Pillow Talk

枕崎 純之助

文字の大きさ
上 下
30 / 43

第29夜 ちょ、母ちゃん! 勝手に俺の部屋掃除すんなよぉ!

しおりを挟む
 皆さん、こんばんは。
 枕崎まくらざき純之助です。
 ご無沙汰ぶさたしております。
 最近、すっかりサボり気味の『Pillow Talk』を久々にお届けしたいと思います。
 というか新年一発目ですね。

 あけましておめでとうございます。(1月29日……)
 今年もよろしくお願いいたします。(もう一ヶ月終わっとるわ)

 さて、今夜は青春時代のっぱい思い出の話をしましょうか。
 え?
 甘酸あまずっぱい思い出じゃないのかって?
 いえ違います!
 っぱい思い出です!
 ちっとも甘くありません!


 実はね、中学1年の時、同じクラスの女子から誕生日プレゼントをもらったことがあるんですよ。
 こんな僕ですが、昔はそんな青春の1ページもあったのです。 
 どちらかというとニブチンの僕ですが、さすがにその女子が向けてくれる好意はうっすらと感じておりました。

 ですが恋はいつも一方通行の片道キップ。(何のこっちゃ)
 大変申し訳なかったのですが、僕はその女子のことはただの友達としか思っておりませんでした。
 そんな女子からもらった誕生日プレゼントは目覚まし時計。
 確かピーターラビットか何かのかわいい時計だったと思います。

 せっかく選んでくれた物なので受け取りましたが、それによって僕の気持ちが変わることもなく、僕はその目覚まし時計をもらった日に押し入れにしまい、一度も使うことはありませんでした。
 え?
 鬼かって?

 いえ、違いますよ。
 僕は恋愛沙汰ざたに対してはマジメだったのです。
 お付き合いするつもりのない女子からもらったプレゼントを使うのは不誠実だと考え、その目覚まし時計をお蔵入りにしました。
 で、それから数日後のことです。

 僕が学校から帰る途中、何やら気配を感じて後方を振り返ると、2名の女子がこっそりと僕を尾行びこうしていました。
 それは先日、僕に時計をくれた女子が普段仲良くしている別の女子2名でした。
 いわゆる仲良し3人組の残りの2人です。

 僕は何やら嫌な予感がして家路を急ぎます。
 いや、中学生くらいの女子って妙に連帯感が強くて、友達の恋を必要以上に応援したりすることあるじゃないですか。
 プレゼントをくれた女子にはその後、僕は何もアクションを起こすことなくスルーしていました。
 別に告白とかをされたわけじゃないので、こちらから何かを言うこともないと思っていましたし。
 それもあってその女子の友達2人が僕に「あの子のこと、どう思ってんのよ」的なことを言いに来たかと思ったんですね。

 それを回避すべく僕はさっさと家に入りました。
 ふぅ。
 これで一安心。
 手を洗って、キッチンで冷蔵庫から冷たい飲み物を出して一息つきます。
 その時、僕の部屋のある方向から何やら女子がキャッキャと騒ぐ声が聞こえて来て、僕は胸騒ぎを覚えました。

 前回の『第28夜:怪奇! 深夜のゾーキンがけ男!』でもお話ししましたが、僕の実家はマンションです。
 昔ながらのマンションなのでもちろんオートロックなどありません。
 外部からいくらでも人が入り放題のノー・セキュリティー・マンションです。
 ワイルドだろぉ?
 そして僕の部屋はマンションの通路側にあり、窓が開いていると通路を通る人から部屋の中が丸見えなのです。
 ノープライバシー・ノーライフですよ!

 そして外から聞こえてくる女子の声の感じからすると、まさか……。
 窓が開いている?
 僕は急いで部屋に向かいます。
 すると……まんまと部屋の窓が開いていました。
 そして走り去っていく女子2人の足音の中に僕はハッキリと彼女たちの声を聞いたのです。

「両想いだったんじゃーん。クスクス……」

 は?
 おい女子たち。
 何をトチ狂っていやがりますか?
 そう思った僕は窓際に置かれている自分の勉強机の上を見て我が目を疑います。

「……はっ? えっ? 何で?」

 朝、学校に行く前までとっちらかっていたはずの僕の机は、いつの間にか綺麗きれいに片づけられていて、すっかり整理整頓せいりせいとんされています。
 そして……信じられないことに例の目覚まし時計が机の上に堂々と飾られているではありませんか!

 な、なにぃぃぃぃ!
 なぜだ!
 目覚まし時計が机の上に飾られている!
 押し入れにしまいこんでいたはずの目覚まし時計がなぜ!

「ハッ!」

 そこで僕はこの謀略の真犯人にすぐに思い当たりました。
 母です!
 皆さんも心当たりがあるかもしれませんが、散らかしたままの部屋を親に勝手に掃除されるってこと、ありますよね。
 いや、まあ片付けない自分が悪いんですし、片付けてくれる親には感謝しかないんですが。

 それにしたってこの最悪のタイミングよ!
 ここで発動するトラップとか俺を殺す気か!
 羞恥しゅうちのあまりに僕は叫びました。

「ちょっ……母ちゃん! 勝手に俺の部屋掃除すんなよぉ!」
「何言ってんの! いつまでたっても自分で掃除しないからでしょ!」

 いや母上。
 おっしゃることはごもっともですが、それにしたってなぜ時計を飾る!
 あなたの息子がなぜこの目覚まし時計を押し入れにしまっておいたかお分かりか!
 おかげで僕は偵察隊の女子たちにとんだ誤解をされてしまうことになったのですよ!
 今頃、彼女たちは僕に目覚まし時計をくれた女子に嬉々として報告していることでしょう(泣)。

「お、終わった……」

 僕は頭を抱えて途方に暮れるのでした。
 翌日。
 その話はおそらくクラスの一部には知れ渡っていたことでしょう。 
 男友達から両思いだと思われてからかわれるし、女子3人組からは妙な期待の眼差まなざしで見られるし散々でした。

 もちろん言いませんよ。

「あ、あれは母ちゃんが勝手に飾ったんだからな!」

 なんて言い訳するのもカッコ悪いですし。
 
 仕方なくほとぼりが冷めるまで僕は徹底してその女子とは距離を取り、中2になってクラスが変わる頃には妙な雰囲気ふんいきもすっかり消えていました。
 以上が僕が青春時代に経験したっぱい体験でした。
 なにぶん昔のことなので、その後その目覚まし時計はどうなったのか忘れてしまいましたが、使わずにおいたのでおそらくどこかの段階で捨てたのでしょう。
 
 せっかくプレゼントをくれた女子には大変申し訳なかったのですが、彼女も「枕崎まくらざきは打っても響かない男だったわね」と愛想を尽かし、次はもっと期待にこたえてくれるやさしい男子を好きになったことでしょう。
 青春はすれ違いの連続ですからね。

 さて、そろそろ夜もけてまいりましたね。
 今夜はこの枕崎まくらざきの恥ずかしいことだらけの青春のほんの1ページをご紹介しましたが、皆さんにも青春時代のっぱい思い出は色々とあるでしょう。
 僕は母のおかげで恥ずかしい思いをしましたが、それだって自分の責任です。
 勝手に部屋を片付ける母に文句を言う前に自分の部屋は自分で片付けましょう。

 でも母ちゃん。
 まんまと目覚まし時計を飾られたのは一生忘れられない思い出です。
 今度母に会ったら久しぶりにその話でもしましょう。
 案外もう忘れてるかもしれませんが。

 では、おやすみなさい。
 今宵こよいもいい夢を。
 またいつかの夜にお会いしましょう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

オタクと鬱で人生暇で忙しい

椿山
エッセイ・ノンフィクション
金と愛と時間を手に入れたけど、自分自身には何にもない。鬱病で何もできないから今日も暇だけど、オタクで情緒が忙しい。アスペルガー症候群と重症の鬱病で医者を辞めたバツイチオタクの雑多な話です。 ※エッセイになっているのかわかりません。

ポケっこの独り言

ポケっこ
エッセイ・ノンフィクション
ポケっこです。 ここでは日常の不満とかを書くだけのものです。しょーもないですね。 俺の思ってることをそのまま書いたものです。 気まぐれ更新ですが、是非どうぞ。

昨日19万円失った話(実話)

アガサ棚
エッセイ・ノンフィクション
19万円を失った様とその後の奇行を記した物

ボケ防止に漫画投稿初めてみた!

三森まり
エッセイ・ノンフィクション
子供に手がかからなくなったし使える時間めっちゃ多くなったのでボケ防止に何かはじめようかなぁ そうだ!(・∀・)「指を動かす 頭を使う 家にいても出来る!!」という事で インターネットエクスプローラーのTOPページで宣伝してる この「アルファポリス」とやらをやってみよう! という事で投稿初めてみました へいへい 漫画描くの楽しいよ! と そんなエッセイと 私のアルポリ(どんな約し方がスタンダートなのか知ってる方教えてください)での成果?を綴る予定です(・∀・)b

ホテルのお仕事 〜心療内科と家を往復するだけだったニートの逆転劇〜

F星人
エッセイ・ノンフィクション
※この物語は、ある男が体験した『実話』である。 尚、プライバシーの関係上、すべての人物は仮名とする。 和泉浩介(いずみ こうすけ)は、子どもの頃から『倒れちゃいけない』と考えれば考えるほど追い込まれて、貧血で倒れてしまう症状があった。 そのため、入学式、全校集会、卒業式、アルバイト等にまともに参加できず、周りからの目もあって次第に心を塞ぎ込んでしまう。 心療内科の先生によると、和泉の症状は転換性障害や不安障害の可能性がある……とのことだったが、これだという病名がハッキリしないのだという。 「なんで俺がこんな目に……」 和泉は謎の症状から抜け出せず、いつのまにか大学の卒業を迎え……半ば引きこもり状態になり、7年の月日が経った。 そして時は西暦2018年……。 ニートのまま、和泉は31歳を迎えていた。 このままではいけないと、心療内科の先生のアドバイスをきっかけに勇気を出してバイトを始める。 そこから和泉の人生は大きく動き出すのだった。 心療内科と家を往復するだけだった男の大逆転劇が幕を開ける。

社会人2●年 アラフォーの対処法

藍川 東
エッセイ・ノンフィクション
社会人2●年の、アラフォー女のまったり日々の徒然 ゆるく生きてる各種対処法

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...