53 / 89
第四章 竜神ノア
第3話 悪魔の坑道
しおりを挟む
焼け焦げた森の中を進む僕らは、前方に天使の姿を見つけて、息を潜めながら身を隠した。
僕が緊張に息を飲む隣でミランダは息巻いて言う。
「まだこっちに気付いていないわ。先手を打って片付けるわよ」
「ちょ、ちょっと待ってミランダ。あまり人に見られたくないから、このままやり過ごそう」
飛び出そうとするミランダを僕が引き止めたその時、辺りにプツンと何かが途切れるような音がして、晴れ渡っていた昼間の空がパッと暗くなったんだ。
「ん?」
唐突な視界の暗転に驚く僕は、背すじから背骨を伝って首の後ろがわずかに痺れるような感覚を覚えた。
な、何だ?
それはほんの一瞬のことですぐに消えたけれど、今まで感じたことのない奇妙な感覚だった。
するとそこでまたブツンッという音がしてすぐに再び空が元の明るさを取り戻していく。
僕は声を押し殺して隣にいるミランダに尋ねた。
「な、何だったのかな?」
「さあね。何かの障害かしらね。背中が痺れたような感覚があったけれど……」
「君も?」
僕と同じ感覚をミランダも得ていた。
ミランダと顔を見合わせた僕は背後を振り返る。
ヴィクトリアたち全員が無事にそこにいた。
全員、首や背中を手で押さえて何だか居心地悪そうにしている。
もしかしたら皆、同じように痺れを感じていたのか?
そこでヴィクトリアが僕の肩越しに前方を見て目を見開いた。
「お、おい。アイツら……」
振り返って前方に目を向けると、そこにいた天使たちの動きが不自然に止まっている。
会話の途中でまるで一時停止をされた動画のように、彼らのモーションはストップしていた。
そしてその頭の上のプレイヤーマークが消えてしまっている。
「あ、あれって、バグか何かかな?」
何らかのエラーで彼らの通信が遮断されてゲームプレイに支障が出たのかと思ったけれど、そんな僕の予想を否定するようにミランダが言う。
「いや、おかしいわよ」
そう言うとミランダは頭上を指差した。
見上げると枝の間からよく晴れた空が見え、そこにも数名の天使が飛んで……えっ?
空を舞う天使のプレイヤーたちは不自然に空中で静止していた。
彼らの頭上からは森の中のプレイヤーたちと同様にプレイヤーマークが消えている。
そしてそのすぐそばを鳥のNPCたちが何事もないかのように飛び去っていく。
これはどういうことなんだ?
疑問に眉を潜める僕の傍らで、状況を冷静に見つめていたブレイディが口を開いた。
「これは何らかのサーバー障害が出ているんだと思う。さっきの暗転はそのショックじゃないかな」
「サーバー障害?」
「うん。一時的なものだと思うけれど、プレイヤーだけが動けなくなっているってことは、障害でこのゲームをプレイ出来なくなっているんだと思う。ゲーム全体を見てみないと何とも言えないけれど、もしかしたら今このゲーム内で動けるのはワタシたちNPCだけかもしれないね」
そうか。
僕らのいるゲームでも接続障害はたまに起きるから、ブレイディの説明は理解できる。
「で、でも大丈夫かな。このゲーム」
「何とも言えないね。ただ、これはワタシたちにとってチャンスかもしれないよ」
「チャンス?」
「ああ。プレイヤーがいないってことは人の目も減るわけだし、このゲームの運営が復旧作業にかかりきりになれば、ワタシたちは動きやすくなる。今のうちに安全な場所に移動したいね」
そう言うブレイディに賛同し、それから僕らは動きを止めたままのプレイヤーの脇をすり抜けて先を急いだ。
いきなりプレイヤーたちが動き出したらどうしようかと僕はついビクビクしてしまったけれど、彼らはまるで石像のように静止したままピクリとも動かなかった。
そしてしばらく歩いたところでミランダは立ち止まり、僕らに下がるように言う。
「ミランダ? どうしたの?」
「下がっていなさい」
不思議に思う僕らの前でミランダはそう言って天を指差すと、大きくジャンプして前方へ黒炎弾を放った。
一瞬、どこからか敵が襲ってきたのかと思って緊張した僕だけど、ミランダの放った黒い火球は奇妙に曲がっている木の根元辺りに炸裂した。
な、何をしているんだ?
思わず目を凝らす僕の視界の先で、黒炎弾によってえぐられた地面の中から四角い鉄の蓋が現れたんだ。
それを見るとミランダは穴の中に降りて蓋の土埃を払い、それを横にずらした。
するとそこには四角く切り取られた縦穴が掘られていた。
「よし。ちゃんと残っていたわね。ついて来なさい」
そう言うとミランダは先陣を切ってその縦穴の中へ入っていく。
縦穴にはちゃんと鉄製のハシゴが設けられていて、僕らはミランダに続いてその穴の中へと降りていった。
穴は比較的広く作られていて、大柄なヴィクトリアでも余裕で通ることが出来る。
少し前まで上空の遥かな高みにいた僕は、今度は土の下に潜ることになるのか。
まったくせわしない一日だな。
ハシゴ伝いに縦穴を数メートル降りると広い横穴に出た。
僕らはミランダに先導され、その横穴の中を歩いていく。
どうしてミランダはこんな道を知っているんだろうか。
不思議に思う僕のすぐ前で、ミランダは地下に声を響かせる。
「ここは悪魔たちが秘密裏に天樹の塔を攻めるために掘った坑道よ。ちなみに私たちが入って来たあの入口は1分間開閉しないと自然に土が元に戻って見えなくなる仕組みだから、邪魔者に入られる心配はないわ」
僕らはその穴の中が思った以上に広く、環境も整備されていることに驚いた。
穴の中は各所に照明が設置されていて視界は良好だし、足元の土もしっかり踏み固められて歩きやすい。
そして地下の中だというのに空気が冷たくなく、過ごしやすい温度が保たれている。
「地熱のおかげみたいね」
ミランダの話によれば、ここは悪魔たちがはるばる地獄の谷から数年かけて掘った穴であり、現在では天樹のすぐ近くまで掘り進められているらしい。
最終的な目的は天樹の根に到達してそこから内部に侵入することみたいだ。
そんな話を聞きながら僕らは穴の中にある休憩室のような場所に腰を落ち着けた。
そこには大きめの丸テーブルとそれを囲むように設けられた椅子が10脚ほど置かれていて、簡易的ではあるが寝台がいくつか置かれている。
ここまでゆっくり休める機会がなかったからありがたい。
それに普段から洞窟暮らしの僕は、この地下坑道の環境にリラックスすることが出来た。
ミランダも同様だろう。
それから眠っているノアを寝台に横たえ、僕らは休憩室の丸テーブルを囲んで座る。
ノアにはエマさんが付き添ってくれていた。
一休みしたらブレイディとアビーが彼女の分析をしてくれることになっている。
「さて、さっさと情報交換するわよ」
丸テーブルを囲んで一同が腰を落ち着けるとミランダが話を切り出した。
彼女は隣に座る僕を一瞥すると言う。
「今まで私がどこでどうしてたか、ってところから話そうかしらね。あの森でその忌々しい竜人娘に焼かれて森の中に不時着したら……」
僕が最後にミランダの姿を確認したのはまさにそこだった。
「ちょうどそこに天界からの物資を運んでいる天馬の馬車の集団に出くわしたんだけど……ああ。思い出すだけでイライラしてくる」
それからミランダは苛立ちを抑えるようにしてそこからの顛末を語った。
天馬の馬車は複数の天使に守られていたのだけれど、ミランダがそこに現れた途端、彼らはいきなり彼女を攻撃し始めたという。
味方だったはずの天使たちの奇襲を受けて初めこそ困惑したミランダだったけれど、すぐに彼女は反撃をしてそこにいる天使を全滅させた。
相手が天使だろうと躊躇なく排除する彼女の姿は容易に想像できる。
「天使も悪魔も関係ないわ。私に牙向く奴は全員敵で、敵は全員ぶっ潰すだけだから」
とてもミランダらしい分かりやすい論理だ。
でも、大変だったのは天使たちを退けたその後だった。
馬車を引っ張っていた天馬たちの綱がいきなり切れて、あろうことか天馬たちがミランダに襲いかかって来たという。
思わぬ動物の襲撃にミランダは咄嗟に対応して天馬たちを次々と葬り去ったけれど、そこでいきなり荷馬車の中から別の天使たちが現れた。
さすがにこれには対処し切れず、ミランダは不意打ちを浴びてしまったんだ。
巨大竜ノアとの戦いで疲弊していたミランダは手痛いダメージを受けて苦戦しながら、それでもたった1人でその場にいる天使を全て葬り去ったんだけど、その過程で荷馬車を破壊してしまったという。
「君が荷馬車を破壊したってのはそういう理由だったのか」
ミランダは自分に降りかかる火の粉を払っただけで、理由もなく天使と荷馬車を攻撃したわけじゃなかったんだ。
そのことが分かって僕はひとまず安堵した。
「でも何で物資を積んでいたはずの荷馬車の中に天使たちが隠れていたんだろうね。それにおとなしい天馬たちが襲いかかって来るなんてどう考えでもおかしいよ」
「さあ? ま、その時の私にはそんなことどうでもいいくらいアタマに来てたし、しかも空からまた別の天使どもがこっちに向かってくるのが見えたから」
ミランダはその時のことを忌々しげに振り返る。
上空から降下してきた天使の集団がミランダの姿を見つけて大騒ぎをし始めたという。
そうか。
天使たちがミランダによって物資が破壊された現場を目撃したのはその時なんだ。
おそらく彼らは天馬がミランダに襲いかかった場面や、物資の中から天使が現れた場面は見ておらず、ミランダが荷馬車を破壊して天使たちを殲滅した場面だけを目撃したんだろう。
ミランダは最悪のタイミングで現場を見られたってことになる。
「でも、最初に襲いかかって来たのは天使たちじゃないか。それを彼らに説明すれば……」
「そんな弁明が通じる状況じゃないわよ。それにそんな面倒くさいこと私がすると思う?」
「し、しないね」
そして、さすがに消耗し切っていたミランダはこの天使たちと交戦するのを断念し、その場を離れて森の中へと離脱した。
だけど天使たちは物資を破壊したミランダを森の中まで追ってきたらしい。
その時ミランダは、天使たちとの戦いの最中に黒炎弾の流れ弾によって出来た穴の中に偶然この坑道への入口を見つけ、咄嗟にその中に飛び込んだという。
僕が緊張に息を飲む隣でミランダは息巻いて言う。
「まだこっちに気付いていないわ。先手を打って片付けるわよ」
「ちょ、ちょっと待ってミランダ。あまり人に見られたくないから、このままやり過ごそう」
飛び出そうとするミランダを僕が引き止めたその時、辺りにプツンと何かが途切れるような音がして、晴れ渡っていた昼間の空がパッと暗くなったんだ。
「ん?」
唐突な視界の暗転に驚く僕は、背すじから背骨を伝って首の後ろがわずかに痺れるような感覚を覚えた。
な、何だ?
それはほんの一瞬のことですぐに消えたけれど、今まで感じたことのない奇妙な感覚だった。
するとそこでまたブツンッという音がしてすぐに再び空が元の明るさを取り戻していく。
僕は声を押し殺して隣にいるミランダに尋ねた。
「な、何だったのかな?」
「さあね。何かの障害かしらね。背中が痺れたような感覚があったけれど……」
「君も?」
僕と同じ感覚をミランダも得ていた。
ミランダと顔を見合わせた僕は背後を振り返る。
ヴィクトリアたち全員が無事にそこにいた。
全員、首や背中を手で押さえて何だか居心地悪そうにしている。
もしかしたら皆、同じように痺れを感じていたのか?
そこでヴィクトリアが僕の肩越しに前方を見て目を見開いた。
「お、おい。アイツら……」
振り返って前方に目を向けると、そこにいた天使たちの動きが不自然に止まっている。
会話の途中でまるで一時停止をされた動画のように、彼らのモーションはストップしていた。
そしてその頭の上のプレイヤーマークが消えてしまっている。
「あ、あれって、バグか何かかな?」
何らかのエラーで彼らの通信が遮断されてゲームプレイに支障が出たのかと思ったけれど、そんな僕の予想を否定するようにミランダが言う。
「いや、おかしいわよ」
そう言うとミランダは頭上を指差した。
見上げると枝の間からよく晴れた空が見え、そこにも数名の天使が飛んで……えっ?
空を舞う天使のプレイヤーたちは不自然に空中で静止していた。
彼らの頭上からは森の中のプレイヤーたちと同様にプレイヤーマークが消えている。
そしてそのすぐそばを鳥のNPCたちが何事もないかのように飛び去っていく。
これはどういうことなんだ?
疑問に眉を潜める僕の傍らで、状況を冷静に見つめていたブレイディが口を開いた。
「これは何らかのサーバー障害が出ているんだと思う。さっきの暗転はそのショックじゃないかな」
「サーバー障害?」
「うん。一時的なものだと思うけれど、プレイヤーだけが動けなくなっているってことは、障害でこのゲームをプレイ出来なくなっているんだと思う。ゲーム全体を見てみないと何とも言えないけれど、もしかしたら今このゲーム内で動けるのはワタシたちNPCだけかもしれないね」
そうか。
僕らのいるゲームでも接続障害はたまに起きるから、ブレイディの説明は理解できる。
「で、でも大丈夫かな。このゲーム」
「何とも言えないね。ただ、これはワタシたちにとってチャンスかもしれないよ」
「チャンス?」
「ああ。プレイヤーがいないってことは人の目も減るわけだし、このゲームの運営が復旧作業にかかりきりになれば、ワタシたちは動きやすくなる。今のうちに安全な場所に移動したいね」
そう言うブレイディに賛同し、それから僕らは動きを止めたままのプレイヤーの脇をすり抜けて先を急いだ。
いきなりプレイヤーたちが動き出したらどうしようかと僕はついビクビクしてしまったけれど、彼らはまるで石像のように静止したままピクリとも動かなかった。
そしてしばらく歩いたところでミランダは立ち止まり、僕らに下がるように言う。
「ミランダ? どうしたの?」
「下がっていなさい」
不思議に思う僕らの前でミランダはそう言って天を指差すと、大きくジャンプして前方へ黒炎弾を放った。
一瞬、どこからか敵が襲ってきたのかと思って緊張した僕だけど、ミランダの放った黒い火球は奇妙に曲がっている木の根元辺りに炸裂した。
な、何をしているんだ?
思わず目を凝らす僕の視界の先で、黒炎弾によってえぐられた地面の中から四角い鉄の蓋が現れたんだ。
それを見るとミランダは穴の中に降りて蓋の土埃を払い、それを横にずらした。
するとそこには四角く切り取られた縦穴が掘られていた。
「よし。ちゃんと残っていたわね。ついて来なさい」
そう言うとミランダは先陣を切ってその縦穴の中へ入っていく。
縦穴にはちゃんと鉄製のハシゴが設けられていて、僕らはミランダに続いてその穴の中へと降りていった。
穴は比較的広く作られていて、大柄なヴィクトリアでも余裕で通ることが出来る。
少し前まで上空の遥かな高みにいた僕は、今度は土の下に潜ることになるのか。
まったくせわしない一日だな。
ハシゴ伝いに縦穴を数メートル降りると広い横穴に出た。
僕らはミランダに先導され、その横穴の中を歩いていく。
どうしてミランダはこんな道を知っているんだろうか。
不思議に思う僕のすぐ前で、ミランダは地下に声を響かせる。
「ここは悪魔たちが秘密裏に天樹の塔を攻めるために掘った坑道よ。ちなみに私たちが入って来たあの入口は1分間開閉しないと自然に土が元に戻って見えなくなる仕組みだから、邪魔者に入られる心配はないわ」
僕らはその穴の中が思った以上に広く、環境も整備されていることに驚いた。
穴の中は各所に照明が設置されていて視界は良好だし、足元の土もしっかり踏み固められて歩きやすい。
そして地下の中だというのに空気が冷たくなく、過ごしやすい温度が保たれている。
「地熱のおかげみたいね」
ミランダの話によれば、ここは悪魔たちがはるばる地獄の谷から数年かけて掘った穴であり、現在では天樹のすぐ近くまで掘り進められているらしい。
最終的な目的は天樹の根に到達してそこから内部に侵入することみたいだ。
そんな話を聞きながら僕らは穴の中にある休憩室のような場所に腰を落ち着けた。
そこには大きめの丸テーブルとそれを囲むように設けられた椅子が10脚ほど置かれていて、簡易的ではあるが寝台がいくつか置かれている。
ここまでゆっくり休める機会がなかったからありがたい。
それに普段から洞窟暮らしの僕は、この地下坑道の環境にリラックスすることが出来た。
ミランダも同様だろう。
それから眠っているノアを寝台に横たえ、僕らは休憩室の丸テーブルを囲んで座る。
ノアにはエマさんが付き添ってくれていた。
一休みしたらブレイディとアビーが彼女の分析をしてくれることになっている。
「さて、さっさと情報交換するわよ」
丸テーブルを囲んで一同が腰を落ち着けるとミランダが話を切り出した。
彼女は隣に座る僕を一瞥すると言う。
「今まで私がどこでどうしてたか、ってところから話そうかしらね。あの森でその忌々しい竜人娘に焼かれて森の中に不時着したら……」
僕が最後にミランダの姿を確認したのはまさにそこだった。
「ちょうどそこに天界からの物資を運んでいる天馬の馬車の集団に出くわしたんだけど……ああ。思い出すだけでイライラしてくる」
それからミランダは苛立ちを抑えるようにしてそこからの顛末を語った。
天馬の馬車は複数の天使に守られていたのだけれど、ミランダがそこに現れた途端、彼らはいきなり彼女を攻撃し始めたという。
味方だったはずの天使たちの奇襲を受けて初めこそ困惑したミランダだったけれど、すぐに彼女は反撃をしてそこにいる天使を全滅させた。
相手が天使だろうと躊躇なく排除する彼女の姿は容易に想像できる。
「天使も悪魔も関係ないわ。私に牙向く奴は全員敵で、敵は全員ぶっ潰すだけだから」
とてもミランダらしい分かりやすい論理だ。
でも、大変だったのは天使たちを退けたその後だった。
馬車を引っ張っていた天馬たちの綱がいきなり切れて、あろうことか天馬たちがミランダに襲いかかって来たという。
思わぬ動物の襲撃にミランダは咄嗟に対応して天馬たちを次々と葬り去ったけれど、そこでいきなり荷馬車の中から別の天使たちが現れた。
さすがにこれには対処し切れず、ミランダは不意打ちを浴びてしまったんだ。
巨大竜ノアとの戦いで疲弊していたミランダは手痛いダメージを受けて苦戦しながら、それでもたった1人でその場にいる天使を全て葬り去ったんだけど、その過程で荷馬車を破壊してしまったという。
「君が荷馬車を破壊したってのはそういう理由だったのか」
ミランダは自分に降りかかる火の粉を払っただけで、理由もなく天使と荷馬車を攻撃したわけじゃなかったんだ。
そのことが分かって僕はひとまず安堵した。
「でも何で物資を積んでいたはずの荷馬車の中に天使たちが隠れていたんだろうね。それにおとなしい天馬たちが襲いかかって来るなんてどう考えでもおかしいよ」
「さあ? ま、その時の私にはそんなことどうでもいいくらいアタマに来てたし、しかも空からまた別の天使どもがこっちに向かってくるのが見えたから」
ミランダはその時のことを忌々しげに振り返る。
上空から降下してきた天使の集団がミランダの姿を見つけて大騒ぎをし始めたという。
そうか。
天使たちがミランダによって物資が破壊された現場を目撃したのはその時なんだ。
おそらく彼らは天馬がミランダに襲いかかった場面や、物資の中から天使が現れた場面は見ておらず、ミランダが荷馬車を破壊して天使たちを殲滅した場面だけを目撃したんだろう。
ミランダは最悪のタイミングで現場を見られたってことになる。
「でも、最初に襲いかかって来たのは天使たちじゃないか。それを彼らに説明すれば……」
「そんな弁明が通じる状況じゃないわよ。それにそんな面倒くさいこと私がすると思う?」
「し、しないね」
そして、さすがに消耗し切っていたミランダはこの天使たちと交戦するのを断念し、その場を離れて森の中へと離脱した。
だけど天使たちは物資を破壊したミランダを森の中まで追ってきたらしい。
その時ミランダは、天使たちとの戦いの最中に黒炎弾の流れ弾によって出来た穴の中に偶然この坑道への入口を見つけ、咄嗟にその中に飛び込んだという。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。

トップ冒険者の付与師、「もう不要」と言われ解雇。トップ2のパーティーに入り現実を知った。
空
ファンタジー
そこは、ダンジョンと呼ばれる地下迷宮を舞台にモンスターと人間が暮らす世界。
冒険者と呼ばれる、ダンジョン攻略とモンスター討伐を生業として者達がいる。
その中で、常にトップの成績を残している冒険者達がいた。
その内の一人である、付与師という少し特殊な職業を持つ、ライドという青年がいる。
ある日、ライドはその冒険者パーティーから、攻略が上手くいかない事を理由に、「もう不要」と言われ解雇された。
新しいパーティーを見つけるか、入るなりするため、冒険者ギルドに相談。
いつもお世話になっている受付嬢の助言によって、トップ2の冒険者パーティーに参加することになった。
これまでとの扱いの違いに戸惑うライド。
そして、この出来事を通して、本当の現実を知っていく。
そんな物語です。
多分それほど長くなる内容ではないと思うので、短編に設定しました。
内容としては、ざまぁ系になると思います。
気軽に読める内容だと思うので、ぜひ読んでやってください。
ざまぁから始まるモブの成り上がり!〜現実とゲームは違うのだよ!〜
KeyBow
ファンタジー
カクヨムで異世界もの週間ランク70位!
VRMMORゲームの大会のネタ副賞の異世界転生は本物だった!しかもモブスタート!?
副賞は異世界転移権。ネタ特典だと思ったが、何故かリアル異世界に転移した。これは無双の予感?いえ一般人のモブとしてスタートでした!!
ある女神の妨害工作により本来出会える仲間は冒頭で死亡・・・
ゲームとリアルの違いに戸惑いつつも、メインヒロインとの出会いがあるのか?あるよね?と主人公は思うのだが・・・
しかし主人公はそんな妨害をゲーム知識で切り抜け、無双していく!
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス

異世界立志伝
小狐丸
ファンタジー
ごく普通の独身アラフォーサラリーマンが、目覚めると知らない場所へ来ていた。しかも身体が縮んで子供に戻っている。
さらにその場は、陸の孤島。そこで出逢った親切なアンデッドに鍛えられ、人の居る場所への脱出を目指す。
迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~
飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。
彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。
独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。
この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。
※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
追放された【助言士】のギルド経営 不遇素質持ちに助言したら、化物だらけの最強ギルドになってました
柊彼方
ファンタジー
*『第14回ファンタジー小説大賞【大賞】受賞作』
1.2巻発売中! コミカライズ好評連載中!
「お前はもう用済みだ。ギルドから去れ」
不遇スキルである『鑑定』を持つ【助言士】ロイドは優秀な人材を見つけるために、最強ギルドと呼ばれる『太陽の化身』でボロ雑巾のように扱われていた。
そして、一通り勧誘を終えるとギルドマスターであるカイロスから用済みだと、追放されてしまう。
唐突な追放に打ちひしがれてしまうロイドだったが、エリスと名乗る女性に自分たちでギルドを作らないかと提案された。
エリスはなんと昔、ロイドが一言だけ助言をした底辺鍛冶師だったのだ。
彼女はロイドのアドバイスを三年間ひたすら守り続け、初級魔法を上級魔法並みに鍛え上げていた。
更にはあり得るはずもない無詠唱、魔法改変等を身につけていたのだ。
そんな事実に驚愕したロイドは、エリスとギルドを作ることを決意する。
そして、それなら不遇な素質持ちを集めよう。自分たちと同じ環境である人を誘おうというルールを設けた。
ロイドは不遇な素質を持つ人たちをギルドに加入させ、ただ一つのことを極めさせ始めた。一般レベルで戦えるようにするために。
だが、これが逆に最強への近道になってしまう。
そして、ロイドが抜けた太陽の化身では徐々に腐敗が始まり、衰退し始めていた。
新たな人材、策略。どんな手を使ってでもロイドたちを蹴落とそうとするが、すべて空回り。
これは、ロイドによって不遇な素質を極めた仲間たちが、ロイドとともに最強のギルドを作っていくような、そんな物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる