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第三章 トロピカル・カタストロフィー
第24話 追いつめられた恋華
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恋華は重い足に鞭を打って必死に走った。
すでにアンブレラ・シューターも失い、大幅に力を失っていた恋華だったが、幸いにしてあれ以来、感染者と出会うことはなかった。
正直なところ、今この時に再度多くの感染者たちと渡り合うのは体力的に厳しいと言わざるを得ない。
そうした懸念を胸に抱えたまま進む恋華だったが、ついに目的とする場所にたどり着こうとしていた。
地図によればもう一つ角を曲がれば地下街のメインコートに出られる。
「もうすぐメインコートだわ。アマタローくん。無事でいて」
すべての地下道と繋がっているそこならば甘太郎とめぐり合える。
そのはずだった。
だが、曲がり角を曲がった時、目の前に広がる予想外の光景に恋華は思わず立ち尽くしてしまった。
本来ならばメインコートに通じているはずのそこには、締め切られた重い鉄の扉が道を阻み、それ以上の進行を許さない。
「そ、そんな……」
慌てて扉に駆け寄り、ドアノブを捻ってみるが、押しても引いても扉はビクともしない。
「嘘でしょ。ここまで来て!」
恋華は苛立ちも露に鉄製の扉を拳で叩くが、ゴンと鈍い音が虚しく響いて消えただけだった。
恋華は力を失ってその場に膝を着く。
「アマタローくん。どこにいるの」
わずかな間とは言え、一人で必死に感染者と戦い、薄暗い地下道を走り抜けてきた。
甘太郎が傍にいてくれることが、どんなに自分を勇気付けてくれていたのか、今の恋華には痛いほどよく分かる。
何もそれは彼が護衛として最適な闇穴を穿つ能力を持っているからだけではない。
その人柄や心の強さが恋華を支えてくれていたからだった。
甘太郎の笑顔を見て、その声を聞き、彼の優しさに触れてただ安心したかった。
「アマタローくん……会いたいよ」
恋華は力なくそう言葉を漏らすと、その場にへたり込んでしまった。
その時だった。
堅く閉ざされていた扉が向こう側から開錠され、音を立ててゆっくりと開いていく。
「……!」
恋華が驚いてそちらに目を向けると、開かれた扉の向こう側にいたのは警官隊だった。
人数は5人。
一瞬、救いの手が差し伸べられたのかと思った。
だがすぐにそうではないことを恋華は悟った。
警官隊は全員が手にした拳銃の銃口を恋華に向けていた。
彼らの目は一様に狂気に染まり、血走っている。
「あっ……」
絶望的な状況に青ざめる恋華が立ち上がる間もなく、目の前で銃口が次々と火を噴く。
十数秒に渡って地下道に銃声が鳴り響き、やがてそれは途絶えて再び静寂が訪れた。
すでにアンブレラ・シューターも失い、大幅に力を失っていた恋華だったが、幸いにしてあれ以来、感染者と出会うことはなかった。
正直なところ、今この時に再度多くの感染者たちと渡り合うのは体力的に厳しいと言わざるを得ない。
そうした懸念を胸に抱えたまま進む恋華だったが、ついに目的とする場所にたどり着こうとしていた。
地図によればもう一つ角を曲がれば地下街のメインコートに出られる。
「もうすぐメインコートだわ。アマタローくん。無事でいて」
すべての地下道と繋がっているそこならば甘太郎とめぐり合える。
そのはずだった。
だが、曲がり角を曲がった時、目の前に広がる予想外の光景に恋華は思わず立ち尽くしてしまった。
本来ならばメインコートに通じているはずのそこには、締め切られた重い鉄の扉が道を阻み、それ以上の進行を許さない。
「そ、そんな……」
慌てて扉に駆け寄り、ドアノブを捻ってみるが、押しても引いても扉はビクともしない。
「嘘でしょ。ここまで来て!」
恋華は苛立ちも露に鉄製の扉を拳で叩くが、ゴンと鈍い音が虚しく響いて消えただけだった。
恋華は力を失ってその場に膝を着く。
「アマタローくん。どこにいるの」
わずかな間とは言え、一人で必死に感染者と戦い、薄暗い地下道を走り抜けてきた。
甘太郎が傍にいてくれることが、どんなに自分を勇気付けてくれていたのか、今の恋華には痛いほどよく分かる。
何もそれは彼が護衛として最適な闇穴を穿つ能力を持っているからだけではない。
その人柄や心の強さが恋華を支えてくれていたからだった。
甘太郎の笑顔を見て、その声を聞き、彼の優しさに触れてただ安心したかった。
「アマタローくん……会いたいよ」
恋華は力なくそう言葉を漏らすと、その場にへたり込んでしまった。
その時だった。
堅く閉ざされていた扉が向こう側から開錠され、音を立ててゆっくりと開いていく。
「……!」
恋華が驚いてそちらに目を向けると、開かれた扉の向こう側にいたのは警官隊だった。
人数は5人。
一瞬、救いの手が差し伸べられたのかと思った。
だがすぐにそうではないことを恋華は悟った。
警官隊は全員が手にした拳銃の銃口を恋華に向けていた。
彼らの目は一様に狂気に染まり、血走っている。
「あっ……」
絶望的な状況に青ざめる恋華が立ち上がる間もなく、目の前で銃口が次々と火を噴く。
十数秒に渡って地下道に銃声が鳴り響き、やがてそれは途絶えて再び静寂が訪れた。
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