甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

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第二章 クレイジー・パーティー・イン・ホスピタル

第15話 悪魔の巣

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「……何すかね、これ」
「……何だろね」

 恋華れんか甘太郎あまたろうはそうつぶやいて立ちくした。
 彼らの目の前には、またもや防火扉ぼうかとびらが立ちはだかっている。
 これでもう三度目のことである。
 5階から7階まで三階連続で防火扉ぼうかとびらに行く手をはばまれた二人は言葉少なに視線を合わせた。
 恋華れんかはうんざりした顔で甘太郎あまたろうに提案する。

「もう上に上がるのはやめましょ」

 甘太郎あまたろうも同じ意見だった。

「そっすね。素直すなおに4階にもどって反対側の東階段を使いましょうか」
 
 二人は仕方なく来た道を引き返して降りていくがその時、下の方からバターンと重いとびらが閉まるような大きな音を聞いた。

「何かいやな音がしたような……」
「うん……」

 そう言ってたがいに顔を見合わせると二人ははじかれたように走り出し、青い顔で階段をけ下りていく。

「まさかとは思うけど私たち閉じ込められてないよね!」

 息もえになりながらそうさけ恋華れんか甘太郎あまたろうさけび返す。

「考えたくないっすよ!」

 だが二人は目当ての4階までたどり着く前に足を止めることになった。
 なぜなら4階のおどり場が足の踏み場もないほどの人であふれ返っていたからだ。

「うそ……」

 驚愕きょうがくして目を見開く恋華れんかとなり甘太郎あまたろうは舌打ちをした。

「まんまとハメられたみたいっすね」

 そこにいたのは医師や看護士かんごし、それに患者かんじゃなど総勢数十名であり、全員が感染者だった。

(少し数が多いけど、やるしかねえ!)

 甘太郎あまたろうは即座に指で印を組み、闇穴やみあなで相手を押さえ込みにかかる。
 だが、事態は彼の思うままには進まなかった。

「……ん? 何だ?」

 いつものように闇穴やみあなを開けようとした甘太郎あまたろうは自分の意思が即座に反映されないことに気がついて首をかしげる。
 感染者らの足元に穿うがたれようとしていた闇穴やみあなは、ほんのわずかな波紋はもんを残してすぐに消えてしまった。
 甘太郎あまたろうは再度、確かめるように闇穴やみあな穿うがとうとする。
 しかし今度はその兆候ちょうこうすら見せずに、空間は静謐せいひつを保ったままだった。

「ど、どういうことだ……」

 甘太郎あまたろうの様子に恋華れんかは不安げに彼の顔を見上げる。

「どうしたの? アマタローくん」
「ち、力が……使えないんです」

 あせりの色を顔に浮かべて甘太郎あまたろうがそうつぶやくと恋華れんかおどろいて息を飲む。

「マ、マジ?」

 恋華れんかは青ざめた表情で階段のおどり場を見下ろした。
 するとそこでたたずんだまま恋華れんか甘太郎あまたろうを見上げていた感染者らが、はじかれたように一斉に階段をけ上がり始めた。
 自分たちに向かって殺到する感染者らを前に、思わず恋華れんかは悲鳴じりのさけび声を上げる。

「やばっ!」
「クソッ! 逃げるっすよ!」

 押し寄せる感染者の波を前に、甘太郎あまたろうは即座にきびすを返すと、恋華れんかの手を握って階段を駆け上がっていった。
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