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第41夜 立ち合い出産をナメるな!(後編)
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こんばんは。
枕崎純之助です。
今夜は前回の第40夜『立ち合い出産をナメるな!(前編)』に引き続き後編をお届けしたいと思います。
前回の立ち合い出産から数年後、再び戦いの時がやってきました。
二度目の出産も妻は立ち合いを希望し、自分もそのつもりで心構えは万全です。
ちなみに一度目は里帰りで妻の地元での出産でしたが、今回は上の子供がいることもあり(母親と離れたくない)、自宅近くの産院で出産となりました。
そしていよいよ決戦の夜。
陣痛が始まったのが午後10時です。
ただちに僕は産院に電話をしました。
産院からはすぐに来るように言われ、僕が夜道を運転して妻を産院まで連れて行きます。
上の子はすでに寝ていたので僕の母に預け、今回は夫婦とおなかの子の3人で二 度目の立ち合い出産に臨みます。
二度目ということもあって妻も経産婦(出産経験のある女性)となっており、前回よりはかなり落ち着いています。
そして一般的に初産の時と比べると経産婦のお産の時間は短縮されるのです。
初産の場合は平均で約14時間と言われている分娩全体の時間も、経産婦の場合は8時間前後とかなり短くなる傾向があります。(個人差はあります)
そして夜11時に産院に到着し、妻は分娩室の前室でその時を待ちます。
ちょうどこの時、別の妊婦さんがお産の真っ最中であり順番待ちとなりましたが、ほどなくしてその方のお産が終わり、妻は分娩室に通されます。
その時、僕は分娩室前の廊下で呼ばれるのを待っていました。
やがて助産師さんによる分娩前の診察を経て、いよいよ僕は室内に通されます。
前回とは産院が違うので細かい手順は異なりますが、今回は分娩室に入るまでに色々とスムーズだと感じておりました……この時までは。
前回のお産では陣痛室での待機時間が長かった分、分娩室に入ってからわずか6分で生まれましたから、このペースならば今回はすんなり終わるだろう。
僕はそのつもりでいたのです。
時刻は午前0時を迎え、日付が変わったところで戦いの幕が開きました。
二度目ということもあり僕も心構えは万全です。
赤ちゃんいつでもバッチコーイ!
午前0時。
妻がいきみます!
「ふぅぅぅぅぅぅぅ!」
バッチコーイ!
しかし、前回とは異なり、赤ちゃんはすぐには生まれてきません。
でも、まだまだこれからです!
午前1時。
妻がいきみます!
「あぅぅぅぅぅぅぅ!」
バッチコーイ!
赤ちゃんはまだ顔を見せてくれません。
午前2時。
妻がいきみます!
「くぅぅぅぅぅぅぅ!」
バ、バッチコーイ。
まだです!
まだ赤ちゃんは出て来てくれません。
午前3時。
つ、妻がいきみます。
「はぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
バ、バッチコーイ……。
ど、どうなってるんでしょうか。
赤ちゃん起きてる?
ご、午前4時。
妻は……もう息も絶え絶えになり、いきむことも出来なくなってきました。
僕も数時間に渡る立ち合いで時折、立ったまま寝落ちしそうになります。
「ハァ……ハァ……」
バッチ……こねえええええ!
全然生まれて来ません!
まるで母親の胎内から出たくないと抵抗しているかのように、赤ちゃんは頑なに母体に留まり続けます。
もう妻も長時間に渡っていきみ続けたため、完全に疲れ切ってしまっていました。
こ、これ……ヤバイのでは?
僕は妻が力尽きて産めなくなってしまうのではないかと不安になります。
我が子よ。
そろそろ出てきておくれ。
しかし妻は一度出産を経験し、命の尊さを知る強い母親です。
ここでくじけることはありませんでした。
迎えた午前5時……妻が最後の力を振りしぼります。
「ふぬぅぅぅぅぅぅ!」
頼むから……お願いだからバッチコーイ!
そして……妻の必死のがんばりのおかげで、のんびり屋の赤ちゃんがようやく外の世界に生まれ出てきてくれました。
上の子の時はさっさと出てきたので驚いたという気持ちの方が大きかったのですが、この時はやっとの思いで出てきてくれたので心底ホッとしました。
そのせいか「やった! 生まれた!」と思わず声を上げてしまいます。
上の子の時もそうだったのですが、うちの赤ちゃんたちは生まれてすぐには泣きませんでした。
医師が赤ちゃんの口の中に溜まった液体をスポイトのようなものでジュッと吸い取ると、そこから弾かれたように泣き始めます。
この泣き声を聞くと、ああ生きてるんだ、命が生まれたんだと実感し、安心できます。
何にしても第1子よりも随分とのんびりな第2子の誕生でした。
妻よ。
今回もがんばってくれてありがとう。
僕は感謝の気持ちと共に妻の手を握りしめるのでした。
なお、今回はやはり経産婦だったので分娩全体の時間としては前回の17時間と比べ半分以下の7時間で済みました。
ただ、分娩室に入ってからの戦いが長かったため、二度目のほうが大変だったと感じました。
こうして二度目の立ち合い出産は幕を閉じたのです。
ちなみに『三つ子の魂百まで』と言いますが、この時ののんびり赤ちゃんはその後、成長してものんびり屋です。
「朝だから起きなさい」
「んん……」
「起きなさいって」
「んんん……」
「起きなさい」
「分かってるよ~」
朝はそんな感じですし夜も
「お風呂に入りなさい」
「うん」
「後がつかえるから入りなさいよ」
「うん」
「入りなさいって」
「分かってる!」
万事そんな感じです。
その度に僕は思い出すのです。
なかなか生まれてくれなかった、あの立ち合い出産の日を。
さて、そろそろ夜も更けてまいりましたので、今夜はこの辺で。
前後編に渡ってお届けした立ち合い出産のお話でしたが、お楽しみいただけましたら幸いです。
それでは皆さん。
おやすみなさい。
今宵も良い夢を。
またいつかの夜にお会いしましょう。
枕崎純之助です。
今夜は前回の第40夜『立ち合い出産をナメるな!(前編)』に引き続き後編をお届けしたいと思います。
前回の立ち合い出産から数年後、再び戦いの時がやってきました。
二度目の出産も妻は立ち合いを希望し、自分もそのつもりで心構えは万全です。
ちなみに一度目は里帰りで妻の地元での出産でしたが、今回は上の子供がいることもあり(母親と離れたくない)、自宅近くの産院で出産となりました。
そしていよいよ決戦の夜。
陣痛が始まったのが午後10時です。
ただちに僕は産院に電話をしました。
産院からはすぐに来るように言われ、僕が夜道を運転して妻を産院まで連れて行きます。
上の子はすでに寝ていたので僕の母に預け、今回は夫婦とおなかの子の3人で二 度目の立ち合い出産に臨みます。
二度目ということもあって妻も経産婦(出産経験のある女性)となっており、前回よりはかなり落ち着いています。
そして一般的に初産の時と比べると経産婦のお産の時間は短縮されるのです。
初産の場合は平均で約14時間と言われている分娩全体の時間も、経産婦の場合は8時間前後とかなり短くなる傾向があります。(個人差はあります)
そして夜11時に産院に到着し、妻は分娩室の前室でその時を待ちます。
ちょうどこの時、別の妊婦さんがお産の真っ最中であり順番待ちとなりましたが、ほどなくしてその方のお産が終わり、妻は分娩室に通されます。
その時、僕は分娩室前の廊下で呼ばれるのを待っていました。
やがて助産師さんによる分娩前の診察を経て、いよいよ僕は室内に通されます。
前回とは産院が違うので細かい手順は異なりますが、今回は分娩室に入るまでに色々とスムーズだと感じておりました……この時までは。
前回のお産では陣痛室での待機時間が長かった分、分娩室に入ってからわずか6分で生まれましたから、このペースならば今回はすんなり終わるだろう。
僕はそのつもりでいたのです。
時刻は午前0時を迎え、日付が変わったところで戦いの幕が開きました。
二度目ということもあり僕も心構えは万全です。
赤ちゃんいつでもバッチコーイ!
午前0時。
妻がいきみます!
「ふぅぅぅぅぅぅぅ!」
バッチコーイ!
しかし、前回とは異なり、赤ちゃんはすぐには生まれてきません。
でも、まだまだこれからです!
午前1時。
妻がいきみます!
「あぅぅぅぅぅぅぅ!」
バッチコーイ!
赤ちゃんはまだ顔を見せてくれません。
午前2時。
妻がいきみます!
「くぅぅぅぅぅぅぅ!」
バ、バッチコーイ。
まだです!
まだ赤ちゃんは出て来てくれません。
午前3時。
つ、妻がいきみます。
「はぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
バ、バッチコーイ……。
ど、どうなってるんでしょうか。
赤ちゃん起きてる?
ご、午前4時。
妻は……もう息も絶え絶えになり、いきむことも出来なくなってきました。
僕も数時間に渡る立ち合いで時折、立ったまま寝落ちしそうになります。
「ハァ……ハァ……」
バッチ……こねえええええ!
全然生まれて来ません!
まるで母親の胎内から出たくないと抵抗しているかのように、赤ちゃんは頑なに母体に留まり続けます。
もう妻も長時間に渡っていきみ続けたため、完全に疲れ切ってしまっていました。
こ、これ……ヤバイのでは?
僕は妻が力尽きて産めなくなってしまうのではないかと不安になります。
我が子よ。
そろそろ出てきておくれ。
しかし妻は一度出産を経験し、命の尊さを知る強い母親です。
ここでくじけることはありませんでした。
迎えた午前5時……妻が最後の力を振りしぼります。
「ふぬぅぅぅぅぅぅ!」
頼むから……お願いだからバッチコーイ!
そして……妻の必死のがんばりのおかげで、のんびり屋の赤ちゃんがようやく外の世界に生まれ出てきてくれました。
上の子の時はさっさと出てきたので驚いたという気持ちの方が大きかったのですが、この時はやっとの思いで出てきてくれたので心底ホッとしました。
そのせいか「やった! 生まれた!」と思わず声を上げてしまいます。
上の子の時もそうだったのですが、うちの赤ちゃんたちは生まれてすぐには泣きませんでした。
医師が赤ちゃんの口の中に溜まった液体をスポイトのようなものでジュッと吸い取ると、そこから弾かれたように泣き始めます。
この泣き声を聞くと、ああ生きてるんだ、命が生まれたんだと実感し、安心できます。
何にしても第1子よりも随分とのんびりな第2子の誕生でした。
妻よ。
今回もがんばってくれてありがとう。
僕は感謝の気持ちと共に妻の手を握りしめるのでした。
なお、今回はやはり経産婦だったので分娩全体の時間としては前回の17時間と比べ半分以下の7時間で済みました。
ただ、分娩室に入ってからの戦いが長かったため、二度目のほうが大変だったと感じました。
こうして二度目の立ち合い出産は幕を閉じたのです。
ちなみに『三つ子の魂百まで』と言いますが、この時ののんびり赤ちゃんはその後、成長してものんびり屋です。
「朝だから起きなさい」
「んん……」
「起きなさいって」
「んんん……」
「起きなさい」
「分かってるよ~」
朝はそんな感じですし夜も
「お風呂に入りなさい」
「うん」
「後がつかえるから入りなさいよ」
「うん」
「入りなさいって」
「分かってる!」
万事そんな感じです。
その度に僕は思い出すのです。
なかなか生まれてくれなかった、あの立ち合い出産の日を。
さて、そろそろ夜も更けてまいりましたので、今夜はこの辺で。
前後編に渡ってお届けした立ち合い出産のお話でしたが、お楽しみいただけましたら幸いです。
それでは皆さん。
おやすみなさい。
今宵も良い夢を。
またいつかの夜にお会いしましょう。
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