77 / 89
最終章 決戦! 天樹の塔
第11話 降臨! 堕天の王
しおりを挟む
「貴様らを俺の餌にするためにここに来た」
イザベラさんの体から生まれ出るかのように現れたキャメロンのその言葉を、僕はすぐには理解できなかった。
餌?
どういうことなんだ?
「チッ! あんた……イザベラとグルだったってわけね」
忌々しげにそう言うミランダだけど、キャメロンはこれに顔をしかめる。
「グル? 笑わせるな。俺はその女を便利な操り人形として利用しただけだ。知っているか? 天使長イザベラに隠された秘密のスキルを」
「何ですって?」
「その女はな、2つ命を失って3つ目のライフが発動すると、凶暴な本性を表して暴力的な戦闘力を発揮するんだ。それが天使長イザベラが誰にも明かしたことのない秘匿の特殊スキル・鬼性開花だ。俺はその女に細工したんだよ。その3つ目の命と能力が発動する時に、それをこの俺がもらい受けてコンティニューするようにな」
そんな話をするキャメロンに、ミランダは鋭い眼光を浴びせて言う。
「嘘つき小僧の話はまったく信用に値しないわね。何であんたごときがあのイザベラをそう簡単にハメられるのよ。それにそんな秘密の話が本当なら、何であんたがそれを知っているっていうのかしら? いい加減な話をしているとお仕置きするわよ。クソガキ」
ミランダの言う通りだ。
だけどそんな僕らを仰天させる言葉がキャメロンの口から飛び出したんだ。
「そこに無様に倒れている女は、かつて俺を生んだ母親だ」
そう言ってキャメロンは動かないイザベラさんを指差した。
これには僕もミランダも思わず目を丸くする。
「は、母親?」
「そうだ。聖人面しているその天使長様が禁忌を破り、かつての魔王ドレイクとの間に子をもうけた。その忌むべき赤子が……この俺だ」
て、天使長であるイザベラさんが魔王と?
そして生まれた子供が……天使と悪魔の血を引く堕天使キャメロン。
あまりにも荒唐無稽なその話に僕らは言葉を失った。
そんな僕らを見てキャメロンは口の端を吊り上げて笑う。
それはひどく歪な暗い笑顔だった。
「その女にとって俺という存在は自分の愚かな過去を露見させる恐れのある火種なんだよ。馬鹿な女だ。この俺に対して罪悪感や引け目を感じていたから、油断して俺にまんまとハメられたんだろうよ」
キャメロンとイザベラさんが親子だったなんて……。
驚きを隠せない僕とは対照的に、ミランダは肩をすくめて言う。
「チッ。そんな自慢げに語るような話でもないでしょ。あんたの出自なんてどうでもいいわ。要するにあんたは母親を恨んで反抗する馬鹿息子ってだけでしょ」
「フンッ。もはや母でも子でもない。その女はこの俺をこの姿で転生させるための依り代でしかなかったのだからな」
そう言ってイザベラさんを一瞥すると、すぐにはキャメロンは興味を失ったように僕らに視線を転じた。
「そんなことはもはやどうでもいい。俺は今日この瞬間のために長い時間と手間をかけて準備してきたんだ。それもこれも全ては貴様らを食らうためだ。ミランダ、そしてアルフレッド」
その話に僕はハッと我に返る。
驚くべきキャメロンの正体に気を取られていたけれど、今こうして僕らの前に立つ彼は、僕らに危害を加えようとする明確な敵なんだ。
それにしても……僕らを食らう?
それはどういう意味に捉えたらいいんだ?
さっきも彼は言っていた。
僕らのことを自分の餌だと。
そんなキャメロンにミランダは肩をワナワナと震わせながら怒りを爆発させた。
「ふざけんじゃないわよ! こっちは取るか取られるかの勝負の最中だってのに、横やり入れて寝言ほざくな! このガキ!」
キャメロンの出現によってイザベラさんとの勝負が邪魔されたことにミランダは本気で腹を立てていた。
だけどキャメロンはそんなミランダの怒りを一笑に付して言う。
「大仰なことを。貴様は踊らされていたんだよ。貴様もイザベラもしょせんは盤上の駒に過ぎん。貴様が鼻息荒くのたまう勝負とやらも、この俺をここに呼び出すための単なる茶番でしかなかったんだ。貴様が奮闘してくれたおかげで、この俺に出番が回ってきた。誇り高き闇の魔女殿に礼を言わなければなぁ」
そう言うとキャメロンは喉を鳴らして笑う。
その瞬間にミランダは指先をキャメロンに向けていた。
「分かった。もういいから今すぐ死になさい」
「ほう。魔女殿は随分と気が短いようだな。ククク」
「燃え尽きろっ!」
ミランダはキャメロンに向けて容赦なく黒炎弾を放つ。
轟音を響かせて飛ぶ火球がキャメロンの顔面を捉えたかに見えた。
だけど……。
「これがご自慢の黒炎弾か。ずいぶんとヌルい火遊びだな」
ミランダが放った黒く燃え盛る火球をキャメロンは右手で受け止めた。
そして涼しい顔でそれを握りつぶしてしまったんだ。
「なっ……」
僕は言葉を失った。
ミランダの黒炎弾の威力は半端じゃない。
それを素手で受け止めることが出来たのは、聖光透析で肉体を強化した天使長のイザベラさんだけだった。
ということは今のキャメロンは彼女と同等かそれ以上の力を持っているってことだ。
「こんなチャチな火の球で取るか取られるかの勝負とは笑わせてくれる」
そう言って嘲り笑うキャメロンにミランダは怒りを燃えたぎらせて突進する。
そしてキャメロンの頭上に飛び上がると、その脳天目がけて鋭く黒鎖杖を振り下ろした。
「ナメてんじゃないわよっ!」
ガキッと音がしてキャメロンの頭に黒鎖杖がクリーンヒットした。
だけど……キャメロンは平然としている。
そのライフはほんのわずかに減っただけだ。
「なるほど。魔力も身体能力もそれが限界か。つまらん」
そう言うとキャメロンは黒鎖杖を片手で掴み、それを力任せに頭上に振り上げた。
「きゃあっ!」
ああっ!
ミランダは黒鎖杖ともども、あっという間に吹き抜けの天井近くまで飛ばされてしまった。
何とか魔力で急制動をかけて天井に叩きつけられるのは回避できたけど、ミランダの顔には隠しきれない驚きの色が滲んでいる。
キャメロンの腕力はその子供の見た目に反して相当な強さだった。
「生意気っ! あんたたち! そのクソガキを焼き尽くしてやんなさい!」
ミランダの命令に従い、40人ほどもいる小魔女たちが黒炎弾でキャメロンに集中砲火を浴びせた。
無数の黒炎弾がキャメロンに浴びせられ、彼はまたたく間に火だるまになる。
半端なキャラだったら体が粉々に吹き飛んでしまいそうなほどの衝撃だった。
だけどそんな強烈な魔法も今のキャメロンの前では意味を成さないのだと僕は思い知らされることになる。
「えっ……?」
爆風も高熱も全てが一瞬のことで、広がりを見せずにあっという間に消えていく。
そして燃え上がった炎はすぐキャメロンの体の中に……いや、彼の体の周囲に陽炎のような揺らぎが見え、その中に吸収されていった。
「吸収防壁。これはなかなか使い勝手がいい」
吸収防壁?
確かによく見るとキャメロンの体の周囲には、透明の幕のような空気の揺らぎが見える。
さっきの黒炎弾の不自然な消え方はそのせいだ。
魔法を吸収してしまうのか?
そうだとしたら非常にまずいことになる。
魔法が効かない相手に対してはさすがにミランダの戦力ダウンは否めない。
一体どうすればいいんだ。
そんなことを悠長に考えている暇をキャメロンは与えてくれなかった。
「まずは小うるさいチビどもを排除するか」
そう言うとキャメロンは一番間近にいる小魔女に襲いかかった。
小魔女は咄嗟に杖を構えて応戦しようとしたけれど、キャメロンは一瞬で小魔女の背後に回り込む。
は、速すぎる!
キャメロンは左手で小魔女の後頭部の髪を掴むと、右手を小魔女の背中に当てた。
えっ?
そこで僕は凍り付いたように動けなくなってしまった。
キャメロンの右手は小魔女の背中をすり抜けて体の中まで入っていく。
な、何だ?
キャメロンが肘近くまで手を差し込んでも、それは小魔女の胸側から突き抜けてくることはない。
奇妙な現象だった。
そして小魔女は声ひとつ上げることなく、まるでスイッチの切れた機械のように沈黙した。
や、やられたのか?
僕がそう思った瞬間、小魔女はいきなり黒い灰になって消えてしまった。
儚くも雲散霧消していく小魔女を見て、キャメロンは口から鋭い牙を覗かせて笑う。
「精巧に実体化されていても、しょせんは作り物。体内のプラグラムを解いてやるだけで、この通りだ」
そう言ったキャメロンの言葉の意味するところが分からず、僕はただただ戦慄に唇を噛んだ。
い、一体何をしたんだ?
僕は信じられない思いで頭上を見上げる。
天井付近に浮かぶミランダも、僕と同様の面持ちでキャメロンの様子を見下ろしていたけれど、すぐにその表情が怒りに染まる。
彼女の怒りに呼応するように小魔女たちが一斉にキャメロンに向けて伝家の宝刀を抜いた。
「死神達の接吻」
先ほどイザベラさんを倒した黒い靄のドクロが今度はキャメロンを襲う。
遍く全ての者たちに等しく下される死の審判がキャメロンを包み込んだ。
そう思った矢先のことだった。
「強制変換」
そう唱えたキャメロンの体が急に色を変える。
その白い肌の色も、銀色の髪も、白の衣服と黒の甲冑も全て、青銅色に変化したんだ。
そしてその身はまるで銅像のように硬直する。
そんな彼の姿を黒い靄のドクロは素通りしていった。
そ、そんな……。
全てのドクロが消え去ると、キャメロンは再び元の姿に戻る。
驚く僕やミランダを見ると、彼は侮蔑の込められた歪んだ笑みを浮かべた。
「死神の接吻は生ある者にしか効果はない。ただの銅像を殺せるわけもなかろう?」
た、ただの銅像?
銅像に変化したってことか。
キャメロンのそれはヴィクトリアの瞬間硬化の能力に似ていると僕は思った。
だけど、すぐにそれだけではないことを思い知らされたんだ。
「これはな、この世界のあらゆる生命、物質を他のものに強制的に変換させられる、言わばプログラムの書き換え能力だ。このような変化も自在にな」
そう言うキャメロンの二の腕が、一瞬で鋭い刃物に変化した。
次の瞬間、彼は一番間近にいる小魔女の背後に回る。
「あ、危な……」
僕がそう言いかけたその時にはすでに小魔女は無残に切り裂かれていた。
キャメロンが鋭い刃物と化した二の腕で鋭く小魔女を斬りつけたんだ。
小魔女は黒い粒子となって消えていく。
想像もつかないようなキャメロンの戦いぶりに、思考が追いつかず僕は混乱していた。
そこからはキャメロンの独壇場だった。
イザベラさんの体から生まれ出るかのように現れたキャメロンのその言葉を、僕はすぐには理解できなかった。
餌?
どういうことなんだ?
「チッ! あんた……イザベラとグルだったってわけね」
忌々しげにそう言うミランダだけど、キャメロンはこれに顔をしかめる。
「グル? 笑わせるな。俺はその女を便利な操り人形として利用しただけだ。知っているか? 天使長イザベラに隠された秘密のスキルを」
「何ですって?」
「その女はな、2つ命を失って3つ目のライフが発動すると、凶暴な本性を表して暴力的な戦闘力を発揮するんだ。それが天使長イザベラが誰にも明かしたことのない秘匿の特殊スキル・鬼性開花だ。俺はその女に細工したんだよ。その3つ目の命と能力が発動する時に、それをこの俺がもらい受けてコンティニューするようにな」
そんな話をするキャメロンに、ミランダは鋭い眼光を浴びせて言う。
「嘘つき小僧の話はまったく信用に値しないわね。何であんたごときがあのイザベラをそう簡単にハメられるのよ。それにそんな秘密の話が本当なら、何であんたがそれを知っているっていうのかしら? いい加減な話をしているとお仕置きするわよ。クソガキ」
ミランダの言う通りだ。
だけどそんな僕らを仰天させる言葉がキャメロンの口から飛び出したんだ。
「そこに無様に倒れている女は、かつて俺を生んだ母親だ」
そう言ってキャメロンは動かないイザベラさんを指差した。
これには僕もミランダも思わず目を丸くする。
「は、母親?」
「そうだ。聖人面しているその天使長様が禁忌を破り、かつての魔王ドレイクとの間に子をもうけた。その忌むべき赤子が……この俺だ」
て、天使長であるイザベラさんが魔王と?
そして生まれた子供が……天使と悪魔の血を引く堕天使キャメロン。
あまりにも荒唐無稽なその話に僕らは言葉を失った。
そんな僕らを見てキャメロンは口の端を吊り上げて笑う。
それはひどく歪な暗い笑顔だった。
「その女にとって俺という存在は自分の愚かな過去を露見させる恐れのある火種なんだよ。馬鹿な女だ。この俺に対して罪悪感や引け目を感じていたから、油断して俺にまんまとハメられたんだろうよ」
キャメロンとイザベラさんが親子だったなんて……。
驚きを隠せない僕とは対照的に、ミランダは肩をすくめて言う。
「チッ。そんな自慢げに語るような話でもないでしょ。あんたの出自なんてどうでもいいわ。要するにあんたは母親を恨んで反抗する馬鹿息子ってだけでしょ」
「フンッ。もはや母でも子でもない。その女はこの俺をこの姿で転生させるための依り代でしかなかったのだからな」
そう言ってイザベラさんを一瞥すると、すぐにはキャメロンは興味を失ったように僕らに視線を転じた。
「そんなことはもはやどうでもいい。俺は今日この瞬間のために長い時間と手間をかけて準備してきたんだ。それもこれも全ては貴様らを食らうためだ。ミランダ、そしてアルフレッド」
その話に僕はハッと我に返る。
驚くべきキャメロンの正体に気を取られていたけれど、今こうして僕らの前に立つ彼は、僕らに危害を加えようとする明確な敵なんだ。
それにしても……僕らを食らう?
それはどういう意味に捉えたらいいんだ?
さっきも彼は言っていた。
僕らのことを自分の餌だと。
そんなキャメロンにミランダは肩をワナワナと震わせながら怒りを爆発させた。
「ふざけんじゃないわよ! こっちは取るか取られるかの勝負の最中だってのに、横やり入れて寝言ほざくな! このガキ!」
キャメロンの出現によってイザベラさんとの勝負が邪魔されたことにミランダは本気で腹を立てていた。
だけどキャメロンはそんなミランダの怒りを一笑に付して言う。
「大仰なことを。貴様は踊らされていたんだよ。貴様もイザベラもしょせんは盤上の駒に過ぎん。貴様が鼻息荒くのたまう勝負とやらも、この俺をここに呼び出すための単なる茶番でしかなかったんだ。貴様が奮闘してくれたおかげで、この俺に出番が回ってきた。誇り高き闇の魔女殿に礼を言わなければなぁ」
そう言うとキャメロンは喉を鳴らして笑う。
その瞬間にミランダは指先をキャメロンに向けていた。
「分かった。もういいから今すぐ死になさい」
「ほう。魔女殿は随分と気が短いようだな。ククク」
「燃え尽きろっ!」
ミランダはキャメロンに向けて容赦なく黒炎弾を放つ。
轟音を響かせて飛ぶ火球がキャメロンの顔面を捉えたかに見えた。
だけど……。
「これがご自慢の黒炎弾か。ずいぶんとヌルい火遊びだな」
ミランダが放った黒く燃え盛る火球をキャメロンは右手で受け止めた。
そして涼しい顔でそれを握りつぶしてしまったんだ。
「なっ……」
僕は言葉を失った。
ミランダの黒炎弾の威力は半端じゃない。
それを素手で受け止めることが出来たのは、聖光透析で肉体を強化した天使長のイザベラさんだけだった。
ということは今のキャメロンは彼女と同等かそれ以上の力を持っているってことだ。
「こんなチャチな火の球で取るか取られるかの勝負とは笑わせてくれる」
そう言って嘲り笑うキャメロンにミランダは怒りを燃えたぎらせて突進する。
そしてキャメロンの頭上に飛び上がると、その脳天目がけて鋭く黒鎖杖を振り下ろした。
「ナメてんじゃないわよっ!」
ガキッと音がしてキャメロンの頭に黒鎖杖がクリーンヒットした。
だけど……キャメロンは平然としている。
そのライフはほんのわずかに減っただけだ。
「なるほど。魔力も身体能力もそれが限界か。つまらん」
そう言うとキャメロンは黒鎖杖を片手で掴み、それを力任せに頭上に振り上げた。
「きゃあっ!」
ああっ!
ミランダは黒鎖杖ともども、あっという間に吹き抜けの天井近くまで飛ばされてしまった。
何とか魔力で急制動をかけて天井に叩きつけられるのは回避できたけど、ミランダの顔には隠しきれない驚きの色が滲んでいる。
キャメロンの腕力はその子供の見た目に反して相当な強さだった。
「生意気っ! あんたたち! そのクソガキを焼き尽くしてやんなさい!」
ミランダの命令に従い、40人ほどもいる小魔女たちが黒炎弾でキャメロンに集中砲火を浴びせた。
無数の黒炎弾がキャメロンに浴びせられ、彼はまたたく間に火だるまになる。
半端なキャラだったら体が粉々に吹き飛んでしまいそうなほどの衝撃だった。
だけどそんな強烈な魔法も今のキャメロンの前では意味を成さないのだと僕は思い知らされることになる。
「えっ……?」
爆風も高熱も全てが一瞬のことで、広がりを見せずにあっという間に消えていく。
そして燃え上がった炎はすぐキャメロンの体の中に……いや、彼の体の周囲に陽炎のような揺らぎが見え、その中に吸収されていった。
「吸収防壁。これはなかなか使い勝手がいい」
吸収防壁?
確かによく見るとキャメロンの体の周囲には、透明の幕のような空気の揺らぎが見える。
さっきの黒炎弾の不自然な消え方はそのせいだ。
魔法を吸収してしまうのか?
そうだとしたら非常にまずいことになる。
魔法が効かない相手に対してはさすがにミランダの戦力ダウンは否めない。
一体どうすればいいんだ。
そんなことを悠長に考えている暇をキャメロンは与えてくれなかった。
「まずは小うるさいチビどもを排除するか」
そう言うとキャメロンは一番間近にいる小魔女に襲いかかった。
小魔女は咄嗟に杖を構えて応戦しようとしたけれど、キャメロンは一瞬で小魔女の背後に回り込む。
は、速すぎる!
キャメロンは左手で小魔女の後頭部の髪を掴むと、右手を小魔女の背中に当てた。
えっ?
そこで僕は凍り付いたように動けなくなってしまった。
キャメロンの右手は小魔女の背中をすり抜けて体の中まで入っていく。
な、何だ?
キャメロンが肘近くまで手を差し込んでも、それは小魔女の胸側から突き抜けてくることはない。
奇妙な現象だった。
そして小魔女は声ひとつ上げることなく、まるでスイッチの切れた機械のように沈黙した。
や、やられたのか?
僕がそう思った瞬間、小魔女はいきなり黒い灰になって消えてしまった。
儚くも雲散霧消していく小魔女を見て、キャメロンは口から鋭い牙を覗かせて笑う。
「精巧に実体化されていても、しょせんは作り物。体内のプラグラムを解いてやるだけで、この通りだ」
そう言ったキャメロンの言葉の意味するところが分からず、僕はただただ戦慄に唇を噛んだ。
い、一体何をしたんだ?
僕は信じられない思いで頭上を見上げる。
天井付近に浮かぶミランダも、僕と同様の面持ちでキャメロンの様子を見下ろしていたけれど、すぐにその表情が怒りに染まる。
彼女の怒りに呼応するように小魔女たちが一斉にキャメロンに向けて伝家の宝刀を抜いた。
「死神達の接吻」
先ほどイザベラさんを倒した黒い靄のドクロが今度はキャメロンを襲う。
遍く全ての者たちに等しく下される死の審判がキャメロンを包み込んだ。
そう思った矢先のことだった。
「強制変換」
そう唱えたキャメロンの体が急に色を変える。
その白い肌の色も、銀色の髪も、白の衣服と黒の甲冑も全て、青銅色に変化したんだ。
そしてその身はまるで銅像のように硬直する。
そんな彼の姿を黒い靄のドクロは素通りしていった。
そ、そんな……。
全てのドクロが消え去ると、キャメロンは再び元の姿に戻る。
驚く僕やミランダを見ると、彼は侮蔑の込められた歪んだ笑みを浮かべた。
「死神の接吻は生ある者にしか効果はない。ただの銅像を殺せるわけもなかろう?」
た、ただの銅像?
銅像に変化したってことか。
キャメロンのそれはヴィクトリアの瞬間硬化の能力に似ていると僕は思った。
だけど、すぐにそれだけではないことを思い知らされたんだ。
「これはな、この世界のあらゆる生命、物質を他のものに強制的に変換させられる、言わばプログラムの書き換え能力だ。このような変化も自在にな」
そう言うキャメロンの二の腕が、一瞬で鋭い刃物に変化した。
次の瞬間、彼は一番間近にいる小魔女の背後に回る。
「あ、危な……」
僕がそう言いかけたその時にはすでに小魔女は無残に切り裂かれていた。
キャメロンが鋭い刃物と化した二の腕で鋭く小魔女を斬りつけたんだ。
小魔女は黒い粒子となって消えていく。
想像もつかないようなキャメロンの戦いぶりに、思考が追いつかず僕は混乱していた。
そこからはキャメロンの独壇場だった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※毎週、月、水、金曜日更新
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
※追放要素、ざまあ要素は第二章からです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
どうせ俺はNPCだから
枕崎 純之助
ファンタジー
【完結しました!】 *この作品はこちらのスピンオフになります↓
『だって僕はNPCだから』https://www.alphapolis.co.jp/novel/540294390/346478298
天使たちのゲーム世界である「天国の丘《ヘヴンズ・ヒル》」と対を成す悪魔たちのゲーム世界「地獄の谷《ヘル・バレー》」。
NPCとして鬱屈した日々を過ごす下級悪魔のバレットは、上級悪魔たちのワナにハメられ、脱出不可能と言われる『悪魔の臓腑』という深い洞窟の奥深くに閉じ込められてしまった。
そこでバレットはその場所にいるはずのない見習い天使の少女・ティナと出会う。
バレットはまだ知らない。
彼女が天使たちの長たる天使長の2代目候補であるということを。
NPCの制約によって強さの上限値を越えられない下級悪魔と、秘められた自分の潜在能力の使い方が分からない見習い天使が出会ったことで、2人の運命が大きく変わる。
悪魔たちの世界を舞台に繰り広げられるNPC冒険活劇の外伝。
ここに開幕。
*イラストACより作者「Kotatsune」様のイラストを使用させていただいております。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!
枕崎 純之助
ファンタジー
下級悪魔と見習い天使のコンビ再び!
天国の丘と地獄の谷という2つの国で構成されたゲーム世界『アメイジア』。
手の届かぬ強さの極みを欲する下級悪魔バレットと、天使長イザベラの正当後継者として不正プログラム撲滅の使命に邁進する見習い天使ティナ。
互いに相容れない存在であるはずのNPCである悪魔と天使が手を組み、遥かな頂を目指す物語。
堕天使グリフィンが巻き起こした地獄の谷における不正プラグラムの騒動を乗り切った2人は、新たな道を求めて天国の丘へと向かった。
天使たちの国であるその場所で2人を待ち受けているものは……?
敵対する異種族バディが繰り広げる二度目のNPC冒険活劇。
再び開幕!
*イラストACより作者「Kamesan」のイラストを使わせていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる