甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

文字の大きさ
上 下
49 / 105
第三章 トロピカル・カタストロフィー

第4話 八重子の仕事

しおりを挟む
 東京。
 談合坂だんごうざか医院。

 真夜中だというのにこの家の一人娘である八重子やえこの部屋はかりが消える気配がない。
 八重子やえこは東南アジアの都市国家であるポルタス・レオニスの全域地図から詳細地図までを入念に調べていた。
 それというのも彼女は甘太郎あまたろうからある依頼を受けたためだ。
 彼の持つケータイのGPS機能を利用して自分のいる位置を把握はあくしておいてもらいたい。
 甘太郎あまたろう八重子やえこにそう頼んだ。
 現地ではマッケイガン神父が案内役として随行ずいこうするが、万が一の場合は八重子やえこに地図を見ながら最適な道順をナビゲートしてもらいたい。
 右も左も分からない海外での仕事に際して、出来る限りリスク回避かいひ選択肢せんたくしを持っていたい。
 それが甘太郎あまたろうの考えだった。

「死んだらその場所に行って骨は拾ってあげるわよ」
 
 甘太郎あまたろうに対してシレッとそう言った八重子やえこだったが、今彼女が調べているのは地理的なことばかりではない。
 国の政治情勢や人口にめる人種の割合やそれにともなう言語の分布ぶんぷなど、ポルタス・レオニスについて多岐たきに渡る事柄ことがらを調べていた。
 さまざまな事態に対応できるよう準備はいくらしてもし過ぎるということはないからだ。

「ふぅ……」

 調べものを中断してかべにかけられたカレンダーを見ると、八重子やえこは小さくため息をついた。
 世間は今、ゴールデンウィークの真っ只中ただなかき立っていたが、八重子やえこはそんな雰囲気ふんいきとは無縁むえんの不安な時間を過ごすこととなる。
 甘太郎あまたろうが無事に帰国を果たすまでは。

「ちゃんと帰ってきなさいよ。甘太郎あまたろう

 そう言うと八重子やえこは落ち着かない気持ちを振り払うように再び作業に没頭ぼっとうした。
 あと数時間で朝をむかえ、早朝のうちに甘太郎あまたろう恋華れんかと共に空港に向かう。
 彼女は明日、甘太郎あまたろうらを見送るつもりはなかった。
 どうせすぐに戻ってくる。
 そう信じて八重子やえこは自分の仕事を粛々しゅくしゅくと進めていくのだった。
 自分の仕事は現地に出向くことではない。
 遠くから甘太郎あまたろうをサポートし続けることだとむねに決意を抱きながら。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...