どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!

枕崎 純之助

文字の大きさ
31 / 72
第二章 『盗賊団のアジト』

第15話 封印の呪い

しおりを挟む
「……どこだここは?」

 どこまでも続いて行くように感じられた黒いやみの中を抜けると、俺は柔らかな草の上に落下した。
 そこはまばゆい光に包まれた奇妙な空間だった。
 先ほどまでいたヒルダのアジトと同じく壁と天井に囲まれた閉鎖へいさ的な場所だ。
 一言で言えば洞穴ほらあなだった。

 それにもかかわらず地面には背の低い草がビッシリと生えていて、森の中にいるような香りがただよっている。
 上を見上げたが、天井には光を放つこけがビッシリと群生していて、それがこの場所を明るく照らしている。
 閉塞感へいそくかんを感じないのはこの昼間のような明るさのためだろう。
 目が痛むようなその明るさに俺は思わず目を細める。
 そんな俺のすぐ近くには一緒に落ちてきたティナとパメラの姿がある。

「ティナ殿。大丈夫でござるか?」
「ええ。少し痛みますが、深く噛みつかれる前にバレットさんが助けて下さったので何とか……」

 パメラはティナの首すじに消毒剤を塗り込み、止血用のテープを貼っている。
 さっきまでいた小部屋でいきなりよみがえった堕天使だてんしむくろに襲われたティナは首すじをみつかれていた。
 2人ともとりあえず無事だが、俺と同じくこの状況に目を白黒させて辺りを見回している。

拙者せっしゃらは地下からさらに地下深くに落ちてきたのではござらぬか? この明るさは一体……」
「いえ、おそらくあれは不正プログラムによる空間転移ですので、落ちたというよりもまったく別の場所に飛ばされたのかもしれません」

 戸惑う小娘どもをよそに俺は立ち上がり、目を細めたまま周囲の状況をうかがう。
 雰囲気ふんいきこそ明るいが、そこはしょせん穴蔵あなぐらだった。
 洞窟どうくつと変わりない構造であり、ここが地中であることをうかがわせる。
 パメラは頭上を見上げながらまゆを潜めている。

「しかし、あの堕天使だてんしむくろから飛び出した黒い液体は何だったのでござろうか……」

 俺たちを飲み込んだ黒い液体はどこにも見当たらない。
 あれは間違いなくヒルダのわなだった。
 俺たちは一体どこに落とし込まれたんだ?
 そこでティナが警戒した様子で俺を見上げる。
 パメラによる傷の手当てを終えたティナはメイン・システムを起動していた。

「バレットさん。この場所、外部との通信が出来ません」
「なに?」

 ティナはメイン・システムを通じていつでも天樹の塔やライアンと通信が可能だ。
 だがティナの起動するメイン・システムにはエラー・メッセージが表示され、通信が出来ないことを示している。

「どうやらヒルダのわなにまんまとハメられたらしいな」

 あと一歩のところまでヒルダを追い詰めたと思った俺たちだったが、ヒルダの奴は追跡の手を逃れたのみならず、逆に俺たちをハメやがった。
 俺は苛立いらだつ気持ちをみ殺しながらそう言うと、小娘どもをうながした。

「立て。とにかくこの場所を調べるぞ」

 俺の言葉にうなづき、小娘どもは立ち上がる。
 とっととこの場所を調べ上げて脱出の方法を探らなきゃならん。
 特に重要な役割を担うのは修復術の使えるティナだ。
 俺は自分のメイン・システムを確認したが、すでに天魔融合プログラムの効果は10分間の使用時間を過ぎ、使えなくなっている。

 こうなると不正プログラムへの対処は従来通りティナに任せるほかない。
 今こうして目で見る限りは周囲にバグは見当たらないが……。
 ティナは草の生える地面や壁をくまなく調べ始めようとした。

不具合分析エラー・アナライズ

 だが、そうとなえたティナの手からいつものような青い光が照射されない。

「……えっ? 不具合分析エラー・アナライズ!」

 怪訝けげんそうな顔でそうとなえるティナだが、その手からはやはり何も照射されない。
 ティナは戸惑って俺を見る。
 そんなティナの顔に異変が起きていた。

「バレットさん……」
「ティナ、おまえそのひたい……」

 ティナのひたいには真っ赤な字で【封】と刻み込まれていた。
 どういうことだ?
 ティナはあわてて自分のメイン・システムを操作した。
 そんなティナの顔が見る見るうちに青ざめていく。

「バレットさん。これ、見て下さい」

 そう言ってティナが俺に見せたコマンド・ウインドウには無機質な字でこう記されていた。

【重大なシステムエラー/管理者:ティナ・ミュールフェルト/修復術のプログラム実行に深刻な問題が発生/システム起動不可】

 何だって?
 ティナの修復術が使えなくなったってことか?

「何かの不具合か。自分で直せねえのか?」
「や、やってみます」

 ティナはそこからメイン・システムを相手に四苦八苦し始めたが、その表情は冴えないままだ。
 まずいぞ。
 ここに至ってティナの修復術が使えないのは最悪だ。
 なぜ急にこんなことに……。
 そこでメイン・システムを操作するティナの首すじからいきなりバチッと火花が散った。

「きゃあっ!」
「ティナ殿!」

 咄嗟とっさにティナの肩を支えたパメラは、治療済みのティナの首すじから血がしたたり落ちているのを見ると、ティナをそっと座らせた。
 止血用のテープが血で真っ赤に染まっている。
 こいつは……。

「これはまずいでござる。すぐ治療を」
「す、すみません。パメラさん」

 パメラはアイテム・ストックから応急処置用具を取り出してティナの治療を始める。
 ティナはわずかな痛みに顔をしかめながら俺を見上げた。

「まずいことになったかもしれません。どうやら現時点ではどうやっても修復術は使用できないようです。ライアン様に連絡を取ろうにもここでは手段がありません」

 悄然しょうぜんとそう言うティナの首すじをもう一度止血しながらパメラがいさめる。

「ティナ殿。無理はなさらぬよう。メイン・システムによる復旧はしばらくあきらめるでござるよ」
「はい……」

 俺はティナの首すじの傷を見ながら言った。

「ティナ。さっきの堕天使だてんしみつかれた時、体に違和感はなかったのか?」
「え? ええ。痛いだけで違和感というのは……あれが原因だったのでしょうか?」
「そう考えるべきだろうな。くそっ! ヒルダの奴め。何から何まで用意周到だぜ」

 今のところ俺たちはあの女を上回れていない。
 俺たちをこの場所に落とし込んだのも計算づくの行動だろう。
 だとするとあの女が打ってくる次の手は何だ? 
 俺は苛立いらだちをこらえて目をらし、周囲に異変がないかと観察して回る。

 ティナの修復術が使えない以上、こうして目視、手探りでやるしかねえ。
 出入口がない完全な密閉空間に見えても、どこかに隠しとびらがあったり壁がもろくなっていたりすることもある。
 そう思い、俺は壁をゴツンゴツンと叩きながら歩いていく。
 壁からはところどころ長い草が生えてれ下がっている。

 その草をバサバサと手で揺らしながら歩いていると、俺はわずかに風の流れを足元に感じて立ち止まった。
 見ると足元までれ下がった草の先端が風にそよいでいる。
 それは本当にわずかな風だったが、確かに吹き込んでいた。
 俺はその場にかがみ込むと、注意深く草をかき分ける。

 そして地面に顔をつけるようにしてそこをのぞき込む。
 すると草をかき分けた先のかべに小さなあなが開いていた。
 せいぜい30センチ程度のあなで、その向こう側はここよりも薄暗いが確かに空洞が続いている。
 そしてゆるやかな微風が吹き込んできていた。

「おいっ! ここにあながあるぞ」

 俺が声を上げて小娘どもを呼んだその時、あなの向こう側にいきなり何者かが現れた。
 そいつはおどろいて目を丸くしながら、こちらをのぞき込んでいた。

「チッ!」

 至近距離でそいつと目があった俺は反射的に後方に飛び退いて臨戦態勢を取る。
 後方から俺の元へ駆け寄って来ていたティナは、いきなり後ろに飛び退すさった俺の背中にぶつかって倒れ込んだ。

「アイタッ! な、何なんですかバレットさん! いきなり下がって来ないで……」
あなの向こうからのぞき込んでいる奴がいる。油断すんなよ」

 そう言う俺にティナはあわてて立ち上がり、そのとなりではパメラが白狼牙はくろうがの柄に手をかける。
 そんな俺たちの前から、あなを通り抜け草をかき分けて1人の人物がモソモソとこちら側にい出て来やがった
 俺はそいつを見下ろす。

 小さなあなを楽々と通り抜けてきたそいつは、人間の女だった。
 女といってもまだガキだ。
 ティナやパメラよりも幼く、背丈も小さい。
 まだ10歳ちょっとくらいか。

「……誰だてめえは」

 俺の問いにそのガキは目をパチクリさせ、俺を見上げるとわずかにほほを引きつらせた。
 だが俺の顔を見てビビッているそのガキは、ティナやパメラを見るとわずかにほっと安堵あんどの表情を浮かべた。

「び……ビックリしたぁ。声がすると思って来て見たらほんとに人がいる。キミたちこそ誰? どうしてここにいるの?」

 矢継ぎ早にそんなことを言い出すガキを俺はにらみつける。

「おいガキ。質問してんのはこっち……」
「私たちは天国の丘ヘヴンズ・ヒルから来ました」

 横から俺を押し退けてティナの奴がガキの前にズイッと出やがった。
 そしてパメラは俺の腰をポンと叩いて苦笑する。

「ここはティナ殿にお任せするでござるよ」

 チッ。
 こいつら。
 ナメくさりやがって。

「私は見習い天使のティナ。こちらがサムライのパメラさん。で、後ろの怖い顔のお兄さんが悪魔のバレットさんです。あなたのお名前は?」
「ボクはクラリッサ。このネフレシアの街に住んでるんだ」

 ティナの柔らかな物腰に安心したのか、クラリッサという名のそのガキはそう言うと表情をやわらげて笑顔を見せた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

汚部屋女神に無茶振りされたアラサー清掃員、チートな浄化スキルで魔境ダンジョンを快適ソロライフ聖域に変えます!

虹湖🌈
ファンタジー
女神様、さては…汚部屋の住人ですね? もう足の踏み場がありませーん>< 面倒な人間関係はゼロ! 掃除で稼いで推し活に生きる! そんな快適ソロライフを夢見るオタク清掃員が、ダメ女神に振り回されながらも、世界一汚いダンジョンを自分だけの楽園に作り変えていく、異世界お掃除ファンタジー。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

花鳥見聞録

木野もくば
ファンタジー
花の妖精のルイは、メジロのモクの背中に乗って旅をしています。ルイは記憶喪失でした。自分が花の妖精だったことしか思い出せません。失くした記憶を探すため、さまざまな世界を冒険します。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...