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第四章 難攻不落! 絶対無敵の魔神

第8話 蛇の祭典

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「ゴアアアアアッ!」

 ポイント・フォーに現れたアニヒレートは大きくえた。
 その声はこの世界の果てまで届いているのではないかと思うほど空気を震わせ、僕はオナカに力を入れてそれに耐える。
 カメラ越しではなく実際にこの目で見るアニヒレートの姿はあまりにも巨大だった。
 アニヒレートから見れば人なんてアリも同然だろう。

 僕とノアは月光に照らされた空を舞いながら、アニヒレートと一定の距離を保つ。
 その距離わずか200メートルといったところか。
 僕らは空間歪曲わいきょくシステムを使うことは出来ないので、もしアニヒレートが光弾を吐き出してくるなら、事前にいち早く察知して回避行動に入るしかない。
 集中しないと。

 僕らの周囲には獣人つばめ族で構成された第二飛行部隊も飛んでいる。
 彼らは僕らをサポートするべく、アニヒレートの注意を引く役目についてくれているんだ。
 さらに彼らとは別に獣人はやぶさ族の第一飛行部隊がひときわ高い上空で旋回せんかいしている。
 そんな彼らの中心には一頭の大きな飛竜が飛んでいた。

 僕や神様を王都からシェラングーンまで運んでくれたあの飛竜だ。
 飛竜はその脚にワイヤーを巻かれていて、そのワイヤーで大きなあみを吊り下げていた。
 そのあみの中には大小さまざまなへびたちが無数にウネウネとうごめいている。
 とても気持ち悪い光景だ。
 そして今から起きる出来事を考えるとさらに気味が悪くなる。

 飛竜がちょうどアニヒレートの頭上に差し掛かったその時、空中で第一飛行部隊の兵士がワイヤーを刃物で切ったんだ。
 するとあみがアニヒレートの頭の上に落ち、中に入っていたへびたちが一斉にアニヒレートの体にまとわりつく。
 ひぃぃぃっ!
 もし僕がアニヒレートだったらそんな悲鳴を上げていただろう。
 見ているだけで悪寒が走り、鳥肌が立つ。

「ギアアアアッ!」

 どうやらアニヒレートも僕と同じように感じているらしい。
 明らかにそれまでとは違う甲高い声を出して、体にまとわりつくへびたちを振り払い始めた。
 やっぱりそうだ。
 確かにアニヒレートはへびを嫌がっている。
 自分の体が傷付くのも構わずに前脚のつめへびたちを攻撃していることからも、それは明らかだった。

 そしてそれによってアニヒレートのライフは100、200と大きく減っていく。
 地上ではここがチャンスとばかりに精霊魔術師たちが大蛇だいじゃの精霊を召喚し、魔獣使いたちが各々自慢のへびの魔物をけしかける。
 そうしたへびたちはアニヒレートの後ろ脚にまとわりついて、その毛並みの中を上へ上へとい上がっていく。

「ゴアアアアッ!」

 アニヒレートは半狂乱となり、四つんいになる。
 そのアニヒレートの背中をねらってノアが口から得意のブレスを吐いた。

聖邪の炎ヘル・オア・ヘヴン!」

 白と黒の混ざり合った炎がアニヒレートの背中を焼く。
 もちろんその毛並みは強く、簡単に燃えたりしない。
 だけどノアに続いて第二飛行部隊がアニヒレートの背中に次々と炸裂弾を投げ落とした。
 それらはノアのブレスに巻き込まれてアニヒレートの背中の上で激しく爆発した。

「グガァァァァァッ!」

 アニヒレートのライフが着実に減っていく。
 それも先ほどまでの火矢や魔法攻撃よりも効果的にアニヒレートのライフを50、60と減らしてくれる。

「やった!」

 僕は歓声を上げ、ブレスを吐き終えたノアは傲然ごうぜんと胸を張った。
 神様がホンハイで行った実験によって分かったのは、アニヒレートがへびを嫌うということばかりではなかった。
 へびの攻撃を受けている間、アニヒレートは防御力や動きの速さが25%ほど低下してしまうんだ。
 だからその間はこちらの攻撃も効きやすい。
 要するにへびを嫌がっている今が攻撃のチャンスってことだ。

 ノアは再びブレスを吐き始め、第二飛行部隊に続いて第一飛行部隊も爆弾攻撃を背中に集中させる。
 当のアニヒレートは背中を焼かれながらも、自分の前後の脚にからみ付くへびたちを排除するのに躍起やっきになっていた。
 へびたちのうち、大きな個体はアニヒレートのつめに引き裂かれて息絶えたり、小さな個体は遠くへ弾き飛ばされたりしている。

 だけどへびの数は多く、数百匹にも上るため、アニヒレートもすぐに全てを排除することは出来ずにいた。
 よくこれだけ多くのへびの魔物を集められたものだ。
 作戦名通り、まさしく蛇の祭典スネーク・カーニバルだった。

「アルフリーダ。そろそろそなたの出番だぞ」

 ひと通りブレスでの攻撃を終えたノアのその言葉に、僕は銀の蛇剣タリオを銃形態であるEライフルへと変化させた。
 緊張で心臓が早鐘はやがねを打っているのが分かる。
 僕は口を真一文字に引き結んでノアにうなづくと、Eライフルを手に宙をけた。

 そして四つんいになってへびを払い落とそうと体を震わせるアニヒレートの顔の真正面に陣取った。
 アニヒレートにここまで接近すると、その高い体温のせいでかなりの熱さを感じる。
 そしてその口かられる吐息はとてもげ臭かった。
 何度も光弾を吐き出してきたその口には鋭い牙が並んでいて、見るだけで恐ろしい。

 万が一この至近距離で光弾を浴びせられたら、僕の体なんか一瞬で消滅してしまうだろう。
 僕は死のふちに立っているようで怖気おじけづきそうになる自分の心を必死にふるい立たせ、Eライフルを構えた。 
 そんな僕を援護すべくノアがアニヒレートの顔にブレスを吹きかける。

聖邪の炎ヘル・オア・ヘヴン!」
「ゴフッ!」

 白と黒の炎を眉間みけんに浴びて、たまらずにアニヒレートが口を開けた。
 僕はその瞬間をねらってEライフルを放ったんだ。

「いけえっ!」

 銃口から放たれた銀色の光のへびがアニヒレートの口の中に飛び込んだ。
 そのまま銀色のへびはアニヒレートののどの奥へとすべり込んでいく。
 その途端とたん、アニヒレートが目を白黒させ始めた。
 そして苦しげに口を開くと、飲み込んだへびを吐き出そうとする。

「ゴフッ! ガッ……」

 僕はそこにさらに追い打ちをかけるようにEライフルを放つ。
 連射は出来ない設計だけど、二射目のへびはアニヒレートの口に入り込むとその舌に牙を立てて喰らいついた。

「ウゴォッ!」

 とうとうアニヒレートは地面に顔を打ち付けるようにして倒れ込み、まるで駄々っ子のようにその場でゴロゴロと転がって暴れ出したんだ。
 その巨体にまとわりついていたへびたちは次々と振り落とされてしまう。
 中には無残にも押しつぶされてしまったへびもいた。
 
「退避! 待避せよ!」

 兵士たちが口々にそう叫び、転げ回るアニヒレートから距離を取る。
 僕とノアもすぐにその場から離脱した。
 あれだけの巨体に巻き込まれて下敷したじきにでもなったりしたら、一巻の終わりだ。
 だけど、そうして転げ回るアニヒレートは上空からは格好の的となり、第一および第二飛行部隊からの爆撃が雨あられと降り注ぐ。

 防御が弱まった状態のアニヒレートのライフは、いよいよ80000を切ろうとしていた。
 まだまだ先は長いけれど、それでもあの強大なアニヒレートをここまで痛めつけたんだ。
 僕らは無力なんかじゃない。

「グオオオオッ!」

 暴れ回るアニヒレートの動きが徐々に落ち着きを取り戻し始め、巨大なくまの魔物は再び起き上がろうとしていた。
 僕の放った銀のへびはアニヒレートの口の中から体内に入り込んで、あちこちにみついて攻撃してくれたんだろう。
 だけど銀のへびは数分と持たずに消えてしまう。
 だからこの攻撃は何度も続けなければならない。

 そうなるとアニヒレートが次に出る行動は今分かっている限りでも2パターン。
 ひとつは全身を赤く高熱化させて巨大な爆発火球を吐き出す。
 もうひとつは……。

【高熱のきりが来る! 精霊魔術師は風向きの変化に努めよ!】

 ブレイディーからの通達が全軍に届く。
 そう。
 先ほどポイント・スリーでも見せたように、アニヒレートはそのしりから赤い高熱のきりを放出し始めたんだ。 

 高熱の赤いきりが広がり、アニヒレートの体に今もまとわりついているへびたちは熱にやられて次々と命を落としていく。
 一方、精霊魔術師たちが召喚したへびの精霊たちは実体を持っているけれど、生き物のへびよりは熱に強いらしく、きりの中でも動いていた。
 だけどきりで視界が悪い中、そのへびの精霊たちも動き出したアニヒレートに次々と引き裂かれて消えていく。
 こ、これは良くない流れだ。

 精霊魔術師たちは風の精霊を呼び出して向かってくる赤いきりを風で吹き飛ばすのに精一杯で、へびの制御にまで手が回らない。
 せっかくへびでアニヒレートにひと泡吹かせたのに、ここで流れを止めちゃダメだ。
 僕がそう思ったその時だった。

「だっせえなオイ。三下どものへびはもう役立たずか?」

 響き渡ったのはキーラの声だ。
 空中を飛べないはずの彼女は、僕の数十メートル先、空中に浮かんでいる僕と同じくらいの目線の高さに立っていた。
 それもそのはずだ。
 おどろくべきことに彼女は、アニヒレートに負けないくらい巨大なへびの頭の上に立っていたんだ。
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