甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

文字の大きさ
上 下
46 / 105
第三章 トロピカル・カタストロフィー

第1話 向かう先は

しおりを挟む
 恋華れんかが日本での初仕事を終えた日より数日の時が経過した。
 米国のカントルム本部にある天文台では予言士よげんしカノンが世界地図を映したモニターをじっと見守っていた。
 世界の神気じんき魔気まき分布ぶんぷを示した分布図ぶんぷずを映し出すそのモニター上には、赤と青の点が浮かんだり消えたりをり返している。
 今、彼女は雑念ざつねんを振り払い、画面上から読み取れる情報に意識を集中させていた。

 カントルム本部は現在、非常にさわがしい事態をむかえている。
 今頃はイクリシア・ミカエリスが上層部を相手取り、丁々発止ちょうちょうはっしのやり取りを演じている頃だろう。
 この組織が多数抱える祓魔師エクソシストの中でも最強とび声高きイクリシア・ミカエリス。
 その彼女が「ただの悪魔き現象ではない」と、数年に渡って問題提起ていきし続けてきたブレイン・クラッキングは組織の上層部の中でも有力な人物によって、正式な現象ではないと決め付けられて不遇ふぐうな扱いを受けてきた。

 そのことについての調査・研究などをイクリシアが行おうとすると、その幹部かんぶがあらゆる手段で圧力あつりょくをかけて邪魔じゃまをし続けてきたのだ。
 人材・費用・施設しせつなどの面でカントルムのそれを使うことを許されず、そのためイクリシアは私財を投げ打ってここまで独自に調査を行ってきたのだ。
 そうした事態を腹にえかねていたイクリシアだったが、時間をかけてその幹部かんぶがある人物と裏でつながりを持っていることを突き止めた。
 幹部かんぶの男はその人物から利益りえき供与きょうよを受けて、イクリシアの行動に圧力あつりょくをかけてきていたのだ。

 全ての証拠しょうこを押さえて今、イクリシアは汚職おしょく背任はいにん容疑でその幹部かんぶ弾劾だんがい糾弾きゅうだんしている。
 今までを飲まされてきたイクリシアは必ず自分の目的を果たすだろう。
 数日前、日本から容疑者および重要参考人として氷上ひかみ恭一きょういち身柄みがらを引き渡されることも、初めはその幹部かんぶ許可きょかをしなかったが、イクリシアは独断どくだんで強引に氷上ひかみ送致そうちを決めた。
 彼女が日本へ派遣はけんした専門官に連れられて今、氷上ひかみ恭一きょういち身柄みがらは本部内の地下ろうに捕らえられている。
 そこで氷上ひかみはさまざまな分析ぶんせきにかけられ、それによって得られた情報がカノンの元に寄せられてきていた。

 くだん幹部かんぶがそのことについてイクリシアの勝手な行動を責め立てようと開いた本日の幹部会かんぶかいで、イクリシアはついに逆襲に出たのだった。
 今頃、おそらくその幹部かんぶは青い顔で自らが足元をすくわれたことをさとっていることだろうとカノンは思ったが、彼女にとって組織内の政治的なことは自分の関知すべきことではない。
 彼女に出来ることは、ただ正確さを心がけた予言を行うことだけである。
 そして数時間後、カノンは氷上ひかみのう内にかすかに残されていた不正プログラミングの残滓さんしからプログラムの型式を読み込み、それを反映させた分布図ぶんぷずからついに、ある一点の場所を読み取ることに成功した。
 ちょうどその時、イクリシアが天文台を訪れてきた。

「よう。カノン。くさった頭をすげ替えてきたぞ」

 イクリシアは得意満面でそうげる。
 その様子はケンカでガキ大将を負かしたおてんば娘のようであり、カノンは思わず苦笑を浮かべた。
 そしてカノンは自分が分析ぶんせきした結果をイクリシアにげた。

「本ボシの位置を特定完了しました。場所は東南アジアの都市国家。ポルタス・レオニス」

 それを聞くとイクリシアは手にした【スブシディウマ(援軍)】のリングケースを手の上でクルクルと器用に回して見せた。

「やはり赤道付近の国だったか。よし、恋華れんかをそちらに向かわせよう。こいつも直接現地に送り込むぞ」

 カノンにはイクリシアの手の平でおどるそのリングケースの様子が、加速し始めた運命の歯車のように思えるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

正義のミカタ

永久保セツナ
大衆娯楽
警視庁・捜査一課のヒラ刑事、月下氷人(つきした ひょうと)が『正義のミカタ』を自称するセーラー服姿の少女、角柱寺六花(かくちゅうじ りか)とともに事件を解決していくミステリーではないなにか。

転生幼児は夢いっぱい

meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、 ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい?? らしいというのも……前世を思い出したのは 転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。 これは秘匿された出自を知らないまま、 チートしつつ異世界を楽しむ男の話である! ☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。 誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。 ☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*) 今後ともよろしくお願い致します🍀

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

転生勇者は連まない。

sorasoudou
ファンタジー
連まないは、ツルまないと読みます。 「世界を救う見返りにハーレムを要求してるような性根が腐った奴は、ここを放ってどこに行ったんですか。って聞いてるんだが?」 異世界の神々によって創造された『勇者の器』 空っぽの体に転生し宿ったのは、記憶喪失の人違いの魂。 望めば何でも切れる神剣に、容姿端麗の朽ちない体。 極めつけは魅了の眼差し。 神々の加護も人嫌いには呪いでしかない。 絶対に仲間は要らない勝手に魔王倒させて下さいな勇者、一人旅希望です。 注意:紹介文の通り、比較的まじめに異世界を旅してます。 全年齢対象として書いていますが、戦闘場面などが含まれます。 こちらの作品はカクヨムで同時更新しています。 マンガ版を制作中です。表紙やキャラ絵は登場人物にて紹介しています。 更新はのんびりですが、よろしくお願いいたします。

その口づけに魔法をかけて

楠富 つかさ
ファンタジー
 当たり前のように魔法が行使される世界で主人公は魔法について専門で学ぶ魔導高校に進学する。100人しか入学できないその学校で、主人公は序列99位。入学式の朝、主人公は一人の少女とぶつかる。その時感じた熱、それは――――。  序列99位と100位の少女たちが、学内の模擬戦トーナメントで上位者たちを打ち負かしていくバトルマギカエンタテインメント、開幕!!

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

処理中です...