上 下
49 / 71
一章 四人の勇者と血の魔王

第48話 ド+ラ×6

しおりを挟む
 ーーーーーーー
 赤刃山脈 小屋
 ーーーーーーー







「うわ……なんですかこれ。オリハルコンの……腕?」

「─────」

「かなり大きいですが、いつの間にこんなモノを作ったのでしょう…………師匠?」

「…………」

「……どうしたんです?」

 投影された景色は青碧の腕を写したまま。大賢者は険しい瞳で、言葉を失ったまま目を見開いていた。

「……そうか。そういう事か」

「一人で完結しないでください。……あのオリハルコンの腕、そんなにヤバいモノなんですか?」

「……そう一言で語れる代物ではない。だが敢えて短く表すなら─────」

「表すなら?」

「『魔王』だ」

「……は?」

 腕を組み、冷や汗を垂らしながらルタインは微笑んだ。

「懐かしい。だがアレは紛れもなく【力の魔王】の腕」

「力の……って、二代目『統率者』の!?しかし、それは大昔に師匠が倒したはず……」

「災害であるマジストロイに有効打を与えられる……それもそうだ、同じ災害なのだからな。ロクトは『接続』したのだ、『あの場所』に。ロクトのアイテムボックス内の複製オリハルコンを奪い、力の魔王は受胎してしまった」

「……」

「グレモリーに繋いでくれ。今の観測担当は彼女だろう」

「は、はい。直ちに」

 かつての強敵。英雄たる友が死に、その直後に現れた暴力の化身。

(ロクトが奴を手懐けられなかった場合─────彼の旅を終わらせる事になるかもしれない)

 だがルタインの顔は依然、余裕の笑み。

「さぁ────私と勇者達の因縁の相手すら……使いこなして見せろ、岩の勇者よ」















 ー ー ー ー ー ー ー














 青色の腕が引っ込むと同時に、次元の穴は収縮し閉じる。

「……今の感覚を、もう一度だ」

 さっき、マジストロイに向かって聖剣を振った時────柄から刃先までに大きな魔力が充満したのを感じた。これが『聖剣の魔力』……ようやく感覚を掴めた。

 この『聖剣の魔力』を使って、【次元穴ディメンションホール】を唱える。

「【次元穴】!」

 立ち上がったマジストロイに向かって相棒を突き出し、もう一度魔力を集中させると─────

「ッ、来た……!!」

 現れた穴はいつもの【次元穴】で開く次元空間と、感覚も雰囲気も全く同じだ。でも少し……何かが違う。そこの見えない深淵のような潜在的恐怖?って言うのか分からないけど、そう言う何かがある。

 ─────そして、剛腕。

「【盾赤】ッ!!」

 マジストロイの抵抗も虚しく────青の……恐らくオリハルコンの拳は血の盾を正面から砕き、その奥にいる魔王に鉄槌をぶつける。

「あ……が……っ!」

 見るからのヤバそうな威力の謎の腕と、見るからにヤバそうな体力のマジストロイ。
 魔王は風の壁に吹き飛ばされながらも、受け身を取って膝をつく。

「へへへ……言わせてもらうぜ、『降参しろ』!」

「……く……岩の勇者よ。その力は────全く分からないが、人が触れて良い領域ではない事は感じる……まるで災害の……っ」

 吐血しながらもマジストロイは言葉を紡ぐ。

 ……薄々感じてはいる。何かがおかしい。これは本当に聖剣の力なのか?相棒がオリハルコンで腕を形成してくれたとか思ったが、それならわざわざ次元空間を開く意味が分からない。

 でも、俺が使っているこの力は。少なくとも今は俺の力なんだから。

「名付けて【コネクション】……あぁ、しっくり来た。この力がなんなのかって?俺のユニオンスキルに決まってるだろ!そう言う事にするんだよ!」

 ユニオンスキルへと昇華させる事で……聖剣の魔力の伝達と操作は俺の中で具体化し、加速する。

「オラッ……【コネクション】!」

 マジストロイの頭上に現れた次元の穴から────紺碧の脚部が落とされる。

「……まだ、終わる訳には行かない……!!」

 横に身を翻し、巨人の足をかわしたマジストロイが砂埃に隠れる。姿は見えないが……確実にこちらに向かってくるだろう。

「【岩鎧】」

 再びオリハルコンの鎧を纏う。【コネクション】による強力な遠距離攻撃が可能になった今、機動力を殺してでも防御を優先したい。

「【コネクション】【コネクション】【コネクション】ンンンンン!!」

「余の言葉を聞いていたとは思えない連打だが!?」

 3つ。同時に次元の穴を開く。さて、巨人はどう攻撃するのか。腕を二つ出してもう一つはさっきみたいに足を踏み下ろすのか?

「……いや、違うのか」

 俺の左右と頭上に次元の穴。そして─────『三本の腕』がマジストロイに向かい、その風圧が鎧の中まで伝わる。

「【巡赤】……!」

 ────砂埃の奥の、赤い光。虫のように高速で飛び交うそれは……。

「まさか……全部避けたって言うのかよ」

 血管のような赤く輝く模様が魔王の身体中に浮き出ている。砂が晴れた後、飛び出した青の腕を蹴り、飛び込むマジストロイの姿が。

 ……身体能力を上げる魔法か。

「結構無茶してんじゃねえの?」

「見れば分かるだろう……余裕だッ!」

 サプライズのように現れたマジストロイの周囲を観察。

 まず一つ、楔の聖剣。
 次に2本の血の触手が握る、2本の血の剣。
 そして生成された3本の楔。

 コイツの特徴はこの同時攻撃。あり得ないほど休む暇のない手数の多さ。遠距離から近距離までなんでもござれの血の巡りの良さ。

「……【コネクション】─────優しくな」

「……!?」

 一種の賭けとも言える行動。俺は聖剣を……地面に突き立てた。

 直後にジャンプ。マジストロイの顔面を拝みつつ───真下に次元の穴が生成されたのを確認。

「ってちょっと待て全然優しくなどぅわああああああああ!?」

 急いで聖剣を構え、なんとか衝撃を吸収する……が、勢いがとんでもなかっただけでダメージは喰らっていない。それどころか拳が握られておらず、手のひらが優しく俺を固定してくれていた。

 予定通り……俺は上空に逃げる事に成功した。そんで、この巨人にある程度の指示が通る事も分かった。

「さてと……やはり向かってくるよな魔王!」

 接近するマジストロイの身体から地上から伸びる血の触手が見える。

「【コネクション】────マジストロイを捕まえろ。お前の全力を以って!!」

 これが俺の勝ち筋。何度も何度もボロボロになりながらもこの魔王は向かってくるだろう。そんなコイツを納得させる勝ち方は、平和的であり圧倒的に勝者と敗者の区別を付けられる『捕縛』がベストだ。

「個数は─────」

 空中に展開された、次元の穴の数は……6。

 そしてそこから現れるオリハルコンは全てが腕だった。

「6本腕……一体どんなバケモンが俺の仲間になってくれたんだ?」

 あまり器用そうに見えない6本の腕は、俺の予想通り真っ直ぐにがむしゃらにマジストロイへ向かっていく。軽々とかわされるが……数の暴力の効果は大きい。互いにぶつかり合いながらも何度も向かい、マジストロイは一度もミスしてはいけない状況で回避を続ける。

「かわし続ける事はできても……俺には近づけてないな。このまま体力がなくなるまで────」

 ─────直後、音。
 コン、という小さな振動が同時に3つ、俺を覆う鎧に当たった。

 ……兜で視界が遮られながらも、すぐに理解した。

「─────楔を当てられた……!」

 楔の聖剣は恐らく、あらゆる攻撃が【点楔】から始まる。マジストロイがそれしか使っていないのは『使いやすいから』という理由ではないだろう。

【爆楔】のようなスキルが発動できるのは楔が命中した後だと考えて良いはず。魔力障壁を破壊出来たりとんでもない威力だが、当てなければいけないという制限がある。

 ─────で、それに当たっちまったって訳。それも3つも。

「三層、【振楔】」

 楔への魔力の集中。オリハルコンの鎧という最大の防御へ信頼を寄せるしか無い俺は目を瞑り──────

「─────が、あぁあッ……!!」

 身体の芯からの激痛に見舞われた。
 内臓全部が暴れ回るような気色悪い感覚。八つ足の虫型魔物が50体くらい体内を這いずり回るような、千本の針を絶え間なく刺されているかのように……神経を刺激されている。

(……振動……振動ッ!オリハルコンの鎧が硬いとかそういうのは関係ない攻撃ッ!身体中がめちゃくちゃにされる……!)

「……かはっ!」

 舌の上は砂の味から鉄の味へ。
 ────あぁ、分かってる。互いにボロボロだ。身体の中はぐちゃぐちゃだ。俺が唱えられる程度の回復魔法なんて気休めでしかない。

 だが五分五分。魔王に対して、だ。大快挙すぎるよな?

「いける……勝てるんだ。勝って……理解させてやるッ!」

 握ったこの剣は離さない。強く魔力を操作し、途切れさせないように。

 災害でもなんでも良い。平和のためなら協力してやる。
 俺達は勇者だ。裏切りなんて卑怯な事はしない。種族関係なく受け入れる。それをビビってるお前を安心させてやるだけ。

「余の野望……叶えさせてもらうッ!!」

「俺がッ!勇者だあぁぁあああッ!!」

 青の腕と血の刃。俺とマジストロイ。
 互いの全力が、そこに収束して────────。



ーーーーーーー


力の魔王は歴代魔王の中でレナに次ぐ第三位の実力を持っていたとルタインは考えています。第一位は無論初代魔王です。
ネタが切れそうなので今回のコラムは短めです。読んでくれてありがとう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~

秋鷺 照
ファンタジー
 強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

異世界召喚されたと思ったら何故か神界にいて神になりました

璃音
ファンタジー
 主人公の音無 優はごく普通の高校生だった。ある日を境に優の人生が大きく変わることになる。なんと、優たちのクラスが異世界召喚されたのだ。だが、何故か優だけか違う場所にいた。その場所はなんと神界だった。優は神界で少しの間修行をすることに決めその後にクラスのみんなと合流することにした。 果たして優は地球ではない世界でどのように生きていくのか!?  これは、主人公の優が人間を辞め召喚された世界で出会う人達と問題を解決しつつ自由気ままに生活して行くお話。  

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...