だって僕はNPCだから

枕崎 純之助

文字の大きさ
上 下
51 / 52
第四章 城下町紛争狂騒曲

第15話 いっしょに帰ろう

しおりを挟む
 僕とミランダとジェネット。
 三人ともボロボロで立っているのがやっとだった。
 僕は呆然ぼうぜんと立ち尽くしたまま、ミランダを見つめていた。
 ミランダはそんな僕を見て、あきれたように言った。

「あんたって本当に変な奴。ありえない。弱っちいくせに何でこんな無茶してんのよ」

 ミランダのそんな憎まれ口に僕は苦笑いを浮かべた。
 すでに広場での戦いは終結していた。
 ミランダ討伐隊とうばつたいとジェネット守護隊・懺悔主党ザンゲストのぶつかり合いは熾烈しれつを極めたけど、運営本部におけるミランダの処分保留が決定されると、意義の失われた戦いは勢いを失い、双方ともに自然と剣を振るう手は止まっていった。
 運営本部内でどのような裁定がなされつつあるのか僕らには分からなかったけれど、とりあえず目の前にあった危機は去ったと考えていいみたいだ。
 僕はミランダに向き合うと、ずっと言いたかったことを口にした。

「ミランダ。手紙のこと、気付かなくてごめん」

 僕がそう言うとミランダはハッとして赤面した。

「べ、別に。あんなのただのヒマつぶしの落書きだから。本気で受け取るんじゃないわよ。っていうか忘れろぉぉぉ!」

 バツが悪そうにそう言うとミランダは僕の首に腕を回して締め付けてきた。
 く、苦しい。
 でも嬉しい。
 僕の知ってるミランダが戻ってきてくれて。

「クビ締められてニヤニヤすんな気持ち悪い!」

 ミランダはねたようにそっぽを向きながら口をとがらせた。
 そんな彼女に僕は言った。

「次から僕も記録を残すようにするよ。何度初期化されても何度でも思い出せるように」

 僕がそう言うとミランダはフンッと鼻を鳴らしてわずかに鼻腔びこうふくらませた。

「それには及びません」

 ふいにそう告げたのはジェネットだった。
 その顔には満面の笑みが浮かんでいる。
 ジェネットの笑顔とは対照的にミランダは顔をしかめた。

「どういうことよ?」
「私の創造主よりお二人にプレゼントがありますから」

 プレゼント? 
 怪訝けげんな表情で僕とミランダが顔を見合わせる。

「それは次回のアップデート後のお楽しみです」

 そう言うとジェネットは楽しげに笑った。

「何を考えているのよ。この女狐めぎつねは」

 まゆを潜めるミランダに僕は静かに言った。

「いっしょに帰ろう。ミランダ。僕らの洞窟に。僕はやっぱりあそこがいいよ」

 僕がそう言って手を差し出すと、ミランダは思わず下を向いた。
 彼女は安堵あんどしたようなため息をつくと、わずかに肩を震わせた。
 そして静かに顔を上げる。
 その顔には彼女らしい勝ち気な笑みが浮かんでいた。
 少しだけ目が赤かったけど、それは言わないでおこう。

「そんなに私の下僕としての日常に戻りたいなら仕方ない。これからもずっと私に側仕そばづかえしなさい」

 そう言ってミランダは僕の手を取ると、今度は少しだけ柔らかな笑顔を僕に見せた。
 それはもう可憐かれんな笑顔だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうせ俺はNPCだから

枕崎 純之助
ファンタジー
【完結しました!】 *この作品はこちらのスピンオフになります↓ 『だって僕はNPCだから』https://www.alphapolis.co.jp/novel/540294390/346478298    天使たちのゲーム世界である「天国の丘《ヘヴンズ・ヒル》」と対を成す悪魔たちのゲーム世界「地獄の谷《ヘル・バレー》」。  NPCとして鬱屈した日々を過ごす下級悪魔のバレットは、上級悪魔たちのワナにハメられ、脱出不可能と言われる『悪魔の臓腑』という深い洞窟の奥深くに閉じ込められてしまった。  そこでバレットはその場所にいるはずのない見習い天使の少女・ティナと出会う。  バレットはまだ知らない。  彼女が天使たちの長たる天使長の2代目候補であるということを。  NPCの制約によって強さの上限値を越えられない下級悪魔と、秘められた自分の潜在能力の使い方が分からない見習い天使が出会ったことで、2人の運命が大きく変わる。  悪魔たちの世界を舞台に繰り広げられるNPC冒険活劇の外伝。  ここに開幕。 *イラストACより作者「Kotatsune」様のイラストを使用させていただいております。

だって僕はNPCだから 3rd GAME

枕崎 純之助
ファンタジー
【完結】 3度目の冒険は異世界進出! 天使たちの国は天国なんかじゃなかったんだ。 『魔女狩り大戦争』、『砂漠都市消滅危機』という二つの事件が解決し、平穏を取り戻したゲーム世界。 その中の登場人物である下級兵士アルフレッドは洞窟の中で三人の少女たちと暮らしていた。 だが、彼らの平和な日々を揺るがす魔の手はすぐそこに迫っていた。 『だって僕はNPCだから』 『だって僕はNPCだから 2nd GAME』 に続く平凡NPCの規格外活劇第3弾が幕を開ける。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!

枕崎 純之助
ファンタジー
下級悪魔と見習い天使のコンビ再び! 天国の丘と地獄の谷という2つの国で構成されたゲーム世界『アメイジア』。 手の届かぬ強さの極みを欲する下級悪魔バレットと、天使長イザベラの正当後継者として不正プログラム撲滅の使命に邁進する見習い天使ティナ。 互いに相容れない存在であるはずのNPCである悪魔と天使が手を組み、遥かな頂を目指す物語。 堕天使グリフィンが巻き起こした地獄の谷における不正プラグラムの騒動を乗り切った2人は、新たな道を求めて天国の丘へと向かった。 天使たちの国であるその場所で2人を待ち受けているものは……? 敵対する異種族バディが繰り広げる二度目のNPC冒険活劇。 再び開幕! *イラストACより作者「Kamesan」のイラストを使わせていただいております。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...