甘×恋クレイジーズ

第二章 クレイジー・パーティー・イン・ホスピタル

第28話 束の間の休息

　談合坂だんごうざか医院に帰還きかんを果たし、自室に戻った恋華れんかは軽くシャワーを済ませて早々にベッドに横になった。
　頭と体を包み込む疲労ひろうは重く、すぐにでも眠りに落ちていきそうだったが、暗い部屋の天井をぼんやりと眺ながめていると、ふと今夜の出来事が頭に浮かんできた。

「あの頭痛。修正プログラムに対する対抗策だわ」

　恋華れんかはぽつりとそう呟つぶやいた。
　アンブレラ・シューターを氷上ひかみの頭に打ち込んだ途端とたん、恋華れんかの脳のうに転送されてきたのは耐たえ難がたいノイズと痛みだった。
　あれは明らかな敵の罠わなだった。
　あのような策さくを持っていたからこそ、氷上ひかみは臆おくすることなく恋華れんかたちの前に姿を現したのだろう。

「思った以上にこっちのことを研究してる」

　恋華れんかは敵の用意周到よういしゅうとうさに歯噛はがみしてそう呟つぶやいた。
　感染者に対して効果的な恋華れんかの力も、あのような対抗策を講じられると今後の対応を考え直す必要に迫せまられるだろう。

「敵も進歩してる。私も今のままじゃいけない」
　
　今回は見つけ出すことが出来なかった黒幕くろまくの存在も、カントルムの力があればいずれは炙あぶり出すことが出来るだろう。
　だが、その相手を仕留しとめることができるのはあくまでもカントルムの中でただ一人、アンチクラッキングの能力を持つ恋華れんかだけである。
　自分がしくじれば作戦は失敗に終わるのだ。
　恋華れんかは頭の中で何かしらの対応策を練ねろうとしたが、押し寄せる疲労ひろうの前にあえなく眠りの底へと落ちていった。