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第三章 天地をあざむく者たち
第10話 先の見えない戦い
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礼拝堂の空中に所狭しと浮遊する堕天使たちが僕とヴィクトリアを見下ろしていた。
その数は30人を超える。
「多勢に無勢だね……」
「いや、数よりもこの人口密度がやばいな。一斉に襲いかかられたら狭すぎて間合いを取れないまま袋叩きにされちまう」
確かにヴィクトリアの言う通りだ。
僕はその場面を想起して思わず身震いしそうになるのを堪えた。
だけどヴィクトリアは冷静だった。
「アルフレッド。ここは2人で協力だ。アタシが前衛。おまえは後衛。その銃で援護射撃してくれ、まずは祭壇に陣取るぞ」
「ヴィクトリア。でも僕の銃は最大6発まで連射できるけれど、相手を一撃で倒せるフルショットだと一発でエネルギーを使い果たしちゃって、次のチャージまで10秒かかるんだ」
「倒すことに拘らなくていい。相手を近づけさせないこと、相手の隙を作ることを優先してくれ。多数相手にする時はそうしないと致命傷を負うことになる。そうなれば決壊した堤防が水に飲み込まれるようにアタシらの命も飲み込まれちまう」
彼女の言葉に僕は頷きつつ、ある疑問を感じてそれを口にした。
「彼らは僕らの命を奪おうとするかな? ゲームオーバーになったら僕らは元の世界に戻れるから、彼らにとっては機密漏えいに繋がるリスクがあると思うんだ」
僕の言葉にヴィクトリアは首を横に振った。
「その辺の事情は分からないが、こうして相手と向かい合ってる時にそれは危険な考えだぞ。アルフレッド。敵は必ずこちらの命を狙ってくる。そういう気構えでいなきゃ、生き残れないぜ」
「そ、そうだね。その通りだ」
堕天使たちは僕たちの動きを注視している。
その沈黙が返って不気味さを醸し出していた。
少しでも動けば襲いかかってきそうで、僕は肌がヒリヒリするような緊張を感じていた。
「覚悟を決めろ。アルフレッド。ここからは根負けしないことが肝心だ。ついてこい!」
そう言うとヴィクトリアは嵐刃戦斧を片手に持って駆け出した。
僕もすぐ後に必死についていく。
僕らが動き出したのを見た堕天使たちも反応を見せ、武器を手に襲いかかって来た。
「くらいやがれっ!」
ヴィクトリアは気合いのこもった声を上げて羽蛇斧を鋭く投げつける。
堕天使たちは襲い来る羽蛇斧を避けるべく宙を舞うけれど、所狭しと大勢がひしめき合っていることが災いして、羽蛇斧を避け切れずに次々と切り裂かれていく。
堕天使の悲鳴が響き渡る中、ヴィクトリアは念力を駆使して羽蛇斧を見事に操り続けた。
走りながらだというのにすごい集中力だ。
「こっちだ! アルフレッド!」
ヴィクトリアに導かれて僕は祭壇のすぐ前にたどり着いたけれど、その付近にも2人の堕天使たちが陣取っている。
僕はその堕天使にEライフルの銃口を向けて照準を合わせるけれど、堕天使は素早く宙を回転しながら移動して的を絞らせない。
「くっ! 速い!」
「こざかしいんだよっ!」
ヴィクトリアは呼び寄せた羽蛇斧を鋭く投げつけた。
素早く動き続ける堕天使だけど、追いかけてくる羽蛇斧を避け切れずに片方の羽を貫かれて動きを止める。
そして僕はその隙にその堕天使をEライフルで狙撃した。
虹色の光線に首を貫かれた堕天使は、地面に落下すると光と闇の混ざった粒子となって消えていく。
もう1人の堕天使はこれを見ると天井付近まで飛び上がっていったけれど、どこまでも追いかけてくる羽蛇斧についに撃墜された。
「よし!」
僕とヴィクトリアは互いに目線を合わせると頷き合った。
この苦境を何とかして乗り切るんだ。
祭壇に陣取ると、ヴィクトリアは羽蛇斧を呼び寄せて両手に持つ。
僕は祭壇の後ろに身を隠し、そこで狙撃体勢を取った。
「アルフレッド。そこから一歩も動くなよ」
ヴィクトリアはそう言うと腰を落として臨戦態勢となった。
堕天使の数は見ただけでもざっと30人以上はいる。
一番危険なのは周囲を囲まれてしまうことだ。
こうして壁を背にして、なおかつ凹型に奥まっている祭壇に陣取れば気にするのは前方と左右だけで済む。
それでも一斉に襲いかかられたら耐え切れるかどうかは分からない。
「ヴィクトリア……」
思わず不安げな声を漏らす僕に、ヴィクトリアは喝を入れるように言った。
「覚悟を決めろ。仮にアタシがどんなに傷つこうと取り乱すなよ。戦場で戦って死ぬなら戦士にとっちゃ本望なんだ。何も恐れることはねえ。つっても今はおまえの用心棒なんだし、簡単にくたばったりしねえから安心しろよ」
そう言うとヴィクトリアは羽蛇斧を握る手に力を込めた。
彼女の身体中のしなやかな筋肉がグッと盛り上がる。
そしてヴィクトリアはまるで獣の雄叫びのように吠えた。
「来いっ! どいつもこいつもぶっ潰す!」
その声が合図となって堕天使たちの集中攻撃が始まった。
彼らは手にした剣や槍を構えて猛然と襲いかかって来る。
左右と正面からヴィクトリアに向けられるこれらの武器を、彼女は両手に持った羽蛇斧で弾き返す。
そして一番手で迫ってきた堕天使の腹を思い切り蹴飛ばした。
「グエッ!」
堕天使は大きく吹き飛ばされて礼拝堂の長椅子に激突する。
ヴィクトリアはその他の堕天使の武器も羽蛇斧で弾き返して、その長い足で相手を次々と蹴り飛ばしていく。
それでも堕天使たちの勢いは止まらない。
僕はヴィクトリアの頭上から斧を振り下ろそうとしている堕天使をEライフルで狙撃した。
虹色の光線に胸を貫かれた堕天使は床の上に落ちて息絶える。
とにかく相手の数が多いから、ヴィクトリアは堕天使の攻撃を防御しつつ、彼らを遠ざけて間合いを保つことを優先していた。
くそっ。
10秒チャージの時間がもどかしい。
「アルフレッド! 一発で倒そうとしなくていい。奴らの隙を作ってくれ。アタシが仕留める!」
「う、うん」
怒号を上げながら堕天使たちは猛然と向かってくる。
僕は軽めに引き金を引いて、それを次々と堕天使の足や羽に命中させた。
1発の威力は弱いけれど、それによって動きを止めた堕天使たちをヴィクトリアは羽蛇斧で見事に仕留めた。
だけど……。
「か、数が多すぎる……」
必死に応戦しながら僕は内心の焦りを隠せなかった。
そんな僕の目の前でヴィクトリアは羽蛇斧を投げつけて2人の堕天使を倒すと、すぐに武器を嵐刃戦斧に持ち替えた。
小ぶりな手斧である羽蛇斧だけだと、次々と襲い来る堕天使の圧力に耐え切れなくなってきたんだ。
「オラアアアッ!」
ヴィクトリアは攻撃力に秀でた両手斧で次々と堕天使を葬るけれど、彼女だって無傷では済まない。
槍や矛などの長手の武器で突かれ、鎧兜は削られて手足からも血を流していた。
こんなにもヴィクトリアが苦戦を強いられているのは、堕天使の数が多いからってだけじゃない。
彼らが自らの命を顧みないような、がむしゃらな特攻を仕掛けてくるためだ。
とても正気の沙汰とは思えないような堕天使たちの猛攻を前に、ヴィクトリアは両手斧である嵐刃戦斧を右手に構え、左手には氷の盾を構えた。
攻撃力を落としてでも防御力を高めないと、さすがのヴィクトリアでもこの窮地を乗り切れないと考えたんだろう。
そしてさらに悪いことに、さっきからヴィクトリアの反撃で多くの堕天使たちを倒しているはずなのに、彼らの数が減っているようには見えないんだ。
30人以上いた堕天使だけど、その半数となる十数人は倒しているはずなのに……。
僕はチャージの終わったEライフル構えて、ヴィクトリアのすぐ頭上に迫り来る堕天使をフルショットで撃つ。
その光線は運よく1人を貫通してその後ろにいるもう1人をも撃墜した。
そこで僕は見てしまったんだ。
撃ち倒した2人の堕天使たちの向こう側に見える壁掛けの絵画から、2人の堕天使が新たに飛び出してきたのを。
「そ、そんな……」
僕は恐ろしいことに気が付いてしまった。
さっきからヴィクトリアが倒しても倒しても堕天使の数が一向に減っていないと思ったけれど、もしかして……倒した分だけあの絵画から堕天使が補充されているのか?
そ、それじゃあキリがないじゃないか。
ヴィクトリアも同じことに気が付いたようで声を張り上げる。
「あの絵を何とかしねえと、これじゃ無限地獄だ!」
彼女の言う通りだけど、ブレイディが吸い込まれてしまったあの絵をどうしたらいいのか分からないし、そもそもこの状況じゃあの絵に近づくことも出来ない。
「例えばあの絵を真っ二つにへし折ったら、コイツら出て来なくなると思うか?」
堕天使に聞かれることも厭わずに、ヴィクトリアは彼らの怒号が騒々しく反響する中で声を張り上げた。
確かに絵を破壊すれば堕天使の増援が無限に続くことはなくなるかもしれない。
だけどあの絵にはブレイディが吸い込まれてしまったままだ。
「分からないけど、その前にブレイディを助け出さないと……」
「チッ。やっぱりそうだよな。こうなりゃ多少無理してでも強行突破して、あの絵のところに行くしかねえ。あの絵を壁から引きはがして、床の上に転がすんだ! 絵が下向いて床にピッタリくっついてりゃコイツらも出て来られないだろ」
そう言う彼女に僕は驚いて目を見開く。
「だ、大丈夫なの?」
「やってみなきゃ分かんねえけど、このまま先の見えない戦いを続けても、ここで力尽きるのを待つだけだ。そんなんなら打って出たほうがいい。アルフレッド。アタシのすぐ後ろにピッタリつけ!」
そう言うとヴィクトリアは斬りかかって来た堕天使の剣を氷の盾で受け止め、相手を押し返すと盾をそのまま相手に投げつけた。
ガツンと盾の縁を額に浴びた堕天使が昏倒する中、ヴィクトリアは嵐刃戦斧を両手に構えて腰を落とした。
「蹴散らすぞ! 嵐刃大旋風!」
ヴィクトリアの声が大音響となって鳴り響き、彼女の大技が炸裂した。
その数は30人を超える。
「多勢に無勢だね……」
「いや、数よりもこの人口密度がやばいな。一斉に襲いかかられたら狭すぎて間合いを取れないまま袋叩きにされちまう」
確かにヴィクトリアの言う通りだ。
僕はその場面を想起して思わず身震いしそうになるのを堪えた。
だけどヴィクトリアは冷静だった。
「アルフレッド。ここは2人で協力だ。アタシが前衛。おまえは後衛。その銃で援護射撃してくれ、まずは祭壇に陣取るぞ」
「ヴィクトリア。でも僕の銃は最大6発まで連射できるけれど、相手を一撃で倒せるフルショットだと一発でエネルギーを使い果たしちゃって、次のチャージまで10秒かかるんだ」
「倒すことに拘らなくていい。相手を近づけさせないこと、相手の隙を作ることを優先してくれ。多数相手にする時はそうしないと致命傷を負うことになる。そうなれば決壊した堤防が水に飲み込まれるようにアタシらの命も飲み込まれちまう」
彼女の言葉に僕は頷きつつ、ある疑問を感じてそれを口にした。
「彼らは僕らの命を奪おうとするかな? ゲームオーバーになったら僕らは元の世界に戻れるから、彼らにとっては機密漏えいに繋がるリスクがあると思うんだ」
僕の言葉にヴィクトリアは首を横に振った。
「その辺の事情は分からないが、こうして相手と向かい合ってる時にそれは危険な考えだぞ。アルフレッド。敵は必ずこちらの命を狙ってくる。そういう気構えでいなきゃ、生き残れないぜ」
「そ、そうだね。その通りだ」
堕天使たちは僕たちの動きを注視している。
その沈黙が返って不気味さを醸し出していた。
少しでも動けば襲いかかってきそうで、僕は肌がヒリヒリするような緊張を感じていた。
「覚悟を決めろ。アルフレッド。ここからは根負けしないことが肝心だ。ついてこい!」
そう言うとヴィクトリアは嵐刃戦斧を片手に持って駆け出した。
僕もすぐ後に必死についていく。
僕らが動き出したのを見た堕天使たちも反応を見せ、武器を手に襲いかかって来た。
「くらいやがれっ!」
ヴィクトリアは気合いのこもった声を上げて羽蛇斧を鋭く投げつける。
堕天使たちは襲い来る羽蛇斧を避けるべく宙を舞うけれど、所狭しと大勢がひしめき合っていることが災いして、羽蛇斧を避け切れずに次々と切り裂かれていく。
堕天使の悲鳴が響き渡る中、ヴィクトリアは念力を駆使して羽蛇斧を見事に操り続けた。
走りながらだというのにすごい集中力だ。
「こっちだ! アルフレッド!」
ヴィクトリアに導かれて僕は祭壇のすぐ前にたどり着いたけれど、その付近にも2人の堕天使たちが陣取っている。
僕はその堕天使にEライフルの銃口を向けて照準を合わせるけれど、堕天使は素早く宙を回転しながら移動して的を絞らせない。
「くっ! 速い!」
「こざかしいんだよっ!」
ヴィクトリアは呼び寄せた羽蛇斧を鋭く投げつけた。
素早く動き続ける堕天使だけど、追いかけてくる羽蛇斧を避け切れずに片方の羽を貫かれて動きを止める。
そして僕はその隙にその堕天使をEライフルで狙撃した。
虹色の光線に首を貫かれた堕天使は、地面に落下すると光と闇の混ざった粒子となって消えていく。
もう1人の堕天使はこれを見ると天井付近まで飛び上がっていったけれど、どこまでも追いかけてくる羽蛇斧についに撃墜された。
「よし!」
僕とヴィクトリアは互いに目線を合わせると頷き合った。
この苦境を何とかして乗り切るんだ。
祭壇に陣取ると、ヴィクトリアは羽蛇斧を呼び寄せて両手に持つ。
僕は祭壇の後ろに身を隠し、そこで狙撃体勢を取った。
「アルフレッド。そこから一歩も動くなよ」
ヴィクトリアはそう言うと腰を落として臨戦態勢となった。
堕天使の数は見ただけでもざっと30人以上はいる。
一番危険なのは周囲を囲まれてしまうことだ。
こうして壁を背にして、なおかつ凹型に奥まっている祭壇に陣取れば気にするのは前方と左右だけで済む。
それでも一斉に襲いかかられたら耐え切れるかどうかは分からない。
「ヴィクトリア……」
思わず不安げな声を漏らす僕に、ヴィクトリアは喝を入れるように言った。
「覚悟を決めろ。仮にアタシがどんなに傷つこうと取り乱すなよ。戦場で戦って死ぬなら戦士にとっちゃ本望なんだ。何も恐れることはねえ。つっても今はおまえの用心棒なんだし、簡単にくたばったりしねえから安心しろよ」
そう言うとヴィクトリアは羽蛇斧を握る手に力を込めた。
彼女の身体中のしなやかな筋肉がグッと盛り上がる。
そしてヴィクトリアはまるで獣の雄叫びのように吠えた。
「来いっ! どいつもこいつもぶっ潰す!」
その声が合図となって堕天使たちの集中攻撃が始まった。
彼らは手にした剣や槍を構えて猛然と襲いかかって来る。
左右と正面からヴィクトリアに向けられるこれらの武器を、彼女は両手に持った羽蛇斧で弾き返す。
そして一番手で迫ってきた堕天使の腹を思い切り蹴飛ばした。
「グエッ!」
堕天使は大きく吹き飛ばされて礼拝堂の長椅子に激突する。
ヴィクトリアはその他の堕天使の武器も羽蛇斧で弾き返して、その長い足で相手を次々と蹴り飛ばしていく。
それでも堕天使たちの勢いは止まらない。
僕はヴィクトリアの頭上から斧を振り下ろそうとしている堕天使をEライフルで狙撃した。
虹色の光線に胸を貫かれた堕天使は床の上に落ちて息絶える。
とにかく相手の数が多いから、ヴィクトリアは堕天使の攻撃を防御しつつ、彼らを遠ざけて間合いを保つことを優先していた。
くそっ。
10秒チャージの時間がもどかしい。
「アルフレッド! 一発で倒そうとしなくていい。奴らの隙を作ってくれ。アタシが仕留める!」
「う、うん」
怒号を上げながら堕天使たちは猛然と向かってくる。
僕は軽めに引き金を引いて、それを次々と堕天使の足や羽に命中させた。
1発の威力は弱いけれど、それによって動きを止めた堕天使たちをヴィクトリアは羽蛇斧で見事に仕留めた。
だけど……。
「か、数が多すぎる……」
必死に応戦しながら僕は内心の焦りを隠せなかった。
そんな僕の目の前でヴィクトリアは羽蛇斧を投げつけて2人の堕天使を倒すと、すぐに武器を嵐刃戦斧に持ち替えた。
小ぶりな手斧である羽蛇斧だけだと、次々と襲い来る堕天使の圧力に耐え切れなくなってきたんだ。
「オラアアアッ!」
ヴィクトリアは攻撃力に秀でた両手斧で次々と堕天使を葬るけれど、彼女だって無傷では済まない。
槍や矛などの長手の武器で突かれ、鎧兜は削られて手足からも血を流していた。
こんなにもヴィクトリアが苦戦を強いられているのは、堕天使の数が多いからってだけじゃない。
彼らが自らの命を顧みないような、がむしゃらな特攻を仕掛けてくるためだ。
とても正気の沙汰とは思えないような堕天使たちの猛攻を前に、ヴィクトリアは両手斧である嵐刃戦斧を右手に構え、左手には氷の盾を構えた。
攻撃力を落としてでも防御力を高めないと、さすがのヴィクトリアでもこの窮地を乗り切れないと考えたんだろう。
そしてさらに悪いことに、さっきからヴィクトリアの反撃で多くの堕天使たちを倒しているはずなのに、彼らの数が減っているようには見えないんだ。
30人以上いた堕天使だけど、その半数となる十数人は倒しているはずなのに……。
僕はチャージの終わったEライフル構えて、ヴィクトリアのすぐ頭上に迫り来る堕天使をフルショットで撃つ。
その光線は運よく1人を貫通してその後ろにいるもう1人をも撃墜した。
そこで僕は見てしまったんだ。
撃ち倒した2人の堕天使たちの向こう側に見える壁掛けの絵画から、2人の堕天使が新たに飛び出してきたのを。
「そ、そんな……」
僕は恐ろしいことに気が付いてしまった。
さっきからヴィクトリアが倒しても倒しても堕天使の数が一向に減っていないと思ったけれど、もしかして……倒した分だけあの絵画から堕天使が補充されているのか?
そ、それじゃあキリがないじゃないか。
ヴィクトリアも同じことに気が付いたようで声を張り上げる。
「あの絵を何とかしねえと、これじゃ無限地獄だ!」
彼女の言う通りだけど、ブレイディが吸い込まれてしまったあの絵をどうしたらいいのか分からないし、そもそもこの状況じゃあの絵に近づくことも出来ない。
「例えばあの絵を真っ二つにへし折ったら、コイツら出て来なくなると思うか?」
堕天使に聞かれることも厭わずに、ヴィクトリアは彼らの怒号が騒々しく反響する中で声を張り上げた。
確かに絵を破壊すれば堕天使の増援が無限に続くことはなくなるかもしれない。
だけどあの絵にはブレイディが吸い込まれてしまったままだ。
「分からないけど、その前にブレイディを助け出さないと……」
「チッ。やっぱりそうだよな。こうなりゃ多少無理してでも強行突破して、あの絵のところに行くしかねえ。あの絵を壁から引きはがして、床の上に転がすんだ! 絵が下向いて床にピッタリくっついてりゃコイツらも出て来られないだろ」
そう言う彼女に僕は驚いて目を見開く。
「だ、大丈夫なの?」
「やってみなきゃ分かんねえけど、このまま先の見えない戦いを続けても、ここで力尽きるのを待つだけだ。そんなんなら打って出たほうがいい。アルフレッド。アタシのすぐ後ろにピッタリつけ!」
そう言うとヴィクトリアは斬りかかって来た堕天使の剣を氷の盾で受け止め、相手を押し返すと盾をそのまま相手に投げつけた。
ガツンと盾の縁を額に浴びた堕天使が昏倒する中、ヴィクトリアは嵐刃戦斧を両手に構えて腰を落とした。
「蹴散らすぞ! 嵐刃大旋風!」
ヴィクトリアの声が大音響となって鳴り響き、彼女の大技が炸裂した。
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