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第三章 トロピカル・カタストロフィー
第7話 災厄祭の始まり
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フランチェスカは通称ダーク・タワーと呼ばれるこの国でもっとも高度のあるビルの最上階にある部屋に戻っていた。
つい数時間前まで彼女は街外れの教会を訪れていた。
「老いぼれを捕り逃したのは口惜しいけど、悠長なことも言っていられないわね」
この国における悪魔祓いの第一人者でありカントルムのエージェントの一人でもあるマッケイガン神父をクラッキングして自分の手の内に入れる。
それが出来なければ殺害して邪魔者を排除する。
それがフランチェスカの考えだったが、神父は必死の抵抗の末に、懺悔室の窓を突き破って教会裏の用水路に落ち、そのまま流されていった。
彼を追ってトドメを刺そうとしたフランチェスカだったが、その時に彼女の持つケータイに彼女にとって悪いニュースが飛び込んできた。
カントルムの上層部の中でも最も力を持った幹部と彼女はつながりを持っていた。
その幹部に対して利益供与を図る見返りとして、ブレイン・クラッキングに本格的な捜査の手が及ぶことを幹部の力で押し留めさせるというギブ・アンド・テイクの関係を数年続けてきたが、つい先頃その人物が失脚したのだ。
それは即ち防波堤の決壊を意味する。
すぐにカントルムは本腰を入れて自分を追い始めるだろう。
そうなれば悠長に構えている場合ではない。
そう思ったフランチェスカは神父の追跡をあきらめ、すぐに取って返すとダーク・タワーへの帰還を果たしたのだった。
「やってくれたわね。忌々しいイクリシア・ミカエリスめ」
苛立った声でそう言うと、フランチェスカは部屋の奥へと足を進める。
この最上階の部屋では相変わらず部屋の主である中年の男が人形のように生気を失った顔で窓際に立ち、じっとこの国の様子を見下ろしていた。
フランチェスカはその男の隣に立つと、男の後頭部にそっと手を当てた。
「もうこの国に長居をする理由もないわね。じっくりと時間をかけて下準備もしてきたし、早すぎるということもないでしょう」
そう言うとフランチェスカは男の頭に手を当てたまま、静かに目を閉じる。
ひと呼吸する間に再び目を開けると、彼女は嬉々とした顔で惨劇の始まりを告げた。
「祭を始めましょうか」
彼女のその言葉に反応して、それまで虚ろだった男の目がカッと見開かれ、その表情に活力がみなぎっていく。
そして男は大きく口を開き、声なき叫びを上げた。
人の耳では聞き取ることの出来ない空気の振動を、まるで心地良いせせらぎの音でも聞くかのように、フランチェスカは悦に入った表情で聞いていた。
彼女がこの国に仕掛けたスイッチが今、発動し始めたのだ。
それはこの小さな国土の都市国家を大きく揺るがす事態の始まりを告げる狼煙だった。
つい数時間前まで彼女は街外れの教会を訪れていた。
「老いぼれを捕り逃したのは口惜しいけど、悠長なことも言っていられないわね」
この国における悪魔祓いの第一人者でありカントルムのエージェントの一人でもあるマッケイガン神父をクラッキングして自分の手の内に入れる。
それが出来なければ殺害して邪魔者を排除する。
それがフランチェスカの考えだったが、神父は必死の抵抗の末に、懺悔室の窓を突き破って教会裏の用水路に落ち、そのまま流されていった。
彼を追ってトドメを刺そうとしたフランチェスカだったが、その時に彼女の持つケータイに彼女にとって悪いニュースが飛び込んできた。
カントルムの上層部の中でも最も力を持った幹部と彼女はつながりを持っていた。
その幹部に対して利益供与を図る見返りとして、ブレイン・クラッキングに本格的な捜査の手が及ぶことを幹部の力で押し留めさせるというギブ・アンド・テイクの関係を数年続けてきたが、つい先頃その人物が失脚したのだ。
それは即ち防波堤の決壊を意味する。
すぐにカントルムは本腰を入れて自分を追い始めるだろう。
そうなれば悠長に構えている場合ではない。
そう思ったフランチェスカは神父の追跡をあきらめ、すぐに取って返すとダーク・タワーへの帰還を果たしたのだった。
「やってくれたわね。忌々しいイクリシア・ミカエリスめ」
苛立った声でそう言うと、フランチェスカは部屋の奥へと足を進める。
この最上階の部屋では相変わらず部屋の主である中年の男が人形のように生気を失った顔で窓際に立ち、じっとこの国の様子を見下ろしていた。
フランチェスカはその男の隣に立つと、男の後頭部にそっと手を当てた。
「もうこの国に長居をする理由もないわね。じっくりと時間をかけて下準備もしてきたし、早すぎるということもないでしょう」
そう言うとフランチェスカは男の頭に手を当てたまま、静かに目を閉じる。
ひと呼吸する間に再び目を開けると、彼女は嬉々とした顔で惨劇の始まりを告げた。
「祭を始めましょうか」
彼女のその言葉に反応して、それまで虚ろだった男の目がカッと見開かれ、その表情に活力がみなぎっていく。
そして男は大きく口を開き、声なき叫びを上げた。
人の耳では聞き取ることの出来ない空気の振動を、まるで心地良いせせらぎの音でも聞くかのように、フランチェスカは悦に入った表情で聞いていた。
彼女がこの国に仕掛けたスイッチが今、発動し始めたのだ。
それはこの小さな国土の都市国家を大きく揺るがす事態の始まりを告げる狼煙だった。
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