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第二章 リモート・ミッション・β
第1話 アバター妖精
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「尖塔が一本でも残されていたのが不幸中の幸いだったな」
神様は窓から見える眺めの良い景色を見つめながら、満足げにそう言った。
神様と僕は今、隕石の衝突とそこから生まれた破壊獣アニヒレートによって半壊に追い込まれた王城にいた。
正確には4本の尖塔のうち唯一、破壊を免れた東の尖塔の最上階だ。
普段は監視役の衛兵が交代で詰めている場所だけど、今は人払いされて僕と神様の2人だけだ。
「ここを我らの司令塔とする。この街で一番高い場所だからな」
これから僕らの行う作戦のために、僕と仲間たち、そして神様の率いる組織・懺悔主党の人たちは全部で3つのチームに分かれた。
すでにミランダとアリアナを含めたチームαはアニヒレートを追って北へ、ジェネットとヴィクトリア、ノアを含めたチームβはアナリンを追って南へとそれぞれ出発していった。
そしてチームαには補佐役としてエマさん、βにはブレイディーがそれぞれ同行している。
僕と神様の居残り組はこの司令塔に残り、ここからそれぞれのチームに指示を出すことになる。
「さて、さっそくアバター妖精の具合を確かめてみるか」
そう言って神さまが手をパンパンと叩くと、司令室の扉の外から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「はいは~い」
入って来たのは、まだあどけさなの残る獣人犬族の少女だった。
「アビー!」
クリーム色の頭髪の間から生えた犬のような耳と、腰の下辺りから垂れるミルクティーのような柔らかい色のフワフワとしたシッポが特徴的なその少女は獣人アビー。
懺悔主党のメンバーであり、ジェネットたちとも親しい少女だった。
僕も以前に一緒に旅をしたことがある。
彼女は今の僕の姿を見て、目を丸くしてすっとんきょうな声を上げた。
「うひぃ~。事前に写真では見ましたけど、アルフレッド様は本当に女の子になったんですねぇ~。新鮮な驚きですぅ~」
「しゃ、写真?」
「これです~」
そう言ってアビーが差し出したのは、さっき野営テントの下で行われていた神様の作戦会議に参加している僕の横顔だった。
「い、いつの間に……」
「ブレイディーさんからもらったのです~」
隠し撮りか!
あのメガネッ娘科学者め!
「でもアルフリーダ様になっても、素朴な優しい雰囲気は変わらなくて、アビーは好きですよ~」
「ありがとうアビー。君とジェネットだけだよ。懺悔主党のメンバーで僕をからかわないのは」
思わず感動してアビーの頭をヨシヨシと撫でると、彼女は気持ち良さそうに目を細めてシッポをパタパタと振る。
こういうところは基本、犬っぽいんだよね。
そこがアビーのかわいいところだよ。
「アビー。例の物をアルフリーダに」
「かしこまりました~」
そう言うとアビーはアイテム・ストックから金色と銀色のVRゴーグルを取り出した。
VRゲームをするときにかぶるアレだ。
僕は2つのそれを両手に受け取った。
「それをかぶってログインすれば、おまえの意識は先ほどの妖精たち元へと飛んでいく。金と銀、どちらから試す?」
金の妖精ははジェネットたちチームβ、銀の妖精はミランダたちチームαが持っている。
神様の問いに僕は即答した。
「まずは銀、チームαですね。ミランダからさっさと顔を出すように言われていますし」
「ハッハッハ。後でやいのやいの言われてはかわなぬものな。家来の鏡だ」
家来の鏡……バカにされてる気がするぞ。
嬉しくない!
神様の言葉にアビーまでもが追随して笑う。
「アルフリーダ様は従順な犬なのです~」
前言撤回!
僕をからかわないのはジェネットだけ!
「まったくもう……」
僕は嘆息しながら銀色のVRゴーグルをかけた。
するとログイン画面が表示され、僕は神様の指示に従ってIDとパスワードを入力してログインを完了する。
すぐにゴーグルの中で視界が開けた。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「うわっ!」
僕は思わず驚いて声を上げてしまった。
なぜならすぐ目の前にミランダの顔が映っていたからだ。
それも超至近距離から、どアップで。
「アル?」
僕は今、ミランダが両手で作ってくれた足場の上に立っていた。
「うん。僕だよ。っていうかミランダ近いよ」
ミランダはすぐ近くで食い入るように僕を見据えている。
今は鷹と同じくらいの大きさの妖精の姿だから、いつもの僕自身で見ている時よりミランダがかなり大きく見える。
近すぎて今にも食べられてしまいそうだ。
「どうなの? その姿になってみて」
「うん。まだよく分からないけど、でも目も普通に見えるし、耳も問題なく聞こえる。風の匂いや肌に当たる感覚も分かるよ」
そう言うと僕は自分の腕や足に目を落とす。
容姿のベースはアルフリーダだけど、妖精としてカスタマイズされているから、着ているのはドレスのような服装だ。
ちょ、ちょっと恥ずかしいな。
そう思いながら僕は羽を動かして宙に浮かんでみる。
するとスンナリと空中に浮かんで静止することが出来た。
今までもブレイディの薬で鳥に変身して飛んだり、天樹の衣を使って飛行したりしたから、飛ぶという感覚は何となく分かってきている。
でも妖精になった今の浮遊感は今までに感じたことがないほど軽やかだった。
羽なんかほとんど動かさなくても自由自在に空中を舞える。
僕がクルクルと舞う姿を見ながらミランダの隣で複雑そうな顔をしているのはアリアナだ。
「か、かわいいけど何だかどんどんアル君からかけ離れていくね」
「そうでもないわよアリアナ。ほら見なさい。この地味な顔を。妖精になってもアルはアルね。キング・オブ・地味よ」
くっ!
何て嬉しくないキングなんだ。
「と、とにかくこれで少しは皆の役に立てればいいんだけど」
そこで僕の視界の中に神様からのメッセージが表示される。
それは僕にだけ見ることの出来る視界の中のコマンド・ウインドウだった。
【アルフリーダ。そのままログイン状態で少しの間ミランダたちと共に行動してくれ。まずはその状態に慣れるんだ】
【分かりました。神様】
神様への返信は頭の中で念じるだけで出来るのか。
すごく便利だな。
【ちなみにこちら側に映るいくつかの映像の中には、おまえの視点のカメラがあるからな。ミランダたちをエロイ目で見ていたらすぐにバレるから注意しろ】
【そ、そんな目で見ませんから!】
便利すぎて困る!
こ、これはヤバイ。
注意せねば後で絶対神様にからかわれる。
「さあ、グズグズしてないでとっとと熊を追うわよ」
そう言うミランダたちが乗り込むのは馬車ではなかった。
「これは?」
「魔力気球だよ。アル君。乗ったことない?」
目の前の野原に用意されていたのは、人が10人は乗れるであろう大きめのゴンドラと、この上にワイヤーで繋がって浮かんでいる白いバルーンだ。
「うん。これが気球かぁ。遠くを飛んでいるのは見たことあるけど、こんなに近くで見たのは初めてだよ」
もちろん乗ったことなんてない。
この気球はゴンドラの真ん中に魔力炉が設置されていて、そこに魔力を供給することでエネルギーを生み出して浮上する仕組みらしい。
「今回はこれで移動するのよ。アルフリーダちゃん」
そう言っていち早くゴンドラの中へ乗り込んで行くのはエマさんだ。
「北部に向かう道は丘陵地帯から山岳地帯を越えていく道のりなの。馬車じゃ時間がかかり過ぎるから、このほうが賢いわねぇ」
なるほど。
平原を進むよりも隆起した大地を進む方が、アニヒレートの歩みも自然と遅くなる。
その間に僕らは空路で追いつこうってことだね。
チームαは僕を除けば全部で8人。
ミランダ、アリアナ、エマさんの3人と懺悔主党の戦闘員が5人。
5人の戦闘員は全員が男性で、2人の魔道弓手、2人の神官、1人の精霊魔術師という遠距離攻撃部隊で構成されている。
そして気球を動かす専門の魔道士が2人。
総勢10人で乗り込んだゴンドラの中は思いのほか広く、ゆったりとしたソファーが人数分用意されていた。
さらにゴンドラの中は炎の魔力が浸透しているのか、ほんのりと温かい。
これなら北の空に向けた長時間の空路移動も苦にならなさそうだ。
「私1人なら飛んでいけば早いけど、さすがに距離が長いわね」
そう言うミランダの隣に乗り込んだアリアナが意気込んで言う。
「アニヒレートと戦うまで体力と魔力を温存しとかないといけないからね」
アニヒレートが向かっているという北部都市ダンゲルンはアリアナにとって生まれ故郷だ。
王都のような惨状を故郷にもたらしたくはないというのは当然の心理だよね。
「さあ。熊退治に出発よ!」
威勢のいいミランダの声を合図にしたかのように、操作役の魔道士2人が魔力炉に魔力を供給し、気球がフワリと浮かび上がる。
さあ、アニヒレートを追うぞ。
僕はミランダが座るソファーの背もたれに腰を降ろし、上空の雲が徐々に近付いて来る様子を見守った。
神様は窓から見える眺めの良い景色を見つめながら、満足げにそう言った。
神様と僕は今、隕石の衝突とそこから生まれた破壊獣アニヒレートによって半壊に追い込まれた王城にいた。
正確には4本の尖塔のうち唯一、破壊を免れた東の尖塔の最上階だ。
普段は監視役の衛兵が交代で詰めている場所だけど、今は人払いされて僕と神様の2人だけだ。
「ここを我らの司令塔とする。この街で一番高い場所だからな」
これから僕らの行う作戦のために、僕と仲間たち、そして神様の率いる組織・懺悔主党の人たちは全部で3つのチームに分かれた。
すでにミランダとアリアナを含めたチームαはアニヒレートを追って北へ、ジェネットとヴィクトリア、ノアを含めたチームβはアナリンを追って南へとそれぞれ出発していった。
そしてチームαには補佐役としてエマさん、βにはブレイディーがそれぞれ同行している。
僕と神様の居残り組はこの司令塔に残り、ここからそれぞれのチームに指示を出すことになる。
「さて、さっそくアバター妖精の具合を確かめてみるか」
そう言って神さまが手をパンパンと叩くと、司令室の扉の外から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「はいは~い」
入って来たのは、まだあどけさなの残る獣人犬族の少女だった。
「アビー!」
クリーム色の頭髪の間から生えた犬のような耳と、腰の下辺りから垂れるミルクティーのような柔らかい色のフワフワとしたシッポが特徴的なその少女は獣人アビー。
懺悔主党のメンバーであり、ジェネットたちとも親しい少女だった。
僕も以前に一緒に旅をしたことがある。
彼女は今の僕の姿を見て、目を丸くしてすっとんきょうな声を上げた。
「うひぃ~。事前に写真では見ましたけど、アルフレッド様は本当に女の子になったんですねぇ~。新鮮な驚きですぅ~」
「しゃ、写真?」
「これです~」
そう言ってアビーが差し出したのは、さっき野営テントの下で行われていた神様の作戦会議に参加している僕の横顔だった。
「い、いつの間に……」
「ブレイディーさんからもらったのです~」
隠し撮りか!
あのメガネッ娘科学者め!
「でもアルフリーダ様になっても、素朴な優しい雰囲気は変わらなくて、アビーは好きですよ~」
「ありがとうアビー。君とジェネットだけだよ。懺悔主党のメンバーで僕をからかわないのは」
思わず感動してアビーの頭をヨシヨシと撫でると、彼女は気持ち良さそうに目を細めてシッポをパタパタと振る。
こういうところは基本、犬っぽいんだよね。
そこがアビーのかわいいところだよ。
「アビー。例の物をアルフリーダに」
「かしこまりました~」
そう言うとアビーはアイテム・ストックから金色と銀色のVRゴーグルを取り出した。
VRゲームをするときにかぶるアレだ。
僕は2つのそれを両手に受け取った。
「それをかぶってログインすれば、おまえの意識は先ほどの妖精たち元へと飛んでいく。金と銀、どちらから試す?」
金の妖精ははジェネットたちチームβ、銀の妖精はミランダたちチームαが持っている。
神様の問いに僕は即答した。
「まずは銀、チームαですね。ミランダからさっさと顔を出すように言われていますし」
「ハッハッハ。後でやいのやいの言われてはかわなぬものな。家来の鏡だ」
家来の鏡……バカにされてる気がするぞ。
嬉しくない!
神様の言葉にアビーまでもが追随して笑う。
「アルフリーダ様は従順な犬なのです~」
前言撤回!
僕をからかわないのはジェネットだけ!
「まったくもう……」
僕は嘆息しながら銀色のVRゴーグルをかけた。
するとログイン画面が表示され、僕は神様の指示に従ってIDとパスワードを入力してログインを完了する。
すぐにゴーグルの中で視界が開けた。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「うわっ!」
僕は思わず驚いて声を上げてしまった。
なぜならすぐ目の前にミランダの顔が映っていたからだ。
それも超至近距離から、どアップで。
「アル?」
僕は今、ミランダが両手で作ってくれた足場の上に立っていた。
「うん。僕だよ。っていうかミランダ近いよ」
ミランダはすぐ近くで食い入るように僕を見据えている。
今は鷹と同じくらいの大きさの妖精の姿だから、いつもの僕自身で見ている時よりミランダがかなり大きく見える。
近すぎて今にも食べられてしまいそうだ。
「どうなの? その姿になってみて」
「うん。まだよく分からないけど、でも目も普通に見えるし、耳も問題なく聞こえる。風の匂いや肌に当たる感覚も分かるよ」
そう言うと僕は自分の腕や足に目を落とす。
容姿のベースはアルフリーダだけど、妖精としてカスタマイズされているから、着ているのはドレスのような服装だ。
ちょ、ちょっと恥ずかしいな。
そう思いながら僕は羽を動かして宙に浮かんでみる。
するとスンナリと空中に浮かんで静止することが出来た。
今までもブレイディの薬で鳥に変身して飛んだり、天樹の衣を使って飛行したりしたから、飛ぶという感覚は何となく分かってきている。
でも妖精になった今の浮遊感は今までに感じたことがないほど軽やかだった。
羽なんかほとんど動かさなくても自由自在に空中を舞える。
僕がクルクルと舞う姿を見ながらミランダの隣で複雑そうな顔をしているのはアリアナだ。
「か、かわいいけど何だかどんどんアル君からかけ離れていくね」
「そうでもないわよアリアナ。ほら見なさい。この地味な顔を。妖精になってもアルはアルね。キング・オブ・地味よ」
くっ!
何て嬉しくないキングなんだ。
「と、とにかくこれで少しは皆の役に立てればいいんだけど」
そこで僕の視界の中に神様からのメッセージが表示される。
それは僕にだけ見ることの出来る視界の中のコマンド・ウインドウだった。
【アルフリーダ。そのままログイン状態で少しの間ミランダたちと共に行動してくれ。まずはその状態に慣れるんだ】
【分かりました。神様】
神様への返信は頭の中で念じるだけで出来るのか。
すごく便利だな。
【ちなみにこちら側に映るいくつかの映像の中には、おまえの視点のカメラがあるからな。ミランダたちをエロイ目で見ていたらすぐにバレるから注意しろ】
【そ、そんな目で見ませんから!】
便利すぎて困る!
こ、これはヤバイ。
注意せねば後で絶対神様にからかわれる。
「さあ、グズグズしてないでとっとと熊を追うわよ」
そう言うミランダたちが乗り込むのは馬車ではなかった。
「これは?」
「魔力気球だよ。アル君。乗ったことない?」
目の前の野原に用意されていたのは、人が10人は乗れるであろう大きめのゴンドラと、この上にワイヤーで繋がって浮かんでいる白いバルーンだ。
「うん。これが気球かぁ。遠くを飛んでいるのは見たことあるけど、こんなに近くで見たのは初めてだよ」
もちろん乗ったことなんてない。
この気球はゴンドラの真ん中に魔力炉が設置されていて、そこに魔力を供給することでエネルギーを生み出して浮上する仕組みらしい。
「今回はこれで移動するのよ。アルフリーダちゃん」
そう言っていち早くゴンドラの中へ乗り込んで行くのはエマさんだ。
「北部に向かう道は丘陵地帯から山岳地帯を越えていく道のりなの。馬車じゃ時間がかかり過ぎるから、このほうが賢いわねぇ」
なるほど。
平原を進むよりも隆起した大地を進む方が、アニヒレートの歩みも自然と遅くなる。
その間に僕らは空路で追いつこうってことだね。
チームαは僕を除けば全部で8人。
ミランダ、アリアナ、エマさんの3人と懺悔主党の戦闘員が5人。
5人の戦闘員は全員が男性で、2人の魔道弓手、2人の神官、1人の精霊魔術師という遠距離攻撃部隊で構成されている。
そして気球を動かす専門の魔道士が2人。
総勢10人で乗り込んだゴンドラの中は思いのほか広く、ゆったりとしたソファーが人数分用意されていた。
さらにゴンドラの中は炎の魔力が浸透しているのか、ほんのりと温かい。
これなら北の空に向けた長時間の空路移動も苦にならなさそうだ。
「私1人なら飛んでいけば早いけど、さすがに距離が長いわね」
そう言うミランダの隣に乗り込んだアリアナが意気込んで言う。
「アニヒレートと戦うまで体力と魔力を温存しとかないといけないからね」
アニヒレートが向かっているという北部都市ダンゲルンはアリアナにとって生まれ故郷だ。
王都のような惨状を故郷にもたらしたくはないというのは当然の心理だよね。
「さあ。熊退治に出発よ!」
威勢のいいミランダの声を合図にしたかのように、操作役の魔道士2人が魔力炉に魔力を供給し、気球がフワリと浮かび上がる。
さあ、アニヒレートを追うぞ。
僕はミランダが座るソファーの背もたれに腰を降ろし、上空の雲が徐々に近付いて来る様子を見守った。
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