俺が追放したテイマーがチート能力を手に入れてハーレム状態なんだが、もしかしてもう遅い?〜勇者パーティも女の子募集中です〜

ときのけん

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一章 四人の勇者と血の魔王

第44話 世界中から感謝の声が!

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 集合意識という概念がある。
 それは一つのグループ、社会などがそれぞれ共有する思念、信念。常識という意味合いや言い方もあるかもしれない。

 とある────立場を継承し、死んでいった者達の集合意識があった。

 魔王マジストロイ・アスタグネーテはそこで生まれた。

「気が重くなりますね。ここに来るのは何度目でしょうか」

【虚の魔王】として君臨していたレナ・ブレイヴ・ラグナフォートは歴代の魔王の中で────【刃の魔王】を除いた中では最も強力な力を持つ魔王。
 彼女は自分に課せられた、数十年周期でやってくる『役目』を全うし続けていた。

「【刃】の器────そろそろ生まれ落ちている頃合いですが……」

 場所は魔王城付近。
 ────【刃の魔王】の血液と怨念を浴び、力を削がれた【楔の聖剣】が封印されている洞穴。

 そこに度々……集合意識から『魔王の後継者』が産み落とされる。

 その時代に次の魔王になり得る存在がいなければ、レナは『それ』を生かす。後は何もしなくとも自然に育ち、自然に人を恨み、自然に魔王となる。
 が、その時代の『それ』が十分にいるのなら────レナは『それ』を殺す。生まれたばかりで光を知らず、手足の動かし方を学ぼうとする前に首が分断されてしまう。

 当時、レナは『殺す』つもりでそこに来ていた。後継者はいなかった、が……他の魔王に任せるよりも、自分が就くしかないという結論に千年かけて辿り着いた。というよりは……初代勇者が現れ千年経ったこの世界は『災害』にとってマンネリ化している。
 魔王を憎むレナが魔王になり、人を愛するレナが人類と敵対するしかない。『災害』が求めている新規性を満たすにはそれしかない、と。

 ─────そのつもりだった。

「……まさか」

 楔の聖剣が、抜かれていた。

「……あ……ァ……?」

 ここに生まれる『器』は『成長しきった姿』で顕現する。
 つまり、レナの目の前で聖剣を握る角の生えた白い肌の魔族の男が、必死に自分の素材を理解しようとしていたのだ。

「……なんて事」

 手に魔力を集中させ、できるだけ残虐に命を断とうとした。彼女が尊敬し、彼女を育てた初代勇者の形見を、他でもない魔王の器が握っている。

 しかし気付く。
 その『形見』が選んだのなら……魔王の器とは言え、今までとは何かが違うのではないか、と。

「俺、は……僕……私を……我が……」

「速く自我を見つけてください。言葉はもう内蔵されているはずですよね?……あなたの意思を。教えてください」

 器は集合意識の中で『野望』を持って生まれる。傲慢なモノも、陳腐なモノも、歪なモノも……魔王によって異なる願いが。

「余は─────」

「……」

「『停滞』の意思……」

「!」

「分からない、生まれる前の『あそこ』で……色んな考えが渦巻いて……でも、結局一つの結論に至って、余を送り出した。世界を─────世界の滅びを止めなければいけない、と」

 レナは知っていた。
 魔王達はその『野望』を叶えるために戦い、闘い、争い、死にゆく。

【律の魔王】は『多くの仲間が欲しい』と願い、屈強な魔王軍を従える慈愛に満ちた魔王になった。それ故に仲間を殺されただけで精神を乱される彼は【葬の勇者】によって部下と共に無惨に殺された。

【力の魔王】は『強者と戦いたい』と願い、刃の魔王没後の不安定な魔族達を放って置いてただ勇者を待ち続ける魔王になった。大賢者ルタイン率いる初代岩、雷、黒、夢の勇者の五人と戦い、満足げに死亡し鋼で出来た全身を世界中に散らばらせた。

 レナは全てを見届け、助ける事も止める事もしなかった。が────魔王であり勇者でもある彼の『野望』は『希望』になり得るのかも知れない。

「……楔もあなたを認めた。それは生まれた直後の、そのままのあなたへの評価。『野望』を叶えるために集合意識が本気を出し始めたという事でしょうか」

 かく言うレナも魔王の器であり、集合意識の中にいた記憶がある。その存在を実感出来るのは魔王しかいない、淡く夢のような概念。

「やってみますかね、子育てとやらを」

『安心しなよ、魔王なんかオレがやっつけてやる。なんてったってオレは───勇者らしいからな!……え、勇気があるだけじゃ魔王には勝てないって?そ、そう言う事じゃねえんだよ。魔王を倒すのは勇者って決まってるのさ、昔から』

 思い出の中のあの日々、彼に貰った愛を。彼が守った世界へ恩返しするつもりで───。
























「つまりだ。子育てなどろくに経験した事のないレナ殿によって余はしばき倒され、生まれてすぐに地獄を体験した」

「今の話の流れからそうなんの!?」

 俺の想像とは全く異なる魔王の語りだった。
 魔王レナ……投影魔導具で姿は見た事あるが、優しそうな見た目に反して結構スパルタ系なのか。

「後はただ、余が魔王になっただけだ。災害を消し、この世界に真の平和をもたらすために」

 話の途中で魔女っ子が補足してくれた、『戦いが無いと災害が世界を滅ぼしてしまう』って話の事か。
 ……真の平和、ね。

「んで、そのために全ての聖剣を手に入れて災害を討つって訳か」

 改めて思う────心から、それを知れてよかったと。

「気に入ったッ!あんたすげぇ奴だn……ですね、マジストロイ様!」

「……畏まらなくてよい」

「あはは……どうも」

 錆びついた剣……【楔の聖剣】を握り、マジストロイは俺達の聖剣に強い眼差しを向ける。

「魔王を殺したこの楔。所有者故分かるが、初代勇者がトドメを刺すにこの聖剣を選んだのは偶然などではなく、楔の聖剣が特異な力を持っているからだ。刃の血と怨念によって錆びついた今の状態でも─────他の聖剣と共にある状態なら元の力が使えるかも知れないとレナ殿は言っていた」

「私の魔剣の……共鳴のような現象が起こるという事でしょうか?」

「あぁ、近いらしい。そもそも聖剣は12本共にある状態が普通だった。離れ離れになっている今の状態では本来の力は引き出しきれない……」

「へぇ……」

 見てみたいもんだ。俺の相棒が今まで以上の力を振るうところを。

「前代未聞の『魔王であり勇者』なアンタがやるしかないって事か。この世界の未来を守るためには……」

「『災害』は互いの一部の力が無効化されるという『協定』のようなものに縛られている。災害として固有の力を持たず、勇者でもある余なら────というより、初代勇者以降では余が最も成功率が高い」

「……いいね!いいよお前!なんだ、やっぱり王ともなると責任感あるし話分かる奴なんだな!」

 マリちゃんやら橋のところの兵士やらの忠誠心は堅いものに見えた。こういう人柄なら人望が厚いのも頷ける。

「……ロクト」

「ん?」

「あなたは─────魔王に聖剣を預ける事に賛成なのですか?」

 周囲の視線が俺に集まった。
 魔女の子はムッとした表情を維持している。……多分反対派か。
 お兄ちゃんは汗を垂らしながら顎を撫でている。……迷ってるな。
 リェフルちゃんは…………俺の視線に気付き笑顔。マジで何考えてるか分からん。

「リスクが大きすぎるんです。あなたも父さんに会ったのなら分かるでしょう……彼は聖剣研究家だ。この世界で一二を争うほど聖剣に関しての知識を持っている。そんな父さんが聖剣を観察し続けて『全部集めたら災害を倒せるかも知れない』なんて結論に至らなかったのは……そういう事なんですよ。不可能とは言い切りませんが、デメリットに見合っていない成功率です……」

「んー……ならルタインにも協力して貰えばいいじゃねえか。俺達の分だけじゃなくて残りの聖剣もあいつなら在処を知ってるかもだろうし」

「それは……」

「ま、そんな怯えた表情すんなよ!安心しろって──────」

 サヴェルの頭に手を置き、ぐしゃぐしゃと跳ね除けられるまでまで続ける。

「─────俺は断固、反対派だからな」

「……え?」

 サヴェルが目を見開き────再びみんなの視線が集まる。
 魔女の子は顔を綻ばせ。お兄ちゃんはハッと顔を上げ。リェフルちゃんは……なんで真顔なんだよ。

「うむ。ロクト君ならそう言うと思っていたのだ」

「はっ……やっぱりあんたはそうでなくっちゃね」

「ちょっと何ですか2人とも。私だけ『分かってない』みたいな空気感出さないでくださいよ」

 聖剣の柄を撫でる。いつも通りの感触、拒絶は無し。どうやらこいつも不安がってはいないみたいだな。

「マジストロイ、あんたの事はすげー奴だと思うし……うん、立派な偉業を成そうとしてるんだなってのは分かるぜ。でもな───────」

 マジストロイの意志は堅い。それは目を見て話を聞いてれば分かる。だからこそ俺は……『これ』でしか解決出来ないから、この剣先を向ける。

「─────あんたの求める平和は、俺の求める平和じゃない」

「……」

 ゾンビ女騎士と……なんかすげえ暑苦しそうな燃えてる魔族が俺と魔王の間に立つ。

「価値観と視点の違い……かな。これは『正義と悪』の戦いかもしれないし、『正義と正義』の争いかもしれない。ただハッキリしてんのは……『俺とお前』の闘いだって事。当たり前だけどそれだけで十分な事実じゃねえか」

「……いいだろう。余の『野望』、叶えるために─────」

 マジストロイが楔の聖剣を握る。そして──────。
 ─────あ?

「じゃ、ロクトさんはあたしの敵って事ね!」

 なんだ、これ。前が見えな─────っ。










 ー ー ー ー ー ー ー












 暗くなり始めた赤刃山脈に痛みが走るほどの光が灯る。

「【雷光】」

 当然、犯人は一人しかいない。

「【雷迅】」

 リェフル・サンヴァリアブルは自身を中心に眩い光を発生させるスキルを使用後、瞬時にロクトの前方へ移動。

「そして【雷切】……ッ!」

 現時点では全てが上手く行っている。サヴェルは魔力回復のために【自動魔弓ファンネロ】を切っていた。誰も邪魔する者は存在せず、およそ4秒の間に行われた動作は完成を迎えようと雷を纏う爪がロクトの喉を引き裂く──────寸前。

「十五式────【ネオ・パリィ】」

「ッ!」

 紫色の魔剣がそれを『弾く』。リェフルの聖剣による一撃……それすらも無効化するユニークスキルを十五代目剣聖は【呪戒剣】に保存していた。

「あれれ……おかしいな。なんでバレた?」

 ルリマはリェフルの目眩しを受けてもなお、圧倒的な反応速度でロクトを守る事に成功した。だが、そもそも見えていない間にリェフルは移動したはずだった。リェフルがロクトを攻撃すると事前に分かっていなければ不可能に近い防御。

「簡単よ。だってあんた……『そういう事する』奴でしょ」

「あはっ!友達だから教えてあげるけど、ルリマって人を見下したような言い方を無意識でやっちゃうから気を付けた方がいいよ!だから友達少ないんじゃない?」

「そうね。だから……あんたみたいな奴しか残らない」

 数秒後、全員が視界を取り戻す。その瞬間から────決戦は始まる。


ーーーーーーー

集合意識内では歴代の魔王の設計図や情報、そして死んだ魔王達が送った無念、悲嘆、自分を殺した勇者への対抗策が渦巻いています。それを加味した上で魔力で魔王を構築し、世界に反映します。聖剣へ耐性を得るために『勇者になれる魔王』を生み出した事から、集合意識はかなりの成長をしていると考えられます。

いつも読んでくれてありがとう。少し区切りが良くなったので次回は書きたかった番外編(日常回ではない)を挟みます。少なくとも47話までは書き終えているし毎日投稿していくつもりです。なのでそこまで遅延がない事をご理解いただきたいです。
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