Pillow Talk

枕崎 純之助

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第6夜 絶対にしてはいけない自転車の乗り方

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 皆さん、こんばんは。
 枕崎まくらざき純之助です。

 皆さんは自転車に乗りますか?
 自転車に乗る時、絶対にしてはいけない乗り方って何だと思います?

 両手放し?
 2人乗り?
 もちろんしてはいけません。
 スマホ見ながら運転なんて言語道断です。

 でもね。
 僕はもっと基本的なことを忘れたために、自転車に乗っていて世にも恐ろしい目にあったことがあるのです。
 今、思い出してもそれは身の毛もよだつ体験でした。
 今夜はそのお話をしましょう。

 あれはもうずいぶんと昔のことです。
 当時、高校1年生だった僕は自宅から学校まで自転車で通っていました。
 5月のさわやかな朝です。
 入学して一ヶ月が過ぎ、新たな環境にも慣れてきた頃です。
 この頃は何だか毎日が無性に楽しくて、明日が来るのが待ち遠しくてたまらないような日々でした。
 だけど僕にとってその日は高校生活の中でも5本の指に入るほどの最悪の日となったのです。
 
 その朝も僕は気分良く自転車をこぎながら、顔に当たる風を心地良く感じていました。
 新緑の季節をいろどる木々の香りが鼻孔をくすぐります。
 そんな朝の新鮮な空気を胸に吸い込んだその時でした。
 
「ホガッ!」

 突如として僕の口の中に異物が入り込んできたのです。
 僕はそれをすぐに吐き出そうとしましたが、自転車をこいでいたこともあって、振動のせいでその異物を歯で噛んでしまいました。
 途端に口の中に広がる奇妙な味に青ざめた僕は、すぐさまそれを道に吐き出します。

「ペッ! ペッペッ!」

 慌てて自転車を止め、僕は道に転がったその異物を見て背すじが寒くなるのを感じました。
 僕が口から吐き出したそれは……。

「こ、こいつは、ベ……ベルゼブブ」

 え~と。
 要するにハエです。
 あの、ブンブン飛んで皆に五月蠅うるさがられるハエね。
 まさに5月のハエ。

 そう。
 僕が吐き出したそれはハエだったのです。
 最悪でしょ?
 僕に噛みつぶされたハエはすでに死んでいました。
 僕も気分的にはすでに死んでいます。

「オエッ!」

 僕は気持ちが悪くなってすぐに近くの公園に駆け寄り、水道の水で何十回も口をゆすぎました。
 さわやかな朝のはずが一転して地獄です。
 
 ウゲーッ!
 キッタネェェェェェッ!
 枕崎エンガチョー!
 
 とか思ってる皆さん。
 大丈夫ですよ。
 まあハエといってもね、多分、清潔なハエです。
 キレイ好きな奴だと思いますよ。
 間違ってもその辺で犬のウ○コにたかったりはしていないでしょう。
 いないってば!

 え?
 ハエってどんな味かって?
 そんなの思い出したくもありませんが……あえて言うならば鉄っぽい味です。
 クギに血液をかけて、最後に塩をまぶしたそれをペロリと舐めた味を想像してみて下さい。
 そう。
 そんな味です。(どんな味だ)
 
 十分に口をゆすいだ僕は、学校を休みたくなるのを我慢して何とか登校しましたが、その日は一日中、最悪な気分でした。
 休み時間のたびに口をゆすぎ、うがいを繰り返しても気分は晴れません。
 以上のことから僕はこの日、人生の教訓を学んだのです。

 
 自転車に乗る時は、決して口を開けてはならない。 By 枕崎


 油断しているとハエの特攻隊はいつでもあなたの口をねらってきます。
 奴らはためらうことなく飛び込んできますよ。
 皆さんも十分にお気をつけ下さい。

 え?
 寝る前に気持ち悪い話するなって?
 だって……急に思い出しちゃったから。
 皆さんに気持ち悪さのおすそ分け。(最低)

 では、おやすみなさい。
 またいつかの夜に。
 今宵こよいもいい夢を。
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