甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

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第三章 トロピカル・カタストロフィー

第9話 恋華の決意

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 甘太郎あまたろう恋華れんかを乗せたタクシーは暴れくるう人々で混乱する大通りをけ、再び街外まちはずれへと向かっていた。
 だたし、ポルタス・レオニスはその国土のせまさから、世界でも有数の人口密度をほこる国である。
 どこにいっても人の姿が途切とぎれることはない。
 路上で見かける人々は皆、感染者のように見える。
 恋華れんかはケータイを取り出して現在の状況を本部に伝えた。
 本部の見解を聞くと恋華れんかは電話を切って甘太郎あまたろうにそれを伝える。

くわしい話ははぶくけど、本部がここの近隣きんりん諸国しょこく待機たいきさせてた援軍がこっちに向ってる。でも到着まで数時間はかかるみたい。その間、私たちは自分の身の安全確保を最優先するようにって指示よ」

 援軍が来る。
 今まではなかったことだ。
 ブレイン・クラッキングを正規の案件として認めていなかった本部が正式に派兵するなどありえない。
 カントルム本部で何か変化があったことはイクリシアの口調から恋華れんかにも理解できた。
 だが、恋華れんかはイクリシアの指示に諸手もろてを上げて賛成する気持ちにはなれなかった。
 今、目の前で起きている現実から目をらして自分たちだけ安全な場所にかくれていることをどうしても心の中へ飲み込むことが出来ないのだ。 

 車窓しゃそうの外ではのうを乗っ取られた感染者らが、自分の本来の意思とは無関係に破壊活動を行っており、無茶なその行動のせいで自分や他者の体を傷つけている。
 彼らは恋華れんかにとって身の安全をおびやかす脅威きょういではあったが、救うべき被害者でもあるのだ。
 忸怩じくじたる思いが胸の中を渦巻うずまいたままだまり込む恋華れんかとなりで、甘太郎あまたろうたずねる。

「新しい予言は何かありましたか?」

 だが、恋華れんかは残念そうに首を横に振る。

「それがこんなに感染者だらけだと、この中から親玉を予言で見つけ出すのは不可能ですって。残念だけどこの状況下ではもう予言に頼ることは出来ないわ」

 その話を聞くと、窓から外の様子を見やり、甘太郎あまたろうは顔をくもらせて言った。

「どこか安全な場所を探しますか?」
 
 そう言う甘太郎あまたろう恋華れんかだまり込んだ。
 命令違反までして自分の無茶な気持ちを貫けば、甘太郎あまたろうを無用な危険にさらすことになる。

(そんなことさせられない。いくら護衛ごえいだからって)

 だが、何かを言いかけた恋華れんかの言葉をさえぎって、甘太郎あまたろうおだやかな笑みとともに言った。

「そんなわけないですよね」
「え?」

 恋華れんかおどろいて顔を上げた。
 そして甘太郎あまたろうの顔をマジマジと見つめると、彼は静かに、だが確信に満ちた口調でげる。

恋華れんかさんは世界でただ一人の特別な人なんだ」
「えっ?」

 甘太郎あまたろうの言葉の真意をはかりかねて恋華れんかはただただ彼をじっと見つめる。
 甘太郎あまたろうおだやかな視線を恋華れんかに返して、もう一度言った。

「感染者を救い出してクラッキングの犯人を捕まえることができる。ただ一人の特別な人なんですよ」
「アマタローくん……」

 恋華れんかは弱気になっていた心に平手打ちをもらったような気がして、目を見開いた。
 甘太郎あまたろう恋華れんかをまっすぐに見つめる。
 そのひとみに疑念や不安はない。
 強い信念と恋華れんかへの信頼だけが宿っている。
 恋華れんかは自分の心を整理するようにむねに手を当てた。
 もう一方の手はこぶしを力強く握る。
 恋華れんかひとみに確かな光が宿った。

「……たとえ予言がなくても、街が感染者であふれ返っていても、私は立ち向かうことをやめないわ。きっと危険な目にうだろうけど、私を守ってくれる?」

 そうたずねる恋華れんかに、甘太郎あまたろうは力強くうなづいた。

「喜んで」
「……ありがとう。アマタローくん」

 そう言って二人は微笑ほほえみ合った。
 その時、車が大きくれた。
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