4 / 87
第一章 破壊獣とサムライ・ガール
第3話 大混乱の市街地
しおりを挟む
「オオオオオオオン!」
巨大な熊の姿をした破壊獣アニヒレートの雄叫びがビリビリと空気を震わせる。
15メートルを越えるその巨体を誇るアニヒレートは王城をあらかた破壊すると、城壁へと突入して城下町への侵入を図ろうとしていた。
そんなアニヒレートの頭上を3つの人影が飛び回っているのが見える。
ミランダとジェネット、そしてノアの3人だ。
彼女たちは得意の魔法やブレスを使ってアニヒレートを攻撃しているけれど、アニヒレートの黒と赤の毛並みはこうした攻撃に対する耐性が非常に強いらしく、あまり大きなダメージを与えられていない。
しかも表示されているアニヒレートのライフゲージの数値は99999と、普通のキャラクターの最大値である999の100倍だ。
そのライフゲージの下には【irreversible & irrecoverable】と記されていて、アニヒレートのライフが不可逆的であり、減った分を回復することは出来ないという説明が記されている。
それにしたって99999って……。
あ、あんなの普通に戦ってたら倒せっこないぞ。
ミランダ達の奮闘も虚しくアニヒレートの進行は止まらず、巨大な熊の化け物は悠然と城壁へ侵攻していく。
まずいぞ。
このままじゃアニヒレートが城下町に突入してしまう。
「やばいよアル君! アニヒレートが……」
「い、急がないと!」
僕とアリアナ、そしてヴィクトリアの3人は大通りを街の中心部に向かって進んでいく。
僕らとは反対に中心部から逃げて来ている人たちが、逆行する僕らを見て顔をしかめ、怒りの声を上げた。
「邪魔だよ! どいてくれ!」
逃げている人たちは皆一様に必死の顔で、我先にと道を急いでいる。
今は誰もがゲームオーバーの脅威にさらされているんだから、殺気立つのも当然だよね。
でも、今ここを逃げている人たちは大丈夫。
大混雑しているけど、この大通りをそのまま真っすぐ進めばやがて大門に突き当たり、そこから街の外へ避難できるから。
城下町をぐるりと取り囲む市壁の外へ出られれば、後はどの方角へも逃げられる。
心配なのは入り組んだ市街地にいる人たちだ。
そっちは細い路地が多く、住宅街だから住人も多い。
全員が逃げ出すのには時間がかかってしまうだろう。
この城下町が街の中心部に向かうほど道が細分化されていく造りになっているのは、外敵に攻め込まれた時に王城へ辿り着く敵兵の流れを細分化するための工夫だった。
それが今は仇になってしまっている。
街のど真ん中に位置する王城で暴れているアニヒレートは、王城を破壊しながら街の東側へ向かおうとしている。
その方面の住人たちをすぐにでも逃がさないと、多くの犠牲者が出てしまう。
焦る気持ちに急かされて早足に歩こうとする僕だけど、街の中心に近付くほどに道は細く細分化され、人波の密度は高くなっていく。
前方から僕らにかかってくる圧力は強まる一方だ。
他人を押しのけてでも必死に逃げようとしている彼らからすれば、逆行してくる僕らは邪魔者でしかない。
皆、殺気立って僕らを押し飛ばそうとする。
ジェネットが心配していたのはこれだ。
だけどそんな僕の前に立って人波を押し返してくれたのはヴィクトリアだ。
「どけどけぇ!」
ヴィクトリアは押し寄せてくる人波をものともせずに押し返していく。
大柄な彼女の迫力に恐れをなしたのか、まるで波が岩にぶつかって2つに割れるかのように、人々は左右に分かれていった。
そこからはヴィクトリアのおかげで僕らは苦もなく街中を進んでいき、街の中心部が近付いてきた。
この辺りにある住宅街は細い路地が多く、壁と壁の間を人々がぎゅうぎゅう詰めになりながら必死に避難しようとしていた。
怒声や悲鳴、子供の泣き声が渦巻き、そこはこれまでになく恐慌状態に陥っている。
これじゃ誘導しようにも僕らの声は騒音にかき消されてしまうだろう。
「早く皆を大通りに逃がさなきゃならないのに……」
焦って僕が声を漏らすと、ヴィクトリアが近くの壁を拳でゴツンと叩いた。
「壁が邪魔だな。取っ払っちまおう」
そう言うとヴィクトリアは人混みをかき分けて路地の中をズンズン進んでいき、路地の行き止まりに突き当たるとそこで足を止めた。
ど、どうするつもりなんだ?
人の流れは少し手前の曲がり角のところに殺到しているので、この突き当たりまではやって来ない。
ここだけがエア・ポケットのようにポッカリと無人だった。
僕とアリアナはようやく圧迫感から解放されて息をつく。
「ふぅ。ねえヴィクトリア。壁を取り払うって一体どういうこと?」
「こいつで邪魔な壁をぶっ壊して通路を作るんだ」
そう言うとヴィクトリアはアイテム・ストックから自慢の両手斧である嵐刃戦斧を取り出す。
「アリアナ。壁の向こう側に誰もいないか見といてくれ。巻き添えを食う不運な奴がいるかもしれねえからな」
そういうことか。
ヴィクトリアらしい力技だけど、今はとても有効かもしれない。
アリアナが身軽にジャンプして壁の上に上がり、向こう側を確認すると声を弾ませて言った。
「ひ、人がいないどころか、この向こう側、川原になってるよ。ここを通れば一気に大門へ行けるんじゃないかな」
そうか。
城下町には北から南へと街中を流れていく川があった。
その川原に沿っていけば、必然的に街の外にたどり着くんだ。
しかも川原なら十分にスペースもあるし、大勢が移動するのにちょうどいい。
「よしアリアナ。巻き込まれないようにどいてな。アルフレッドも下がってろ。壁の破片が飛び散るぜ」
そう言うとヴィクトリアは嵐刃戦斧を振り上げ、気合いの声と共にそれを豪快に振り下ろした。
彼女が振り下ろす斧の威力はすさまじく、またたく間に壁は粉砕される。
そしてそこに道が作られる。
その向こう側には広々とした川原の景色が広がっていた。
「こんなもんか」
ヴィクトリアは鎧についた埃を手で払って斧を肩に担ぐと、白い歯を見せて快活な笑みを浮かべる。
砕け散った壁の破片を思い切りその身に浴びたのに、まったくダメージを受けることもなくヴィクトリアはピンピンしていた。
鎧を来ているとはいえ、彼女の肉体の強さは筋金入りだ。
「よし。アルフレッド。住民たちを呼び込め」
僕は頷いて大声で街の人たちを呼んだ。
ヴィクトリアの行動が功を奏し、狭い路地で押し合いへし合いしていた街の人たちは一気に広い川原になだれ込み、そこから大移動が始まったんだ。
それからヴィクトリアは同じように川沿いの壁をいくつも壊して道を作り、それによって住民たちの避難状況は大きく好転した。
「よし。とりあえずこの区画の連中は大丈夫そうだな」
「お疲れ様。ヴィクトリア。君がいなかったらとても皆を避難させられなかったよ」
そう言う僕にヴィクトリアは得意気にVサインをして見せる。
だけど、喜んでいるヒマはない。
城下町全体の住民避難にはまだまだ程遠いんだ。
この市街地を抜ければ中央公園のある王城前の広場に出る。
もうその辺りの人たちはさすがに避難しているだろうけれど、逃げ遅れている人がまだいるかもしれない。
そして王城前までいけばアニヒレートのすぐ傍まで接近することになるんだ。
僕は本能的な恐怖を感じて肩を震わせ、隣にいるアリアナを見つめた。
彼女も同じことを感じているようで、恐怖を必死に抑え込もうと口を固く結んでいた。
それから進み続ける僕らは狭い市街区を抜け、ついに王城前の広場に出た。
途端に視界が大きく開け、王城の城壁前まで進んだアニヒレートの巨大な姿とその頭上を飛び回るミランダたち3人の姿がハッキリと間近に見えてきた。
巨大なアニヒレートを相手に彼女たちは明らかに苦しい戦いを強いられている。
「チッ。ミランダの奴、威勢のいいこと言って飛び出して行った割に苦戦してんじゃねえか。地上から加勢するぞ! アリアナも来い!」
「えっ? ちょ、ちょ待ってぇぇぇぇぇ!」
この場でただ一人強気な姿勢を崩さないヴィクトリアはそう言うとアリアナの腕を取って走り出す。
僕もその後について走り出しながらミランダ達の様子を見上げた。
ミランダ達は懸命にアニヒレートを食い止めようとしてくれているけれど、アニヒレートはミランダの得意な闇魔法である黒炎弾やジェネット自慢の神聖魔法・清光霧、そしてノアがその口から吐く必殺のブレス・聖邪の炎を受けてもまるで堪えた様子を見せない。
ただ、アニヒレートも自分の頭上を飛び回る3人を鬱陶しく思っているのか、進む足を止めて前脚で3人を払い落とそうとしている。
もちろん素早く飛び回れる3人はそう簡単には払い落とされはしないけれど、それでも僕はその光景に戦慄を覚えた。
あの太い前脚で叩き落とされたりしたら、一撃で致命傷を負ってしまう。
今はコンティニューの出来ないイベント中であり、ゲームオーバーになってしまえば隔離されて復活の審議待ちとなってしまうんだ。
ミランダやジェネットやノアは名のあるNPCだから、運営本部も彼女たちのことはさすがに復活させるはず……そうは思っていても、彼女たちがそうした状態に置かれてしまうことを想像すると僕は怖くなる。
そんな僕の前方では、ミランダ達を援護するためにヴィクトリアとアリアナが地上からアニヒレートに向けて遠距離攻撃を開始していた。
「羽蛇斧追尾!」
「氷刃槍!」
ヴィクトリアの投げる手斧・羽蛇斧は彼女の念力によって自在に宙を舞い、アニヒレートへとその刃を向ける。
一方、アリアナがその手から放射する鋭い氷の刃・氷刃槍はアニヒレートを凍り付かせようとその毛皮へ襲いかかる。
だけど羽蛇斧はアニヒレートの毛皮に当たり、ガキンという硬質な音を立てて弾き返される。
そして氷刃槍は赤黒い毛皮をわずかに白く凍らせたものの、それもすぐに溶けてしまう。
どちらもほんのわずかなダメージだった。
「ああっ……全然効かない」
「くそっ! 頭に来るぜ!」
アリアナとヴィクトリアはそれぞれ焦りと苛立ちの表情を浮かべて声を上げる。
だけど、表情を変えたのは2人だけじゃなかった。
地上からの攻撃を受けたアニヒレートがこちらを見下ろしてギロリと目を光らせたんだ。
そしてアニヒレートはすぐ近くにある城の残骸のうち、僕の背丈の二倍はあろうかという大きな石材の塊に目をやる。
僕は背すじが凍るような戦慄を覚えた。
「や、やばっ……」
アニヒレートは唸り声を上げると、大きなその塊に前脚を叩きつけた。
その勢いで、巨大で重厚な石材の塊は、僕らに向かって高速で飛んできたんだ。
死に直結する問答無用の質量を前に、僕は無意識に叫び声を上げることしか出来なかった。
「うおあああああああっ!」
巨大な熊の姿をした破壊獣アニヒレートの雄叫びがビリビリと空気を震わせる。
15メートルを越えるその巨体を誇るアニヒレートは王城をあらかた破壊すると、城壁へと突入して城下町への侵入を図ろうとしていた。
そんなアニヒレートの頭上を3つの人影が飛び回っているのが見える。
ミランダとジェネット、そしてノアの3人だ。
彼女たちは得意の魔法やブレスを使ってアニヒレートを攻撃しているけれど、アニヒレートの黒と赤の毛並みはこうした攻撃に対する耐性が非常に強いらしく、あまり大きなダメージを与えられていない。
しかも表示されているアニヒレートのライフゲージの数値は99999と、普通のキャラクターの最大値である999の100倍だ。
そのライフゲージの下には【irreversible & irrecoverable】と記されていて、アニヒレートのライフが不可逆的であり、減った分を回復することは出来ないという説明が記されている。
それにしたって99999って……。
あ、あんなの普通に戦ってたら倒せっこないぞ。
ミランダ達の奮闘も虚しくアニヒレートの進行は止まらず、巨大な熊の化け物は悠然と城壁へ侵攻していく。
まずいぞ。
このままじゃアニヒレートが城下町に突入してしまう。
「やばいよアル君! アニヒレートが……」
「い、急がないと!」
僕とアリアナ、そしてヴィクトリアの3人は大通りを街の中心部に向かって進んでいく。
僕らとは反対に中心部から逃げて来ている人たちが、逆行する僕らを見て顔をしかめ、怒りの声を上げた。
「邪魔だよ! どいてくれ!」
逃げている人たちは皆一様に必死の顔で、我先にと道を急いでいる。
今は誰もがゲームオーバーの脅威にさらされているんだから、殺気立つのも当然だよね。
でも、今ここを逃げている人たちは大丈夫。
大混雑しているけど、この大通りをそのまま真っすぐ進めばやがて大門に突き当たり、そこから街の外へ避難できるから。
城下町をぐるりと取り囲む市壁の外へ出られれば、後はどの方角へも逃げられる。
心配なのは入り組んだ市街地にいる人たちだ。
そっちは細い路地が多く、住宅街だから住人も多い。
全員が逃げ出すのには時間がかかってしまうだろう。
この城下町が街の中心部に向かうほど道が細分化されていく造りになっているのは、外敵に攻め込まれた時に王城へ辿り着く敵兵の流れを細分化するための工夫だった。
それが今は仇になってしまっている。
街のど真ん中に位置する王城で暴れているアニヒレートは、王城を破壊しながら街の東側へ向かおうとしている。
その方面の住人たちをすぐにでも逃がさないと、多くの犠牲者が出てしまう。
焦る気持ちに急かされて早足に歩こうとする僕だけど、街の中心に近付くほどに道は細く細分化され、人波の密度は高くなっていく。
前方から僕らにかかってくる圧力は強まる一方だ。
他人を押しのけてでも必死に逃げようとしている彼らからすれば、逆行してくる僕らは邪魔者でしかない。
皆、殺気立って僕らを押し飛ばそうとする。
ジェネットが心配していたのはこれだ。
だけどそんな僕の前に立って人波を押し返してくれたのはヴィクトリアだ。
「どけどけぇ!」
ヴィクトリアは押し寄せてくる人波をものともせずに押し返していく。
大柄な彼女の迫力に恐れをなしたのか、まるで波が岩にぶつかって2つに割れるかのように、人々は左右に分かれていった。
そこからはヴィクトリアのおかげで僕らは苦もなく街中を進んでいき、街の中心部が近付いてきた。
この辺りにある住宅街は細い路地が多く、壁と壁の間を人々がぎゅうぎゅう詰めになりながら必死に避難しようとしていた。
怒声や悲鳴、子供の泣き声が渦巻き、そこはこれまでになく恐慌状態に陥っている。
これじゃ誘導しようにも僕らの声は騒音にかき消されてしまうだろう。
「早く皆を大通りに逃がさなきゃならないのに……」
焦って僕が声を漏らすと、ヴィクトリアが近くの壁を拳でゴツンと叩いた。
「壁が邪魔だな。取っ払っちまおう」
そう言うとヴィクトリアは人混みをかき分けて路地の中をズンズン進んでいき、路地の行き止まりに突き当たるとそこで足を止めた。
ど、どうするつもりなんだ?
人の流れは少し手前の曲がり角のところに殺到しているので、この突き当たりまではやって来ない。
ここだけがエア・ポケットのようにポッカリと無人だった。
僕とアリアナはようやく圧迫感から解放されて息をつく。
「ふぅ。ねえヴィクトリア。壁を取り払うって一体どういうこと?」
「こいつで邪魔な壁をぶっ壊して通路を作るんだ」
そう言うとヴィクトリアはアイテム・ストックから自慢の両手斧である嵐刃戦斧を取り出す。
「アリアナ。壁の向こう側に誰もいないか見といてくれ。巻き添えを食う不運な奴がいるかもしれねえからな」
そういうことか。
ヴィクトリアらしい力技だけど、今はとても有効かもしれない。
アリアナが身軽にジャンプして壁の上に上がり、向こう側を確認すると声を弾ませて言った。
「ひ、人がいないどころか、この向こう側、川原になってるよ。ここを通れば一気に大門へ行けるんじゃないかな」
そうか。
城下町には北から南へと街中を流れていく川があった。
その川原に沿っていけば、必然的に街の外にたどり着くんだ。
しかも川原なら十分にスペースもあるし、大勢が移動するのにちょうどいい。
「よしアリアナ。巻き込まれないようにどいてな。アルフレッドも下がってろ。壁の破片が飛び散るぜ」
そう言うとヴィクトリアは嵐刃戦斧を振り上げ、気合いの声と共にそれを豪快に振り下ろした。
彼女が振り下ろす斧の威力はすさまじく、またたく間に壁は粉砕される。
そしてそこに道が作られる。
その向こう側には広々とした川原の景色が広がっていた。
「こんなもんか」
ヴィクトリアは鎧についた埃を手で払って斧を肩に担ぐと、白い歯を見せて快活な笑みを浮かべる。
砕け散った壁の破片を思い切りその身に浴びたのに、まったくダメージを受けることもなくヴィクトリアはピンピンしていた。
鎧を来ているとはいえ、彼女の肉体の強さは筋金入りだ。
「よし。アルフレッド。住民たちを呼び込め」
僕は頷いて大声で街の人たちを呼んだ。
ヴィクトリアの行動が功を奏し、狭い路地で押し合いへし合いしていた街の人たちは一気に広い川原になだれ込み、そこから大移動が始まったんだ。
それからヴィクトリアは同じように川沿いの壁をいくつも壊して道を作り、それによって住民たちの避難状況は大きく好転した。
「よし。とりあえずこの区画の連中は大丈夫そうだな」
「お疲れ様。ヴィクトリア。君がいなかったらとても皆を避難させられなかったよ」
そう言う僕にヴィクトリアは得意気にVサインをして見せる。
だけど、喜んでいるヒマはない。
城下町全体の住民避難にはまだまだ程遠いんだ。
この市街地を抜ければ中央公園のある王城前の広場に出る。
もうその辺りの人たちはさすがに避難しているだろうけれど、逃げ遅れている人がまだいるかもしれない。
そして王城前までいけばアニヒレートのすぐ傍まで接近することになるんだ。
僕は本能的な恐怖を感じて肩を震わせ、隣にいるアリアナを見つめた。
彼女も同じことを感じているようで、恐怖を必死に抑え込もうと口を固く結んでいた。
それから進み続ける僕らは狭い市街区を抜け、ついに王城前の広場に出た。
途端に視界が大きく開け、王城の城壁前まで進んだアニヒレートの巨大な姿とその頭上を飛び回るミランダたち3人の姿がハッキリと間近に見えてきた。
巨大なアニヒレートを相手に彼女たちは明らかに苦しい戦いを強いられている。
「チッ。ミランダの奴、威勢のいいこと言って飛び出して行った割に苦戦してんじゃねえか。地上から加勢するぞ! アリアナも来い!」
「えっ? ちょ、ちょ待ってぇぇぇぇぇ!」
この場でただ一人強気な姿勢を崩さないヴィクトリアはそう言うとアリアナの腕を取って走り出す。
僕もその後について走り出しながらミランダ達の様子を見上げた。
ミランダ達は懸命にアニヒレートを食い止めようとしてくれているけれど、アニヒレートはミランダの得意な闇魔法である黒炎弾やジェネット自慢の神聖魔法・清光霧、そしてノアがその口から吐く必殺のブレス・聖邪の炎を受けてもまるで堪えた様子を見せない。
ただ、アニヒレートも自分の頭上を飛び回る3人を鬱陶しく思っているのか、進む足を止めて前脚で3人を払い落とそうとしている。
もちろん素早く飛び回れる3人はそう簡単には払い落とされはしないけれど、それでも僕はその光景に戦慄を覚えた。
あの太い前脚で叩き落とされたりしたら、一撃で致命傷を負ってしまう。
今はコンティニューの出来ないイベント中であり、ゲームオーバーになってしまえば隔離されて復活の審議待ちとなってしまうんだ。
ミランダやジェネットやノアは名のあるNPCだから、運営本部も彼女たちのことはさすがに復活させるはず……そうは思っていても、彼女たちがそうした状態に置かれてしまうことを想像すると僕は怖くなる。
そんな僕の前方では、ミランダ達を援護するためにヴィクトリアとアリアナが地上からアニヒレートに向けて遠距離攻撃を開始していた。
「羽蛇斧追尾!」
「氷刃槍!」
ヴィクトリアの投げる手斧・羽蛇斧は彼女の念力によって自在に宙を舞い、アニヒレートへとその刃を向ける。
一方、アリアナがその手から放射する鋭い氷の刃・氷刃槍はアニヒレートを凍り付かせようとその毛皮へ襲いかかる。
だけど羽蛇斧はアニヒレートの毛皮に当たり、ガキンという硬質な音を立てて弾き返される。
そして氷刃槍は赤黒い毛皮をわずかに白く凍らせたものの、それもすぐに溶けてしまう。
どちらもほんのわずかなダメージだった。
「ああっ……全然効かない」
「くそっ! 頭に来るぜ!」
アリアナとヴィクトリアはそれぞれ焦りと苛立ちの表情を浮かべて声を上げる。
だけど、表情を変えたのは2人だけじゃなかった。
地上からの攻撃を受けたアニヒレートがこちらを見下ろしてギロリと目を光らせたんだ。
そしてアニヒレートはすぐ近くにある城の残骸のうち、僕の背丈の二倍はあろうかという大きな石材の塊に目をやる。
僕は背すじが凍るような戦慄を覚えた。
「や、やばっ……」
アニヒレートは唸り声を上げると、大きなその塊に前脚を叩きつけた。
その勢いで、巨大で重厚な石材の塊は、僕らに向かって高速で飛んできたんだ。
死に直結する問答無用の質量を前に、僕は無意識に叫び声を上げることしか出来なかった。
「うおあああああああっ!」
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
異世界をスキルブックと共に生きていく
大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる