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第二章 陰謀のしっぽ
第2話 銀髪の妖狐 薬王院ヒミカの野望
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都内の高層ビルの屋上で薬王院ヒミカは夕暮れの町並みを冷然と見下ろしていた。
「ふん。ちっぽけな島国だ。古の時代にこのような極東の地に落ち延び、眠りにつく羽目に陥った時のオロチの気分はどうであったのだろうな」
そう言いながらヒミカは己の境遇を思い返していた。
数百年の昔、彼女は海を挟んだ大陸で大妖狐の105番目の子としてこの世に生を受けた。
盗賊として羽振りの良い時期もあったが人間の霊能力者に敗れて土地を追われ、逃げ込んだ先では妖魔の縄張り争いに敗れてついに不本意ながら大陸を脱出することになった。
失意と屈辱にまみれてこの日本にやってきたのはつい50年ほど前のことだった。
当時の無念が今でも昨日のことのように胸に甦り、ヒミカは強く拳を握り締めた。
「この手に力を……」
力を欲する彼女が歳月をかけてこの国で見つけ出したのが、古の時代に封印された蛇神・オロチの存在だった。
数少ない情報をかき集め、オロチに関する知識の第一人者とまで言えるほどに研鑽を深めたヒミカは、ついに自分の念願を叶えるための道具を手中に収めることができた。
それは【悪魔の壷】と呼ばれる禁断の呪物であり、霊力や魔力を養分として熟成を重ね、長い年月のうちに凝縮された濃厚な栄養素を作り上げる。
それを媒体にして、滅びたかつての悪魔や神の類を甦らせることができる。
彼女はそのため、これまで数え切れないほどの妖魔や霊能力者をこの壷に食わせてきたのだ。
「壷が満腹になればそれこそがオロチ復活の刻だ。そしてもはやそれはさほど遠いことではない」
そう呟く彼女が手にした黒い壷から、わずかに黒い霧が湧き出していた。
それを見たヒミカは目を細め、我が子に食べ物を与える母親のように微笑んだ。
「食い足りないか。ならばもっと食らわせてやろう」
ヒミカは手から全身に伝わる壷の波動をしっかりと感じ取っていた。
「次の船の予定は?」
そう言うヒミカの背後には3人の男らが横一列に並んで立っている。
1人は目のつり上がった白髪の小柄な男。
その隣にいる屈強な体格を誇る精悍な顔つきの男は、茶色の髪の毛を短く刈り上げている。
最後の1人は絶えず陰気な表情を浮かべている、ヒョロッとした痩身で黒髪の男である。
そのうちのつり目で白髪の男が申し出た。
「3日後に入港する予定です」
「3日か。それほど待てそうにない。国内の【在庫】で対応しろ」
「はい。今夜中にご案内いたします」
その言葉を聞き、ヒミカは満足げに頷いて上空を見上げた。
ついに日が沈み、彼女の銀色の髪が月明かりを浴びて艶やかな輝きを放つ。
そして頭髪の間から2つの耳が生え出し、しなやかな腰の下からは髪と同様に艶やかな銀色の毛並みを持つ二又の尾が姿を現した。
背後にいた男らもそれぞカラスやクマのような姿をした妖魔へと変貌を遂げていく。
そのうちの一人、白髪の小柄な男は白イタチの姿へと変化していた。
日の光が及ばない夜の世界は、彼ら妖魔らが本来の姿と力を取り戻す世界でもある。
「必ずやオロチを復活させ、まずは手始めにこの島国を滅ぼしてやる。それを手土産に大陸へ凱旋だ。我が覇権への道を邪魔する奴は誰であろうと皆殺しにするぞ」
一行の頭目たるヒミカの胸には自らの野心を成し遂げることへの澱んだ渇望が渦巻くのだった。
「ふん。ちっぽけな島国だ。古の時代にこのような極東の地に落ち延び、眠りにつく羽目に陥った時のオロチの気分はどうであったのだろうな」
そう言いながらヒミカは己の境遇を思い返していた。
数百年の昔、彼女は海を挟んだ大陸で大妖狐の105番目の子としてこの世に生を受けた。
盗賊として羽振りの良い時期もあったが人間の霊能力者に敗れて土地を追われ、逃げ込んだ先では妖魔の縄張り争いに敗れてついに不本意ながら大陸を脱出することになった。
失意と屈辱にまみれてこの日本にやってきたのはつい50年ほど前のことだった。
当時の無念が今でも昨日のことのように胸に甦り、ヒミカは強く拳を握り締めた。
「この手に力を……」
力を欲する彼女が歳月をかけてこの国で見つけ出したのが、古の時代に封印された蛇神・オロチの存在だった。
数少ない情報をかき集め、オロチに関する知識の第一人者とまで言えるほどに研鑽を深めたヒミカは、ついに自分の念願を叶えるための道具を手中に収めることができた。
それは【悪魔の壷】と呼ばれる禁断の呪物であり、霊力や魔力を養分として熟成を重ね、長い年月のうちに凝縮された濃厚な栄養素を作り上げる。
それを媒体にして、滅びたかつての悪魔や神の類を甦らせることができる。
彼女はそのため、これまで数え切れないほどの妖魔や霊能力者をこの壷に食わせてきたのだ。
「壷が満腹になればそれこそがオロチ復活の刻だ。そしてもはやそれはさほど遠いことではない」
そう呟く彼女が手にした黒い壷から、わずかに黒い霧が湧き出していた。
それを見たヒミカは目を細め、我が子に食べ物を与える母親のように微笑んだ。
「食い足りないか。ならばもっと食らわせてやろう」
ヒミカは手から全身に伝わる壷の波動をしっかりと感じ取っていた。
「次の船の予定は?」
そう言うヒミカの背後には3人の男らが横一列に並んで立っている。
1人は目のつり上がった白髪の小柄な男。
その隣にいる屈強な体格を誇る精悍な顔つきの男は、茶色の髪の毛を短く刈り上げている。
最後の1人は絶えず陰気な表情を浮かべている、ヒョロッとした痩身で黒髪の男である。
そのうちのつり目で白髪の男が申し出た。
「3日後に入港する予定です」
「3日か。それほど待てそうにない。国内の【在庫】で対応しろ」
「はい。今夜中にご案内いたします」
その言葉を聞き、ヒミカは満足げに頷いて上空を見上げた。
ついに日が沈み、彼女の銀色の髪が月明かりを浴びて艶やかな輝きを放つ。
そして頭髪の間から2つの耳が生え出し、しなやかな腰の下からは髪と同様に艶やかな銀色の毛並みを持つ二又の尾が姿を現した。
背後にいた男らもそれぞカラスやクマのような姿をした妖魔へと変貌を遂げていく。
そのうちの一人、白髪の小柄な男は白イタチの姿へと変化していた。
日の光が及ばない夜の世界は、彼ら妖魔らが本来の姿と力を取り戻す世界でもある。
「必ずやオロチを復活させ、まずは手始めにこの島国を滅ぼしてやる。それを手土産に大陸へ凱旋だ。我が覇権への道を邪魔する奴は誰であろうと皆殺しにするぞ」
一行の頭目たるヒミカの胸には自らの野心を成し遂げることへの澱んだ渇望が渦巻くのだった。
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