甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

文字の大きさ
上 下
56 / 105
第三章 トロピカル・カタストロフィー

第11話 暗黒の塔へ

しおりを挟む
 この国の感染者らの感染経路についての甘太郎あまたろうの仮説を恋華れんかから聞いたイクリシアは、興味きょうみ深そうに答えを返してきた。

『それは十分に考えられるな。ブレイン・クラッキングの施術せじゅつ方法は今のところ相手に直接れる、もしくは近距離から視線を送るの二通りのみ確認されているが、どちらにせよ相手に対して何らかの電気信号のたぐいを送っていることは間違いない。甘太郎あまたろうの言うように高所から電波に乗せて不正アクセスを行う場合、相手にとどくまでに微弱となってしまう可能性があるが、毎日それを積み重ねれば、ある一定期間で相手ののうをクラッキングするに足るプラグラム量を蓄積ちくせきすることは可能かもしれん』

 イクリシアの言うことによれば、それはパソコンのファイルの転送速度が速いか遅いかの違いにているという。
 すなわちれる、見るという直接的なクラッキング方法が高速で大容量のプログラムを送る手段だとすれば、電波を通す方法は低速で時間をかけて少しずつプログラムを送るという手段と見なせるということなのだ。

恋華れんか。彼の言うダーク・タワーのある場所をより特定的にこちらで調べてみる。少し待っていてくれ』
 
 そう言って電話は切れた。
 甘太郎あまたろうの仮説に対するイクリシアの話を彼自身に説明しながら、自分も納得するように幾度いくどうなづき、恋華れんかは運転手に問いかけた。

『おじさん。ダーク・タワーまで行くことはできる?』

 恋華れんかの言葉に運転手は顔をしかめた。

『本気で言ってるのか? あそこは人が多すぎる。きっと連中がウヨウヨいるぞ』

 そんなところに行くのは正気の沙汰さたではない。
 運転手の表情がそう物語っている。
 運転手の言葉に恋華れんかくちびるんだ。
 そのとなり甘太郎あまたろうはパンフレットをパラパラとめくって食い入るように中身を見ている。

「なんとかあのビルに近づく方法は……」

 そう言いながら甘太郎あまたろうのページをめくる手が止まった。

「アマタローくん? どうしたの?」

 恋華れんかはそんな甘太郎あまたろうの様子に首をかしげた。

「これだ!」

 そう言って甘太郎あまたろうはパンフレットの中の1ページを恋華れんかに広げて見せた。

地下街ちかがい?」

 恋華れんかがそうつぶやきをらした通り、そこに掲載けいさいされているのは超高層ビルとならぶもう一つの目玉である巨大な地下街ちかがいだった。
 ビルの地下に作られている巨大な地下施設しせつは街のあちこちに伸びる地下道を持っており、街のいたるところから中に入れるようになっていた。

「この地下街ちかがいつながる地下道の入口が街のあちこちに作られてるみたいなんです」

 それを聞くと恋華れんかは思わず身を乗り出した。

「街の下にクモのみたいに地下道があるってことか。じゃあそれを辿たどっていけば……でもアマタローくん。地下にもし感染者が大勢いたら、私は力を使えない」

 新宮しんぐう総合病院の時と同様、正常化した感染者が他の感染者におそわれる危険性がある。
 そう指摘する恋華れんか甘太郎あまたろううなづいた。

「確かにその通りです。けど、ここを見てください。恋華れんかさん」

 そう言って甘太郎あまたろうはパンフレットに掲載けいさいされている写真の上の文字を指差した。
 そこには甘太郎あまたろうにも分かる程度の英語でこう書かれている。

【20XX年 グランドオープン! 地下鉄ラインは完成済み】
 
 それを見た恋華れんかは目を見張った。
 そこに記されていた日付はまだ半年先のものだったからだ。

「まだ完成してないんだ?」
「そうです。一般人は入れないようになってます。ということは、感染者はせいぜい作業員とか関係者だけ。数はそう多くないはず」
「でも、本当にちゃんとつながってるのかしら?」

 地下道がビルの地下街ちかがいつながっているかどうかを恋華れんかは運転手にたずねた。
 工事が済んでいなければ、どちらにせよ地下街ちかがいへは入れない。

『地下道はもう開通してるって話だぞ。あとは内装とテナントの整備だけだそうだ』
 
 運転手の話を甘太郎あまたろうげると、恋華れんかは再び運転手に声をかけた。

『おじさん。街外まちはずれに逃げる途中に地下道の入口があるから……』

 そう言うと恋華れんかはパンフレットの地図にある入口のおおまかな所在地をげる。

『このC‐22っていう出入り口で私たちをろしてくれない?』

 運転手は怪訝けげんな顔をして、バックミラーに映る恋華れんかを見つめた。

『あんたたち何をやろうとしてるんだ? このまま街外まちはずれまで一緒いっしょに逃げるべきだ』

 そう言う運転手に恋華れんかは自分が持っているカントルムの身分証を示した。
 そこには【国際捜査官そうさかん】という文字が英語で記されている。

『私たちは今回の事件を起こした犯人を追っているの』

 運転手は一瞬、おどろいた顔を見せたが、すぐにうなづいた。

『……なるほど。そういうことならそこで降ろそう。どうせ俺も逃げる道の途中だ』

 そう言う運転手に恋華れんかは笑顔で礼を述べた。
 その時、彼女の手元でケータイがバイブレートする。
 恋華れんかはすぐに電話に出た。

『もしもし。はい。そうですか。了解しました。解析かいせき感謝します。イクリシア先生。私達、これから地下道に潜入します。ですから連絡がつかなくなるかと思いますが心配しないで下さい』
 
 イクリシアからの叱責しっせきを覚悟の上で恋華れんかはそう言い切った。
 だが、恋華れんかの恩師は叱責しっせきではなく賞賛しょうさんの声を送った。

『それでこそ私の弟子だ。必ず敵の親玉をぶちのめせ』

 豪快にそう言うとイクリシアは電話を切った。
 呆気あっけに取られる恋華れんか甘太郎あまたろうは声をかける。

「どうでした?」

 そう聞かれ、恋華れんかは思わず苦笑を浮かべてかたをすくめる。

「思い切りやれって。私の杞憂きゆうだったみたい」
「それなら何も気後きおくれすることなく思い切りやれますね。いい先生じゃないですか」

 そう言って笑う甘太郎あまたろう恋華れんかはイクリシアからの報告の内容をげる。

甘太郎あまたろうくんの読み通りだわ。ダーク・タワーの最上階から、微弱だけど特徴的な魔気まき波動はどうが発生してるって。この国の魔気まき濃度のうどの高さはそのせいみたい」

 恋華れんかの言葉に甘太郎あまたろうも確信を持ってうなづいた。

「ようやく尻尾しっぽをつかめましたね」
「地下の感染者数は数十名程度。おそらく作業員じゃないかって」
「それくらいなら何とか出来そうですけど、問題はそのビルですね」
 
 ビル最上階に上って不正プログラムの発生源をつぶす。
 それは困難こんなんな作業になるだろう。
 なぜなら、ダーク・タワー自体はすでに完成しており、オフィス、ホテル、住宅をね備えたそのビルの中には常に無数の人間がいる。
 すなわち、ビルの中にも多くの感染者がいるであろうことが想像にかたくない。

「とにかく地下から潜入して、内部の状況によって戦略を組み直すようにしましょうか」
 
 甘太郎あまたろうの言葉に恋華れんかうなづいた。

「そうね。本当ならきちんと本部の応援を待ったほうがいいんでしょうけど、事は一刻いっこくを争うわ。こんな状況になってもこの国の政府から何の発表もないし、軍隊も出動している様子がない。おそらく国の中枢ちゅうすう機関がおかしくなってるんだと思う。ぐずぐずしてたら死傷者はさらに増えるわ」
 
 そう言って恋華れんかは空を見上げた。
 そこにはこの国の空港に向けて降下していく海外からの航空機のかりが見える。
 この国の現在の状況を知らぬまま入国者が増えれば、それは犠牲者ぎせいしゃの数が増えるのと同義である。

「一人でも多くの人を救いたい」

 そう言って甘太郎あまたろうをまっすぐに見つめる恋華れんかの目には一点のくもりもない。
 その信念の強さにかれるように甘太郎あまたろうも彼女の目をじっと見つめてうなづいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

異世界で買った奴隷がやっぱ強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
「異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!」の続編です! 前編を引き継ぐストーリーとなっておりますので、初めての方は、前編から読む事を推奨します。

デバフの王〜スキルガチャでハズレスキル【感染】を手に入れたのでこれから無双したいと思います。〜

ぽいづん
ファンタジー
『デバフ』 毒などのスリップダメージや目眩しなどのステータス異常をもたらすもの様々な種類のデバフが存在する。 二宮エイジ(ニノミヤ・エイジ)は友人の加川タケシ(カガワ・タケシ)にVRMMORPGのアルターオンラインというゲームに誘われる。 ゲームにあまり興味のなかったエイジだったが、タケシのあまりに強引な勧誘でそのゲームを始めることとなる。 このアルターオンラインというゲーム、オーソドックスな中世西洋を舞台にした剣と魔法のファンタジーMMORPGでこのゲームのウリはその自由度の高さ、モンスターを専門に狩りをする者やPK専門の者、商売をし財を成すもの様々な人間がこのアルターオンラインの中での生活を楽しんでいる。 そしてゲーム開始時にスキルが付与される。ここで付与されるスキルはランダムで、開始時に付与されるスキルは特殊スキルで開始時でしか入手することができず、巷ではスキルガチャなどと言われている。 エイジに付与されたスキルは感染(インフェクション)というスキル。このスキルは自身に着いたデバフを感染させるというもので、自分がデバフ状態にならないと使えず、感染させたからといって自身のデバフが解除されるわけでもなく、所謂ハズレスキルというものであった。 エイジはそれがハズレスキルということを知ってもやり直すような気も無くそのままゲームを続けることにした。 実はこのスキル低レベル帯ではお荷物スキルなのだが、高レベル帯で普通だとデバフが通らないモンスターなどにもデバフがかかるという神スキルでだったのだ。 そして彼はいつしかアルターオンライン四天王の一人『デバフの王』と呼ばれるようになる。 ※小説家になろうにも投稿しています

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森
ファンタジー
人生最良の日になるはずだった俺は、運命の無慈悲な采配により異世界へと落ちてしまった。  地球に戻りたいのに戻れない。狼モドキな人間と地球人が助けてくれたけど勇者なんて呼ばれて……てか他にも勇者候補がいるなら俺いらないじゃん。  やっとデートまでこぎつけたのに、三年間の努力が水の泡。それにこんな化け物が出てくるとか聞いてないし。  あれ?でも……俺、ここを知ってる?え?へ?どうして俺の記憶通りになったんだ?未来予知?まさかそんなはずはない。でもじゃあ何で俺はこれから起きる事を知ってるんだ?  努力の優等生である中学3年の主人公が何故か異世界に行ってしまい、何故か勇者と呼ばれてしまう。何故か言葉を理解できるし、何故かこれから良くないことが起こるって知っている。  事件に巻き込まれながらも地球に返る為、異世界でできた友人たちの為に、頑張って怪物に立ち向かう。これは中学男子学生が愛のために頑張る恋愛冒険ファンタジーです。 第一章【冬に咲く花】は完結してます。 他のサイトに掲載しているのを、少し書き直して転載してます。若干GL・BL要素がありますが、GL・BLではありません。前半は恋愛色薄めで、ヒロインがヒロインらしくなるのは後半からです。主人公の覚醒?はゆっくり目で、徐々にといった具合です。 *印の箇所は、やや表現がきわどくなっています。ご注意ください。

異世界ツアーしませんか?

ゑゐる
ファンタジー
これは2020年、ウイルス疾患が流行していた時期のお話です。 旅行ができない日本人を異世界に召喚して、ツアーのガイドをする女子高生アンナの物語です。 * 日本の女子高生アンナは、召喚されて異世界で暮らしていました。 女神から授かった能力を使う、気楽な冒険者生活です。 しかし異世界に不満がありました。食事、娯楽、情報、買い物など。 日本のものが欲しい。魔法でどうにか出来ないか。 アンナは召喚魔法で、お取り寄せが出来ることを知りました。 しかし対価がなければ窃盗になってしまいます。 お取り寄せするには日本円を稼ぐ必要があります。 * アンナは、日本人を召喚し、異世界ツアーガイドの代金で日本円を稼ぐことを思いつきます。 そして事前調査やツアー中、異世界の魅力に気付きます。 アンナはツアー客と共に、異世界の旅を楽しむようになります。 * その一方で、 元々アンナは異世界の街を発展させるつもりはありませんでした。 ですが、ツアー客が快適に過ごすために様々なものを考案します。 その結果、街が少しずつ発展していきます。 やがて商業ギルドや貴族が、アンナに注目するようになります。

最強魔獣使いとなった俺、全ての魔獣の能力を使えるようになる〜最強魔獣使いになったんで元ギルドを潰してやろうと思います〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
俺は、一緒に育ってきた親友と同じギルドに所属していた。 しかしある日、親友が俺が達成したクエストを自分が達成したと偽り、全ての報酬を奪われてしまう。 それが原因で俺はギルド長を激怒させてしまい、 「無能は邪魔」 と言われて言い放たれてしまい、ギルドを追放させられた。 行く場所もなく、途方に暮れていると一匹の犬が近づいてきた。 そいつと暫く戯れた後、カロスと名付け行動を共にすることにした。 お金を稼ぐ為、俺は簡単な採取クエストを受注し、森の中でクエストを遂行していた。 だが、不運にも魔獣に遭遇してしまう。 無数の魔獣に囲まれ、俺は死を覚悟した。 その時だった。 地面を揺らし、俺の体の芯まで響いてくる何かの咆哮。 そして、その方向にいたのはーー。 これは、俺が弱者から魔獣使いとして成長していく物語である。 ※小説家になろう、カクヨミで掲載しています 現在連載中の別小説、『最強聖剣使いが魔王と手を組むのはダメですか?〜俺は魔王と手を組んで、お前らがしたことを後悔させてやるからな〜』もよろしくお願いします。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...