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中編 アピールタイムです!

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「エントリーナンバー1番。アリアナです」

 僕のとなりにある部屋を借りる人を決める奇妙なプレゼン大会が始まった。
 先陣を切って玉座の前に立ったのは、緊張に強張こわばった表情のアリアナだ。

「私がアル君の隣人りんじんになったあかつきには、快適ですずしい夏の過ごし方をアル君に提供します。夏になるとこの辺りもかなり暑くなるので、私の氷の魔法でアル君の部屋をヒンヤリと冷やします」

 そうか。
 以前までは地下深い洞窟どうくつの中にいたから夏もそんなに暑く感じなかったけど、今度からは青空の下だからね。
 いくら周りを湖に囲まれているとはいえ、直射日光を浴びるこのお城の夏はけっこう暑いかもしれない。

「それから私の氷刃槍アイス・グラディウスで作ったかき氷食べ放題だよ。一緒に食べよ。アル君。私がすずしくしてあげるからね」

 か、かわいいな。
 それにとても助かる。
 快適な夏が過ごせそうだ。
 優しいアリアナの親切心に僕が心暖まっていると、それに冷や水を浴びせるようにミランダがヤジを飛ばす。

「この城は空調も効いてるから、夏だって快適なのよ。あんたの氷なんて不要だから。それにアリアナ。それだとあんた夏しか活躍できないじゃない。冬はどうすんのよ冬は。何か考えてるわけ?」

 そうまくし立てるミランダにアリアナはアタフタしながら必死に言葉をしぼり出す。

「え? ふ、冬? ふ、冬は……ええと、あのぉ……」

 しどろもどろになりながら口ごもるアリアナは、顔を真っ赤にさせて必死に声を張り上げた。

「わ、私の体温でアル君を温めます!」

 ブッ!
 そ、それって……。

「エロ認定! 反則行為によりアリアナ失格!」

 すかさずブレイディーが用意していた赤旗あかはたを振り上げてアリアナの失格を告げた。
 アリアナは半泣きになって抗議の声を上げる。

「ええええっ! そんなぁ~! いやらしい気持ちはこれっぽっちもないのに~! 厳しいよブレイディー」
「君がそのつもりなくても、アルフレッド君は今ので君をエロい目で見てるよ。見たまえ。アルフレッド君のエロに満ちあふれた欲望丸出しの目を」

 人聞き悪い! 
 見てないから! 
 ちょっとドキドキしたけど。
 そんな僕のほほをミランダがつねり上げる。

「コラーッ! アル! そのエロい目を今すぐやめなさい!」
「イダダダッ! そんな目してないから!」

 何なんだ一体!
 僕の目はデフォルトでエロいのか!
 ミランダに責められる僕をよそに、失格となったアリアナはトボトボと壇上だんじょうから降りていった。

 ☆★☆★☆★☆
 
「エントリーナンバー2番。ヴィクトリアだ」

 そう言って意気揚々いきようよう壇上だんじょうに上がったのはヴィクトリアだ。
 彼女はやみの玉座を背にして自信満々に胸を張る。

「アタシがアルフレッドの隣人りんじんになったら、毎日無給でボディーガードをしてやる。アルフレッドは密入国者の連中からもねらわれてるかもしれないから、24時間体勢でつきっきりになってやるぞ。しかもそれだけじゃねえ!」

 そう言うとヴィクトリアはメイン・システムを操作して何かの映像を映し出す。
 それはエプロン姿のヴィクトリアが厨房ちゅうぼうに立って大きなフライパンで豪快に大量のパエリアを作っている映像だった。
 ヴィクトリア料理できるんだ!
 それは新鮮なおどろきだった。

「最近、アタシは料理を覚えたんだ。王都の料理教室に通って腕をみがいたから、味は保証するぜ! アルフレッドにも毎日大盛りの手料理を振る舞ってやる」

 映像の中のパエリアが実に美味おいしそうで、僕は思わず生唾なまつばを飲み込む。
 そんな僕の横でミランダがまたしても心ないヤジを飛ばした。

「あんたみたいな暑苦しい女に24時間も張り付かれたら息がつまるっつうの! 寝る時まで見張られたらアルが落ち着いて眠れやしないじゃないの! それに毎日あんな大量の料理を食べてたら胸焼けするわよ!」

 ミランダのヤジにヴィクトリアはカッとなって怒りの声を上げた。

「うるっせえぞ! 寝る時はアタシがい寝してやるから心配すんなアルフレッド!」

 ブッ!
 い寝!
 それは逆に寝られません!

「エロ認定! 反則行為によりヴィクトリア失格!」

 またしてもブレイディーが赤旗あかはたを上げて、ヴィクトリアはあえなく失格になった。

「ふ、ふざけんなよ! い寝するだけだぞ! どこがエロいんだよ! ボディーガードの一環だろ!」

 怒りの声を上げるヴィクトリアに、ブレイディーはこめかみを指で押さえながら首を横に振る。

「ヴィクトリア。アリアナの失敗を見て学ばなかったのかい? どこの世界にベッドでい寝をするボディーガードがいるんだい。そんなことしたらアル君は目を血走らせて君にむしゃぶりつくぞ。彼が性衝動をガマンできるわけがないだろ」

 だから人聞き悪い!
 そんな無差別性欲マシンじゃないから!

「アルッ! あんた女なら誰でもいいわけ! いつからそんな煩悩ぼんのうの塊かたまりになったの!」
「イダダダ! なってない! なってないから!」

 イチイチ怒って僕のほほをつねるミランダだけど、ヴィクトリアはそれ以上にプンスカして壇上だんじょうからドシドシと降りていった。

 ☆★☆★☆★☆

「エントリーナンバー3番。ノアの出番だな」

 そう言うとノアはなぜか憤然ふんぜんとして壇上だんじょうに上がった。 

「まったくそなたらは、なっておらぬ。アリアナもヴィクトリアもアルフレッドのためなどと言いながら、結局はおのれのためではないか。けしからん。言っておくがノアは違うぞ」

 そう言うとノアは彼女の武器である蛇龍槍イルルヤンカシュを取り出した。

「今のアルフレッドに必要なのは快適な暮らしでもボディーガードでもない。おのれの強さを高めることだ。ノアが隣人りんじんになったあかつきには、毎日適正な武術指導をして、アルフレッドの武術の腕前を上げてみせる。それこそが真にアルフレッドのためになるというものだ」

 お……おおお。
 ノアがすっごくマジメなことを言っている。
 そしてそれは確かに僕のためを思って言ってくれたことだ。
 これにはさすがにミランダもヤジを飛ばせずに憮然ぶぜんとするばかりだ。
 ノアは満足げに腕を組むとさらにプレゼンを続けた。 

「それだけではないぞ。訓練で疲れた体に針治療はりちりょうほどこしてアルフレッドをいやしてやる」
針治療はりちりょう? ノア、そんなこと出来るの?」

 それは初耳だ。
 針治療はりちりょうってちょっと怖いけど体に良さそうだな。
 意外なノアの話におどろく僕の様子を見て、ニンマリした彼女は自分の牙を見せて得意気に言う。

「出来るぞ。この鋭い牙でカプッとな」

 ……ファッ?
 き、牙?
 牙で針治療はりちりょう

「そ……それ絶対僕を食べる気でしょ!」

 前々からノアはすきあらば僕を食料にしようとしていた。
 トレーニングで僕を疲れさせて食べる気だったのか!
 危うくだまされるところだった。

「ち、違うぞ! 食べたいのは山々だが、ノアはガマンする! そしてアルフレッドの体のあちこちにこの牙で針治療はりちりょうを……」
「エロ認定! 反則行為によりノア失格!」

 そこでブレイディーが高々と赤旗あかはたを振り上げてノアの失格を告げた。

「な、なせだ! どこがエロいというのだ!」
「いや、幼女にしか見えない君がアルフレッド君の全身に口で吸い付くとか、もう絵面えづらヤバいから。エロの中でも倫理に抵触ていしょくするヤバいエロだよ。失格失格!」

 そう言って赤旗あかはたをバサバサ振ると、ブレイディーは頭痛をこらえるようにこめかみを指で押さえる。

「何なんだ君たちは一体。欲求不満ガールズか」

 そしてミランダが今度は僕の耳を引っ張りながら怒鳴どなり声を上げた。

「ロリ! ノアにまで牙をむくつもりだったの! この変態!」

 いや、牙をむこうとしてたのはノアのほうだから!
 あと名前!

「ロリ君! それはさすがにダメだよ人として」
「社会的に死ぬ気か! ロリフレッド!」

 名前名前!
 僕の周りで騒ぎ立てる皆をよそに、ノアは悄然しょうぜんとして壇上だんじょうから降りていく。
 その様子をつかれた顔で見送りながらブレイディーが言った。

「3人失格だから、これもう自動的にジェネットの優勝だね。アル君のとなりの部屋はジェネットが借りるってことでいいかい」

 そう言ったブレイディーだけど、これをきっぱりと否定したのは当のジェネットだった。

「いえ。きちんと厳正な審査の上で優勝しなければ意味がないので」

 そう言うとジェネットは粛々しゅくしゅく壇上だんじょうに上がっていった。
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