Pillow Talk

枕崎 純之助

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第26夜 絶対に話しかけたいオバーサンvs 絶対に話しかけられたくないオバーサン

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 皆さん、こんばんは。
 枕崎まくらざき純之助です。

 今夜もPillow Talkをお届けしてまいります。
 え?
 そろそろ飽きてきたって?
 またまたそんなこと言って。
 本当は夜な夜な待ってたんだろう?
 俺のことを(イケボ風)。

 え?
 調子に乗るならもう帰るって?
 ちょ待てよ!
 いや、お待ち下さい!
 聞いてけろ!
 頼むがらオラのくだらねえ話さ聞いていってけろ!
 時間は取らせねえがら。
 5分で終わっがら!


 え~……コホン。
 前にもお話ししたことがありますが、僕は毎朝バスで勤め先まで通勤しています。
 そうして何年もバスに乗っていると様々な出来事を目撃することがあるんですよね。
 中には乗客同士がモメてちょっと険悪な雰囲気になる場面に出くわすことも。

 たとえば、まだ世間を騒がせるあのウイルスが流行する前で、人々があまりマスクをしていなかった頃、バスの中で吊革につかまって立っているオジサンが、ゴホンゴホンとせきをしていたんです。
 あのウイルス流行前とはいえ、オジサンはノーマスクでしたし、冬場でインフルエンザもありましたので車内には少々ピリピリとした空気が漂いました。
 いやまあせきは出ちゃうもので仕方ないんですが、そんなに咳き込んでいる状態なら、マスクをつけてきてほしかった。

 僕がそんなことを思っていると突然、そのオジサンの目の前に座っている若い女の人が怒りの声を上げました。

せきが私の顔にかかってすごく嫌なので、口を手で押さえて下さい」

 女性の厳しい口調にバスの中の空気が凍りつきました。
 でも女性の言い分はもっともです。
 他人のせきによる飛沫が顔にかかったら誰だって嫌ですしね。
 言われたオジサンは謝ることもなく、手で口を押さえて顔を背けました。

 この件はそれ以上トラブルになることはなく終わりましたが、バスの中では時折こうしたことがあります。
 それから時は流れてつい先日のことでした。

 僕がいつものようにバスに乗っていると、途中のバス停で表題の『絶対に話しかけたいオバーサン』がバスに乗車してきました。
 僕も幾度となくバスでお見かけすることのあるオバーサンです。
 実はこの方、その付近ではちょっと有名なご婦人でした。
 というのもバスに乗ると誰彼かまわずいきなり話しかけるちょっと変わった人でしたので。

 もう10年近く前ですが、僕も話しかけられたことがあります。
 僕の乗るバスは途中で団地の中を通るルートがあって、団地に住んでいる方々が乗ってきます。
 このオバーサンもそんな団地にお住まいの方でした。
 僕が座っている席のとなりに乗り込んできたそのオバーサンは、意気揚々と僕に話しかけてきました。

「おたくはこの団地に住んでいる方?」
「いえ。違いますけど」
「あら。それなら良かった。この団地には変な人がたくさん住んでいますからね。警察に捕まった前科者もいるんですよ。気をつけてね」
「は、はぁ……」

 いやオバーサン。
 この団地からこのバスに乗って来てる人、今、僕の周りにたくさんいますからね。
 そんな話やめて今(泣)。
 
 困った僕はこの難局をやり過ごすべく、愛想笑いで適当に相槌あいづちを打ちながら「オバーサン早く降りて!」と心の中で祈りました。
 幸いにしてオバーサンはいつも2駅ほどの短い区間で降りて行きますから、僕はすぐに難を逃れることが出来ました。
 その後もこのオバーサンに話しかけられては困っている人々の姿をちょくちょく見かけることになったのですが、ついに先日、このオバーサンに対して怒りをむき出しにする人が現れたのです。

 それが表題の『絶対に話しかけられたくないオバーサン』でした。
 オバーサンが2人出て来てちょっとややこしくなるので、このオバーサンを『ほっとけ婦人(略:ほ)』と呼ばせていただきます。
 ほっとけ婦人は僕と同じバス停から乗り込んできましたが、その時は別に変わった様子もなく普通でした。
 しかしバスが走り始めて途中で、例の話しかけたいオバーサン(この方は『かまって婦人(略:か)』と呼ばせていただきます)が乗って来ると、状況は一変しました。
 この日、かまって婦人の標的にされたのは、ほっとけ婦人です。
 
か:「ちょっといいですか?」
ほ:「え? なあに?」

 この「え? なあに?」ですが、決して友好的な口調ではありません。
 不機嫌でツンケンした「え? なあに?」です。
 かまって婦人に話しかけられたほっとけ婦人の表情は明らかに苛立いらだちの色に染まっていました。
 しかし相手のそんな態度にもまったくひるむことなく、かまって婦人はバスに乗る際に利用しているシルバーパス(70歳以上の方が使える東京都発行の乗車パス)を取り出してみせます。

か:「このシルバーパス。便利なんですよ。あなた、ご存知?」
ほ:「そんなの知ってますよ。便利ったって高齢者はみんな持ってるもんでしょ。何もあなただけが持ってるわけじゃないんだから、そんな話しなくてもいいでしょうに」

 けっこうな塩対応です!(汗)
 ほっとけ婦人は間違いなくかまって婦人のことを嫌っています。
 どうやら2人は初対面ではないようでした。
 以前に何かあったのかもしれませんね。
 
か:「まあ、そうですけど。便利ですよね」

 めげずにそう言うかまって婦人の言葉を無視して、ほっとけ婦人は何やら自分のカバンをガソゴソとあさり始めます。
 そして中から自分のシルバーパスを取り出し、それをかまって婦人に見せつけました。

ほ:「これでしょ。私だって持ってますよ」

 ほっとけ婦人は言葉も態度も投げやりにシルバーパスをヒラヒラさせると、プイッとそっぽを向いてかまって婦人に完全に背中を向けてしまいます。
 もうこれ以上話しかけるな、の意思表示です。
 これにはさすがにかまって婦人も意気消沈いきしょうちんし、次のバス停で降りていきました。
 こうしてバスの中のピリピリとした雰囲気ふんいきはようやく落ち着きました。 

 ほっとけ婦人は降りていくかまって婦人と一切目を合わせることなく、その後もバスに乗っていましたが、プンスカした表情は変わらず。
 そのたたずまいから、冷めやらぬ怒りが伝わってきます。
 よほど腹にすえかねたのでしょう。
 今後はこの2人の遭遇エンカウントが無いことを祈るばかりです。
 次に同じことがあれば、ほっとけ婦人はいよいよ怒鳴り出しそうな勢いでしたから。

 街中で繰り広げられる見知らぬ人同士の争いって、心臓に悪いですよねぇ。
 若い頃、僕を含めて客が2人しかいない早朝の牛丼屋で、もう1人の客だった酔っぱらい客にからまれている店員を助けようとしたことがありましたけど、その時の手が震えるようなドキドキ感を思い出しました。
 まあその時は酔っぱらいが悪態つきながら帰っていったので、大事に至らずに済んだのですが、店員と顔を見合わせてホッとしたのを覚えています。

 もちろん今回はオバーサン同士のちょっとしたモメごとでしたので、取っ組み合いのケンカになるようなことはまずありませんが。
 この2人がまたしても同じバスに乗ることにならないよう祈りつつ、今夜のPillow Talkを締めくくりたいと思います。

 え?
 僕自身はケンカしたことないのかって?
 ありませんよ。

 僕、自分で言うのもなんですが、温厚な性格で、ほとけ枕崎まくらざきと呼ばれるくらいですから。
 ケンカなど一文の得にもなりませんから、血気盛んな皆さんもどうか怒りを抑制して、街中でケンカしないように気を付けて下さい。
 カッとなりそうな時は、このPillow Talkと僕を思い出して、なごやかな気持ちになって下さいね。

 ……え?
 僕のくだらない話で気持ちをえさせれば怒りも消える?




 何だとこの野郎!
 何がくだらない話だ!
 もう一度言ってみろ!(ほとけ……)

 アッタマきたから今夜はもう店じまいだ!
 おまえら!
 おやすみ!
 いい夢見ろよ!
 歯磨きしろよ!
 風邪ひくなよ!
 またいつかの夜にな!
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