甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

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最終章 モール・イン・ザ・ダーク・ウォーター

第3話 牙をむくフランチェスカ

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「ハァ……ハァ……」

 恋華れんかは追いめられて荒い息をついていた。
 衣服はところどころ切りかれて破れ、その素肌すはだのあちらこちらに切り傷や打ち身のあとが散見される。
 フランチェスカは嬉々ききとして嬌声きょうせいを上げながら恋華れんかの周囲を飛び回り、そのつめで彼女を傷つけていく。

「くっ!」

 恋華れんかはどれだけ傷を負っても決してくっすることなくフランチェスカを捕らえようとするが、徐々じょじょにその動きはにぶくなりつつあった。
 恋華れんかをすぐには殺さないと言ったその言葉の通り、フランチェスカは恋華れんかが傷つき疲労ひろう蓄積ちくせきさせていくその様子を楽しんでいた。

「ほら。どうしたの? 私を絶対にゆるさないんじゃないの?」

 冷笑れいしょうをその顔に浮かべながらフランチェスカは恋華れんかの数メートル先に制止した。
 恋華れんかかたで息をつきながらフランチェスカをにらみつけた。
 そんな恋華れんかをじっと見据みすえてフランチェスカは冷たい声で語りかけた。

「アマタロウがいてくれれば少しはなぐさめになったでしょうけど、残念なことにあのぼうやは今頃あの世でなげいているわよ。あんな女の護衛ごえいなんて引き受けなければ死ぬことはなかったのに、ってね」

 フランチェスカはそう言うと、愉快ゆかいでたまらないといったように笑い声を上げた。
 その声を聞きながら不快感に顔をゆがめる恋華れんかは、フランチェスカの言葉が胸に突きさるのを感じてくちびるんだ。
 甘太郎あまたろう危険きけんな仕事を依頼したのはカントルムに所属する自分である、ということは事実なのだから。
 だが恋華れんかにはどうしてもフランチェスカに反論せずにはいられないことがある。

「彼を危険にさらしたのは私の責任だわ。けどアマタローくんはそんなふうにうらごとを言ったりしない。彼は自分の仕事に誇りと信念を持っていた。覚悟を決めて私の依頼を受けてくれた勇気あるアマタローくんを侮辱ぶじょくするのはゆるさない!」

 恋華れんか甘太郎あまたろうの誇りを守りたくて怒りにふるえながら声を張り上げた。
 そんな彼女を小馬鹿こばかにするようにフランチェスカは鼻を鳴らす。

「フンッ。あなたもずいぶん傲慢ごうまんね。自分のせいでアマタロウが死んだっていうのに。まあ、すぐに後を追わせてあげるから、言いわけならアマタロウにあの世で直接しなさいな」

 恋華れんかはフランチェスカの言葉を無視して身構みがまえた。
 甘太郎あまたろうの生死についてはひとまず考えるのをやめた。
 フランチェスカの言葉を鵜呑うのみにすることは出来ないし、何より恋華れんか自身が甘太郎あまたろうの死を信じることは出来できなかった。
 恋華れんかは信じている。
 甘太郎あまたろうが生きて再び自分の前に姿を現してくれることを。
 窮地きゅうちに追い込まれても決して絶望しない恋華れんかのしぶとさを見たフランチェスカは白けた表情を浮かべて鼻を鳴らした。

「フンッ。そろそろお遊びもきたし、オシマイにしましょうか」

 そう言うとフランチェスカは大きく上昇して恋華れんかを見下ろす格好かっこうになった。

「死ぬ前に言い残すことはあるかしら? 一応聞いてあげるけど」

 さげすみにいろどられた表情でそう言うフランチェスカだったが、恋華れんかは一言も発することなく、指で片方のまぶたの下をばして舌を出し、いわゆる『アッカンベー』をしてみせた。
 それを見たフランチェスカは侮蔑ぶべつの色をその目に浮かべ、冷たく殺気のこもった視線を恋華れんかに向けた。

「そう。じゃあ望み通りその目をくり抜いて殺してあげる」

 そう言うとフランチェスカは二度三度とその場で回り、いきおいをつけて恋華れんかに急降下した。
 海鳥が海面下の小魚をねらうようなスピードで滑空かっくうし、フランチェスカは恋華れんかの命をり取ろうときばいた。
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