Pillow Talk

枕崎 純之助

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第1夜 続きまだ?

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 こんばんは。
 枕崎まくらざき 純之助です。
 皆さん、寝る準備はOKですか?

 さて、序幕で書いた通り、僕が小説を今も書き続ける理由は、中学生時代のK君の言葉が胸に焼き付いているからです。

「続きまだ?」

 もうだいぶ長い年月を経た今でも、思い出すたびにこの魔法のような言葉が僕の心を震わせてくれます。

 中学生の頃、僕はラノベが好きでした。
 ラノベなんて言葉を当時は知りませんでしたが。
 小学生時代に見ていたアニメの続編が書籍化されていて、それを手に取ったのがきっかけでした。
 それからというものの、友達に借りたファンタジー作品を夢中で読み続け、気が付いたら朝になっていたなんてこともありました。
 そうした趣味で出来た同級生の友達がある日、一冊のノートを僕に差し出してこう言ったんです。

「一緒にリレー小説やってみない?」

 リレー小説。
 1つの小説を複数の人間で作っていくアレですね。
 僕はまさか自分が小説を書くことになるとは思いませんでしたが、その言葉に食いつきました。
 子供の頃から空想が好きで、自分の脳内で勝手に人気漫画の二次創作をしたりしていましたので、自分の好きなように物語を作るという未知の行為に胸がおどったからです。

 それまで小説なんて書いたことはありませんでしたし、作法も何も分かっていませんでしたが、やってみるとこれが楽しいの何のって。
 その時は友達と3人でノートを回しながら1つの小説を書き上げていきました。
 内容は現代世界を舞台にしたよくあるファンタジーだったと思います。
 その日に自分が書けるところまで書いたら次の日に友達にノートを渡すということを続けて、それが半年以上続きました。
 ノートもあっという間に最初の1冊が終わり、4冊5冊と積み重なっていきます。

 リレー小説の楽しさは何といっても仲間内で感想を言い合えることですね。
 そして次はどんな展開になったんだろう、と仲間から戻ってくるノートにワクワクしたり。
 これはどうだ?
 この続きをどんな展開にする?
 と、慣れてくると互いにムチャ振りをするようになったり。

 学校のクラス内でそんなことをやっていると、次第に他のクラスメイトたちの目につくようになります。
 仲間3人以外で僕らのノートを最初に手に取ったのがK君です。
 彼はノートをパラパラとめくると、ニヤニヤ笑いながらこう言いました。

「何こんなの書いてんだよ~」

 冷やかし半分でそう言われた時は自分でも恥ずかしかったです。
 だよね。
 こんなの書いてイタイよね。
 そう思いながらも小説を書く楽しさは変わらず。

 しかしこのK君。
 毎度冷やかしを言いながらも僕らの書いた小説を読み続けます。
 そして彼以外にも小説を読みたがる同級生が増えてきました。
 
 そんな状況に僕は気恥ずかしさと嬉しさを感じていました。
 中学校時代で一番楽しい時間でしたね。
 そんなある日、最初は冷やかしばかり言っていたK君が魔法の言葉を口にしたのです。

「続きまだ?」

 僕は全身を稲妻いなづまに打たれたような衝撃を受けました。
 物語の続きを読みたがってくれている人がいる。
 それは僕にとって人生で初めてことでした。

 そう。
 仲間3人以外に出来た初めての読者。
 それがK君です。
 彼は僕の読者になってくれたのです。

 それから僕は夢中になって小説を書き続けました。
 それは長い長い年月を経た今でも変わりません。
 K君とは中学卒業後に1度か2度会ったきりで、それからもうずいぶんと長いこと会っていません。
 僕は同窓会とかに行くタイプでもないので(多分K君も)、おそらく今後も会うことはないでしょう。
 
 それでも僕の胸の中には今も彼の言葉が輝いているのです。

「続きまだ?」

 その言葉に突き動かされるように、僕は今夜も小説を書いています。


 さて、ここまでお読みいただきまして、ありがとうございました。
 皆さんそろそろ眠くなってきた頃でしょう。
 僕の思い出話なんか忘れて、ゆっくり眠って下さい。

 またいつかの夜にお会い出来たら、その時はまた僕のつまらない思い出話をお聞かせします。

 それでは皆さん。
 おやすみなさい。
 今宵こよいもいい夢を。
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