甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

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第二章 クレイジー・パーティー・イン・ホスピタル

第26話 イクリシア・ミカエリス

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 米国。
 カントルム本部。
 本部長補佐官のイクリシアは予言士カノン・パッヘルベルの待つ天文台を訪れていた。

恋華れんかは大きな手がかりを得たようですね。イクリシア」

 出迎でむかえてくれたカノンの言葉にイクリシアは頷うなづいた。
 日本にいる弟子・恋華れんかからの報告と詳細しょうさいな活動データを受領じゅりょうして、イクリシアは新宮しんぐう総合病院で起きた騒動そうどう一部始終いちぶしじゅう把握はあくした。

「あの二人。想像以上に面白い組み合わせだ」

 そう言うイクリシアの顔はきとして実に楽しそうだった。

「相手の体の自由をうばうアマタロウの能力があれば恋華れんかも自分の任務が果たしやすいですね」

 そう言うカノンにイクリシアは首を横に振る。

「それだけじゃない。甘太郎あまたろう恋華れんかの能力が組み合わされば、一度に数十人から数百人の感染者を修正できる」

 イクリシアの言葉の意味が把握はあくできず、カノンは彼女の次の言葉をだまって待つ。

「病院での騒動そうどうの中、甘太郎あまたろうは数十体の感染者を闇穴やみあなの中へと引きずり込んだんだ」
「引きずり込んだ? アマタロウ自身も闇穴やみあなの中へと入ったということですか?」

 そうたずねるカノンにイクリシアは嬉々ききとした表情で首肯しゅこうしてみせる。

「ああ。どういうカラクリかは知らんがな。だがその後、再び姿を現した甘太郎あまたろうの両うでつかんだ恋華れんかの霊具が修正プログラムを発動させた」

 イクリシアの話を頭の中で整理し、その状況を想起しながらカノンは上司に問うた。

「【メディクス(医師)】と【スクルタートル(調査官)】が? なぜ感染者ではないアマタロウに反応したのですか?」

 カノンの問いにイクリシアは、これこそ話のきもだと人差し指を立てて言う。

「つまり甘太郎あまたろうは感染者をどこか別の空間に閉じ込めておくことが出来るんだ。冷凍庫にアイスキャンディーを保管しておくようにな。なおかつその際に恋華れんかの修正プログラムを甘太郎あまたろうほどこせば、彼を媒体ばいたいにして閉じ込めた複数の感染者らを一度に修正できるってことさ」

 イクリシアの話にカノンは感心した様子でうなづいた。

「電気が水の中を走るように、恋華れんかの修正プログラムがその空間全体に浸透しんとうする、ということですか」

 カノンが要領ようりょうよくそう言うと、イクリシアは不敵な笑みを浮かべた。

「まだ推測すいそくでしかないがな。だがこれは私たちの事業に画期的かっきてきな化学反応を起こすかもしれん」

 そう言うとイクリシアはふところから何かを取り出す。
 カノンはイクリシアが手にしたそれが指輪をおさめたリングケースであることを見てとると、目をやや見開いてたずねた。

「完成したのですか? 【スブシディウマ(援軍)】が」
「ああ。ようやくな。これがあれば恋華れんかの力を補強できる」

 そう言ってニヤリと笑みを浮かべると、イクリシアはカノンとともに目の前の巨大モニターにうつし出されている世界地図へと目をやった。

「ところで本ボシの目処めどはついたのか?」

 そうたずねるイクリシアにカノンは首を横に振った。

「居場所の特定はまだ不完全です。ただ、北半球からの南下する魔気まきの流れと南半球から北上する神気じんきの流れがたがいに干渉かんしょうし合っているように思えます。このままいくと、赤道付近で何かが発生する恐れがあります」

 カノンのそうした説明にイクリシアは頭の中で今後の予想図を立てていく。

「まるで台風だな。何かが起こるとすればその辺りか。恋華れんかをいつでも現場に急行できるように準備させておかないといかんな」

 そう言うとイクリシアはケータイを手に通話を始めた。

「私だ。用意していた部隊を動かせるように準備を整えろ。数日のうちに動きがあるはずだ」

 そう言って彼女は電話を切る。
 部下たちにテキパキと指示を出すイクリシアにカノンは少々おどろいた様子で疑問を投げかけた。

「よろしいのですか? 表だって動けば上層部ににらまれます」

 ブレイン・クラッキングに否定的な上層部の中でも、実質の組織のトップと言える人物によってイクリシアはこれまで頭を押さえつけられてきた。
 テスト・エージェントとして日本に派遣はけんした恋華れんか護衛ごえいの一人もつけられなかったのはそのせいだ。
 だが、イクリシアはまるでくさりから解き放たれた野獣やじゅうのようなぎらついた光を瞳に宿らせながら言った。

「機はじゅくしたってことさ。くさった頭をすげ替える時だ」

 彼女のその言葉を聞き、カノンはさとった。
 イクリシアが上層部をだまらせることの出来る決定的な何かをつかんだのだということを。
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