甘×恋クレイジーズ

第三章 トロピカル・カタストロフィー

第18話 手渡された最後の武器

　地下道の守衛室しゅえいしつ。
　甘太郎あまたろうとマッケイガン神父は互いの情報を刷すり合わせて、ようやく状況を理解しつつあった。

『今回の件、残念ながら私の力は及およばないようですね』

　マッケイガン神父は無念そうにそう言うと懐ふところから小さな小箱を取り出した。

『ですが、これをあなた方にお渡しすることが私の役目です。お受け取り下さい』

　そう言って神父は小箱を甘太郎あまたろうに手渡した。
　甘太郎あまたろうは受け取ったその小箱を見て、安堵あんどの息をついた。
　それは指輪を収納するためのリングケースだった。

「これが【スブシディウマ（援軍）】。これさえあれば恋華れんかさんは１級感染者に対抗できる」

　そして甘太郎あまたろうはすぐにそれを恋華れんかに渡さなければ、という思いを強くして神父に目をやった。

「街はまだ危険です。神父はここに隠かくれていて下さい。俺は恋華れんかさんを見つけ出して、これを渡さないと」

　決意を込めた表情でそう言う甘太郎あまたろうに、マッケイガン神父は静かに頷うなづいた。
　そして神父は甘太郎あまたろうの背後に横たわる運転手の姿に目をやった。

『その方は私が見ています。あなたはそれを一刻いっこくも早くミス・アズサガワに渡して下さい』

　甘太郎あまたろうはそう告つげる神父と視線を交かわして頷うなづき合う。

『それから修道女しゅうどうじょの格好かっこうをした銀髪の女に用心してください。あれは人ならざる者。人に災わざわいをもたらす者です』

　神父の脳裏のうりに教会で自分を襲おそった女の恐ろしさがまざまざと甦よみがえる。

「銀髪の修道女しゅうどうじょですね。きっとそれが黒幕くろまくだ」

　緊迫きんぱくした表情でそう言うと甘太郎あまたろうは立ち上がって最後にもう一度、ケータイの翻訳ほんやくツールに自分の声を吹ふき込み、それを神父に聞かせた。

「神父もどうかご無事で」

　神父はにこやかに微笑ほほえむと、去っていく甘太郎あまたろうを見送りながら神への祈いのりを捧ささげた。

『どうか若き彼らに神のご加護かごがありますように』