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第一章 破壊獣とサムライ・ガール
第1話 衝撃の幕開け
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『本日開催されるイベント【襲来! 破壊獣アニヒレート】の開始まで残り15分』
あらためましてこんにちは。
アルフレッド・シュヴァルトシュタインです。
今日はこのゲーム内で48時間限定の大きなイベントが開かれるんだよ。
だから今日はプレイヤーたちのログイン数が、ここ数年のうちの最高数を叩き出していた。
これから起きるイベントの内容は1ヶ月ほど前から告知されていたんだけど、その刺激的な中身が今回の集客数に繋がったんじゃないかな。
今日、このゲーム内に『破壊獣アニヒレート』というこのイベント限定の新モンスターがロール・アウトされるらしいんだ。
今までにない強い力を持った最強のモンスターっていう触れ込みなんだけど、でもそれだけならプレイヤーたちがこんなに集まったりしない。
イベントの告知で注目を集めたのは、このイベントにおいて活躍したプレイヤーに対する豪華な褒賞の内容だった。
アニヒレートにトドメを刺したプレイヤー、そしてアニヒレートに与えた通算ダメージの多いプレイヤーベスト3。
これら計4人のプレイヤーには破壊獣殺しの称号が与えられ、このゲームにおける絶大なアドバンテージを得ることが出来るんだって。
その具体例のひとつがレア・アイテムのガチャに対するゴールド・パス(無償参加券)の取得なんだ。
ガチャってのは抽選式の物品購入のことを言うんだけど、通常は課金制でプレイヤーたちにはお金がかかる。
だけど破壊獣殺しになればゴールド・パスを手に入れられて、それが永久的に無料になるんだ。
貴重なアイテムを確実にゲット出来るわけだね。
そして他にも破壊獣殺しには建国権が与えられてこのゲームの中で自分の国を興すことが出来るようになる。
そして王様になって国を統治することも可能なんだ。
これはこのゲームの中では今までにない革新的な試みだった。
そうした絶対的な優位性を手にするために多くのプレイヤーたちがこぞって今回のイベントに参加しているってわけ。
ただプレイヤーの参加には条件がつけられていて、この48時間の間でゲームにログインできるのは1回だけ。
一度ログアウトしたら48時間のイベント終了後にならないと再ログインは出来ない。
そしてゲームオーバーになると強制ログアウトとなり、イベント中に再度の挑戦は出来なくなるんだ。
プレイヤーにとって一回限りの勝負となる緊張感の高いイベントだった。
そのイベントが始まるまで残り10分ちょっととなり、いよいよプレイヤーたちによるカウント・ダウンがモニター上で開始されていた。
イベントはこれから48時間続き、その間は僕らのいるこの洞窟もプレイヤーの訪問が出来なくなって休業になる。
そしてイベント終了後のアップデートが終われば、いよいよ先ほどミランダの言っていたミランダ城が完成することになるんだ。
「イベントの間はヒマだからアタシらも見物に行こうぜ。アニヒレートとかいうモンスターがどんなもんか見てみたいし、何ならプレイヤーどもを出し抜いてアタシがアニヒレートをぶった斬ってやるよ」
気楽な調子でヴィクトリアがそんなことを言う。
僕らNPCもイベントに参加するのは自由なんだけど、仮にアニヒレートを倒してもNPCには褒賞は与えられない。
そのことは当然知りつつも陽気なヴィクトリアに、冷や水を浴びせるかのようにミランダが言う。
「アホくさ。行きたきゃアンタ一人で行きなさいよ。ミランダ城の築城後のことを考えなきゃいけないから私はヒマじゃないの」
にべもないミランダの態度にもヴィクトリアは気にした様子もなく、ニヤリと笑みを浮かべた。
「あっそ。じゃあアタシはアルフレッドと行くから、ミランダはここでウンウン頭を悩ませてりゃいいさ」
そう言うとヴィクトリアは僕の右腕を取る。
え?
僕?
いきなり水を向けられて戸惑う僕の右腕をグイッとヴィクトリアは引き寄せる。
だけどそんな僕の左腕を掴んでミランダが引き留めた。
「ちょっと待ちなさい。何でアルを連れていくのよ。アルはここで私と一緒に……」
「そんなの退屈だよなぁ? アタシと来いよアルフレッド」
僕の両腕を掴んでミランダとヴィクトリアがやいのやいのと言い合う横で、モニターを見つめるアリアナがノンキに首を傾げて言う。
「ねえ。ところでアニヒレートってどこから来るのかな?」
「そもそもアニヒレートがどんなモンスターであるのかも公表されていないですからねえ」
そう言って首を捻るジェネットの隣で竜人娘のノアが得意気に胸を張った。
「最強のモンスターといえば定番はドラゴンであろう。竜族の王が空から飛来して街を焼き尽くすに決まっておる」
「ええ~? 定番すぎるよぉ」
「それはあまりにも捻りの無いアイデアかと」
その時、各々好き勝手にそんな話を続ける僕らのメイン・システムに再び通知が届く。
だけど今度のそれはイベントの告知の時とは違って、僕らNPCだけが受け取れる業務連絡用の通知だったんだ。
『運営本部より全NPCに重要通達事項あり』
僕は自分のメイン・システムに入って来たその通達に首をひねった。
それは緊急性を示す様に赤い文字で表示されている。
全NPC?
そんな表記の仕方は珍しいな。
「何よこれ。仰々しいわね」
ミランダが胡散臭そうに眉を潜めてそう言った。
全NPCという言葉が示す通り、僕だけじゃなくミランダやこの場にいる皆のメイン・システムにも同じ通達が届いているみたいだ。
すぐにその続きが表示される。
『本イベント開始後の48時間の間、全ての一般NPCにライフゲージを付与する』
どういうことだ?
NPCには大きく分けて2種類ある。
街の住民のようにライフゲージがなく生死の概念から外れた一般NPCと、それ以外のモンスターなどのライフゲージのある非一般NPC。
ボスNPCであるミランダや、プレイヤーたちの競争相手であるライバルNPCであるジェネット達にもライフゲージがある。
僕はもともと一般NPCだったから以前はライフゲージを持っていなかったんだけど、幾度かの事件や冒険を経て今はライフゲージを持つサポートNPCとなっていた。
僕らみたいにライフゲージのあるNPCはライフが尽きればゲームオーバーとなり、コンティニューを経て復活再配置される。
一般NPCにもライフゲージが付与されるってことは、僕らと同じようにゲームオーバーやコンティニューがあるってことだ。
一般NPCの多くは非戦闘員である街の住人や、モンスター以外の野生動物たちだ。
そんな彼らのライフゲージを?
一体何のために……。
『48時間後のイベント終了後に大型アップデートを開始しますが、次回アップデートに向けたNPCの人員整理期間として、イベント中の48時間中は全NPCのコンティニューを不可とします』
コンティニュー不可?
僕らは皆、怪訝な表情で互いに顔を見合わせた。
『イベント開催中にゲームオーバーを迎えたNPCは整理対象として隔離されます』
整理対象……。
その言葉に言い知れぬ不安を覚えて言葉を失う僕らだけど、運営本部の非情な通知は続く。
『整理対象となったNPCは個々に審査を受けて48時間後のアップデート後の復活の可否が審議されます。この審査に不合格となったNPCはアップデート後に新バージョンを迎える本ゲームへの参加資格を失うものとします』
な、何だって?
そ、それって……。
ジェネットが神妙な面持ちで運営本部の決定を整理する。
「ライフゲーフが付与された一般NPCも含め、イベント中に死んでしまったNPCは、アップデート後の復活が保証されないということですか」
「そ、そんな……一般NPCの人たちまで? で、でも審査があるってことは問答無用でダメってんじゃなくて、復活させてもらえる可能性もあるってことだよね」
「甘いわねアル。そんな淡い期待はしないほうがいいわよ。審査の基準が明確になっていないじゃない。それってつまりもし死んだらその後は運営本部の奴らの思惑ひとつでジ・エンドってことよ」
運営本部に対して決して良い印象を抱いていないミランダならではの厳しく現実的な意見だった。
青ざめる僕の隣でミランダはさらに冷然とした口調で続ける。
「今回は人員整理の大ナタが振るわれるってことね。なるほど。次回のアップデートはゲーム内容刷新のための大掃除ってことよ」
大掃除。
言い方は冷たいけどミランダの言う通りだった。
思わず言葉を失う僕の肩にそっと手を置いてジェネットが言う。
「ミランダ。あまりアル様を驚かせないで下さい。アル様。確かに心配な状況ですが、イベントの細かい規約条項には明記されています。一般NPCの方は戦闘行為を行うことはなく、また一般NPCに対する攻撃は禁じられています。よほどのことがなければ市民などの一般NPCの方が命を落とされてることはないかと」
ジェネットの言う通りだった。
要するにタチの悪いプレイヤーたちによる一般NPCを狙った【NPCキル】が横行するようなことはないんだ。
事故や病気でのみNPCのライフは減るということだから、災害でも発生しない限りは一般NPCの人が命を落とすことはないと考えてもいいんじゃないだろうか。
「ま、確かにね。けどアル。一般NPCの心配をしている場合じゃないわよ。あんたは戦闘行為で命を落とす可能性のある非一般NPCでしょ。たとえば私にエロイことをしようとして私のお仕置きを受けてゲームオーバーになったら、あんたもうこの世とオサラバかもしれないわよ」
「そ、そんな死に様はイヤすぎる……っていうかエロイことなんかしないから!」
まあ、それはともかく、運営本部の打ち出した方針は今までに比べてとても刺激が強く、非一般NPCである僕やここにいる皆にとっては死の危険を孕んだ剣呑な施策だった。
運営本部がそんなことをするなんて……。
さっき今回の思い切ったイベントを開催することで、プレイヤーのログイン数がこの数年間で最大数を叩き出したといったけれど、実は僕らのいるこのゲームの状況はあまり芳しくない。
実際、この数年でこのゲームへのプレイヤーのログイン数は減少の一途をたどっている。
現実的な言い方をすれば、人気が低下してきているんだ。
その現状はここにいる皆も当然知っている。
ミランダは憤然として腕組みをしながら言葉を吐き出した。
「フンッ。運営本部のジタバタとした焦りが伝わってくるわね。見苦しい」
「この48時間の間にゲームオーバーになっちまったら二度と復活できなくなる危険性が十分にあるってことか。なかなかスリルあるじゃねえか」
好戦的なヴィクトリアの言葉にアリアナが青い顔で肩を震わせた。
「うぅ……じゃあもう48時間の間は隠れて閉じこもっていたほうがいいかも。永久凍土で引きこもり用の密室を作らないと。アル君も一緒に閉じこもろう?」
「何を怯えておるか。そなたランクAの魔道拳士であろう。情けない」
呆れたようにそう言うノアに思わずアリアナがへの字口で反論しようとしたその時、突然モニターから耳障りな甲高い音が響き渡り、僕らは皆、弾かれたように顔を上げた。
モニター上には王都の城下町でイベント開始のカウント・ダウンを今まさに終えたプレイヤーたちの姿が映し出されていたけれど、その頭上には赤く燃え盛る巨大な物体が落下してきている。
「何だ?」
「い、隕石かな?」
その物体は空気を切り裂くような甲高い大音響を響かせながら空から舞い落ちて来て……王城に激突した。
あらためましてこんにちは。
アルフレッド・シュヴァルトシュタインです。
今日はこのゲーム内で48時間限定の大きなイベントが開かれるんだよ。
だから今日はプレイヤーたちのログイン数が、ここ数年のうちの最高数を叩き出していた。
これから起きるイベントの内容は1ヶ月ほど前から告知されていたんだけど、その刺激的な中身が今回の集客数に繋がったんじゃないかな。
今日、このゲーム内に『破壊獣アニヒレート』というこのイベント限定の新モンスターがロール・アウトされるらしいんだ。
今までにない強い力を持った最強のモンスターっていう触れ込みなんだけど、でもそれだけならプレイヤーたちがこんなに集まったりしない。
イベントの告知で注目を集めたのは、このイベントにおいて活躍したプレイヤーに対する豪華な褒賞の内容だった。
アニヒレートにトドメを刺したプレイヤー、そしてアニヒレートに与えた通算ダメージの多いプレイヤーベスト3。
これら計4人のプレイヤーには破壊獣殺しの称号が与えられ、このゲームにおける絶大なアドバンテージを得ることが出来るんだって。
その具体例のひとつがレア・アイテムのガチャに対するゴールド・パス(無償参加券)の取得なんだ。
ガチャってのは抽選式の物品購入のことを言うんだけど、通常は課金制でプレイヤーたちにはお金がかかる。
だけど破壊獣殺しになればゴールド・パスを手に入れられて、それが永久的に無料になるんだ。
貴重なアイテムを確実にゲット出来るわけだね。
そして他にも破壊獣殺しには建国権が与えられてこのゲームの中で自分の国を興すことが出来るようになる。
そして王様になって国を統治することも可能なんだ。
これはこのゲームの中では今までにない革新的な試みだった。
そうした絶対的な優位性を手にするために多くのプレイヤーたちがこぞって今回のイベントに参加しているってわけ。
ただプレイヤーの参加には条件がつけられていて、この48時間の間でゲームにログインできるのは1回だけ。
一度ログアウトしたら48時間のイベント終了後にならないと再ログインは出来ない。
そしてゲームオーバーになると強制ログアウトとなり、イベント中に再度の挑戦は出来なくなるんだ。
プレイヤーにとって一回限りの勝負となる緊張感の高いイベントだった。
そのイベントが始まるまで残り10分ちょっととなり、いよいよプレイヤーたちによるカウント・ダウンがモニター上で開始されていた。
イベントはこれから48時間続き、その間は僕らのいるこの洞窟もプレイヤーの訪問が出来なくなって休業になる。
そしてイベント終了後のアップデートが終われば、いよいよ先ほどミランダの言っていたミランダ城が完成することになるんだ。
「イベントの間はヒマだからアタシらも見物に行こうぜ。アニヒレートとかいうモンスターがどんなもんか見てみたいし、何ならプレイヤーどもを出し抜いてアタシがアニヒレートをぶった斬ってやるよ」
気楽な調子でヴィクトリアがそんなことを言う。
僕らNPCもイベントに参加するのは自由なんだけど、仮にアニヒレートを倒してもNPCには褒賞は与えられない。
そのことは当然知りつつも陽気なヴィクトリアに、冷や水を浴びせるかのようにミランダが言う。
「アホくさ。行きたきゃアンタ一人で行きなさいよ。ミランダ城の築城後のことを考えなきゃいけないから私はヒマじゃないの」
にべもないミランダの態度にもヴィクトリアは気にした様子もなく、ニヤリと笑みを浮かべた。
「あっそ。じゃあアタシはアルフレッドと行くから、ミランダはここでウンウン頭を悩ませてりゃいいさ」
そう言うとヴィクトリアは僕の右腕を取る。
え?
僕?
いきなり水を向けられて戸惑う僕の右腕をグイッとヴィクトリアは引き寄せる。
だけどそんな僕の左腕を掴んでミランダが引き留めた。
「ちょっと待ちなさい。何でアルを連れていくのよ。アルはここで私と一緒に……」
「そんなの退屈だよなぁ? アタシと来いよアルフレッド」
僕の両腕を掴んでミランダとヴィクトリアがやいのやいのと言い合う横で、モニターを見つめるアリアナがノンキに首を傾げて言う。
「ねえ。ところでアニヒレートってどこから来るのかな?」
「そもそもアニヒレートがどんなモンスターであるのかも公表されていないですからねえ」
そう言って首を捻るジェネットの隣で竜人娘のノアが得意気に胸を張った。
「最強のモンスターといえば定番はドラゴンであろう。竜族の王が空から飛来して街を焼き尽くすに決まっておる」
「ええ~? 定番すぎるよぉ」
「それはあまりにも捻りの無いアイデアかと」
その時、各々好き勝手にそんな話を続ける僕らのメイン・システムに再び通知が届く。
だけど今度のそれはイベントの告知の時とは違って、僕らNPCだけが受け取れる業務連絡用の通知だったんだ。
『運営本部より全NPCに重要通達事項あり』
僕は自分のメイン・システムに入って来たその通達に首をひねった。
それは緊急性を示す様に赤い文字で表示されている。
全NPC?
そんな表記の仕方は珍しいな。
「何よこれ。仰々しいわね」
ミランダが胡散臭そうに眉を潜めてそう言った。
全NPCという言葉が示す通り、僕だけじゃなくミランダやこの場にいる皆のメイン・システムにも同じ通達が届いているみたいだ。
すぐにその続きが表示される。
『本イベント開始後の48時間の間、全ての一般NPCにライフゲージを付与する』
どういうことだ?
NPCには大きく分けて2種類ある。
街の住民のようにライフゲージがなく生死の概念から外れた一般NPCと、それ以外のモンスターなどのライフゲージのある非一般NPC。
ボスNPCであるミランダや、プレイヤーたちの競争相手であるライバルNPCであるジェネット達にもライフゲージがある。
僕はもともと一般NPCだったから以前はライフゲージを持っていなかったんだけど、幾度かの事件や冒険を経て今はライフゲージを持つサポートNPCとなっていた。
僕らみたいにライフゲージのあるNPCはライフが尽きればゲームオーバーとなり、コンティニューを経て復活再配置される。
一般NPCにもライフゲージが付与されるってことは、僕らと同じようにゲームオーバーやコンティニューがあるってことだ。
一般NPCの多くは非戦闘員である街の住人や、モンスター以外の野生動物たちだ。
そんな彼らのライフゲージを?
一体何のために……。
『48時間後のイベント終了後に大型アップデートを開始しますが、次回アップデートに向けたNPCの人員整理期間として、イベント中の48時間中は全NPCのコンティニューを不可とします』
コンティニュー不可?
僕らは皆、怪訝な表情で互いに顔を見合わせた。
『イベント開催中にゲームオーバーを迎えたNPCは整理対象として隔離されます』
整理対象……。
その言葉に言い知れぬ不安を覚えて言葉を失う僕らだけど、運営本部の非情な通知は続く。
『整理対象となったNPCは個々に審査を受けて48時間後のアップデート後の復活の可否が審議されます。この審査に不合格となったNPCはアップデート後に新バージョンを迎える本ゲームへの参加資格を失うものとします』
な、何だって?
そ、それって……。
ジェネットが神妙な面持ちで運営本部の決定を整理する。
「ライフゲーフが付与された一般NPCも含め、イベント中に死んでしまったNPCは、アップデート後の復活が保証されないということですか」
「そ、そんな……一般NPCの人たちまで? で、でも審査があるってことは問答無用でダメってんじゃなくて、復活させてもらえる可能性もあるってことだよね」
「甘いわねアル。そんな淡い期待はしないほうがいいわよ。審査の基準が明確になっていないじゃない。それってつまりもし死んだらその後は運営本部の奴らの思惑ひとつでジ・エンドってことよ」
運営本部に対して決して良い印象を抱いていないミランダならではの厳しく現実的な意見だった。
青ざめる僕の隣でミランダはさらに冷然とした口調で続ける。
「今回は人員整理の大ナタが振るわれるってことね。なるほど。次回のアップデートはゲーム内容刷新のための大掃除ってことよ」
大掃除。
言い方は冷たいけどミランダの言う通りだった。
思わず言葉を失う僕の肩にそっと手を置いてジェネットが言う。
「ミランダ。あまりアル様を驚かせないで下さい。アル様。確かに心配な状況ですが、イベントの細かい規約条項には明記されています。一般NPCの方は戦闘行為を行うことはなく、また一般NPCに対する攻撃は禁じられています。よほどのことがなければ市民などの一般NPCの方が命を落とされてることはないかと」
ジェネットの言う通りだった。
要するにタチの悪いプレイヤーたちによる一般NPCを狙った【NPCキル】が横行するようなことはないんだ。
事故や病気でのみNPCのライフは減るということだから、災害でも発生しない限りは一般NPCの人が命を落とすことはないと考えてもいいんじゃないだろうか。
「ま、確かにね。けどアル。一般NPCの心配をしている場合じゃないわよ。あんたは戦闘行為で命を落とす可能性のある非一般NPCでしょ。たとえば私にエロイことをしようとして私のお仕置きを受けてゲームオーバーになったら、あんたもうこの世とオサラバかもしれないわよ」
「そ、そんな死に様はイヤすぎる……っていうかエロイことなんかしないから!」
まあ、それはともかく、運営本部の打ち出した方針は今までに比べてとても刺激が強く、非一般NPCである僕やここにいる皆にとっては死の危険を孕んだ剣呑な施策だった。
運営本部がそんなことをするなんて……。
さっき今回の思い切ったイベントを開催することで、プレイヤーのログイン数がこの数年間で最大数を叩き出したといったけれど、実は僕らのいるこのゲームの状況はあまり芳しくない。
実際、この数年でこのゲームへのプレイヤーのログイン数は減少の一途をたどっている。
現実的な言い方をすれば、人気が低下してきているんだ。
その現状はここにいる皆も当然知っている。
ミランダは憤然として腕組みをしながら言葉を吐き出した。
「フンッ。運営本部のジタバタとした焦りが伝わってくるわね。見苦しい」
「この48時間の間にゲームオーバーになっちまったら二度と復活できなくなる危険性が十分にあるってことか。なかなかスリルあるじゃねえか」
好戦的なヴィクトリアの言葉にアリアナが青い顔で肩を震わせた。
「うぅ……じゃあもう48時間の間は隠れて閉じこもっていたほうがいいかも。永久凍土で引きこもり用の密室を作らないと。アル君も一緒に閉じこもろう?」
「何を怯えておるか。そなたランクAの魔道拳士であろう。情けない」
呆れたようにそう言うノアに思わずアリアナがへの字口で反論しようとしたその時、突然モニターから耳障りな甲高い音が響き渡り、僕らは皆、弾かれたように顔を上げた。
モニター上には王都の城下町でイベント開始のカウント・ダウンを今まさに終えたプレイヤーたちの姿が映し出されていたけれど、その頭上には赤く燃え盛る巨大な物体が落下してきている。
「何だ?」
「い、隕石かな?」
その物体は空気を切り裂くような甲高い大音響を響かせながら空から舞い落ちて来て……王城に激突した。
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こちらに搭乗する<ビアンカ・ラッセ>は、「未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます(Ver.02)」に登場する<ビアンカ>よりもずっと<軍人としての姿>が表に出ている、オリジナルの彼女に近いタイプです。一方、あちらは、輪をかけて特殊な状況のため、<軍人としてのビアンカ・ラッセ>の部分が剥がれ落ちてしまった、<素のビアンカ・ラッセ>が表に出ています。
どちらも<ビアンカ・ラッセ>でありつつ、大きくルート分岐したことで、ほとんど別人のように変化してしまっているのです。
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