59 / 71
一章 四人の勇者と血の魔王
第58話 そのいつかは新世紀かもしれない
しおりを挟む
ーーーーーーー
次元深界
ーーーーーーー
「ふ~ん……よく分かんないけど、大変だったんだな。アタシらの時は魔王と戦いすらしなかったからな!鍛え損にも程があるって、全く」
「あ、あはは」
「目が笑ってねェな。そんなにアタシが面白くないか?」
「いえいえいえいえいえそんな事ないですよ、すごい……面白いなぁって」
「へぇ、別に面白い事を言ったつもりは無かったんだけど」
「……っス…………」
「ちょっと、私の友をあまり虐めないであげてよ」
今まで会った中でトップクラスに苦手なタイプだ……先代岩の勇者は。というかグランドギルドマスターの修行がトラウマすぎてあの地獄をもう一度体験したくないと体が叫んでいる。
「それで?強くなりたいってか。んー……付け焼き刃で意味あんのかなァ」
「そこを何とかお願いしたいっス」
「……えー、そのオリハルコン……ユニオンスキルなんだよな?その言葉を知ってるって事は大賢者様にはもう会ったんだな?」
「ルタインすか。世話んなりました」
「じゃあ同調率はいくらだった?」
「ドウチョウリツ」
聞き馴染みのない言葉に首を傾げると、その俺の仕草にルビーさんが合わせて首を曲げる。
「なんスかそれ」
「大賢者様が……あれだ、四角くて片手に収まるくらいの魔導具持ってなかったか」
「あぁ!なんかすごいニヤニヤしながら見てたっスね、キモかったんで見せてもらう気にはなりませんでした」
「うん、やっぱ結構高めっぽいかァ。じゃあ────発動できる聖剣のユニークスキルの段階は?」
『段階』。ルタインに習ったわけではないが……俺は感覚でそれを理解していた。聖剣のユニークスキルには個別に『難易度』のようなもので分けられていて、それが高くなるほどスキルも強力になっていく。
「……【彼岩の構え】が限界っス」
「弱っ!なるほどね……同調率が高い代わりにそもそもの戦闘力が低いと。じゃあ決めた!」
肩に置かれる手。女性ながらもゴツゴツとした力強さが溢れ出る感触で、力は入れられていないはずなのに重くのしかかるような圧を感じる。
「速攻で全部すっ飛ばして奥義【零久冠巌】を習得してもらう」
「冗談スよね?」
「アタシがそんな面白い事言うような人間に見えるか?」
「見えます」
「なら女を見る目がねェな」
「初恋は剣聖の娘です」
「クルグの小僧の娘!?それは……あるのか?ないのか?……いや、あるか。あるじゃねェか!」
バシバシと肩を叩かれる度に身体全体に伝わる振動。この人は豪快に笑いながらやっているが普通に痛いので切実にやめてほしい。
「奥義である【零久冠巌】を習得すれば、その過程の段階のスキルも自然と使えるようになってくる。聖剣ってのはそういう風に出来てるらしくてな。で、習得方法だが……」
「……!」
聖剣の奥義────きっとめちゃくちゃやべースキルだ。その分習得難易度も高いだろうし、俺はそれまでの段階も不十分。
だがアルマを救えるなら……地獄だって耐え抜いてやろうじゃねえか。グラマスの訓練を耐え抜いたのだって、勇者に憧れを抱く人々の期待を裏切りたくなかったからだ。俺に憧れてくれたアルマのために─────
「精神力だ」
「へ?」
「何事にも動じない、盤石の心。それを得るためにお前には──────」
「……こちょこちょー」
「ふふぉうっ」
「はいアウトォ!!」
頬に風圧が迫り──────バチン!!という轟音と共に激しい衝撃。遅れて激痛を自覚し、ルビーさんにビンタされた俺は何度目か分からない次元深界の床の味を堪能した。
「おいノードゥステメェ!くすぐるのは卑怯だろうが!!」
「おぉ友よ、なぜ怒る!私は君の修行のために貢献してやっているというのに」
「ハハハ、まァ……これくらいで揺らいじまうんなら、奥義なんざ遠いよなァ」
【零久冠巌】を習得するための修行────それは『動じない』強い精神を作るというものだった。次元深界に座り込み、目を瞑り、何があろうともそれを維持するだけの単純な修行だが……妨害がとんでもなくうざい。
「よし本気出す。かかってこいやァ!!どんな妨害でも耐え抜いてやるよ……!」
いつまでもちょっとしたイタズラで動揺してちゃ時間の無駄だ。一刻も早く戻らなければいけない……絶対に動じない岩の心を手に入れてみせる!
「ふぅん?じゃあ─────出てきてくれるかな」
「はぁ~い、先輩」
(……ん?誰の声だ?)
ノードゥスでもルビーさんでもない────とんでもなく艶っぽい女性の声。なんかもう声がエロい。
「なんだっけ、キミ……岩の勇者だっけ?」
「ッ!」
声の主が俺の耳元に移動し……あ、あぁ、吐息がッ!
「あーしの事誰か分かる?あっはは、絶対分かんない質問しちゃったぁ。ごめんね?」
「……!!」
左腕、に……とんでもなく柔らかい感触が……こんな柔らかい物体、存在するのか……!?
「【麗の魔王】って知ってる?結構昔の魔王なんだけど……」
指が俺の腕を這い上がり────首もとへ。
「あーしね?割とタイプなんだよねー……キミみたいな子が」
クソ……ダメだ、負けちゃダメだ……ッ!!
「食べちゃいたいっていうか?キミも……満更じゃないよね?」
負けちゃダメだ。ここで負けたら、俺は……ッ!
「もしその目を開けてくれたら『イイコト』してあげる……」
負けちゃダメだ負けちゃダメ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ────────
「……」
───────境地。
全てが静かだ。まるで全知全能の存在に上り詰めたかのような感覚。言うなれば……賢者達の感覚が理解出来たような。それに近しいものがあると我は思う。今ならこの世界の解答すら導き出せる。その確信がある……これが悟り。もはや我の心境を乱すものは無と言えるだr
「今ね?下着だけ抜き取ってみたの。それをキミの腕に当て、て……」
んんんんんんんんん理解不能理解不能。不明な物体が我の腕に接触し────あぁ、落ち着いた。これが悟りだ。おっぱい。柔らかいものが当たろうと、それが何だという話だ。所詮はこの俗世の存在に過ぎないおっぱい。おっぱいおっぱい…………おっぱい?違う、我は───────
「どう、かな?ほら、挟んでみちゃったりして!」
があああああああああああああああああああああああああああ!!!???これは……自我の崩壊。我は……俺は?何だ、何が起こっている……俺は何だ?この柔らかいものはおっぱい!?おっぱい俺!!??
「……まだダメ?じゃあ────最後はもう、『ナマ』しか無いよね」
俺は……あぁあああああ!!俺はロクト・マイニングだ……そうだ、俺はロクトだ……!勝たなければいけない、この戦いに……いやこの戦いではないけど!俺はもう二度と後悔したくない。目の前の全てのおっぱいに……じゃなくて全ての人に笑っていてほしい!俺に揉まれてくれた……違う!憧れてくれたアルマを、他でもない俺が……救うッ!!
そうだ、俺が、俺が──────
「……もう!何で目開けてくれないの!?あーしってそんな魅力無いのぉ……?」
耳元の声が少しだけ子供っぽくなる。
「ははは、そんな事は無いと思うよ、後輩よ。今回はロクト君が……うん、頑張って我慢しただけさ。見てごらん?唇を噛み過ぎて出血してる」
恐らくノードゥスと思われる指が俺の口元の血を拭い……堅く閉じた両瞼を撫でた。
「ルビーちゃん、これで良いよね?」
「あァ……不完全には程があるが、コツは掴んだみてェだな」
「だってさ、友よ。目を開けて……あ、これは誘惑とかじゃないよ」
恐る恐る、俺は永遠とも思えた瞼の裏の景色に別れを告げ─────周囲を囲う大勢の亡霊達を目にした。
……静かな歓声と共に起こる、耳をつんざくほど大きい拍手。
「はぁ……おめでと」
「おめでとう!やるじゃねェか」
「おめでとう、友よ」
「魔王に、ありがとう。勇者に、さよう……じゃなくて、えぇ?何だよこの人集りは……」
教科書で見た事のある人々や、とてつもなく厳つい見た目の魔族までもが俺を見て……うん、笑ってる。
「君にこの子……【麗の魔王】ヴィヌスの誘惑を受けてもらおうって連れて来たらね、面白がって皆着いて来ちゃった。この世界に生者が来るなんて中々無い事だから珍しがってるんだ」
「あぁそう……ってかわざわざこいつに連れて来られたのか。俺のためにごめんな…………!?」
その魔族は─────俺が想像していたイメージを余裕で飛び越える美女だった。ピンク色の美しい髪に、丸く愛らしい角。美少女としての幼さ、可憐さを持ち合わせており……やはり胸がデケェ。
「あ!えっちな目線してる……」
「え!あ、その、あれ……ははは」
「ううん、いいの。やっぱこうでなきゃね」
満足げに立ち上がった女の手には……恐らくさっきまで着用していたであろう下着が。もう既に心を乱されそうだ。
「ヴィヌスちゃんは頭悪いしそこまで強くないけど、この美貌があったから魔王に登り詰められたんだ。まぁすぐに勇者に負けちゃったけど」
「……そんな淫魔の誘惑に耐えれたって事?凄くね?」
「あァ、だが調子に乗りすぎんなよ?さっきの感覚を忘れるな……心の中が静まった時の感覚を」
腕を組みながら自慢げに話すルビーさんが嘘を言っているようには見えない。……え、さっきの『悟り開いた』みたいな状態の事?マジで?
「強い思いと共に『あの状態』になれ。その時【零久冠巌】はお前に応えるだろう」
「冗談じゃなくて?」
「アタシがそんなつまらない嘘を言うように見えるか?」
「それは……見えねーっすわ」
実感が無い。これに尽きる。
「お前は聖剣の『感覚』を手に入れた。後は……」
「もちろん戦う時は私の『支援』も添えてね。んー……どうだろう?いけるかな?勝てるかな?分からないけど……とりあえず私達がしてやれる事はもう無いかな」
座り込んだ俺に、ノードゥスが目線を合わせてかがみ込む。
「君とも、もうお別れか」
「白々しいな」
「ふふ……友との別れは何度経験したって悲しいものさ。ま、君はいつだってここに来れるか」
自分で言った言葉に対して、なのか……神妙な顔つきになったノードゥスが一呼吸を置き、口を開く。
「君がここを出る時に教える、と言ったね。この次元深界を作ったのは誰なのか。後に大成する可能性の高い者に次元魔法の才能を与えているのは誰なのか」
「……」
「この答えを聞いた事は……友よ、絶対に大賢者ルタインにバレてはいけないよ。いいね?これだけは隠し通すんだ」
「……え?」
思いがけない人物の名前に気を取られたまま─────俺はこの世界の真実を告げられる。
「『災害』の一体、『反逆者』─────奴がやがて実行するであろう『神殺し』のための兵士が、私達『革命蛹』なんだ」
ーーーーーーー
マジストロイはレナから『反逆者は神を殺そうとしている』という情報のみを聞いており、それ以外の事は一般人と同じレベルでしか知らないのでかなり危険視しています。反逆者が歴史の表舞台に出る事はとても少なく、しかし『忘れさせてはいけない』という太古の教えが現代まで届き、名前と『世界を守っている』という断片的な情報が語り継がれて来ました。
次元深界
ーーーーーーー
「ふ~ん……よく分かんないけど、大変だったんだな。アタシらの時は魔王と戦いすらしなかったからな!鍛え損にも程があるって、全く」
「あ、あはは」
「目が笑ってねェな。そんなにアタシが面白くないか?」
「いえいえいえいえいえそんな事ないですよ、すごい……面白いなぁって」
「へぇ、別に面白い事を言ったつもりは無かったんだけど」
「……っス…………」
「ちょっと、私の友をあまり虐めないであげてよ」
今まで会った中でトップクラスに苦手なタイプだ……先代岩の勇者は。というかグランドギルドマスターの修行がトラウマすぎてあの地獄をもう一度体験したくないと体が叫んでいる。
「それで?強くなりたいってか。んー……付け焼き刃で意味あんのかなァ」
「そこを何とかお願いしたいっス」
「……えー、そのオリハルコン……ユニオンスキルなんだよな?その言葉を知ってるって事は大賢者様にはもう会ったんだな?」
「ルタインすか。世話んなりました」
「じゃあ同調率はいくらだった?」
「ドウチョウリツ」
聞き馴染みのない言葉に首を傾げると、その俺の仕草にルビーさんが合わせて首を曲げる。
「なんスかそれ」
「大賢者様が……あれだ、四角くて片手に収まるくらいの魔導具持ってなかったか」
「あぁ!なんかすごいニヤニヤしながら見てたっスね、キモかったんで見せてもらう気にはなりませんでした」
「うん、やっぱ結構高めっぽいかァ。じゃあ────発動できる聖剣のユニークスキルの段階は?」
『段階』。ルタインに習ったわけではないが……俺は感覚でそれを理解していた。聖剣のユニークスキルには個別に『難易度』のようなもので分けられていて、それが高くなるほどスキルも強力になっていく。
「……【彼岩の構え】が限界っス」
「弱っ!なるほどね……同調率が高い代わりにそもそもの戦闘力が低いと。じゃあ決めた!」
肩に置かれる手。女性ながらもゴツゴツとした力強さが溢れ出る感触で、力は入れられていないはずなのに重くのしかかるような圧を感じる。
「速攻で全部すっ飛ばして奥義【零久冠巌】を習得してもらう」
「冗談スよね?」
「アタシがそんな面白い事言うような人間に見えるか?」
「見えます」
「なら女を見る目がねェな」
「初恋は剣聖の娘です」
「クルグの小僧の娘!?それは……あるのか?ないのか?……いや、あるか。あるじゃねェか!」
バシバシと肩を叩かれる度に身体全体に伝わる振動。この人は豪快に笑いながらやっているが普通に痛いので切実にやめてほしい。
「奥義である【零久冠巌】を習得すれば、その過程の段階のスキルも自然と使えるようになってくる。聖剣ってのはそういう風に出来てるらしくてな。で、習得方法だが……」
「……!」
聖剣の奥義────きっとめちゃくちゃやべースキルだ。その分習得難易度も高いだろうし、俺はそれまでの段階も不十分。
だがアルマを救えるなら……地獄だって耐え抜いてやろうじゃねえか。グラマスの訓練を耐え抜いたのだって、勇者に憧れを抱く人々の期待を裏切りたくなかったからだ。俺に憧れてくれたアルマのために─────
「精神力だ」
「へ?」
「何事にも動じない、盤石の心。それを得るためにお前には──────」
「……こちょこちょー」
「ふふぉうっ」
「はいアウトォ!!」
頬に風圧が迫り──────バチン!!という轟音と共に激しい衝撃。遅れて激痛を自覚し、ルビーさんにビンタされた俺は何度目か分からない次元深界の床の味を堪能した。
「おいノードゥステメェ!くすぐるのは卑怯だろうが!!」
「おぉ友よ、なぜ怒る!私は君の修行のために貢献してやっているというのに」
「ハハハ、まァ……これくらいで揺らいじまうんなら、奥義なんざ遠いよなァ」
【零久冠巌】を習得するための修行────それは『動じない』強い精神を作るというものだった。次元深界に座り込み、目を瞑り、何があろうともそれを維持するだけの単純な修行だが……妨害がとんでもなくうざい。
「よし本気出す。かかってこいやァ!!どんな妨害でも耐え抜いてやるよ……!」
いつまでもちょっとしたイタズラで動揺してちゃ時間の無駄だ。一刻も早く戻らなければいけない……絶対に動じない岩の心を手に入れてみせる!
「ふぅん?じゃあ─────出てきてくれるかな」
「はぁ~い、先輩」
(……ん?誰の声だ?)
ノードゥスでもルビーさんでもない────とんでもなく艶っぽい女性の声。なんかもう声がエロい。
「なんだっけ、キミ……岩の勇者だっけ?」
「ッ!」
声の主が俺の耳元に移動し……あ、あぁ、吐息がッ!
「あーしの事誰か分かる?あっはは、絶対分かんない質問しちゃったぁ。ごめんね?」
「……!!」
左腕、に……とんでもなく柔らかい感触が……こんな柔らかい物体、存在するのか……!?
「【麗の魔王】って知ってる?結構昔の魔王なんだけど……」
指が俺の腕を這い上がり────首もとへ。
「あーしね?割とタイプなんだよねー……キミみたいな子が」
クソ……ダメだ、負けちゃダメだ……ッ!!
「食べちゃいたいっていうか?キミも……満更じゃないよね?」
負けちゃダメだ。ここで負けたら、俺は……ッ!
「もしその目を開けてくれたら『イイコト』してあげる……」
負けちゃダメだ負けちゃダメ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ────────
「……」
───────境地。
全てが静かだ。まるで全知全能の存在に上り詰めたかのような感覚。言うなれば……賢者達の感覚が理解出来たような。それに近しいものがあると我は思う。今ならこの世界の解答すら導き出せる。その確信がある……これが悟り。もはや我の心境を乱すものは無と言えるだr
「今ね?下着だけ抜き取ってみたの。それをキミの腕に当て、て……」
んんんんんんんんん理解不能理解不能。不明な物体が我の腕に接触し────あぁ、落ち着いた。これが悟りだ。おっぱい。柔らかいものが当たろうと、それが何だという話だ。所詮はこの俗世の存在に過ぎないおっぱい。おっぱいおっぱい…………おっぱい?違う、我は───────
「どう、かな?ほら、挟んでみちゃったりして!」
があああああああああああああああああああああああああああ!!!???これは……自我の崩壊。我は……俺は?何だ、何が起こっている……俺は何だ?この柔らかいものはおっぱい!?おっぱい俺!!??
「……まだダメ?じゃあ────最後はもう、『ナマ』しか無いよね」
俺は……あぁあああああ!!俺はロクト・マイニングだ……そうだ、俺はロクトだ……!勝たなければいけない、この戦いに……いやこの戦いではないけど!俺はもう二度と後悔したくない。目の前の全てのおっぱいに……じゃなくて全ての人に笑っていてほしい!俺に揉まれてくれた……違う!憧れてくれたアルマを、他でもない俺が……救うッ!!
そうだ、俺が、俺が──────
「……もう!何で目開けてくれないの!?あーしってそんな魅力無いのぉ……?」
耳元の声が少しだけ子供っぽくなる。
「ははは、そんな事は無いと思うよ、後輩よ。今回はロクト君が……うん、頑張って我慢しただけさ。見てごらん?唇を噛み過ぎて出血してる」
恐らくノードゥスと思われる指が俺の口元の血を拭い……堅く閉じた両瞼を撫でた。
「ルビーちゃん、これで良いよね?」
「あァ……不完全には程があるが、コツは掴んだみてェだな」
「だってさ、友よ。目を開けて……あ、これは誘惑とかじゃないよ」
恐る恐る、俺は永遠とも思えた瞼の裏の景色に別れを告げ─────周囲を囲う大勢の亡霊達を目にした。
……静かな歓声と共に起こる、耳をつんざくほど大きい拍手。
「はぁ……おめでと」
「おめでとう!やるじゃねェか」
「おめでとう、友よ」
「魔王に、ありがとう。勇者に、さよう……じゃなくて、えぇ?何だよこの人集りは……」
教科書で見た事のある人々や、とてつもなく厳つい見た目の魔族までもが俺を見て……うん、笑ってる。
「君にこの子……【麗の魔王】ヴィヌスの誘惑を受けてもらおうって連れて来たらね、面白がって皆着いて来ちゃった。この世界に生者が来るなんて中々無い事だから珍しがってるんだ」
「あぁそう……ってかわざわざこいつに連れて来られたのか。俺のためにごめんな…………!?」
その魔族は─────俺が想像していたイメージを余裕で飛び越える美女だった。ピンク色の美しい髪に、丸く愛らしい角。美少女としての幼さ、可憐さを持ち合わせており……やはり胸がデケェ。
「あ!えっちな目線してる……」
「え!あ、その、あれ……ははは」
「ううん、いいの。やっぱこうでなきゃね」
満足げに立ち上がった女の手には……恐らくさっきまで着用していたであろう下着が。もう既に心を乱されそうだ。
「ヴィヌスちゃんは頭悪いしそこまで強くないけど、この美貌があったから魔王に登り詰められたんだ。まぁすぐに勇者に負けちゃったけど」
「……そんな淫魔の誘惑に耐えれたって事?凄くね?」
「あァ、だが調子に乗りすぎんなよ?さっきの感覚を忘れるな……心の中が静まった時の感覚を」
腕を組みながら自慢げに話すルビーさんが嘘を言っているようには見えない。……え、さっきの『悟り開いた』みたいな状態の事?マジで?
「強い思いと共に『あの状態』になれ。その時【零久冠巌】はお前に応えるだろう」
「冗談じゃなくて?」
「アタシがそんなつまらない嘘を言うように見えるか?」
「それは……見えねーっすわ」
実感が無い。これに尽きる。
「お前は聖剣の『感覚』を手に入れた。後は……」
「もちろん戦う時は私の『支援』も添えてね。んー……どうだろう?いけるかな?勝てるかな?分からないけど……とりあえず私達がしてやれる事はもう無いかな」
座り込んだ俺に、ノードゥスが目線を合わせてかがみ込む。
「君とも、もうお別れか」
「白々しいな」
「ふふ……友との別れは何度経験したって悲しいものさ。ま、君はいつだってここに来れるか」
自分で言った言葉に対して、なのか……神妙な顔つきになったノードゥスが一呼吸を置き、口を開く。
「君がここを出る時に教える、と言ったね。この次元深界を作ったのは誰なのか。後に大成する可能性の高い者に次元魔法の才能を与えているのは誰なのか」
「……」
「この答えを聞いた事は……友よ、絶対に大賢者ルタインにバレてはいけないよ。いいね?これだけは隠し通すんだ」
「……え?」
思いがけない人物の名前に気を取られたまま─────俺はこの世界の真実を告げられる。
「『災害』の一体、『反逆者』─────奴がやがて実行するであろう『神殺し』のための兵士が、私達『革命蛹』なんだ」
ーーーーーーー
マジストロイはレナから『反逆者は神を殺そうとしている』という情報のみを聞いており、それ以外の事は一般人と同じレベルでしか知らないのでかなり危険視しています。反逆者が歴史の表舞台に出る事はとても少なく、しかし『忘れさせてはいけない』という太古の教えが現代まで届き、名前と『世界を守っている』という断片的な情報が語り継がれて来ました。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~
昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる