甘×恋クレイジーズ

第二章 クレイジー・パーティー・イン・ホスピタル

第17話 氷上の思惑

　灯あかりの消えた個室でひとり、氷上ひかみ恭一きょういちは口の端はしを歪ゆがめて底意地そこいじの悪い笑みを浮かべた。

「そろそろチェックメイトだな」

　そう言うと氷上ひかみは多くの感染者らに囲まれて絶体絶命の恋華れんかと甘太郎あまたろうを視界に捉とらえた。
　彼の目となっている守衛しゅえいの男二人は彼らの仕事場である守衛室しゅえいしつをすでに離れ、多くの感染者らが押し寄せる階段のフロアに姿を見せていた。
　階段フロアと廊下ろうかとの間に設もうけられた重厚な防火扉ぼうかとびらを閉めて施錠せじょうしたのは、扉とびらの鍵かぎを持つ彼ら守衛しゅえいの二人だった。

　氷上ひかみは操り人形と化した彼らを、甘太郎あまたろうらがフロアを上階に向かって進んでいる間に、守衛室しゅえいしつから移動させていた。
　そして防火扉ぼうかとびらによって密閉された空間に『ある空気』を満たすべく、二人は氷上ひかみより事前に手渡されていた霊具を階段の各所に設置していった。
　そして今、守衛しゅえいの二人は多くの感染者らの中に混まじり、階段脇の狭せまい足場の上に追い詰つめられて困窮こんきゅうしている恋華れんかと甘太郎あまたろうの姿をじっと見つめて、主あるじたる氷上ひかみにその様子を伝えていた。
　氷上ひかみは椅子いすから腰こしを上げて机に置かれた白衣を手に取り、それを着込んで部屋の扉とびらを開ける。

「さて。ではご対面といこうか。我が麗うるわしの実験体の姫君ひめぎみに」

　そう言う氷上ひかみの顔は獣けものじみた興奮こうふんに彩いろどられていた。