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一章 四人の勇者と血の魔王

第63話 ギャラリーが虚しすぎるけど、わざわざ昼食の画像を毎回撮るのも嫌だ

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(黒の聖剣はボクが思い描いたイメージを『劣化』させて再現する)

 次々と迫り来る矢を烈火の弾丸で焼き焦がしながら、何とかネアさんが接近出来そうな道を切り拓かなければいけない……。

「ボクがやります。ネアさんは死角からの射撃を見ていてください」

「……何?」

「この程度の相手ならボク一人で出来ます」

 自分勝手とは思うけれど────早くこの銃の、聖剣の扱いに慣れたい。ユニオンスキルを発現させた西の勇者、ボクと同じように聖剣の形を変形させ使いこなしていた北の勇者、何故かホウキの代わりに乗っていた南の勇者。皆が皆、それぞれの使い方を見つけている。
 追いつかなきゃ……帝国最強が廃るでしょ。

「……なら、手は出さない。わざわざ私が近づくよりは貴様が全てやってしまった方が……安全でもあるか」

 後ろに下がったネアさんの前に立ち、無数の矢の一つすら逃さないように打ち続ける。

(……見た事のないタイプの銃。帝国の古い軍銃……資料で見た三十年式だっけ?に似てはいるけど、これは全くの別物だ)

【技師】のスキルに【構造理解】というものがある。
 機械や魔導具限定で、内部の仕掛けも仕組みもすぐに理解出来てしまう……習得は大変だけど役に立つスキルだ。

 変形した黒の聖剣に【構造理解】を使った結果、軍で使用されている魔導銃とはそもそもの構造が異なっていた。
 通常は、まず弾丸を使用するタイプと使用しないタイプに分かれる。使用する方は装填した弾丸……主に魔導術式や付与魔法が施されている物が多い。それを魔力で強化してから撃ち出し、発射する。使用しない方は魔力で出来た弾丸を生成し、それを発射する。

(この銃はそのどっちでもない)

 この銃は、構造で出来ている。発射時は銃口から後付けで弾丸を魔力強化してるし、弾丸は魔力で生成しているはずなのに手動で装填するためとしか思えない部位がある。

(魔力を使わない銃なんて……大昔でも造られていない。だってそうするメリットが無いのだから)

 どう考えても魔力を使用した方が強い。燃費が良い。扱いやすい。

(恐らく─────黒の聖剣は初代勇者の記憶からイメージを再現している)

 この世界に無いはずの物を再現しているのなら。この聖剣は別の世界を知っている……と考えられないか?

(魔力が無い世界……想像出来ないけど、そう考えるのが自然。それにこの銃の構造……魔力が使えないという前提で見ると、かなり無駄がないように感じる)

 異世界の血の歴史。戦争の記憶。
 なら、『もっと強いもの』を想像すれば──────どうなる?

「応えてくれ」

 前方に大量の泥を放ち、エルフが回避したのを確認し────その隙にボクは聖剣にイメージを送り込む。

 想像するのは……今の銃よりもっと強力な兵器。

「来いッ─────」

 直後、両手に伝わる……ずっしりとした重さ。ボクの腕より少し短いくらいの長さの……筒?

「【構造理解】……!」

 使い方が分からなくて焦りかけたけど、ボクは【技師】だ。

「……なるほど、つまりこれは─────」

 しっかりと全身で支え、狙いを定める。トリガーを引き────イメージするのは葬の聖剣の炎。

「発射……!」

 漆黒の大筒から炎が吹き──────ボクは吹っ飛んだ。

「あが……っ!」

 理由としては一つ。……反動を見誤っていた。想像よりも大きく、人間が一人で使うには厳しすぎる反動……恐らく、葬の聖剣をイメージしたせいだ。
 そして─────威力もまた、ボクの想像以上だった。

 爆音の後に響く、慟哭。

「─────、─────!」

 声にならない叫びを上げるエルフ。
 ……灰となって風に運ばれる自分の左腕を見つめながら。さっきまであったはずの身体の一部という虚空を握りながら。

「……ははは」

 ボクが今使っているのは異世界の武器だ。葬の炎で威力が強化されているとは言え、魔力が無い世界で作られた物には変わりない。

「どうしてこんなものを作る必要があるんだ……これほどまでの……」

 答えは決まっている。────戦争だ。異世界にも戦争はあって、殺し合いをしてるからに決まってる。そして恐らく、魔法という兵器とは別の武器が無い分、ボク達が魔法に割いていた研究や開発は兵器に回され……これからが生まれた。

「じゃあどうなるんだ。これよりももっと、もっともっと強いモノがあるとしたら……」

 あまりに軽率な行動だったと思う。ボクは好奇心という身を滅ぼす感情に身を任せ────イメージしてしまった。

「─────これは」

 ボクの手の中に収まっていたのは、小さなボタンだった。

「……ディグマ?どうかしたか────」

「ッ────剣!か、刀、刀に戻ってくれ……!」

 ボタンの付いた箱状の何かは目に馴染む黒い刀に姿を変え、ボクの心臓を掴むような莫大な不安感は消え去った。小さなボタンだけで全貌は見えない。【構造理解】で見てもただボタンを押すだけで……理解はしきれなかったけど、押した時に魔力のようなものが発生するだけだった。だからこそ恐ろしい。人間が一人では扱えないほどの、一人では持てないほどの大きい何かが……ボタンを押しただけで発射されるかもしれない。

 あのボタンを押していたら……ボク達は、この赤刃山脈はどうなっていたんだろう。劣化させたのがこれなら、もっと強力な兵器を開発していたはずの異世界は──────。

「誰と戦ってたって言うんだよ……」

 人間同士で世界を破壊出来るかもしれないほどの武器を向け合っていたなんて、魔力が無い世界でもこんなモノが生まれるまで戦争と人殺しのための研究をし続けていたなんて─────思いたくなかった。
















 ー ー ー ー ー ー ー














「みんなを集めろ、か」

 ナイズは小声で呟き……飛行速度を上げる。

「勝算……先ほど発動が確認された【零久冠巌】終了後、ロクト殿とアルマが出てきた時に人員が揃っている事が重要という事」

 兄弟である岩の聖剣の奥義がどのような効果か、そしてロクトとアルマの魔法もスキルも無い状態の実力をナイズは知っている。

「二人はほぼ互角。肉体的にはロクト殿が勝っているが、やはり発動前に受けた傷が響くだろう。それはロクト殿も分かっているはず……」

 つまり─────ロクトは【零久冠巌】内で決着を付けるつもりでは無い。

「ロクト殿はこの勝算を……恐らく次元深界の中で思いついた。彼の実力から見て【零久冠巌】の習得もその中にいた過去の岩の勇者と接触した事が要因か。ならば彼の言う勝算もその勇者から教わったものか……?」

(ソレはアマリ重要ジャないヨ)

「……そうだな。重要なのは作戦のために何をすべきか。ロクト殿が【零久冠巌】を発動した理由は『対話』か『消耗』させるかのどちらか。もしくはその両方。殺意も体力も弱まったアルマに何をするつもりなのか─────」

(ソウダね)

「見当も付かない、が─────逆にそれはロクト殿でなければ出来ない事とも考えられる。つまり弊剣が考えるべきなのはロクト殿が戻ってきた後、アルマの攻撃から彼を守る手段」

 思考を巡らせながら……ナイズは地面に寝そべっている男に高度を近づけ、呆然と空飛ぶ聖剣を見つめる彼に手を差し伸べた。

「力を貸してくれ」

「ン……良いけど、誰?あんた」

「説明する必要は無い。夢の聖剣が記録した『血の魔王討伐における特記戦力』の一人であるシャーグ殿にしか出来ない仕事がある」

「おぉ?褒めんの上手いじゃん、女の子に一発貰ってダウンしちゃって落ち込んでたところだから助かるワ」

 髭面の男はナイズの手を取り、危うげな姿勢ながらも夢の聖剣の上に座る。

「で、何を斬って欲しいんだァ?」

「少し、次元を」

「お前ォレのことクルグだと勘違いしてんだろ」















 ー ー ー ー ー ー ー















『え、え、ほ、本当に……本当にパーティに入れてくださるんですか!!??』

『おう、良いぜ!お前……うん、なんかイイよ。俺の勘にビビッと来た!でも……働かねーなら追い出すからな?』

『も、もちろんです!精一杯頑張ります……!!……やった、僕が、勇者パーティに……僕が…………うぅっ……!』


「な~んて事もあったよなァ!」

「ぐっ!」

 アルマの顔面に右拳を真っ直ぐと叩き込み、同時にアルマがパーティ加入時に感極まって泣き出したエピソードも聞かせる事で身体と精神にダメージを与える。

「あの頃は可愛かったのによォ、今じゃ女誑しだ!変わっちまったなアルマァ!!こっちなんかサヴェルとゴルガスの男三人でやってたってのに……っていうかその魔物娘達を一人でいいからこのむさ苦しいパーティに分けてくれ!」

「別に、助けた後に着いて来てくれた人がたまたま全員女性だっただけです!」

「はァ?女を選んで助けてるの間違いだろ!」

「ロクトさんと一緒にしないでくださいッ!!」

 アルマの左拳を握って受け止めた直後────既に振りかぶっていた右腕を見ながら、俺の耳にアルマの声が通っていく。

「だいたいあなただってあの時─────」


『くぁ~……そんでな、俺が学園を卒業する時なんか……俺の制服のボタンを狙ってくる女子生徒なんざ1人もいなかった上に、ルリマには男も女も群がっててよォ……あの頃には俺もう勇者だったってのにさァ……』

『はいはい……』

『リーンとクロウがちょっとからかってくれたりしただけでよォ……ヒック』

『ちょっと、しっかりしてくださいよ!ゴルガスさんもサヴェルさんも1人で歩けなくなるまでは飲まないのに、どうしてロクトさんだけ……』

『飲みたくもなるだろ!?俺ァ勇者だってのに幼馴染は振り向かせられず……女の一人も侍らせられねェ。情けねえよ……すまねえなアルマ。やっぱ俺は相応しくないのかな─────』

『え、勇者に相応しいかってモテるかどうかで決まるんですか……?』

『は?そうに決まってんだろ!!』


「って言ってたじゃないですかァ!!」

「うぐあァーッ!!」

 アルマの拳は俺の顔面に振り下ろされると思いきや、生意気にフェイントを仕掛けて来たようで……腹にモロで喰らってしまった。

「ってか何だよその会話!俺全く覚えてねえぞ!?」

「そうでしょうね、酒でベロンベロンになってましたから。あなたは本当は女性とイチャイチャしたいのに自分は出来ないからって僕を─────」

「ああああああ黙れ黙れうるせーッ!」

 身体を低姿勢に、そのまま一気に突っ込み……無事アルマに体当たりが成功する。

「ぶごっほ……!」

「ギャハハハハハ!オラッ!お前なんかヨイショしてくれる女がいなきゃこんなもん────」

「そんな事言ったらあなただって聖剣が無きゃ……!!」

 尻餅をついた後のアルマによる無茶苦茶な足の蹴りがアバラに直撃し、声にならない声が喉を通り抜ける。

「いっっ……ってぇなァクソが!俺は岩の勇者様だぞ、逆らうなァ!」

「ふふ……僕は魔王の器ですがね」

「…………それはお前、自分で知ってたのかよ?」

「いえ。流浪者に聞かされました」

 一瞬の沈黙が俺たちを包む。

「僕……親、いなかったんですよ。お婆ちゃんと二人暮らしでした。お婆ちゃんは両親の事を聞く僕にはもう死んだって言い聞かせてましたけど……大分前からそれが嘘だって気付いてたんです」

「……」

「だってお婆ちゃん、聞く度に事故とか自殺とか魔物に殺されたとか理由がコロコロ変わるんだもん」

「そう言う理由かよ!なんか……魔王の器である実感とかあったわけじゃ」

「ありませんでしたよ、そんなの。ただでさえ……勇者の仲間になれた事をずっと夢みたいに感じてたんですから」

 この空間には乾いた風も鳥の嘶きも大地の鳴動も訪れない。静寂────だから、俺達の声は互いの耳によく響く。

「アルマ」

「はい」

「この戦いが終わったら、お前にはまた俺のパーティに戻って来てもらう」

「え……」

「強制だ。拒否権はねーぜ。マジストロイ含め色んな奴に迷惑かけたんだからそれくらい従えよ」

「それって僕を仲間にしたら色んな魔物の女の子をパーティに入れられるからですか?」

「うおっ、確かに!……じゃなくて。あー……お前がいねーと真面目担当がいないんだよ。俺ら三人全員バカだから」

「……よく言えますね」

 口元の血を拭いながら、アルマは俺を見上げる。

「この戦いが終わったら、と言うよりそれは『ロクトさんが勝ったら』の間違いじゃないですか?あなたは僕から……ひーちゃん達を助けるという願いを奪っておきながら、僕を仲間にしようとしてる─────」

「逆にアルマは不自然に思わねーのかよ」

「……何がですか?」

「お前、俺の事大好きじゃん?」

「え」

「なのに俺の事殺そうとしてるの……おかしいって思わないわけ?」

「…………あ」

 アルマの目が虚ろになったかと思えば、急に頭を掴み悶え始め……呻き声を漏らしていた。

「ち、違う。僕は……でも……ロクトさんは……!」

「……」

 一つ、不自然に思っていた。
 流浪者の言葉は絶対に信用してしまう。アルマは奴に『手伝ってくれれば仲間を蘇生する』と言われ、従う他無かった……が、その『手伝い』の内容が俺含む大量の人間だった場合、とてもアルマが実行に移せるとは思えない。

 非情だが……彼女達と、俺やサヴェルやゴルガス……各国の勇者やルリマ、世界の重要人物を天秤にかけて─────知りあってからそこまで経っていない仲間を優先するだろうか?

 アルマは『俺が悪意を持って追放した』訳じゃない事を知っていた。

 だから『別の言葉』を……例えば『この場にいる全員を殺さなければ世界が危うい』とか『ロクト達はとんでもない悪人だ』とかを言われてたらアルマは従うかもしれない。

「みんなを……でも、でも……ッ!!」

 あぁ、でも──────そうは見えない。

 つまり……『俺を殺さなければいけない』という『別の洗脳』を受けてるんじゃねーか?と思った訳だ。流浪者の言葉のような絶対的なモノではなく、もっと弱い……洗脳魔法とか。
 流浪者達が何のためにそんな事をしたのか。それは人間の俺には想像もつかない。

「立てよマセガキ。勝負はまだ終わってねーだろ」

「……えぇ、はい。僕たちはまだ戦わなければいけない……」

 アルマからすれば……一瞬で決着が付かないこの泥沼の空間は癒しだ。逃亡先だ。でも違う、俺はそんな事のために【零久冠巌】を使ったんじゃない。血塗れになっても、拳の骨が折れても分かり合うために。

 俺が救いたい奴は全員救う─────それがロクト・マイニングの生き方だ。




ーーーーーーーー

アルマは酒が苦手なのでいつも避けていましたが、ロクト達に無理矢理飲まされてからは段々と得意になっていき、四人の中で一番酒に強くなりました。そのため自然と介抱役になってしまっていましたが、魔王の器という格上の生命としての『毒への適応力』だったのかもしれません。
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