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第三章 トロピカル・カタストロフィー
第1話 向かう先は
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恋華が日本での初仕事を終えた日より数日の時が経過した。
米国のカントルム本部にある天文台では予言士カノンが世界地図を映したモニターをじっと見守っていた。
世界の神気や魔気の分布を示した分布図を映し出すそのモニター上には、赤と青の点が浮かんだり消えたりを繰り返している。
今、彼女は雑念を振り払い、画面上から読み取れる情報に意識を集中させていた。
カントルム本部は現在、非常に騒がしい事態を迎えている。
今頃はイクリシア・ミカエリスが上層部を相手取り、丁々発止のやり取りを演じている頃だろう。
この組織が多数抱える祓魔師の中でも最強と呼び声高きイクリシア・ミカエリス。
その彼女が「ただの悪魔憑き現象ではない」と、数年に渡って問題提起し続けてきたブレイン・クラッキングは組織の上層部の中でも有力な人物によって、正式な現象ではないと決め付けられて不遇な扱いを受けてきた。
そのことについての調査・研究などをイクリシアが行おうとすると、その幹部があらゆる手段で圧力をかけて邪魔をし続けてきたのだ。
人材・費用・施設などの面でカントルムのそれを使うことを許されず、そのためイクリシアは私財を投げ打ってここまで独自に調査を行ってきたのだ。
そうした事態を腹に据えかねていたイクリシアだったが、時間をかけてその幹部がある人物と裏でつながりを持っていることを突き止めた。
幹部の男はその人物から利益供与を受けて、イクリシアの行動に圧力をかけてきていたのだ。
全ての証拠を押さえて今、イクリシアは汚職背任容疑でその幹部を弾劾糾弾している。
今まで煮え湯を飲まされてきたイクリシアは必ず自分の目的を果たすだろう。
数日前、日本から容疑者および重要参考人として氷上恭一の身柄を引き渡されることも、初めはその幹部が許可をしなかったが、イクリシアは独断で強引に氷上の送致を決めた。
彼女が日本へ派遣した専門官に連れられて今、氷上恭一の身柄は本部内の地下牢に捕らえられている。
そこで氷上はさまざまな分析にかけられ、それによって得られた情報がカノンの元に寄せられてきていた。
件の幹部がそのことについてイクリシアの勝手な行動を責め立てようと開いた本日の幹部会で、イクリシアはついに逆襲に出たのだった。
今頃、おそらくその幹部は青い顔で自らが足元をすくわれたことを悟っていることだろうとカノンは思ったが、彼女にとって組織内の政治的なことは自分の関知すべきことではない。
彼女に出来ることは、ただ正確さを心がけた予言を行うことだけである。
そして数時間後、カノンは氷上の脳内にかすかに残されていた不正プログラミングの残滓からプログラムの型式を読み込み、それを反映させた分布図からついに、ある一点の場所を読み取ることに成功した。
ちょうどその時、イクリシアが天文台を訪れてきた。
「よう。カノン。腐った頭をすげ替えてきたぞ」
イクリシアは得意満面でそう告げる。
その様子はケンカでガキ大将を負かしたおてんば娘のようであり、カノンは思わず苦笑を浮かべた。
そしてカノンは自分が分析した結果をイクリシアに告げた。
「本ボシの位置を特定完了しました。場所は東南アジアの都市国家。ポルタス・レオニス」
それを聞くとイクリシアは手にした【スブシディウマ(援軍)】のリングケースを手の上でクルクルと器用に回して見せた。
「やはり赤道付近の国だったか。よし、恋華をそちらに向かわせよう。こいつも直接現地に送り込むぞ」
カノンにはイクリシアの手の平で踊るそのリングケースの様子が、加速し始めた運命の歯車のように思えるのだった。
米国のカントルム本部にある天文台では予言士カノンが世界地図を映したモニターをじっと見守っていた。
世界の神気や魔気の分布を示した分布図を映し出すそのモニター上には、赤と青の点が浮かんだり消えたりを繰り返している。
今、彼女は雑念を振り払い、画面上から読み取れる情報に意識を集中させていた。
カントルム本部は現在、非常に騒がしい事態を迎えている。
今頃はイクリシア・ミカエリスが上層部を相手取り、丁々発止のやり取りを演じている頃だろう。
この組織が多数抱える祓魔師の中でも最強と呼び声高きイクリシア・ミカエリス。
その彼女が「ただの悪魔憑き現象ではない」と、数年に渡って問題提起し続けてきたブレイン・クラッキングは組織の上層部の中でも有力な人物によって、正式な現象ではないと決め付けられて不遇な扱いを受けてきた。
そのことについての調査・研究などをイクリシアが行おうとすると、その幹部があらゆる手段で圧力をかけて邪魔をし続けてきたのだ。
人材・費用・施設などの面でカントルムのそれを使うことを許されず、そのためイクリシアは私財を投げ打ってここまで独自に調査を行ってきたのだ。
そうした事態を腹に据えかねていたイクリシアだったが、時間をかけてその幹部がある人物と裏でつながりを持っていることを突き止めた。
幹部の男はその人物から利益供与を受けて、イクリシアの行動に圧力をかけてきていたのだ。
全ての証拠を押さえて今、イクリシアは汚職背任容疑でその幹部を弾劾糾弾している。
今まで煮え湯を飲まされてきたイクリシアは必ず自分の目的を果たすだろう。
数日前、日本から容疑者および重要参考人として氷上恭一の身柄を引き渡されることも、初めはその幹部が許可をしなかったが、イクリシアは独断で強引に氷上の送致を決めた。
彼女が日本へ派遣した専門官に連れられて今、氷上恭一の身柄は本部内の地下牢に捕らえられている。
そこで氷上はさまざまな分析にかけられ、それによって得られた情報がカノンの元に寄せられてきていた。
件の幹部がそのことについてイクリシアの勝手な行動を責め立てようと開いた本日の幹部会で、イクリシアはついに逆襲に出たのだった。
今頃、おそらくその幹部は青い顔で自らが足元をすくわれたことを悟っていることだろうとカノンは思ったが、彼女にとって組織内の政治的なことは自分の関知すべきことではない。
彼女に出来ることは、ただ正確さを心がけた予言を行うことだけである。
そして数時間後、カノンは氷上の脳内にかすかに残されていた不正プログラミングの残滓からプログラムの型式を読み込み、それを反映させた分布図からついに、ある一点の場所を読み取ることに成功した。
ちょうどその時、イクリシアが天文台を訪れてきた。
「よう。カノン。腐った頭をすげ替えてきたぞ」
イクリシアは得意満面でそう告げる。
その様子はケンカでガキ大将を負かしたおてんば娘のようであり、カノンは思わず苦笑を浮かべた。
そしてカノンは自分が分析した結果をイクリシアに告げた。
「本ボシの位置を特定完了しました。場所は東南アジアの都市国家。ポルタス・レオニス」
それを聞くとイクリシアは手にした【スブシディウマ(援軍)】のリングケースを手の上でクルクルと器用に回して見せた。
「やはり赤道付近の国だったか。よし、恋華をそちらに向かわせよう。こいつも直接現地に送り込むぞ」
カノンにはイクリシアの手の平で踊るそのリングケースの様子が、加速し始めた運命の歯車のように思えるのだった。
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