必死に声を張り上げた。

「ア、アマタローくん。それ以上、力を使ったらダメよ! アマタローくんが消えちゃう!」

 だが、少年甘太郎あまたろうは両手を頭上に突き出したまま、かぶりをって背中しに大声を上げる。

いやだ! 僕はこの店の店主なんだ! 店を……店を守るんだ!」
「アマタローくん! ダメェェェェ!」

 恋華れんか悲痛ひつうさけびはとどかない。
 少年甘太郎あまたろうの目は一つの思いにとらわれ、おのれを見失っていた。
 その背中は見る見るうちにうすくなり、もはや彼の向こう側にフランチェスカの姿をかして見通せるほどだった。

「アマタローくんが……アマタローくんが消えちゃう!」

 恋華れんか無我夢中むがむちゅうで少年甘太郎あまたろうの背中へと手をばしてけ出していた。
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