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第四章 難攻不落! 絶対無敵の魔神
第10話 モンガラン運河
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ポイント・フォーに集まっていた王国軍の軍勢がモンガラン運河への後退を始めてから5分が経過していた。
僕とノアだけは人気の無くなった現場に残り、上空からアニヒレートの状態を見守っている。
先ほど全身を灰色に変化させて動きを止めたアニヒレートだけど、その巨体にいまだ見たことのない変化が生じ始めていた。
固まった状態のアニヒレートの肌に次々と亀裂が走り、それが広がっていく。
ピシピシッ!
固い岩が裂けるような音が絶え間なく響き渡った。
アニヒレートが唐突に硬化してからわずか1分少々でいきなり始まった奇妙な現象に、先ほど竜牙槍砲でアニヒレートの脳天を激しく削ったノアも戸惑いを隠せない。
「あれは何が起きておるのだ? 話に聞いていた睡眠状態か?」
「いや、睡眠なら数時間に及ぶはずだから、これは短すぎるよ。一体何が……」
そんな僕らの見つめる前で、ついにアニヒレートの体中に亀裂が及び、硬化した体毛がパキパキと音を立てて剥がれ落ちていく。
まるで建物の外壁が剥がれていくかのようにそれはバラバラと崩れ落ちていった。
ア、アニヒレートの体が……。
異様な光景に目を剥く僕の隣でノアが声を漏らした。
「あれは……脱皮だ」
「だ、脱皮?」
脱皮って蛇とかトカゲがする、あの脱皮?
熊が脱皮するなんて聞いたことはないけれど、ノアの見立てが正しいことに僕も気が付いた。
剥がれ落ちた体毛の下から新たな体毛が現れたんだ。
そして硬化していた体毛がすべて剥がれ落ちると、そこに艶のある新たな毛並みを持った、まっさらな状態のアニヒレートが現れたんだ。
「そ、そんな……」
脱皮したせいかアニヒレートの体は一回りサイズダウンしている。
それでもまだ体長100メートル以上は軽く超えているだろう。
「ゴアアアアッ!」
先ほどまで動かなかったアニヒレートは大きくひと吠えすると、前脚を地面について四足歩行の姿勢を取る。
そして次の瞬間、四本の脚で地面を走り出したんだ。
「えっ?」
その動きは先ほどまでとは違って早く、アニヒレートは猛烈な勢いで大地を駆けていく。
面食らって唖然とする僕の手をノアが引っ張った。
「ボサッとするな。追うぞ!」
僕らはアニヒレートを追って飛ぶ。
作戦の最初に第一飛行部隊が投網を行い、アニヒレートの体には鈍化の精霊魔法がかかっているはずだった。
あんなに速く走れるようになっているなんて……効果が切れたのか?
いや……。
「脱皮だ。脱皮したせいで体の表面にかけられていた魔法の効果も一緒に剥がれ落ちちゃったんだ」
「そういうことであったか。しかしあの速さでは、先ほど後退した部隊がすぐに追いつかれてしまうぞ」
そうだ。
魔獣使いや精霊魔術師で構成された混成部隊がポイント・ファイブに向けて後退中だ。
だけど彼らは蛇たちも一緒だから、馬で一気に戻るというわけにもいかず、すぐにアニヒレートに追い付かれてしまいそうだ。
そうなる前にアニヒレートの進路を変えないと。
僕はEライフルを手に懸命に飛び、回り込むようしてアニヒレートの眼前に躍り出ると、疾駆するアニヒレートの顔に向けて銀色の蛇を放った。
だけどそれは四足で猛然と走り続けるアニヒレートの顔に当たった瞬間、その毛の上を滑るようにスルリと後方へ弾かれてしまう。
こちらも全力で飛びながら、走り続けるアニヒレートに射撃を当てるのは簡単じゃない。
それから僕は幾度か射撃を行うも、銀色の蛇はアニヒレートに取りつくことが出来ずに弾かれて後方へと消えていく。
脱皮して生え変わった艶のある毛は、妙にスベスベしていて、こうして互いに高速で移動している状態だと、風の作用もあって蛇がアニヒレートの体表を滑ってしまう。
くそっ!
まずいぞ。
もう前方数百メートルのところに混成部隊の姿が見えてきた。
「止まらぬか!」
ノアが聖邪の炎をアニヒレートの顔面に吐きかけるけれど、アニヒレートは顔にそれを浴びても脚を止めない。
精霊魔法の網が消えたことで体にかかっていた重しが外れて、よほど気分がいいんだろう。
アニヒレートは一心不乱に駆け続けている。
【後方よりアニヒレート接近! 混成部隊はただちに左右へ散開せよ!】
作戦本部で情勢を見続けているブレイディーから通信が入り、混成部隊は左右に大急ぎで展開するけれど……すでに手遅れだった。
「ゴアアアアアアッ!」
僕らを振り切ったアニヒレートはそのまま混成部隊に突っ込んでいき、右に左にと大暴れをし始めた。
その太い前脚で次々と部隊の人たちや蛇たちを弾き飛ばしていく。
魔獣使いや精霊魔術師たちは蛇で応戦する間もなく、アニヒレートの振るう剛腕によってあっけなく命を落としていった。
主である精霊魔術師を失った精霊の蛇たちは姿を保てず消えていき、魔獣使いを失った生き物の蛇たちは散り散りに逃げ出していく。
混成部隊は完全に統率を失い、生き残った兵士たちが潰走し始めた。
「ああっ……」
アニヒレートは大きめの蛇を噛みちぎると、それを逃げ惑う兵士たちに叩きつける。
僕とノアは少しでも兵士たちを現場から逃そうと必死にアニヒレートの周囲を飛び回りながら攻撃を続けたけれど、先ほどまでとは違って機敏に動くアニヒレートに僕が射出する銀色の蛇は取りつくことが出来ずに振り落とされてしまう。
そうこうしている間に多くの兵士たちが犠牲となり、アニヒレートは気分を良くしたようで意気揚々とモンガラン運河の方向へ駆け出した。
多数の兵士たちがゲームオーバーを迎え、天に昇っていく光の粒子が月夜に眩く輝くのを僕は呆然と見上げて唇を噛む。
「皆を助けられなかった……」
遊撃任務を受けてアニヒレートを撹乱する役目を負っていた僕とノアだけど、結果としてポイント・フォーを突破されてしまった。
突破自体は想定内だったけれど、混成部隊があれだけ大きな被害を出してしまったことを僕は悔やんだ。
そんな僕の頭をポンポンと叩くのは同じく悔しい思いをしたはずのノアだ。
「仕方あるまい。それだけの敵を相手にしておるのだ。クヨクヨしても時間のムダだぞ。悔やむのは最終作戦が失敗に終わった後にせよ」
「ノア……そうだね」
僕らにはまだやれることが残っている。
次のポイント・ファイブこそが最も効果的にアニヒレートを封じ込められると信じて戦うのみだ。
遠ざかっていくアニヒレートの背中を追って僕らは飛び始めた。
ポイント・フォーでの作戦終了後、速やかに本部に戻る。
僕とノアは事前にそう決められていた通り、急いで作戦本部のあるモンガラン運河に向かった。
飛び始めてすぐにブレイディーからの現状報告が全部隊に通達される。
それによればこのポイント・フォーに展開していた混成部隊は、その8割近くの隊員がゲームオーバーに追い込まれてしまったということだ。
多くの人が命を落としたんだ。
それは本当に重い事実だった。
生き残った2割の隊員たちは、作戦前に会ったあの部隊長が筆頭に立って、残存する兵力を集めて負傷者を救助するなど事後処理に当たってくれているらしい。
すでに甚大な被害が出ているこの戦いだけど、作戦本部はまだアニヒレートの討伐をあきらめていない。
ポイント・フォーに展開していた部隊がアニヒレートの手によって壊滅すると、ブレイディーからの指示がより一層忙しくなる。
いよいよ最終ラインであるポイント・ファイブ、モンガラン運河でのアニヒレートとの戦いが始まろうとしていた。
僕とノアだけは人気の無くなった現場に残り、上空からアニヒレートの状態を見守っている。
先ほど全身を灰色に変化させて動きを止めたアニヒレートだけど、その巨体にいまだ見たことのない変化が生じ始めていた。
固まった状態のアニヒレートの肌に次々と亀裂が走り、それが広がっていく。
ピシピシッ!
固い岩が裂けるような音が絶え間なく響き渡った。
アニヒレートが唐突に硬化してからわずか1分少々でいきなり始まった奇妙な現象に、先ほど竜牙槍砲でアニヒレートの脳天を激しく削ったノアも戸惑いを隠せない。
「あれは何が起きておるのだ? 話に聞いていた睡眠状態か?」
「いや、睡眠なら数時間に及ぶはずだから、これは短すぎるよ。一体何が……」
そんな僕らの見つめる前で、ついにアニヒレートの体中に亀裂が及び、硬化した体毛がパキパキと音を立てて剥がれ落ちていく。
まるで建物の外壁が剥がれていくかのようにそれはバラバラと崩れ落ちていった。
ア、アニヒレートの体が……。
異様な光景に目を剥く僕の隣でノアが声を漏らした。
「あれは……脱皮だ」
「だ、脱皮?」
脱皮って蛇とかトカゲがする、あの脱皮?
熊が脱皮するなんて聞いたことはないけれど、ノアの見立てが正しいことに僕も気が付いた。
剥がれ落ちた体毛の下から新たな体毛が現れたんだ。
そして硬化していた体毛がすべて剥がれ落ちると、そこに艶のある新たな毛並みを持った、まっさらな状態のアニヒレートが現れたんだ。
「そ、そんな……」
脱皮したせいかアニヒレートの体は一回りサイズダウンしている。
それでもまだ体長100メートル以上は軽く超えているだろう。
「ゴアアアアッ!」
先ほどまで動かなかったアニヒレートは大きくひと吠えすると、前脚を地面について四足歩行の姿勢を取る。
そして次の瞬間、四本の脚で地面を走り出したんだ。
「えっ?」
その動きは先ほどまでとは違って早く、アニヒレートは猛烈な勢いで大地を駆けていく。
面食らって唖然とする僕の手をノアが引っ張った。
「ボサッとするな。追うぞ!」
僕らはアニヒレートを追って飛ぶ。
作戦の最初に第一飛行部隊が投網を行い、アニヒレートの体には鈍化の精霊魔法がかかっているはずだった。
あんなに速く走れるようになっているなんて……効果が切れたのか?
いや……。
「脱皮だ。脱皮したせいで体の表面にかけられていた魔法の効果も一緒に剥がれ落ちちゃったんだ」
「そういうことであったか。しかしあの速さでは、先ほど後退した部隊がすぐに追いつかれてしまうぞ」
そうだ。
魔獣使いや精霊魔術師で構成された混成部隊がポイント・ファイブに向けて後退中だ。
だけど彼らは蛇たちも一緒だから、馬で一気に戻るというわけにもいかず、すぐにアニヒレートに追い付かれてしまいそうだ。
そうなる前にアニヒレートの進路を変えないと。
僕はEライフルを手に懸命に飛び、回り込むようしてアニヒレートの眼前に躍り出ると、疾駆するアニヒレートの顔に向けて銀色の蛇を放った。
だけどそれは四足で猛然と走り続けるアニヒレートの顔に当たった瞬間、その毛の上を滑るようにスルリと後方へ弾かれてしまう。
こちらも全力で飛びながら、走り続けるアニヒレートに射撃を当てるのは簡単じゃない。
それから僕は幾度か射撃を行うも、銀色の蛇はアニヒレートに取りつくことが出来ずに弾かれて後方へと消えていく。
脱皮して生え変わった艶のある毛は、妙にスベスベしていて、こうして互いに高速で移動している状態だと、風の作用もあって蛇がアニヒレートの体表を滑ってしまう。
くそっ!
まずいぞ。
もう前方数百メートルのところに混成部隊の姿が見えてきた。
「止まらぬか!」
ノアが聖邪の炎をアニヒレートの顔面に吐きかけるけれど、アニヒレートは顔にそれを浴びても脚を止めない。
精霊魔法の網が消えたことで体にかかっていた重しが外れて、よほど気分がいいんだろう。
アニヒレートは一心不乱に駆け続けている。
【後方よりアニヒレート接近! 混成部隊はただちに左右へ散開せよ!】
作戦本部で情勢を見続けているブレイディーから通信が入り、混成部隊は左右に大急ぎで展開するけれど……すでに手遅れだった。
「ゴアアアアアアッ!」
僕らを振り切ったアニヒレートはそのまま混成部隊に突っ込んでいき、右に左にと大暴れをし始めた。
その太い前脚で次々と部隊の人たちや蛇たちを弾き飛ばしていく。
魔獣使いや精霊魔術師たちは蛇で応戦する間もなく、アニヒレートの振るう剛腕によってあっけなく命を落としていった。
主である精霊魔術師を失った精霊の蛇たちは姿を保てず消えていき、魔獣使いを失った生き物の蛇たちは散り散りに逃げ出していく。
混成部隊は完全に統率を失い、生き残った兵士たちが潰走し始めた。
「ああっ……」
アニヒレートは大きめの蛇を噛みちぎると、それを逃げ惑う兵士たちに叩きつける。
僕とノアは少しでも兵士たちを現場から逃そうと必死にアニヒレートの周囲を飛び回りながら攻撃を続けたけれど、先ほどまでとは違って機敏に動くアニヒレートに僕が射出する銀色の蛇は取りつくことが出来ずに振り落とされてしまう。
そうこうしている間に多くの兵士たちが犠牲となり、アニヒレートは気分を良くしたようで意気揚々とモンガラン運河の方向へ駆け出した。
多数の兵士たちがゲームオーバーを迎え、天に昇っていく光の粒子が月夜に眩く輝くのを僕は呆然と見上げて唇を噛む。
「皆を助けられなかった……」
遊撃任務を受けてアニヒレートを撹乱する役目を負っていた僕とノアだけど、結果としてポイント・フォーを突破されてしまった。
突破自体は想定内だったけれど、混成部隊があれだけ大きな被害を出してしまったことを僕は悔やんだ。
そんな僕の頭をポンポンと叩くのは同じく悔しい思いをしたはずのノアだ。
「仕方あるまい。それだけの敵を相手にしておるのだ。クヨクヨしても時間のムダだぞ。悔やむのは最終作戦が失敗に終わった後にせよ」
「ノア……そうだね」
僕らにはまだやれることが残っている。
次のポイント・ファイブこそが最も効果的にアニヒレートを封じ込められると信じて戦うのみだ。
遠ざかっていくアニヒレートの背中を追って僕らは飛び始めた。
ポイント・フォーでの作戦終了後、速やかに本部に戻る。
僕とノアは事前にそう決められていた通り、急いで作戦本部のあるモンガラン運河に向かった。
飛び始めてすぐにブレイディーからの現状報告が全部隊に通達される。
それによればこのポイント・フォーに展開していた混成部隊は、その8割近くの隊員がゲームオーバーに追い込まれてしまったということだ。
多くの人が命を落としたんだ。
それは本当に重い事実だった。
生き残った2割の隊員たちは、作戦前に会ったあの部隊長が筆頭に立って、残存する兵力を集めて負傷者を救助するなど事後処理に当たってくれているらしい。
すでに甚大な被害が出ているこの戦いだけど、作戦本部はまだアニヒレートの討伐をあきらめていない。
ポイント・フォーに展開していた部隊がアニヒレートの手によって壊滅すると、ブレイディーからの指示がより一層忙しくなる。
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