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第42夜 あやしい男
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こんばんは。
枕崎純之助です。
今夜はあやしい男の話をしましょう。
え?
今さら自己紹介かって?
誰があやしい男だ!(怒)
そ、そんなことより皆さん。
気付きましたか?
この『Pillow Talk』。
今回が2024年最初のエピソードです。
そう言えば年初のご挨拶がまだでしたね。
あけましておめでとうございます。(8月だぞ)
今年もよろしくお願いします。(残り5ヶ月だぞ)
前回のエピソードが2023年の11月の投稿になってますから、どんだけ間を空けてるんだっていう話ですよね。
え?
もう前回のエピソード内容を忘れたって?
僕もです。(著者失格)
まあ、ともあれ今夜もお付き合いください。
あやしい男の話です。
先日、仕事で海外に出張した際に僕はヒヤッとした体験をしました。
出張先はお隣の中国。
これまで仕事で何度か訪れたことのある国ですが、今回は実に10年ぶりの訪問となりました。
ヒヤッとした体験というのは、宿泊していたホテルでの出来事です。
朝、朝食のビュッフェ会場に向かうために僕は宿泊している部屋を出て、1階ロビーに降りました。
宿泊棟からビュッフェのある棟に移動するのには一度1階ロビーに降りて、専用のエレベーターに乗り換える必要があるのです。
その1階のロビーで、僕はある1人の若い男性を見かけました。
どうやら現地の人らしく、その男性はロビーのソファーに座ったままじっとこちらを見つめています。
僕も何となく彼に目を向け、互いの目が合いました。
その視線に僕は何か違和感を覚えます。
若者はギラギラとした異様な光をたたえているような目をしていたのです。
その表情はどこか疲れ切ったように見えるのに、目だけは異様にギラついていました。
(あ、あやしい男だ……)
そのホテルは外国人が多く泊まるホテルで、僕ら日本人の他に欧米系や東南アジア系、中東系の人たちが多く泊まっていましたが、その反面、現地の宿泊客はあまりいませんでした。
(宿泊客じゃないな……)
1人でロビーのソファーに座る若者の服装や佇まいを見て、僕はそう直感しました。
するとその若者がソファーを立ってこちらに向かって歩いてくるのです。
僕は何か嫌な予感を覚え、彼を無視してエレベーターに乗り込みました。
そして「閉める」ボタンを押したのですが……扉が閉まる直前で再び開いたのです。
そこにはその若者が無言で立っていました。
彼が外から「開く」ボタンを押したのです。
僕が息を飲む中、彼はエレベーターに乗り込んできました。
そして扉が閉まり、エレベーターの中には僕と彼の2人きりになります。
ヤバイと思いましたが、ビュッフェ会場は3階です。
すぐに着くだろうと思い、僕は3階のボタンを押します。
ですが……。
(あれ?)
3階のボタンを押しても反応しません。
何度も押しますが、3階のランプはつかないまま、エレベーターはビクとも動かないのです。
気まずい沈黙がエレベーターの中に満ちます。
扉は鏡面になっていて、僕の背後に立つ若者がじっとこちらを見ている様子が映っています。
(こ、これヤバイぞ……)
背中に視線を受けているのを感じた僕はたまらず、何かを部屋に忘れた、というようなわざとらしい仕草を見せて、エレベーターの「開く」ボタンを押しました。
何やら奇妙な若者とこのままエレベーターの中にいるのが危険な気がしたからです。
(早く開いてくれ!)
そう思いながら開き出したエレベーターの扉から再び僕はロビーに歩み出ます。
そして宿泊棟に戻るためのエレベーターの前に立ちました。
とりあえず部屋に戻ろうと思ったのです。
恐る恐る背後を振り返ると……先ほど乗っていたエレベーターの扉が閉まっていきます。
若者は……まだ乗ったままでした。
そして若者を載せたまま扉の閉まったエレベーターは、1階に止まった状態で微動だにしません。
こ、怖ぁぁぁぁ!
あの彼、動かないエレベーターの中に1人で隠れ潜んでる!
これ、あそこに乗り込む人がいたらビックリして心臓止まるぞ!
その異様さに僕が戦慄を覚えていると、そのエレベーターの扉が開いて若者が出てきました。
そして彼は僕に何やら話しかけてきたのです。
もちろん僕は中国語による会話が出来ませんが、それが中国語であるという程度には分かります。
ですので僕は「日本人なので言葉が分からない」というようなカタコトの中国語で返答し、すぐに宿泊棟のエレベーターに乗り込みました。
その際に若者が手で何かを押し当てるようなジェスチャーをしているのが見えましたが、僕は急いでエレベーターの「閉める」ボタンを押しました。
こっちにまで乗り込まれたらたまりませんから。
ようやくエレベーターの扉が閉まり、僕はそのエレベーターに乗りながら自分の部屋に戻ることが出来ました。
「ふぅ……何だったんだろう」
部屋で一息をつきながら、僕はあの若者が最後に見せたジェスチャーを思い返します。
そしてふとその意味に気付いたのです。
「もしかして……」
そのホテルはカードキーを部屋の扉のタッチパネルに押し当て、センサーで解錠するシステムを採用しておりました。
そしてカードキーを押し当てるためのタッチパネルが、エレベーターの中にもあったことを思い出したのです。
そう。
別棟へのエレベーターは、宿泊者だけが持つこのカードキーを押し当てないと、ボタンが反応しないシステムになっていたのです。
ビュッフェの会場に宿泊者以外の人間を入れないためのセーフティー・システムでした。
「あの若者はカードキーを使えって教えてくれていたのか……でも待てよ? ということは自分はカードキーを持っていないってことか。持っていたら彼自身が使っているだろうし……」
思った通り、彼は宿泊者ではないようです。
であるのならば何故あんなところに……。
そんなことを考えていると、今回の出張に同行してくれていた通訳さんが僕を呼びに部屋まで来てくれました。
一緒に朝食をとろうと誘ってくれたのです。
そこで僕はその通訳さんに先ほどの若者との顛末を話しました。
すると通訳さんは肩をすくめます。
「ああ。ソレ、ワタシも話しかけられましたよ。カードキーを貸してくれないかって。もちろんそんなの貸せるわけないから、追い払いましたけど」
「……え? そうなんですか?」
「ハイ。ここの朝食は宿泊者だけに提供されるため、ビュッフェ会場では事前にカードキーを持参する必要がありますよね」
「え? じゃああの若者は朝食を食べたくて、ロビーでカードキーを持つ客に声をかけていたってことですか?」
「ハイ。よくいるんですよ。朝食目当てに、ああやってホテルのロビーに朝から居座っている現地の人間が。ホテル側も追い出せばいいのに」
そういうことだったんです。
あの若者は朝食を食べたくて、僕と一緒にビュッフェ会場に行こうと目論んでいたんですね。
そんなことをしてもカードキーが1人分しかないから、彼が朝食にありつくことは出来ないのですが。
お腹をすかせた彼は一縷の望みをかけて、あのエレベーターに乗り込んできたのでしょう。
そこまで考えて僕はゾッとしました。
もし彼が凶行に出ていたら、僕は背後から彼に殴られてカードキーを奪われていたかもしれない、と。
もちろん彼はそんなことをしなかったので、そこまで悪い人間ではなかったのかもしれません。
しかし何かに追いつめられた人間は咄嗟に凶行に出ることもありますので、とにかく何もなくて良かったと僕は胸を撫で下ろしたのでした。
以上が、今回、僕が出張で体験したヒヤリとした出来事でした。
皆さんもお仕事やご旅行で海外へ行かれる際は、十分にお気を付け下さい。
思いもよらぬトラブルや犯罪に巻き込まれる恐れもありますので。
それでは皆さん。
おやすみなさい。
今宵も良い夢を。
またいつかの夜にお会いしましょう。
枕崎純之助です。
今夜はあやしい男の話をしましょう。
え?
今さら自己紹介かって?
誰があやしい男だ!(怒)
そ、そんなことより皆さん。
気付きましたか?
この『Pillow Talk』。
今回が2024年最初のエピソードです。
そう言えば年初のご挨拶がまだでしたね。
あけましておめでとうございます。(8月だぞ)
今年もよろしくお願いします。(残り5ヶ月だぞ)
前回のエピソードが2023年の11月の投稿になってますから、どんだけ間を空けてるんだっていう話ですよね。
え?
もう前回のエピソード内容を忘れたって?
僕もです。(著者失格)
まあ、ともあれ今夜もお付き合いください。
あやしい男の話です。
先日、仕事で海外に出張した際に僕はヒヤッとした体験をしました。
出張先はお隣の中国。
これまで仕事で何度か訪れたことのある国ですが、今回は実に10年ぶりの訪問となりました。
ヒヤッとした体験というのは、宿泊していたホテルでの出来事です。
朝、朝食のビュッフェ会場に向かうために僕は宿泊している部屋を出て、1階ロビーに降りました。
宿泊棟からビュッフェのある棟に移動するのには一度1階ロビーに降りて、専用のエレベーターに乗り換える必要があるのです。
その1階のロビーで、僕はある1人の若い男性を見かけました。
どうやら現地の人らしく、その男性はロビーのソファーに座ったままじっとこちらを見つめています。
僕も何となく彼に目を向け、互いの目が合いました。
その視線に僕は何か違和感を覚えます。
若者はギラギラとした異様な光をたたえているような目をしていたのです。
その表情はどこか疲れ切ったように見えるのに、目だけは異様にギラついていました。
(あ、あやしい男だ……)
そのホテルは外国人が多く泊まるホテルで、僕ら日本人の他に欧米系や東南アジア系、中東系の人たちが多く泊まっていましたが、その反面、現地の宿泊客はあまりいませんでした。
(宿泊客じゃないな……)
1人でロビーのソファーに座る若者の服装や佇まいを見て、僕はそう直感しました。
するとその若者がソファーを立ってこちらに向かって歩いてくるのです。
僕は何か嫌な予感を覚え、彼を無視してエレベーターに乗り込みました。
そして「閉める」ボタンを押したのですが……扉が閉まる直前で再び開いたのです。
そこにはその若者が無言で立っていました。
彼が外から「開く」ボタンを押したのです。
僕が息を飲む中、彼はエレベーターに乗り込んできました。
そして扉が閉まり、エレベーターの中には僕と彼の2人きりになります。
ヤバイと思いましたが、ビュッフェ会場は3階です。
すぐに着くだろうと思い、僕は3階のボタンを押します。
ですが……。
(あれ?)
3階のボタンを押しても反応しません。
何度も押しますが、3階のランプはつかないまま、エレベーターはビクとも動かないのです。
気まずい沈黙がエレベーターの中に満ちます。
扉は鏡面になっていて、僕の背後に立つ若者がじっとこちらを見ている様子が映っています。
(こ、これヤバイぞ……)
背中に視線を受けているのを感じた僕はたまらず、何かを部屋に忘れた、というようなわざとらしい仕草を見せて、エレベーターの「開く」ボタンを押しました。
何やら奇妙な若者とこのままエレベーターの中にいるのが危険な気がしたからです。
(早く開いてくれ!)
そう思いながら開き出したエレベーターの扉から再び僕はロビーに歩み出ます。
そして宿泊棟に戻るためのエレベーターの前に立ちました。
とりあえず部屋に戻ろうと思ったのです。
恐る恐る背後を振り返ると……先ほど乗っていたエレベーターの扉が閉まっていきます。
若者は……まだ乗ったままでした。
そして若者を載せたまま扉の閉まったエレベーターは、1階に止まった状態で微動だにしません。
こ、怖ぁぁぁぁ!
あの彼、動かないエレベーターの中に1人で隠れ潜んでる!
これ、あそこに乗り込む人がいたらビックリして心臓止まるぞ!
その異様さに僕が戦慄を覚えていると、そのエレベーターの扉が開いて若者が出てきました。
そして彼は僕に何やら話しかけてきたのです。
もちろん僕は中国語による会話が出来ませんが、それが中国語であるという程度には分かります。
ですので僕は「日本人なので言葉が分からない」というようなカタコトの中国語で返答し、すぐに宿泊棟のエレベーターに乗り込みました。
その際に若者が手で何かを押し当てるようなジェスチャーをしているのが見えましたが、僕は急いでエレベーターの「閉める」ボタンを押しました。
こっちにまで乗り込まれたらたまりませんから。
ようやくエレベーターの扉が閉まり、僕はそのエレベーターに乗りながら自分の部屋に戻ることが出来ました。
「ふぅ……何だったんだろう」
部屋で一息をつきながら、僕はあの若者が最後に見せたジェスチャーを思い返します。
そしてふとその意味に気付いたのです。
「もしかして……」
そのホテルはカードキーを部屋の扉のタッチパネルに押し当て、センサーで解錠するシステムを採用しておりました。
そしてカードキーを押し当てるためのタッチパネルが、エレベーターの中にもあったことを思い出したのです。
そう。
別棟へのエレベーターは、宿泊者だけが持つこのカードキーを押し当てないと、ボタンが反応しないシステムになっていたのです。
ビュッフェの会場に宿泊者以外の人間を入れないためのセーフティー・システムでした。
「あの若者はカードキーを使えって教えてくれていたのか……でも待てよ? ということは自分はカードキーを持っていないってことか。持っていたら彼自身が使っているだろうし……」
思った通り、彼は宿泊者ではないようです。
であるのならば何故あんなところに……。
そんなことを考えていると、今回の出張に同行してくれていた通訳さんが僕を呼びに部屋まで来てくれました。
一緒に朝食をとろうと誘ってくれたのです。
そこで僕はその通訳さんに先ほどの若者との顛末を話しました。
すると通訳さんは肩をすくめます。
「ああ。ソレ、ワタシも話しかけられましたよ。カードキーを貸してくれないかって。もちろんそんなの貸せるわけないから、追い払いましたけど」
「……え? そうなんですか?」
「ハイ。ここの朝食は宿泊者だけに提供されるため、ビュッフェ会場では事前にカードキーを持参する必要がありますよね」
「え? じゃああの若者は朝食を食べたくて、ロビーでカードキーを持つ客に声をかけていたってことですか?」
「ハイ。よくいるんですよ。朝食目当てに、ああやってホテルのロビーに朝から居座っている現地の人間が。ホテル側も追い出せばいいのに」
そういうことだったんです。
あの若者は朝食を食べたくて、僕と一緒にビュッフェ会場に行こうと目論んでいたんですね。
そんなことをしてもカードキーが1人分しかないから、彼が朝食にありつくことは出来ないのですが。
お腹をすかせた彼は一縷の望みをかけて、あのエレベーターに乗り込んできたのでしょう。
そこまで考えて僕はゾッとしました。
もし彼が凶行に出ていたら、僕は背後から彼に殴られてカードキーを奪われていたかもしれない、と。
もちろん彼はそんなことをしなかったので、そこまで悪い人間ではなかったのかもしれません。
しかし何かに追いつめられた人間は咄嗟に凶行に出ることもありますので、とにかく何もなくて良かったと僕は胸を撫で下ろしたのでした。
以上が、今回、僕が出張で体験したヒヤリとした出来事でした。
皆さんもお仕事やご旅行で海外へ行かれる際は、十分にお気を付け下さい。
思いもよらぬトラブルや犯罪に巻き込まれる恐れもありますので。
それでは皆さん。
おやすみなさい。
今宵も良い夢を。
またいつかの夜にお会いしましょう。
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