甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

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第三章 トロピカル・カタストロフィー

第3話 Fの暗躍

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 ポルタス・レオニス。
 貧民街ひんみんがい片隅かたすみにある教会で、ジミー・マッケイガン神父はカントルムの米国本部より送られてきた小包を受け取った。
 差出人の名前を見て彼はおどろきの表情を浮かべる。

「イクリシア・ミカエリス……」

 神父と彼女は面識があるわけではなかったが、神父も彼女の雷名らいめいは知っていた。
 本来であればこのような小国の一神父に接触せっしょくしてくるような人物ではないことも。

「カントルムのエースがいったい私に何を……」

 神父は荷物にえられていた手紙を読んだ。
 記されていた内容は、イクリシアの弟子が今日このポルタス・レオニスを訪れるので、この手紙に同封された品を渡してやってほしいというものだった。
 手紙の中にはイクリシアの弟子であるという梓川あずさがわ恋華れんかの顔写真が入っていた。
 さらに貿易士ぼうえきし酒々井しすい甘太郎あまたろう恋華れんかに同行するむねが手紙には記されていた。

「アマタロウ・シスイか。会うのは初めてですね」

 マッケイガン神父は甘太郎あまたろうのことを以前から知っていた。
 貿易士ぼうえきしである甘太郎あまたろうから霊具を購入したことが幾度いくどもあるからだ。
 イクリシアから送られてきた荷物の中身は指輪ケースであり、中には銀色にかがやく指輪がひとつおさめられていた。
 指輪の真ん中には緑色の宝石ほうせきが光を放っている。

「これは……霊具?」

 神父にはそれがどういうものだかは分からなかったが、イクリシアがしたためた手紙には事の重大さがありありと記されており、受け取った霊具は何があっても彼女の弟子に渡さなければならないものだということは神父にも重々理解できた。

「このいぼれでよければ喜んで役に立ちましょう」

 神父は手紙を丁寧ていねいたたむと、決然とした顔でそうつぶやいた。
 そして指輪ケースを手に懺悔室ざんげしつとびらを開けた。
 するとだれもいないはずの懺悔室ざんげしつの中で、一人の人物が椅子いすこしをかけていた。

「ジミー・マッケイガン神父ね」

 じっと自分を見据みすえるその人物に、神父は警戒心けいかいしんをその目に宿らせて問うた。

「……あなたは?」

 懺悔室ざんげしつ椅子いすに座っていたのは現地人らしき女性だった。
 年齢ねんれいは二十代前半くらいであり、浅黒いはだに銀色の頭髪が特徴的とくちょうてきな美女だった。
 そして修道女しゅうどうじょ格好かっこうをしているものの、彼女が神につかえる身ではないことは神父にはひと目で分かった。
 彼女はその顔に冷笑れいしょうをたたえたまま、訪問の理由をげた。

「カントルムのエージェントとあなたを接触せっしょくさせるわけにはいかないの」

 その言葉を聞き、神父は彼女が懺悔ざんげのためにここを訪れた敬虔けいけんな信徒などではないことを確信した。
 そして優しき神父の顔が、数々の悪魔をはらってきたカントルムの戦士の顔に変わる。

「理由によってはあなたをここから帰すわけにはいきませんね」

 だが、女は尊大な態度をくずさず椅子いす立ち上がると、神父と対峙たいじした。

「残念だけど、祓魔師エクソシストでは私に勝てはしないわ。たとえあなたが歴戦れきせんのツワモノだとしてもね」

 その顔は絶対的な自信に満ちあふれ、そして根源的こんげんてき邪悪じゃあくいろどられていた。
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