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一章 四人の勇者と血の魔王

第38話 友達の妹エピソード、可愛いと言えば良いのか悪口に共感してやれば良いのか全然分からない

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(……父さんのデータに書いてあった)

 蛮勇とも思える、魔王に立ち向かう二人に一通りの強化魔法をかけながら────サヴェルは思い返していた。

(【血の魔王】という異名の由来は────私達賢者と同じ)

 マジストロイの両手に魔力が集う。

「─────『固有魔法』……!」

「【瀉紅魔法】……」

『固有魔法』────それは限られた人間にのみ、刻まれている魔導書のようなモノ。唱える際には『書物』や『杖』など異なる魔導具が出現し、それを媒介として発動する。

 マジストロイの手には─────物体ではなく、紋様のようなものが刻まれていた。
 自身の血管をコーティングする魔導式。それが魔王マジストロイ・アスタグネーテが固有魔法発動に必要とする固有媒介。

「【操赤リトリギア】」

 サヴェルの知らない魔法は少ない。そのわずかの内の一つが今まさに……マジストロイの手を突き破る血液が襲いかかる。

「なるほど、血を操る力か……概ね推測通り」

 夢の聖剣で向かってきた血を切り裂こうとする。が────直前まで凝固していたはずの血が液体となり、切断出来ない。

「─────それも推測通りだ」

「ッ!」

 ナイズの身体が消え───空振った血液は凝固し、手のような形でナイズを握り捉えようとしていた。
 再び現れた彼はいつのまにか駆け出す前の位置に。

「少しだが、やはり聖剣の力は魔王を滅ぼすらしい」

「夢の聖剣の幻覚能力か……!」

 駆け出した直後、マジストロイ魔法を発動する瞬間にナイズは【夢遊】というスキルを使用しマジストロイに幻覚を見せていた。

(────【統率者】としての本能だろうか。何故か……この男が勇者でない事を確信してしまう。それどころかこの力は……っ)

 彼にはナイズが向かってくるように見えていたが……本来のナイズは静かに合図を送っていた。

「今だ、ゴルガス殿」

「【破岩拳】!」

 魔王の背後から【拳士】のスキルを放つのはゴルガスという暴力の権化。鍛えられた肉体から繰り出されるスキルに……マジストロイの凝固した血液が盾となる。

「ふんッ!」

 だがゴルガスは止まらない。
 深くもう一歩を踏み込み────拳を握り直す。

「【激震・鬼神拳バーストゴールド】ッ!!」

「ッ!?」

 マジストロイは血液を硬過ぎず柔らか過ぎず丁度いい調整をし、破壊されることのないようにしていた。
 だが向かってくるのはもはや人というより……鬼。血液の膜を────拳が突き破る。

「ぬおおおおおッ!!」

「【剣赤スパスィ】!」

 構築したのは剣の壁。その鋭利さは通常の剣と遜色なく、無数に設置された剣の全てを破壊するのはゴルガスであっても時間がかかってしまう。
 同時にマジストロイはナイズの方向にも剣を放つ、が──────

「【逆夢】」

 ホウキに乗ったナイズは宙に浮かび、先が剣となった血の触手を回避。
 そして───炎を纏った聖剣でマジストロイへ強襲する。

(……上から聖剣による攻撃。そして剣の壁を避けたベオグレンの者が右か左か、どちらかから来る─────)

 ─────と、思い込んでいた。
 ゴルガスは素手で戦っているため、触れば傷を受ける剣の壁をわざわざ破壊する事は無いだろう、と。

 マジストロイの誤算はゴルガスの事を【拳士】と認識していた事。

「────【マスタリー・ウェポン】」

 どこからともなく大剣を取り出したゴルガスが両腕で大きく薙ぎ払い───剣の壁を破壊した。

 結論から言えばゴルガスは【拳士】ではない。……だが、【剣士】でもない。

【マスタリー】スキルは戦闘職の極地とも言えるスキルで、効果はその天職が主に扱う武器を無条件で生成できるというモノ。例えばルリマは代償の大きい魔剣を普段から使う事なく、常に持ち歩いている剣が破壊された際は【マスタリー・ソード】を発動し、戦闘を続行する。

 だが、ゴルガスが生成できる武器は────『全ての武器』。

「なんだと……ッ!」

(やはりこの者達……上記を逸しているッ!本来なら【統率者】たる余と戦いを成立させられるのは勇者のみなはず……特にこの男はやはり、ベオグレンの─────)

「【両断・龍帝剣ブレイクドグマ】」

 ゴルガス・ベオグレン。天職は……【戦士】。ただ────戦う者。

 大振りの一太刀が、血の魔王に直撃する。









 ー ー ー ー ー ー ー











「……どうすんだよこれ……」

 情けない声が俺の口から漏れ出てしまう。目線の先は、溶岩にどっぷり浸かった岩の聖剣。

「しかも結構上手く行ってたし最強の勇者は俺なんじゃねって思ってたのに後ろから不意打ちされるし」

「うんうん」

「剣が下手なのを銃使ってるやつが偉そうに指摘してくるし。何年剣振り続けてると思ってんだよ、自覚なんてしてんだよ……」

「分かるワーそれ」

「多分黒の聖剣の洗脳受けてるなって思ったからさ、勇者の俺がわざと悪役ぶって勇者としての自覚を目覚めさせてやろうとか思って頑張ったのに……あわよくば妹ちゃんにお触りしちゃおうと思ったら魔剣使ってくるやついるし……」

「元気出せよ」

「可愛い妹となんか手繋いでくれる美人な女騎士がそばにいるってズルじゃね?しかも一番強い黒の聖剣持ってるってそりゃ無いだろ。弱点晒してこそ人間臭さが出るってもんだろ」

「すぐにいい事あるって」

「まぁ落ち込んでても仕方ねェしな……よし!あんた誰だよ!!」

「うん、いつ聞いてくるんだろって思ってた」

 俺の横に立っていたオッサン。隊服から見て……こいつも帝国軍か。

「シャーグ。ま、ォレの事は東の勇者の仲間だと思っといてくれ」

「置いてかれてんじゃん」

「西の勇者様は3人で旅してるって聞いてたんだけど」

「置いてっちゃってんだよ」

「……」

「……」

「……よいしょ」

「おい溶岩に立ちションすんのやめろ!!確かに冷え固まるかも知れねーけどまだ俺の聖剣が中に入ってんだよ!」

「おっと失礼、さっき慌てて切り上げたからまだちょっと残ってるんだワ……」

「……」

「……」

 互いの悲壮な目。それだけで通じ合えた。同じオーラを感じた。

「……とりあえず相棒を取り出してやらなきゃな」

 俺は【アイテムボックス『鉱石』】でするすると溶岩を草原から吸引していく。柄の部分の溶岩を全て取り除いた後、少しの氷魔法をかけ……柄を覆う氷が溶けなくなったのを確認し、岩の聖剣を取り出す。

「まぁでも【インストール】は上手くいったしな!うん、俺はそこそこ強い!」

「居合は色々口出ししたい出来だけど」

「うるせーな、こちとら異文化交流なんだよ。にしては結構上手いだろ」

「まぁそうだな、今は置いといて……ザラちゃん?」

「……はい」

 シャーグとかいうおっさんは、俺の側で縮こまって座っていた妹ちゃんに目線を合わせてしゃがみ込んだ。

「何があったか説明してくれる?別に怒んないから。とりあえず現状を知っときたいんだワ」

「……兄様を見つけた時」

「おん」

「魔族の人と楽しそうに話していた。……『目』で見たから分かる、人族に似ていたけど……あれは魔族」

 覗き込んでみると、確かに『魔眼』持ち特有の目の輝きを確認出来た。意外といるんだよな、聖徒学園にも……2、3人はいた。

「それで?」

「斬った」

「……」

「そしたら兄様が、多分、聖剣に操られて……多分」

「……なるほどね」

 ─────魔族は敵。帝国は完全にその考えを強要しているらしい。その洗脳まがいの教育を、丁度この子は生まれた頃からされてきたって感じかな。
 俺は魔族と仲良くしていた頃を知ってる。けど────敵としか教えられてない奴もいる。
 魔族=敵。敵以外の魔族を知らない子。

「ま、しゃーねぇよな……肉親のすぐ側に憎き敵がいるんなら、あぁ、その肉親がどういう表情をしていたのかも見ずに斬りかかるだろうよ」

「それどころか、上司的には褒めなきゃいけないんだワ。辛い世の中になったもんだね……」

「……でもよ妹ちゃん」

 二つの魔眼が俺を見上げた。

「その価値観は矯正した方が良い。絶対な。なぜなら、これからの世界は魔族と仲良くしていく方向性に切り替わるからだっつってな」

「……どうして?」

「どうして?決まってるだろ」

 胸をドンと叩き、俺は言ってやる。

「この西の勇者、ロクト・マイニング様が世界に平和をもたらすからだ!これもまた絶対な」

「────」

「俺が平和にした世界で、価値観の相違に苦しむ子どもなんていて欲しくない。いるべきじゃない……手を取り合う事が出来たはずなのに、それを知らないで争ってしまうのはダメだ。重ねて重ねて絶対な」

「……」

「兄貴が教えてくんねーなら俺が教えてやるよ。魔族も人間もエルフも獣人もドワーフもあと色々も、違いはあるけど仲良く出来る!それだけで十分じゃん?」

 一瞬俯いた少女は、もう一度俺を見上げた。

「本当に平和にしてくれるんですか?」

「俺ぁ勇者だぜ。それも大賢者お墨付きのな!俺を信用できねーなら何を信じるってんだ、数式くらいしかないぜ」

「……じゃあ、学びます」

 立ち上がった妹ちゃんは隊服の袖を握る。

「学ばせてください」

 澄んだ眼差しが俺の目線と衝突する。うん、この美しさは─────魔眼とか関係無しのモノだ。
 少なくとも。俺の前にいる人には、俺が死ぬまで笑顔でいてほしい。……四回目の絶対だ。







 ー ー ー ー ー ー ー






「……珍しいね、ザラちゃんがこんなチャラそうな男に心開くなんて。ォレなんかずーっと冷たくされるてんのに」

「……」

「なるほど、態度で示していくスタイルね」

 西の勇者と二人の軍人が一時の協定を結び、帝国の大橋へ向かう道中。男は少女に耳打ちした。

「……あの時。私を人質に取った時」

 ロクトという男は突如現れ、自分を救い……しかし自分に剣を向けてきた。今となればそれが演技だったことは分かるが、それとは関係なくあの瞬間は『兄に撃たれた』事のみが脳を支配していた。
 模擬戦を何度も繰り返しても、何度も喧嘩する事があっても────彼は自分を傷つけることはなかったと、今になって気付いた。

 心と同じくらい痛む手のひらを包んだのは、その男の手だった。ゴツゴツと剣ダコの感触が伝わり、血液が付着するのを躊躇いもせず握ったその手から放たれたのは────

「魔法でした。治療魔法によって私の手の穴はすっかり塞がった」

「魔法が得意なようには見えねェが……あぁ、聖剣の恩恵か」

 魔眼の視線は前を歩く勇者の背中から離れない。

「─────んで、心の穴まで塞がっちゃったってか?ディグマの野郎、流石に悲しむぞ~」

「は?何言ってるんですか。あり得ませんよ他国の勇者相手に。脳みそほじった方が良いんじゃないですか?」

「また勢い余ったらただじゃ済まなそうだし遠慮しとくワ」

 話し声に気付いた金髪の男が、嬉しそうに振り向く。

「ん、何の話してんだ?鼻くそか?俺は鼻の穴の採掘師でもあるからな、今までに一番でけえ鼻くそのサイズは─────」

 ザラはため息をつき、先ほどと同じセリフを言う。

「……何、言ってるんですか、もう」

「…………」

「……何ですか隊長。その目は」

「いや……マジか……冗談だったんだけど」

 同じ文章だと言うのに対象が違うだけでこうも声色、雰囲気が違うものだとシャーグは感心しつつ。
 贔屓にしていたかなり年下の部下がぽっと出のチャラ男に興味津々になっている光景は─────

「ディグマに合わせる顔がねえ……」

 嫉妬と言うより、彼女の兄に会わせたくないという感情の方が大きかった。







「東の野郎……ディグマだったか?あいつは確かにこの方角に向かって……」

「えぇ、私達の通ったルートには既にいないことから、このガース大橋を突破し魔王城へ侵入し終えたと考えられます」

「そうだよな、そうなんだけど──────」

 木々に隠れながら3人は大橋を睨む。人と魔の共存の可能性を残すために破壊を拒まれているその橋には─────

「絶対にここを死守しろッ!」

「ストゥネア様が俺達に託してくれたんだ!期待に応えなくてどうする!」

「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」

 死ぬほどガチガチに防御を固められていた。
 城壁の穴という穴から矢尻が見え、魔導兵器の数は10を超えていた。武器を持ち橋を陣取る魔族達の士気は最高潮。

「……なんで?」

 それは命令した本人である風の四天王も知るよしもなかった展開なため────聞くだけ無駄な独り言だ。








ーーーーーーーーーーー



ロクトは【マスタリー・ピッケル】、ディグマは【マスタリー・ツール】を習得しています。ルリマを助ける時、岩の聖剣を手にした時に【採掘】、【研磨】スキルはこのピッケルで行われました。
ゴルガスの天職ですが、【戦士】はかなり強力なはずなのに初代勇者が弱い印象を抱いていたために、1000年経ってもあまり注目されない天職となっています。

タグで明言した通りハーレム要素はありませんが、ロクトに興味を持つ女の子がもう少しいても許されるよね
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