甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

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第二章 クレイジー・パーティー・イン・ホスピタル

第9話 潜入! 白い巨塔

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 午後8時。
 新宮しんぐう総合病院。
 外来の時間はとうに終わり、この時刻になると入院患者かんじゃの面会時間も終わるため、病院の一階ロビーにはそうした面会客がぞろぞろと帰途きとにつく姿が見受けられる。
 7時半に病院に到着した恋華れんか甘太郎あまたろうは入口外の自販機コーナーにて刻限を待ち続けながら、それらしき人物が入口を通らないかと見張っていた。

「それっぽいのはいなかったなぁ。ってことは中にいる病院側の人間か入院患者かんじゃの誰かかもしれないっすね。8時を過ぎるとこの入口は閉まるらしくて、代わりに救急外来の入口が朝まで開いてるみたいですよ。恋華れんかさん」

 缶コーヒーを片手に甘太郎あまたろうがそう言うとベンチに腰をかけた恋華れんかうなづく。

「ならそこから入るしかないわね。裏手に回ろう」

 入口のシャッターが自動で下りていくのを見届みとどけると二人は移動を開始した。

「けど、このまま中に乗り込んでいくのは危険ですよね。敵もこちらの存在を知ってる以上、待ちせしてるだろうし」
 
 恋華れんかとなりかたを並べて歩きながら甘太郎あまたろうはそう進言する。
 恋華れんかもそれにうなづいた。

「そうでしょうね。でも、この件の黒幕くろまくの目的は何も私たちを排除はいじょすることだけじゃないわ。感染者を使って被害を拡大させることよ。たとえば夜の病院みたいに閉鎖的へいさてきな場所だったら、その被害はあっと言う間に浸透しんとうしていくわ」
 
 恋華れんかの言うことはもっともだった。
 ここで二人が踏み込まずにいたとしても、病院の中で惨劇さんげきが起こることは間違いない。

「危険と分かっていても、虎穴こけつに入らざるを得ないってことか」

 内心で嘆息たんそくしながらそう言う甘太郎あまたろう恋華れんかは強気な笑みを浮かべた。

「感染者を止めることが出来るのは私たちだけだからね。それに危険を用心する必要はあるけれど、必要以上に恐れることはないわ。相手にとっても私たちは天敵。きちんと対処すれば大丈夫。今回はアマタローくんもいるから鬼に金棒かなぼうよ」
 
 そう言う恋華れんか甘太郎あまたろうも腹を決めて歩を進めた。
 やがて裏口に回った二人は救急外来の入口から病院の中に足を踏み入れた。
 入口近くの受付にはすでに数人の患者かんじゃが並んでいる。
 時間外に行われる救急診療しんりょうの外来患者かんじゃたちだ。
 当直の職員らは皆いそがしそうにしているため、恋華れんかたちに特段の注意を払う者はいなかった。
 二人は何食わぬ顔で廊下ろうかからロビーに入っていく。
 昼間は外来患者かんじゃめ尽くされ、ざわめきが途絶とだえることのないロビーも、この時ばかりは静けさに包まれていた。
 ただでさえ広いロビーが静寂せいじゃくのため、より広く感じられる。

「エレベーターホールはあっちね」

 小声でそう言って前方を指差す恋華れんか甘太郎あまたろうは口を引き結んだままうなづいた。
 二人とも事前に病院の見取り図を頭にたたき込んできた。

「今のところ何も問題なさそうだけど。神気じんき魔気まきも低濃度のうどのままだし」

 この世界と異界は表裏一体であり、異界の干渉かんしょうを常に受け続けているため、この世の多くの地域で神気じんき魔気まきは常に微量びりょうに存在する。
 そしてこの濃度のうどが少しでも高まると甘太郎あまたろうらのような能力者はそれを敏感びんかんに感じ取ることが出来る。

「時間がかかるけど、とにかく1フロアずつ見ながら上がっていこう」

 そう言う恋華れんかの指には2つの指輪がはめられており、病院の照明を受けて宝石ほうせきがキラキラとかがやきを放った。

(俺が連中の動きを止めて、恋華れんかさんがトドメをす。その繰り返しだ)

 甘太郎あまたろうはいつどこから襲ってくるとも知れぬ感染者かんせんしゃ脅威きょういに気を引きめながら、自らを落ち着かせるべく胸の内で繰り返しそうつぶやいた。
 見ると恋華れんかもわずかながら緊迫きんぱくした顔色で慎重しんちょうに歩を進めている。
 エージェントとは言え、まだ踏んだ場数ばかずも少ない新人である恋華れんかも、緊張感きんちょうかんを覚えずにはいられないようだった。

(これが現場の空気だ)

 甘太郎あまたろうは息を飲んだ。
 二人はエレベーターホールにたどり着いたが、せまいエレベーター内で感染者に襲われることをきらい、ホール横の階段から上階へと上がることにした。
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