俺が追放したテイマーがチート能力を手に入れてハーレム状態なんだが、もしかしてもう遅い?〜勇者パーティも女の子募集中です〜

ときのけん

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一章 四人の勇者と血の魔王

第62話 1on1

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(おい、夢の聖剣……聞こえるか?)

(あぁ)

(頼みがある。……アレ、ってかお前誰?誰に持たれてんの?魔女っ子は……)

(代理人のようなものと解釈してくれ)

(お、おう。で、頼みなんだけど─────)

 アルマから目線は外さず、握りしめた手も緩めず、俺はただ念じた。

(みんなを集めてきてくれ。俺とアルマのいるこの場所にみんなを……勇者達も魔王も、その仲間達も)

(それがロクト殿の勝算か)

(俺もアルマも一人じゃない……それが勝算だ)

(……了解。岩の勇者の命、確かに聞き届けた)

 スムーズな動作でさも当たり前かのように夢の聖剣に乗って飛行し、男は飛んでいった。流行ってるのか?それ。

「戦いましょう、ロクトさん」

 生気の感じられない表情でアルマが髪をかき上げた。

「殺し合いましょう」

「……誰がそんなんするかよ」

 呼吸を整える。乾いた風が吹く。
 ────鼓動が血を流し、俺の身体が湧く。

「喧嘩だ。喧嘩しようぜアルマ。お前が俺に注意やら指摘やらをする事はいつもの事だったけど……真っ向から喧嘩した事は無かったよな」

「僕の言い分が合ってる事ばっかでしたからね」

「今は違う」

「……」

「本当は分かってるんじゃないか?お前も……」

「もう良いです、下らない口だけの争いは」

 逃げるように立ち向かっている、今のアルマの行動。それは……楽な道が正解だと分かってるはずなのに、どうしても苦難を選んでしまう時だ。

「喧嘩でも何でも良い。お喋りはもうこの辺で」

「そう……だな」

 赤く輝く光の剣が周囲に大量に展開される。サヴェルが見せてくれた光魔法とは少し違う……扱いやすそうだし物量も圧倒的だ。
 対して俺がまず使うのは【コネクション】……あぁ、すぐに穴を閉じられちまうからハルコの殴りには期待出来ない。

 でも開くのは一瞬で良い。

「【コネクション】─────」

 跳躍し、背後に斜め前方向の次元の穴を生成。

「飛ばしてくれ」

 ハルコの腕に押し出してもらい、まず何としてもアルマに接近する。話はそれからだ。

「!」

 背中に……コン、という感触。
 次元の穴から伸びていた、見覚えのある長い杖が俺を突いていた。

 瞬間────湧き上がる力。

(なんだこれ……サヴェルの強化魔法よりヤベー感覚。ありえないくらい力が漲ってくる……ッ!)

 驚いている暇はない。ドン!と全身を容赦無く押し出された俺は聖剣を前に構えて飛んでいく────予定だったが、今の俺の身体能力ならこの勢いを利用して走った方が良い。

「いつもあなたはそうだ。愚かなほどに真っ直ぐで……なのにそれで何とかなってしまう……!」

 光の剣が四方から襲い来る。が……止まるわけにはいかない。オリハルコンの刃を盾として生成し、聖剣で防御し、それでも受け切れない一部の剣が俺の肉を削いだとしても。

「【彼岩の構え】ッ!」

 防御した瞬間に攻撃が当たるとどんな攻撃だろうとそれを無効化し、さらに短い時間俺のあらゆる能力が強化される聖剣のスキル。奥義を習得したおかげだろうか……前より体に馴染む。
 とは言ってもこの量の光の剣。……ダメージはどうしても受けてしまう。

「真っ直ぐだなんて言えねーよ。グネグネ曲がりくねった人生が俺を作ってる。それでも俺が進む道が一直線に見えるのなら────」

 ここまで身体能力が強化されていなければ、俺はアルマの攻撃をもっと多く喰らっていたはずだ。数箇所の斬撃の傷は軽く五倍くらいにはなっていたと思う。『この後』、ノードゥスがくれた力は使えなくなっちまうけど……それでもこんなに損傷が少ない状態でアルマに接近出来た。

「それはお前を、アルマを含む……俺を支えてくれた人達が正してくれたからだッ!」

 焦り、悲しみ、怒り、憎しみ。あらゆる負の感情に苛まれたアルマの姿がすぐ近くにある。俺の目の前にある。
 胸が張り裂けそうで、どうしようもない悲しみに俺まで沈みそうになる。

 ……そんなのは些細な事だ。

「─────【零久冠巌】」

 聖剣に込める魔力。突き出した拳。────静寂と化した精神。波紋の一つも無い、無我の境地。

 それは俺とアルマの二人を巻き込み──────『とある空間』を形成する。











 ー ー ー ー ー ー ー












「ふぅ……これで私達が出来る手助けはひとまずお休みか」

「え、い、今何が……?」

 紺碧の巨人の掌の上、律の魔王ノードゥスと獣人の少女は次元の穴が閉じていくのを見届けた。

「私の【傀蹂魔法】の『二段階目』、【絡契ドゥオ】は知っているかい?」

「ま、前にお聞きした事があ、あります。確か……」

【傀蹂魔法】は段階を踏む必要のある特異な固有魔法。
 一段階目は【繋契ウーヌス】。『互いを仲間であると認識した相手を傀蹂魔法の対象に指定する』という効果であり、対象の数に制限は無いが単体では特に機能しない。が、アルマの【テイム】のように脳に干渉するスキルなどに対しては────少しちょっかいを仕掛ける事が出来る。
 二段階目は【絡契】。『対象を強化する』というシンプルな効果だが、その力は絶大。あらゆる強化魔法を同時に複数使用しても辿り着けない領域であり、使われる者次第では災害レベルでなければ手がつけられなくなる可能性がある。

 この先にもいくつかの段階があり……それらの魔法でノードゥスは四人の勇者を殺した。

「それをロクトにかけた」

「そ、その後……な、何か変な……」

「あぁ、そっちね!アレは岩の聖剣の奥義さ。……とてつもなく恐ろしいユニークスキルだ」

 乾いた笑いが出るほどに……ノードゥスは過去を振り返り、安堵していた。

「本当に────私の時の岩の勇者が【零久冠巌】を習得していなくて良かった」

 そのスキルはノードゥスの天敵であり……否、それよりも適した言い方がある。

「その奥義は─────あらゆる能力の天敵だ」










 ー ー ー ー ー ー ー















「……あ、れ」

 俺の身長二つ分くらいの距離を空けて、呆然と立つアルマ。間には……岩の聖剣が堂々と地面に突き刺さっている。

 ここは赤刃山脈じゃない。どこか……よく分からない夜空の下。地面がどこまでも続き、壁もなく雲もなく星もなく鳥もいない、虚無の景色。
 ただ聖剣が突き刺さっている以外、落書きで書かれた一本線の地面と何の変わりもない場所だ。

「ようこそ。良い夜だな」

「……何をしたんです?」

「喧嘩部屋を用意しただけだ」

「……」

「じゃ、遠慮なく再開するぞ」

 俺は肩を回し、手首をこねながらアルマへ近づく。一歩づつ確実に歩み寄り……距離は縮まっていく。
 ─────岩の聖剣を素通りしながら。

「僕を舐めないでくださいよ。もう皆さんに任せるだけの僕じゃない────」

 腕を振り上げ、魔力を集中させるアルマ。

「……え」

 だが、それだけだ。

「待って、これは……何が起きてるんだ……!」

 右足。左足。徐々に距離が近づく度に俺は拳を握る。

使んだ……ッ!?」

 切迫した表情で両手を睨み頭を抱える少年。眼前に立つ俺は────右手を握りしめ、大きく貯めを作る。

 そして……思いっきりぶん殴る。

「おらッ!!」

「うぐっ……!」

 顔を殴られたアルマは後ろへのけぞり……そのままバランスを戻せずに尻餅をつく。俺も右手に殴った反動の痛みが伝わるほどだ。アルマはもっと痛いはず。

「まさか……身体能力も元に戻ってる……?」

「それがお前のスキルによって手に入れた力なら、そうだろうな」

「─────どういう意味ですか」

「そのままの意味だ」

 赤くなった右手を撫でながら、俺は唇の切れたアルマを見下ろす。

「この空間……【零久冠巌】は。どっかの国の怪しい呪術とか魔術とか、白剣教が言うところの『奇跡』とかも含めてな」

「──────は……?」

「嘘じゃねーのは、もう体感してるだろ」

「そんなスキルが……そんな馬鹿げたスキルが……!」

「お前がテイムした事で手に入れた力は、この空間には持ち込めない。そんで同時に……俺が受けた聖剣の恩恵も、今だけは俺を見放している」

「!」

「同じだ。俺とお前は誰かに支えられて生きてきた。でも勝手な都合の喧嘩くらい……俺達だけで完結させようぜ」

 ……ま、ここから出た後は存分に皆を頼るつもりだけど。

「脱出条件は一つ。『俺達が弱る度に抜けやすくなる岩の聖剣を抜く』事だ。だから今無理矢理抜こうとしても……ってこと」

 このスキルはゴルガスやルビーの姐御みたいなデフォルトで肉体が強い奴が使えば無類の強さを発揮するはずだ。聖剣の恩恵で成り立ってる俺が使っても相手によってはただ不利になるだけ。
 でもアルマ相手なら─────同じ土俵に持ち込める唯一のスキルだ。

 肉体を用いない力は零と化し。
 剣が抜かれるまでは久遠の時が流れようと。
 片方が戦いを制した冠を手に入れるまで。
 固く閉ざされた扉は巌の如く不動。

 初代勇者が残した12の奥義が一つ────【零久冠巌】。

「じゃあ何ですか。このまま僕ら、ずっと殴り合うって事ですか?」

「だから言ってるじゃねえか。『喧嘩』だって」

「そう言う……でもロクトさんも弱体化するのに」

「弱体化ぁ?今の俺は『ただの採掘師』で、肝心の相手は……『魔物のいないテイマー』と来た。ギャハハハ!あぁそうだなァ、見事に俺ら2人とも成り下がりまくりだ」

「─────はは。本当にあなたって人は……さっきの傷は無視出来るほどじゃないでしょうに」

 立ち上がったアルマは……さっきよりも少し清々しい闘志を宿しているように見えた。それがこの夜の闇のせいかは分からない。けれど─────きっとこの闇が晴れるまでには。

「手加減はしません」

「ほざいてろよハーレム野郎」

「それを含めて、買ってあげますよ。その喧嘩を……!」

「上等ッ!」

 何かを話そうとか、説得しようとか、色々言いたい事はあったけど……それは決めてない。ただ、今まで正面からぶつかり合わなかった俺達でも、きっと今なら─────拳が激突する度に一つ一つ、理解出来る気がした。



ーーーーーーー


ロクト・マイニングという名前の由来は簡単で、ロック(岩)とマイニング(採掘)です。はい、とても簡単です。
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