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一章 四人の勇者と血の魔王

第58話 そのいつかは新世紀かもしれない

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 次元深界
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「ふ~ん……よく分かんないけど、大変だったんだな。アタシらの時は魔王と戦いすらしなかったからな!鍛え損にも程があるって、全く」

「あ、あはは」

「目が笑ってねェな。そんなにアタシが面白くないか?」

「いえいえいえいえいえそんな事ないですよ、すごい……面白いなぁって」

「へぇ、別に面白い事を言ったつもりは無かったんだけど」

「……っス…………」

「ちょっと、私の友をあまり虐めないであげてよ」

 今まで会った中でトップクラスに苦手なタイプだ……先代岩の勇者は。というかグランドギルドマスターの修行がトラウマすぎてあの地獄をもう一度体験したくないと体が叫んでいる。

「それで?強くなりたいってか。んー……付け焼き刃で意味あんのかなァ」

「そこを何とかお願いしたいっス」

「……えー、そのオリハルコン……ユニオンスキルなんだよな?その言葉を知ってるって事は大賢者様にはもう会ったんだな?」

「ルタインすか。世話んなりました」

「じゃあ同調率はいくらだった?」

「ドウチョウリツ」

 聞き馴染みのない言葉に首を傾げると、その俺の仕草にルビーさんが合わせて首を曲げる。

「なんスかそれ」

「大賢者様が……あれだ、四角くて片手に収まるくらいの魔導具持ってなかったか」

「あぁ!なんかすごいニヤニヤしながら見てたっスね、キモかったんで見せてもらう気にはなりませんでした」

「うん、やっぱ結構高めっぽいかァ。じゃあ────発動できる聖剣のユニークスキルの段階は?」

『段階』。ルタインに習ったわけではないが……俺は感覚でそれを理解していた。聖剣のユニークスキルには個別に『難易度』のようなもので分けられていて、それが高くなるほどスキルも強力になっていく。

「……【彼岩の構え】が限界っス」

「弱っ!なるほどね……同調率が高い代わりにそもそもの戦闘力が低いと。じゃあ決めた!」

 肩に置かれる手。女性ながらもゴツゴツとした力強さが溢れ出る感触で、力は入れられていないはずなのに重くのしかかるような圧を感じる。

「速攻で全部すっ飛ばして奥義【零久冠巌こぼくかんがん】を習得してもらう」

「冗談スよね?」

「アタシがそんな面白い事言うような人間に見えるか?」

「見えます」

「なら女を見る目がねェな」

「初恋は剣聖の娘です」

「クルグの小僧の娘!?それは……あるのか?ないのか?……いや、あるか。あるじゃねェか!」

 バシバシと肩を叩かれる度に身体全体に伝わる振動。この人は豪快に笑いながらやっているが普通に痛いので切実にやめてほしい。

「奥義である【零久冠巌】を習得すれば、その過程の段階のスキルも自然と使えるようになってくる。聖剣ってのはそういう風に出来てるらしくてな。で、習得方法だが……」

「……!」

 聖剣の奥義────きっとめちゃくちゃやべースキルだ。その分習得難易度も高いだろうし、俺はそれまでの段階も不十分。
 だがアルマを救えるなら……地獄だって耐え抜いてやろうじゃねえか。グラマスの訓練を耐え抜いたのだって、勇者に憧れを抱く人々の期待を裏切りたくなかったからだ。俺に憧れてくれたアルマのために─────

「精神力だ」

「へ?」

「何事にも動じない、盤石の心。それを得るためにお前には──────」







「……こちょこちょー」

「ふふぉうっ」

「はいアウトォ!!」

 頬に風圧が迫り──────バチン!!という轟音と共に激しい衝撃。遅れて激痛を自覚し、ルビーさんにビンタされた俺は何度目か分からない次元深界の床の味を堪能した。

「おいノードゥステメェ!くすぐるのは卑怯だろうが!!」

「おぉ友よ、なぜ怒る!私は君の修行のために貢献してやっているというのに」

「ハハハ、まァ……これくらいで揺らいじまうんなら、奥義なんざ遠いよなァ」

【零久冠巌】を習得するための修行────それは『動じない』強い精神を作るというものだった。次元深界に座り込み、目を瞑り、何があろうともそれを維持するだけの単純な修行だが……妨害がとんでもなくうざい。

「よし本気出す。かかってこいやァ!!どんな妨害でも耐え抜いてやるよ……!」

 いつまでもちょっとしたイタズラで動揺してちゃ時間の無駄だ。一刻も早く戻らなければいけない……絶対に動じない岩の心を手に入れてみせる!

「ふぅん?じゃあ─────出てきてくれるかな」

「はぁ~い、先輩」

(……ん?誰の声だ?)

 ノードゥスでもルビーさんでもない────とんでもなく艶っぽい女性の声。なんかもう声がエロい。

「なんだっけ、キミ……岩の勇者だっけ?」

「ッ!」

 声の主が俺の耳元に移動し……あ、あぁ、吐息がッ!

「あーしの事誰か分かる?あっはは、絶対分かんない質問しちゃったぁ。ごめんね?」

「……!!」

 左腕、に……とんでもなく柔らかい感触が……こんな柔らかい物体、存在するのか……!?

「【麗の魔王】って知ってる?結構昔の魔王なんだけど……」

 指が俺の腕を這い上がり────首もとへ。

「あーしね?割とタイプなんだよねー……キミみたいな子が」

 クソ……ダメだ、負けちゃダメだ……ッ!!

「食べちゃいたいっていうか?キミも……満更じゃないよね?」

 負けちゃダメだ。ここで負けたら、俺は……ッ!

「もしその目を開けてくれたら『イイコト』してあげる……」

 負けちゃダメだ負けちゃダメ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ────────

「……」

 ───────境地。

 全てが静かだ。まるで全知全能の存在に上り詰めたかのような感覚。言うなれば……賢者達の感覚が理解出来たような。それに近しいものがあると我は思う。今ならこの世界の解答すら導き出せる。その確信がある……これが悟り。もはや我の心境を乱すものは無と言えるだr

「今ね?下着だけ抜き取ってみたの。それをキミの腕に当て、て……」

 んんんんんんんんん理解不能理解不能。不明な物体が我の腕に接触し────あぁ、落ち着いた。これが悟りだ。おっぱい。柔らかいものが当たろうと、それが何だという話だ。所詮はこの俗世の存在に過ぎないおっぱい。おっぱいおっぱい…………おっぱい?違う、我は───────

「どう、かな?ほら、挟んでみちゃったりして!」

 があああああああああああああああああああああああああああ!!!???これは……自我の崩壊。我は……俺は?何だ、何が起こっている……俺は何だ?この柔らかいものはおっぱい!?おっぱい俺!!??

「……まだダメ?じゃあ────最後はもう、『ナマ』しか無いよね」

 俺は……あぁあああああ!!俺はロクト・マイニングだ……そうだ、俺はロクトだ……!勝たなければいけない、この戦いに……いやこの戦いではないけど!俺はもう二度と後悔したくない。目の前の全てのおっぱいに……じゃなくて全ての人に笑っていてほしい!俺に揉まれてくれた……違う!憧れてくれたアルマを、他でもない俺が……救うッ!!

 そうだ、俺が、俺が──────

「……もう!何で目開けてくれないの!?あーしってそんな魅力無いのぉ……?」

 耳元の声が少しだけ子供っぽくなる。

「ははは、そんな事は無いと思うよ、後輩よ。今回はロクト君が……うん、頑張って我慢しただけさ。見てごらん?唇を噛み過ぎて出血してる」

 恐らくノードゥスと思われる指が俺の口元の血を拭い……堅く閉じた両瞼を撫でた。

「ルビーちゃん、これで良いよね?」

「あァ……不完全には程があるが、コツは掴んだみてェだな」

「だってさ、友よ。目を開けて……あ、これは誘惑とかじゃないよ」

 恐る恐る、俺は永遠とも思えた瞼の裏の景色に別れを告げ─────周囲を囲う大勢の亡霊達を目にした。

 ……静かな歓声と共に起こる、耳をつんざくほど大きい拍手。

「はぁ……おめでと」

「おめでとう!やるじゃねェか」

「おめでとう、友よ」

「魔王に、ありがとう。勇者に、さよう……じゃなくて、えぇ?何だよこの人集りは……」

 教科書で見た事のある人々や、とてつもなく厳つい見た目の魔族までもが俺を見て……うん、笑ってる。

「君にこの子……【麗の魔王】ヴィヌスの誘惑を受けてもらおうって連れて来たらね、面白がって皆着いて来ちゃった。この世界に生者が来るなんて中々無い事だから珍しがってるんだ」

「あぁそう……ってかわざわざこいつに連れて来られたのか。俺のためにごめんな…………!?」

 その魔族は─────俺が想像していたイメージを余裕で飛び越える美女だった。ピンク色の美しい髪に、丸く愛らしい角。美少女としての幼さ、可憐さを持ち合わせており……やはり胸がデケェ。

「あ!えっちな目線してる……」

「え!あ、その、あれ……ははは」

「ううん、いいの。やっぱこうでなきゃね」

 満足げに立ち上がった女の手には……恐らくさっきまで着用していたであろう下着が。もう既に心を乱されそうだ。

「ヴィヌスちゃんは頭悪いしそこまで強くないけど、この美貌があったから魔王に登り詰められたんだ。まぁすぐに勇者に負けちゃったけど」

「……そんな淫魔の誘惑に耐えれたって事?凄くね?」

「あァ、だが調子に乗りすぎんなよ?さっきの感覚を忘れるな……心の中が静まった時の感覚を」

 腕を組みながら自慢げに話すルビーさんが嘘を言っているようには見えない。……え、さっきの『悟り開いた』みたいな状態の事?マジで?

「強い思いと共に『あの状態』になれ。その時【零久冠巌】はお前に応えるだろう」

「冗談じゃなくて?」

「アタシがそんなつまらない嘘を言うように見えるか?」

「それは……見えねーっすわ」

 実感が無い。これに尽きる。

「お前は聖剣の『感覚』を手に入れた。後は……」

「もちろん戦う時は私の『支援』も添えてね。んー……どうだろう?いけるかな?勝てるかな?分からないけど……とりあえず私達がしてやれる事はもう無いかな」

 座り込んだ俺に、ノードゥスが目線を合わせてかがみ込む。

「君とも、もうお別れか」

「白々しいな」

「ふふ……友との別れは何度経験したって悲しいものさ。ま、君はいつだってここに来れるか」

 自分で言った言葉に対して、なのか……神妙な顔つきになったノードゥスが一呼吸を置き、口を開く。

「君がここを出る時に教える、と言ったね。この次元深界を作ったのは誰なのか。後に大成する可能性の高い者に次元魔法の才能を与えているのは誰なのか」

「……」

「この答えを聞いた事は……友よ、絶対によ。いいね?これだけは隠し通すんだ」

「……え?」

 思いがけない人物の名前に気を取られたまま─────俺はこの世界の真実を告げられる。

「『災害』の一体、『反逆者キトゥリノ』─────奴がやがて実行するであろう『』のための兵士が、私達『革命蛹』なんだ」


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マジストロイはレナから『反逆者は神を殺そうとしている』という情報のみを聞いており、それ以外の事は一般人と同じレベルでしか知らないのでかなり危険視しています。反逆者が歴史の表舞台に出る事はとても少なく、しかし『忘れさせてはいけない』という太古の教えが現代まで届き、名前と『世界を守っている』という断片的な情報が語り継がれて来ました。
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