甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

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第三章 トロピカル・カタストロフィー

第4話 八重子の仕事

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 東京。
 談合坂だんごうざか医院。

 真夜中だというのにこの家の一人娘である八重子やえこの部屋はかりが消える気配がない。
 八重子やえこは東南アジアの都市国家であるポルタス・レオニスの全域地図から詳細地図までを入念に調べていた。
 それというのも彼女は甘太郎あまたろうからある依頼を受けたためだ。
 彼の持つケータイのGPS機能を利用して自分のいる位置を把握はあくしておいてもらいたい。
 甘太郎あまたろう八重子やえこにそう頼んだ。
 現地ではマッケイガン神父が案内役として随行ずいこうするが、万が一の場合は八重子やえこに地図を見ながら最適な道順をナビゲートしてもらいたい。
 右も左も分からない海外での仕事に際して、出来る限りリスク回避かいひ選択肢せんたくしを持っていたい。
 それが甘太郎あまたろうの考えだった。

「死んだらその場所に行って骨は拾ってあげるわよ」
 
 甘太郎あまたろうに対してシレッとそう言った八重子やえこだったが、今彼女が調べているのは地理的なことばかりではない。
 国の政治情勢や人口にめる人種の割合やそれにともなう言語の分布ぶんぷなど、ポルタス・レオニスについて多岐たきに渡る事柄ことがらを調べていた。
 さまざまな事態に対応できるよう準備はいくらしてもし過ぎるということはないからだ。

「ふぅ……」

 調べものを中断してかべにかけられたカレンダーを見ると、八重子やえこは小さくため息をついた。
 世間は今、ゴールデンウィークの真っ只中ただなかき立っていたが、八重子やえこはそんな雰囲気ふんいきとは無縁むえんの不安な時間を過ごすこととなる。
 甘太郎あまたろうが無事に帰国を果たすまでは。

「ちゃんと帰ってきなさいよ。甘太郎あまたろう

 そう言うと八重子やえこは落ち着かない気持ちを振り払うように再び作業に没頭ぼっとうした。
 あと数時間で朝をむかえ、早朝のうちに甘太郎あまたろう恋華れんかと共に空港に向かう。
 彼女は明日、甘太郎あまたろうらを見送るつもりはなかった。
 どうせすぐに戻ってくる。
 そう信じて八重子やえこは自分の仕事を粛々しゅくしゅくと進めていくのだった。
 自分の仕事は現地に出向くことではない。
 遠くから甘太郎あまたろうをサポートし続けることだとむねに決意を抱きながら。
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