だって僕はNPCだから

枕崎 純之助

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第二章 光の聖女

第10話 速報! ミランダ襲来!

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 ジェネットと時折雑談を交えながら情報収集を続けて3時間が過ぎた頃、状況は一変した。
 それまでゆっくりとした更新頻度を保っていたリアルタイム検索が、急激に速度を上げて多数のメッセージを流し始めたんだ。

「こ、これって……」

 僕がハッとしてジェネットの顔を見つめると、彼女も緊迫した表情でうなづいた。
 上から下へと水のように流れていくプレイヤーたちのメッセージを僕らは必死に目で追った。

『シェラングーンにミランダ襲来。闇の魔女によるプレイヤー狩り絶賛進行中!』

『魔女ミランダがシェラングーンに上陸。救援求むぅぅぅぅ!』

『闇の魔女ミランダはサポートNPCも容赦なく葬り去っている。鬼かよ!』

 これに類似するメッセージが途切れることなく続々と流れてくる。

「ミランダがシェラングーンに?」

 僕は眉を潜めた。
 シェラングーンとはここからかなり南下した土地にある、それなりに大きな港町だ。
 徒歩で向かうとなると、ここからリアル時間で丸一時間以上はかかる場所だよ。
 洞窟から出たことの無いミランダがそんな遠くまで出向くなんて妙だな。
 僕は不思議な感覚を覚えずにいられなかった。

 運営本部が発表しているアップデート情報だと、ミランダの『出張襲撃イベント』は次のアップデート後のはずだった。
 運営の指示もなく勝手にそんなことを出来るんだろうか?
 だけど実際にミランダはシェラングーンを襲撃してるって話だし。
 でも、この事実が分かったとしても運営から待機を指示されている僕らにはどうすることも出来ない。
 だけどジェネットはそんな事情はおかまいなしに言った。

「今すぐシェラングーンに向かいましょう」

 ええっ? 
 またムチャなことを。

「む、向かいましょうって言っても、僕はこの洞窟からは出られないし……」

 かといってジェネットだけにミランダの捜索を任せるのはスジ違いだと思うし……。

「そんなことを言っている場合ですか! このチャンスを逃すなんて神は許しませんよ」

 突然、厳しい口調でそう告げる彼女に僕は思わずビクッと肩をすくませた。
 ビ、ビックリしたなぁ。

「ぼ、僕がルールを破ることも神は許さないと思うんですけど」

 途端に彼女の手が伸びてきて僕の胸倉をつかんだ。
 こ、怖っ!

「私が許します。ご心配なく」

 彼女は厳然とした表情と口調でそう言った。
 ウゥッ……急にキャラが変わったぞ。
 彼女は僕の服の胸元をそっと放してシステムパネルを操作し始めた。
 そしてすぐに操作を終え、ニッコリと微笑を浮かべながら言った。

「あなたの同行を運営本部に申請しました」

 仕事速っ! 
 でもそんなに簡単にいくはずがない。

「そ、そんなことしても許可がおりるわけ……」
「許可がおりました」
「うそっ!」

 そ、即答? 
 そんな馬鹿な。
 運営本部がそんなことを簡単に許可するなんて。
 僕は彼女の言葉がとても信じられずにシステムパネルをのぞき込んだ。
 だけどそこには確かにジェネットの言葉通り、僕の外出が許可された旨の文面が映し出されている。

 それはミランダがこの洞窟に戻るまでという期限付きだったけど、それでも異例のことだった。
 どこか釈然としない気持ちを抱える僕だったけど、それ以上の思案をするヒマもなく、ジェネットの声によって目の前の彼女に注意を引き戻された。

「さぁ。急ぎましょう。ミランダをこの洞窟に戻さないと話は始まりませんから」

 そう言うとジェネットは立ち上がり、僕の手を取って駆け出した。
 僕は彼女に引っ張られるまま慌てて洞窟の出口に向かって足を動かした。
 僕の心が緊張感と高揚感にたかぶりおどる。

 ミランダを倒した人を王城に連れて行くという任務以外に、洞窟を出てこの広い世界に駆け出すなんて初めてのことだったから。
 変化の無い日々を過ごす僕にとって、先の見えない行動にはやっぱり不安がつきまとう。
 それでも僕の手を引いてくれるジェネットの確かな足取りは徐々に僕に勇気を与えてくれた。
 僕はジェネットの手を少しだけ強く握り返し、自分の足で地面を蹴って走り続けた。
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