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一章 四人の勇者と血の魔王
第54話 スペシャルなディメンションにワープしてナックルとビューティフルにプロセス
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ーーーーーーー
赤刃山脈
ーーーーーーー
「西の、勇者が─────」
「ロクト……!」
ママロとマジストロイ、手を伸ばした2人は次元の穴に落ちた事で姿を消した男に、呆然と思考を飛ばしかけた。
が……事態は休息を許さない。
「緊急時だ、命令に背くが実体反映をさせてもらう」
「っ、あ……」
迅速に、しかし冷静に夢の聖剣から現れた男─────『ナイズ』が飛行を加速させる。
向かう先は─────同じく、次元の穴に落下しかけているマジストロイ。
「掴まれ」
「っ、すまない……!」
右手と右手が互いに握り、ナイズ達3人はその場から……アルマから退避する。
「ナ、ナイズ、一旦ゆっくりにして!次元魔法で西の勇者を助けに────」
「無駄だ。ママロでは『次元深界』に接続出来ない」
「……え?」
一才冷静さを欠いていないように見えるナイズだが……その内心では焦りを必死に抑えている。
「ロクト殿が次元深界で何も『事故』が起きなければ帰ってくるはずだ。それを待つ他は無い」
「じ、次元深界って何よ。それに事故って……」
「次元深界は普通の次元空間とは違う。もし彼が落ちた先で何者かに遭遇してしまった場合、最悪帰ってこない可能性すらある」
夢の聖剣のような、古代を生き様々な経験をしたからこそ知り得る情報。だからこそナイズは事態の深刻さを理解していた。
「例えば────『既に死んだ魔王』など、勇者を恨む存在に出会ってしまった時──────」
ーーーーーーー
赤刃山脈 小屋
ーーーーーーー
「師し……」
「『次元深界』と『革命蛹』は知っているな?テラ」
「え」
現場への急行を催促するテラを先に封じ、ルタインは依然として映像を見つめる。
「は、はい。次元深界は通常の次元魔法では辿り着けない特殊な次元空間で、中には一部の死者が存在していると……師匠からお聞きした覚えがあります」
「革命蛹は」
「……生まれつき次元魔法を得意とする者の事です」
「あぁ。その通りだ……よく覚えていたな」
「ですが、何の関係が───────あ」
テラのハッとした表情に、ルタインは微笑んだ。
「気付いたか。ロクトは革命蛹だ……聖剣の恩恵で無条件に使用可能になるのは中級魔法まで。魔法が不得意な彼が、上級魔法の中でも比較的簡単とは言え【次元穴】を詠唱短縮で発動出来たのはそれが理由だ」
「ですが、それが次元深界と何の関係が……」
「次元深界に行く事の出来る『死者』の定義は……もう教えたか?」
「いえ、存じていません」
「なら授業開始だ。結論から言うが、『革命蛹』の魂は死亡した瞬間に『次元深界』に転送される」
大賢者は紙にササっと二重に円を描き、その内側の小さな円に矢印を引いて『次元深界』と書く。次元深界を表した円の中には『革命蛹』の文字。
「……質問です。先ほどの西の勇者が次元の穴から【力の魔王】の腕を出現させていたのは……」
「次元深界に繋がっていたからだ」
「……なるほど、ではもう一つ質問です。あの少年もそうですが─────何故、死者でもないのに次元深界へ繋がる穴を?」
「テイマーの少年アルマ……いや、レナが見逃した魔王の器……言うなれば【人の魔王】か?彼の場合は『災害』から直接力を渡されたからだ。だがロクトの場合は少々複雑だ」
『現実世界』と新たに書いた円の中に、『岩』と顔に書かれた棒人間。ルタインは新たに適当に書いた岩の聖剣を棒人間の腕に書き足す。
「まず、ロクトがユニオンスキルを使用し、この世に自然発生しないはずのオリハルコンが増加する」
「はい」
「これにより、次元深界の中の【力の魔王】が勘付く。奴の事だ、自らの身体を取り戻すためにさぞ喜んだだろう」
「……待ってください、自らの身体、とは…………」
「む?あぁ、オリハルコンという金属は元々『力の魔王オリハルコン』の身体だった。それが世界中に散らばっただけだ。自然発生しないのも当然の話だろう?」
「は、初耳なのですが……」
「本題に戻すぞ。オリハルコンは自らの身体を求めて次元深界から現実世界へと接続を試みたのだろう。だがあちらからはこちらに干渉出来ない仕組みになっている」
「はい」
「……だが、幸か不幸か、ロクトは『革命蛹』だった。ロクトの革命蛹としての『次元深界に行ける』素質と、オリハルコンの『現実世界に干渉したい』意思が噛み合い、ロクトが開いた次元の穴が次元深界に繋がってしまった。ロクトが聖剣の魔力を使った事で、それに因縁を持つオリハルコンが干渉しやすくなった事も原因の一つだ……」
棒人間の手元に書いた丸い穴を、そのまま次元深界の円まで矢印で繋ぐ。
「そして……岩の聖剣と力の魔王の戦いの始まりだ。奴は必死に聖剣が纏っている複製オリハルコンを奪い取り、岩の聖剣は必死にオリハルコンを生成し直す。ロクトが居合の構えをとった一瞬のうちに何度も繰り返され、挙げ句の果てにはロクトのアイテムボックス内の複製しておいたオリハルコンすら奴は奪った。さっき、彼は小袋を弄りながら焦っていただろう?」
「……そういえば」
「力の魔王がロクトに協力していた理由は……分からない。断定は出来ないがまぁ、戦闘狂の奴の事だ、マジストロイのような強者と闘いたい意志に突き動かされたのかもしれない」
「……おおよそは把握出来ました、ありがとうございます…………」
「言葉の割には全然納得が行っていないという顔だが」
テラは眉間に皺を寄せながらルタインの書いた紙を睨む。
「……何故一部の死者が送られる特殊な次元空間があるのか。その『一部』とはどのような基準なのか。そもそも生きている師匠がどうしてここまで深く理解しているのか……疑問はまだ尽きませんよ」
「知りたいのなら教えるが……この事を知っているのは私を除けばポチとレナと災害くらいだ。教える時は賢者全員に一斉に話したい。面倒だ」
映像はもうロクトを映していない。ルタインは監視魔導具を直接操作するための操作用魔導具を取り出し、そのレバーを倒した。
何を見るかは決まっていない。とりあえず破壊されないような位置に移動するために……。
(……再び次元魔法を使用すればロクトは戻れるはず。アルマ少年も遠ざける目的で次元魔法を使用したのだろうが……彼はまだ戻ってこない。つまり『何かがあった』)
次元深界に潜む死者。その中で最も会うべきではない存在が、ルタインの脳裏に現れる。
(最悪のパターンは、ロクトが『あの魔王』と接触してしまった場合。もしそうなら─────『私の計画』は……)
ー ー ー ー ー ー ー
「んんん、随分詰め込んだねぇ!『勇者の俺が追放したテイマーがチート能力を手に入れてハーレム状態なんだがこれってもう遅い?』……ね。何から何までよく分からなくて気になってきたな……参った、友よ!君の話を聞かせておくれ」
その魔族は勢いよく巨人の肩から飛び降り、俺の隣に降り立つ……。
「うわ、とと」
「お、おい……大丈夫かよ」
「すまない、運動は苦手でね」
隣に座り込んだそいつから、ふわっと花のような匂いが香る。……いや、落ち着けロクト。まだどっちかは分からねーんだからな……。
「友よ。名を教えてくれるかい?」
黙っている時の落ち着いた雰囲気、クールな顔立ちから笑顔になると一転して明るいイメージに──────クソ、黙るのも落ち着くのも俺の方だぞ!
「……ロクト・マイニング」
「ふむ……うん、覚えたよ。では早速順に聞いていこうか。友よ、君は……その聖剣からして恐らく【岩の勇者】かな?」
「おう」
「で、追放したテイマーというのは?」
「前に、色々あってパーティから追放しちまった奴がテイマーで……テイマーは分かるよな?」
「あぁ。私と似ている能力だからね、興味があって調べた事がある……確か評価は『役立たず』で満場一致じゃなかったかな。それがどうして『チート能力』を?」
「お……よかった、チートの意味は伝わったか」
語源は初代勇者の書物だったり古代語だったり色々な説があるが、主に若者の間で『ズル』とか強すぎる力の事をそう呼んだりしている。
「なんだい?チートくらい一般的な古代語だろう」
「……そうかぁ?まぁそれは置いといて……で、なんやかんやでそいつが魔王の器っぽくてな。『流浪者』に騙されて俺達と敵対しちまった」
「うーん、私の価値観が間違っていたら申し訳ないけど、魔王の器とか『災害』が関わってくる話はなんやかんやで済ませてはいけないレベルだと思うんだけど……しかし、『魔王』か。じゃあ、その子が今の魔王なのかい?」
「いや、違う。俺達が今の魔王、マジストロイって奴に勝った時に乱入してきたんだ。その、俺の仲間だった……アルマって名前なんだけど」
「マジストロイ!『こいつ』が興味を示した魔王だ、気になる所だね……で、肝心のハーレムってところは」
「アルマの取り巻きの女も敵対しててな……流浪者に人質に取られてるみたいなもんだ」
実際の様子だと、死霊化やグール化のような技術を施されてたっぽいから……人質よりもっと悪質だな。
まぁ、『ハーレム』って単語を入れて興味を持たせたかったというのが本音。
「で、そのアルマ君とやらが次元の亀裂を修復したから、『こいつ』はやむを得ず撤退し……君は逆に放り込まれた」
「これが一連の流れ……だな。大体こんな感じだ」
「……一つ。友よ、君のターンが終わる前に聞いておきたい事がある」
足を組み、妖艶な手つきで杖を突きつけられる。
「────勝つ気はあるかい?」
「……次元の穴を閉じられちゃあ、このデカブツの助けは得られない。だから俺はまた、聖剣に見合っていない身体でなんとかやってかなきゃいけない……」
それは理解している事だ。覆すのが無理に等しい事も分かっている。
でも─────それは、何もハプニングが起きなかった場合。
「……正直、さっきの落ちてきた俺を見ればわかると思うけどさ……諦めてたよ」
「うん」
「償い……になるかは分からない、ただの自己満足だけど……ここで死ぬのが『報い』になるんじゃないかって考えちまった。でも……俺を助けてくれた巨人と、『とんでもない魔力』を持った性別のわからない変な奴に出会った」
そう。この美人の魔族……近寄るだけで異次元レベルの魔力だと分かった。魔力操作が下手な俺は正確な魔力量は測れないけど、サヴェルやリェフルちゃんと一緒にいた狼と同じレベルかもしれない。少なくともマジストロイよりは上だ。
ルタインの野郎は……サヴェルが昔言ってたが、魔力量が大きすぎて外に漏れる魔力を『隠す』ための魔法を常に使ってるとか。まぁ、そんなだから流石にアイツには及ばないだろうけど。
それでもこの魔力量は異常だ。……だと言うのに完全詠唱で初級魔法を唱えていたコイツは本当に意味の分からない変な奴だ。
「おぉ友よ、変な奴呼ばわりは心外だ」
「誰が見ても変だろ!……まぁ、そう言う訳で。これは『機会』だ、こんなクソデカいチャンスを逃す手はない。そう思ってアンタの問答にも応じた。……と、こんな感じに中途半端な意志だよ」
「自分でも分かってるみたいだけど……じゃあ、私達は君を手伝わなくて良いって事かい?」
「─────って事は、アンタらが手伝ってくれればこの状況をどうにか出来るんだな?」
「……へぇ」
その瞬間、つぶらな瞳の奥が……音を立てたりした訳でもないのに、この魔族が俺を『観察』した事が理解出来た。
「─────人族よ。この私を試したか」
「ッ……」
圧に呑まれそうになり、無理矢理唾を飲み込む。
「別にそんな偉そうな事したつもりじゃねえよ。今言った事が嘘な訳でもない。ただ……ここで諦めれば俺は一生……いや、死んでも後悔し続ける。それだけは確実だって分かってる」
「……じゃ、私も偉そうに言わない事にする」
爽やかな笑顔に戻り、同時に巨人の顔を指差した。
「君に恩を感じている上に、強者と戦いたいこいつは無条件で協力するだろうね。でも私は初めて会ったばかりで君の事はよく知らない。だから代価を求めたい────」
「命以外なら差し出すぜ」
「いらないよそんなの。……私の『仲間』になって欲しいんだ」
「……仲間?」
「あぁ。友達でも家族でもなく、『仲間』さ……どうだい?」
わざとらしく首を傾げ、下から見上げてくる変な奴。
「別に『良い』けど、本当にそれだけで────」
「─────【繋契】」
「……え?」
小さく呟いた言葉は、俺の耳では認識しきれなかった。
だがその代わりに、胸の辺りに暖かいような感覚が……気のせいか?
「さぁ友よ!喜ぶが良いさ、君の新たな協力者は自分で言うのもなんだが、『協力』に関してはトップだ!」
立ち上がり、魔族は両手を広げて宣言する。
「君の道のりを、我が友【力の魔王】と──────」
目を奪われる美貌を最大限活かしながら、虚無の空間で眩しい笑顔が光る。
「─────時代を揺るがした『勇者殺し』こと、この【律の魔王】ノードゥス・アモル・コンフィーデレが補佐しよう」
ーーーーーーーー
律の魔王は度々名前が出ていました。慈悲深く多くの仲間を持った魔王と言われています。ノードゥスのおかげで魔王軍は軍と呼べるほどの体系を成し、その功績をマジストロイは讃え、尊敬しています。
赤刃山脈
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「西の、勇者が─────」
「ロクト……!」
ママロとマジストロイ、手を伸ばした2人は次元の穴に落ちた事で姿を消した男に、呆然と思考を飛ばしかけた。
が……事態は休息を許さない。
「緊急時だ、命令に背くが実体反映をさせてもらう」
「っ、あ……」
迅速に、しかし冷静に夢の聖剣から現れた男─────『ナイズ』が飛行を加速させる。
向かう先は─────同じく、次元の穴に落下しかけているマジストロイ。
「掴まれ」
「っ、すまない……!」
右手と右手が互いに握り、ナイズ達3人はその場から……アルマから退避する。
「ナ、ナイズ、一旦ゆっくりにして!次元魔法で西の勇者を助けに────」
「無駄だ。ママロでは『次元深界』に接続出来ない」
「……え?」
一才冷静さを欠いていないように見えるナイズだが……その内心では焦りを必死に抑えている。
「ロクト殿が次元深界で何も『事故』が起きなければ帰ってくるはずだ。それを待つ他は無い」
「じ、次元深界って何よ。それに事故って……」
「次元深界は普通の次元空間とは違う。もし彼が落ちた先で何者かに遭遇してしまった場合、最悪帰ってこない可能性すらある」
夢の聖剣のような、古代を生き様々な経験をしたからこそ知り得る情報。だからこそナイズは事態の深刻さを理解していた。
「例えば────『既に死んだ魔王』など、勇者を恨む存在に出会ってしまった時──────」
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赤刃山脈 小屋
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「師し……」
「『次元深界』と『革命蛹』は知っているな?テラ」
「え」
現場への急行を催促するテラを先に封じ、ルタインは依然として映像を見つめる。
「は、はい。次元深界は通常の次元魔法では辿り着けない特殊な次元空間で、中には一部の死者が存在していると……師匠からお聞きした覚えがあります」
「革命蛹は」
「……生まれつき次元魔法を得意とする者の事です」
「あぁ。その通りだ……よく覚えていたな」
「ですが、何の関係が───────あ」
テラのハッとした表情に、ルタインは微笑んだ。
「気付いたか。ロクトは革命蛹だ……聖剣の恩恵で無条件に使用可能になるのは中級魔法まで。魔法が不得意な彼が、上級魔法の中でも比較的簡単とは言え【次元穴】を詠唱短縮で発動出来たのはそれが理由だ」
「ですが、それが次元深界と何の関係が……」
「次元深界に行く事の出来る『死者』の定義は……もう教えたか?」
「いえ、存じていません」
「なら授業開始だ。結論から言うが、『革命蛹』の魂は死亡した瞬間に『次元深界』に転送される」
大賢者は紙にササっと二重に円を描き、その内側の小さな円に矢印を引いて『次元深界』と書く。次元深界を表した円の中には『革命蛹』の文字。
「……質問です。先ほどの西の勇者が次元の穴から【力の魔王】の腕を出現させていたのは……」
「次元深界に繋がっていたからだ」
「……なるほど、ではもう一つ質問です。あの少年もそうですが─────何故、死者でもないのに次元深界へ繋がる穴を?」
「テイマーの少年アルマ……いや、レナが見逃した魔王の器……言うなれば【人の魔王】か?彼の場合は『災害』から直接力を渡されたからだ。だがロクトの場合は少々複雑だ」
『現実世界』と新たに書いた円の中に、『岩』と顔に書かれた棒人間。ルタインは新たに適当に書いた岩の聖剣を棒人間の腕に書き足す。
「まず、ロクトがユニオンスキルを使用し、この世に自然発生しないはずのオリハルコンが増加する」
「はい」
「これにより、次元深界の中の【力の魔王】が勘付く。奴の事だ、自らの身体を取り戻すためにさぞ喜んだだろう」
「……待ってください、自らの身体、とは…………」
「む?あぁ、オリハルコンという金属は元々『力の魔王オリハルコン』の身体だった。それが世界中に散らばっただけだ。自然発生しないのも当然の話だろう?」
「は、初耳なのですが……」
「本題に戻すぞ。オリハルコンは自らの身体を求めて次元深界から現実世界へと接続を試みたのだろう。だがあちらからはこちらに干渉出来ない仕組みになっている」
「はい」
「……だが、幸か不幸か、ロクトは『革命蛹』だった。ロクトの革命蛹としての『次元深界に行ける』素質と、オリハルコンの『現実世界に干渉したい』意思が噛み合い、ロクトが開いた次元の穴が次元深界に繋がってしまった。ロクトが聖剣の魔力を使った事で、それに因縁を持つオリハルコンが干渉しやすくなった事も原因の一つだ……」
棒人間の手元に書いた丸い穴を、そのまま次元深界の円まで矢印で繋ぐ。
「そして……岩の聖剣と力の魔王の戦いの始まりだ。奴は必死に聖剣が纏っている複製オリハルコンを奪い取り、岩の聖剣は必死にオリハルコンを生成し直す。ロクトが居合の構えをとった一瞬のうちに何度も繰り返され、挙げ句の果てにはロクトのアイテムボックス内の複製しておいたオリハルコンすら奴は奪った。さっき、彼は小袋を弄りながら焦っていただろう?」
「……そういえば」
「力の魔王がロクトに協力していた理由は……分からない。断定は出来ないがまぁ、戦闘狂の奴の事だ、マジストロイのような強者と闘いたい意志に突き動かされたのかもしれない」
「……おおよそは把握出来ました、ありがとうございます…………」
「言葉の割には全然納得が行っていないという顔だが」
テラは眉間に皺を寄せながらルタインの書いた紙を睨む。
「……何故一部の死者が送られる特殊な次元空間があるのか。その『一部』とはどのような基準なのか。そもそも生きている師匠がどうしてここまで深く理解しているのか……疑問はまだ尽きませんよ」
「知りたいのなら教えるが……この事を知っているのは私を除けばポチとレナと災害くらいだ。教える時は賢者全員に一斉に話したい。面倒だ」
映像はもうロクトを映していない。ルタインは監視魔導具を直接操作するための操作用魔導具を取り出し、そのレバーを倒した。
何を見るかは決まっていない。とりあえず破壊されないような位置に移動するために……。
(……再び次元魔法を使用すればロクトは戻れるはず。アルマ少年も遠ざける目的で次元魔法を使用したのだろうが……彼はまだ戻ってこない。つまり『何かがあった』)
次元深界に潜む死者。その中で最も会うべきではない存在が、ルタインの脳裏に現れる。
(最悪のパターンは、ロクトが『あの魔王』と接触してしまった場合。もしそうなら─────『私の計画』は……)
ー ー ー ー ー ー ー
「んんん、随分詰め込んだねぇ!『勇者の俺が追放したテイマーがチート能力を手に入れてハーレム状態なんだがこれってもう遅い?』……ね。何から何までよく分からなくて気になってきたな……参った、友よ!君の話を聞かせておくれ」
その魔族は勢いよく巨人の肩から飛び降り、俺の隣に降り立つ……。
「うわ、とと」
「お、おい……大丈夫かよ」
「すまない、運動は苦手でね」
隣に座り込んだそいつから、ふわっと花のような匂いが香る。……いや、落ち着けロクト。まだどっちかは分からねーんだからな……。
「友よ。名を教えてくれるかい?」
黙っている時の落ち着いた雰囲気、クールな顔立ちから笑顔になると一転して明るいイメージに──────クソ、黙るのも落ち着くのも俺の方だぞ!
「……ロクト・マイニング」
「ふむ……うん、覚えたよ。では早速順に聞いていこうか。友よ、君は……その聖剣からして恐らく【岩の勇者】かな?」
「おう」
「で、追放したテイマーというのは?」
「前に、色々あってパーティから追放しちまった奴がテイマーで……テイマーは分かるよな?」
「あぁ。私と似ている能力だからね、興味があって調べた事がある……確か評価は『役立たず』で満場一致じゃなかったかな。それがどうして『チート能力』を?」
「お……よかった、チートの意味は伝わったか」
語源は初代勇者の書物だったり古代語だったり色々な説があるが、主に若者の間で『ズル』とか強すぎる力の事をそう呼んだりしている。
「なんだい?チートくらい一般的な古代語だろう」
「……そうかぁ?まぁそれは置いといて……で、なんやかんやでそいつが魔王の器っぽくてな。『流浪者』に騙されて俺達と敵対しちまった」
「うーん、私の価値観が間違っていたら申し訳ないけど、魔王の器とか『災害』が関わってくる話はなんやかんやで済ませてはいけないレベルだと思うんだけど……しかし、『魔王』か。じゃあ、その子が今の魔王なのかい?」
「いや、違う。俺達が今の魔王、マジストロイって奴に勝った時に乱入してきたんだ。その、俺の仲間だった……アルマって名前なんだけど」
「マジストロイ!『こいつ』が興味を示した魔王だ、気になる所だね……で、肝心のハーレムってところは」
「アルマの取り巻きの女も敵対しててな……流浪者に人質に取られてるみたいなもんだ」
実際の様子だと、死霊化やグール化のような技術を施されてたっぽいから……人質よりもっと悪質だな。
まぁ、『ハーレム』って単語を入れて興味を持たせたかったというのが本音。
「で、そのアルマ君とやらが次元の亀裂を修復したから、『こいつ』はやむを得ず撤退し……君は逆に放り込まれた」
「これが一連の流れ……だな。大体こんな感じだ」
「……一つ。友よ、君のターンが終わる前に聞いておきたい事がある」
足を組み、妖艶な手つきで杖を突きつけられる。
「────勝つ気はあるかい?」
「……次元の穴を閉じられちゃあ、このデカブツの助けは得られない。だから俺はまた、聖剣に見合っていない身体でなんとかやってかなきゃいけない……」
それは理解している事だ。覆すのが無理に等しい事も分かっている。
でも─────それは、何もハプニングが起きなかった場合。
「……正直、さっきの落ちてきた俺を見ればわかると思うけどさ……諦めてたよ」
「うん」
「償い……になるかは分からない、ただの自己満足だけど……ここで死ぬのが『報い』になるんじゃないかって考えちまった。でも……俺を助けてくれた巨人と、『とんでもない魔力』を持った性別のわからない変な奴に出会った」
そう。この美人の魔族……近寄るだけで異次元レベルの魔力だと分かった。魔力操作が下手な俺は正確な魔力量は測れないけど、サヴェルやリェフルちゃんと一緒にいた狼と同じレベルかもしれない。少なくともマジストロイよりは上だ。
ルタインの野郎は……サヴェルが昔言ってたが、魔力量が大きすぎて外に漏れる魔力を『隠す』ための魔法を常に使ってるとか。まぁ、そんなだから流石にアイツには及ばないだろうけど。
それでもこの魔力量は異常だ。……だと言うのに完全詠唱で初級魔法を唱えていたコイツは本当に意味の分からない変な奴だ。
「おぉ友よ、変な奴呼ばわりは心外だ」
「誰が見ても変だろ!……まぁ、そう言う訳で。これは『機会』だ、こんなクソデカいチャンスを逃す手はない。そう思ってアンタの問答にも応じた。……と、こんな感じに中途半端な意志だよ」
「自分でも分かってるみたいだけど……じゃあ、私達は君を手伝わなくて良いって事かい?」
「─────って事は、アンタらが手伝ってくれればこの状況をどうにか出来るんだな?」
「……へぇ」
その瞬間、つぶらな瞳の奥が……音を立てたりした訳でもないのに、この魔族が俺を『観察』した事が理解出来た。
「─────人族よ。この私を試したか」
「ッ……」
圧に呑まれそうになり、無理矢理唾を飲み込む。
「別にそんな偉そうな事したつもりじゃねえよ。今言った事が嘘な訳でもない。ただ……ここで諦めれば俺は一生……いや、死んでも後悔し続ける。それだけは確実だって分かってる」
「……じゃ、私も偉そうに言わない事にする」
爽やかな笑顔に戻り、同時に巨人の顔を指差した。
「君に恩を感じている上に、強者と戦いたいこいつは無条件で協力するだろうね。でも私は初めて会ったばかりで君の事はよく知らない。だから代価を求めたい────」
「命以外なら差し出すぜ」
「いらないよそんなの。……私の『仲間』になって欲しいんだ」
「……仲間?」
「あぁ。友達でも家族でもなく、『仲間』さ……どうだい?」
わざとらしく首を傾げ、下から見上げてくる変な奴。
「別に『良い』けど、本当にそれだけで────」
「─────【繋契】」
「……え?」
小さく呟いた言葉は、俺の耳では認識しきれなかった。
だがその代わりに、胸の辺りに暖かいような感覚が……気のせいか?
「さぁ友よ!喜ぶが良いさ、君の新たな協力者は自分で言うのもなんだが、『協力』に関してはトップだ!」
立ち上がり、魔族は両手を広げて宣言する。
「君の道のりを、我が友【力の魔王】と──────」
目を奪われる美貌を最大限活かしながら、虚無の空間で眩しい笑顔が光る。
「─────時代を揺るがした『勇者殺し』こと、この【律の魔王】ノードゥス・アモル・コンフィーデレが補佐しよう」
ーーーーーーーー
律の魔王は度々名前が出ていました。慈悲深く多くの仲間を持った魔王と言われています。ノードゥスのおかげで魔王軍は軍と呼べるほどの体系を成し、その功績をマジストロイは讃え、尊敬しています。
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ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!!
小説家になろうにも掲載しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
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異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
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そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
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