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一章 四人の勇者と血の魔王

第34話 長文乙

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「こっちだ」

 ネアさんが着陸したのは……大橋を越えた、魔王城の門。

「ストゥネア様、よくぞご無事で!」

「……その者は一体?」

 ネアさんの部下がボクの腰の黒い刀に気づくと思ったが……どうやら黒の聖剣の特徴は漏れていないようで、それよりも帝国の軍服に反応していた。

「まさか─────」

「総員、門の防御を固めろっ!」

「!?」

「いいか?門の防御を固めるんだ。詳しい事は後で話す、とりあえず今は────」

「「「はっ!!」」」

 魔族達は急いで武器を持ち、弓を構え、持ち場に着き始める。その場を離れた者は増員を呼びにいったのだろう、動きに迷いが無い。

「圧でゴリ押ししましたね?」

「優秀な部下たちだ。私がなんとなくそれっぽい雰囲気を出して深刻そうにすれば、詳しい事を話さずとも動いてくれる……急ぐぞ」

「……信頼されているんですね」

「一時的にとはいえ、その信頼を裏切るのは心苦しいがな」

 次にたどり着いたのは、門の近くにある……池のような場所。不思議な事にそこから魔王城内部へと繋がっていて、バレないようにマジストロイに会うためのルートとしては最適らしい。

「私の同僚のために作られた水辺だ。湧水と一番近いこの場所が選ばれた。ここ……東の防御を担当していた私は彼女と友になれた。もし彼女と出会ったとしても説明すれば分かってくれる……と思っていたが」

 さらに不思議な事に─────この通路と通路と繋がる近くの部屋には、数人ほどの魔族しかいないのだ。
 この通路は魔王城の地下らしく、反対側の西方面に直接繋がっていると言う。

「マリナメレフに何かがあったのか?奴の部下があまりにも少なすぎる……」

「西を担当していたんですよね?だとしたら西の勇者に倒されたとか─────」

 そしてボク達は多分、同じ事を頭に思い浮かべた。

「でも彼は何故か帝国にいたから、そのマリナメレフさんを倒した後だとは考えにくいですね」

「本当に奴はどんな理由で帝国に来たのだ?全くもって見当がつかない……」

 小さく咳払いをし、ネアさんは進む。

「それに、西の勇者も攻め込むなら北のツーキバルからのルートしかないはずだ。とりあえず今は陛下の所へ急ぐぞ」

 流石は四天王と言うべきか、魔王城の構造への理解が深く、さっきから人気が極端に少ない場所を選び続けているみたいだ。広間が視界にチラッと映ったけど、一小隊以上の人数はいたし。

「……ここからの邂逅は避けられない」

 赤のカーペットが敷かれたその通路はさっきまでの道とはガラッと雰囲気が変わっていて、まさに『魔王』の名に相応しい豪勢さが感じられる。

「貴様は少し怯えたような様子でいろ。何も言わずに対応は私に任せてくれ」

「は、はい」

 という事は自然体で良いって事ですか。……正直、この雰囲気に飲まれかけている。魔王の恐ろしい魔力を感じてはいないけど、この先に魔王がいると思うと……怖い。ネアさんの話を聞く限り悪い人ではなさそうって分かるけども、勇者としての本能みたいなものが警戒しているのかもしれない。

 ネアさんは背筋を伸ばし、壁から姿を見せて歩き始める。その後ろにボクもついていき……大きな扉の前まで歩く。

「……ストゥネア様!帰還なされましたか、実は─────」

 牛の頭をした、扉の前に立つ魔族がこちらを向いた。

「─────まさか、その人間は……」

「あぁ、連れてきた。今すぐ陛下に献上したいのだが」

「よくぞ、よくぞ達成なされました!それも生きた状態で!陛下もお喜びになられると思います。が……実は、その」

 少し焦ったような口調で魔族は言った。

「陛下は今──────」

 ─────言おうと、した。

 一番早く、その閃光に気付いたのはボクだった。会話しているネアさんと牛の魔族はどうしても反応が遅れるが、落ち着かず周囲をキョロキョロと見回して警戒していたボクにとっては分かりやすい異常。
 それに────銃弾を見慣れているボクは、それに近いスピードで突撃してくる『何か』が『何なのか』まで理解出来た。

「伏せてッ!!」

「っ!?」

 両手に銃を構える。視界の端でネアさんが門番の魔族の頭を強引に床に近付けたのを確認し───────

「【絶技・天焦地融】ッ!」

 二丁の魔導銃から熱線を放つ。……もちろん出力は控えめにしている。建物に比較的被害が及ばないように─────『突撃を中断させる』事で出来る程度に。

 予想通り、『その少女』は高速で熱線を回避し、ボク達の背後に回り込んだ。すぐに銃口を彼女に向け────その姿を視界に捉えた。

「魔族が1人……いや2人、かな?良いね、やりがいのある仕事ってステキー」

 獣人の少女。

「魔族と人族の架け橋だのなんだのって言われたけど、要するに魔王さえ殺さなきゃ良いんでしょ?なら目の前の魔族を殺さない理由は無い……うん、無い」

 白と黄が入り混じった髪。

「後はついでに他国の勇者も殺せちゃえば……三国間でのツーキバルの地位は上昇!獣人族は全種族のトップカーストに躍り出る!積み重なった歴史への逆襲!素晴らしき世界になっちゃうよぉ」

 今まで戦ったどの相手とも違う戦い方。……何故かは分からないけど断言出来る。こいつは『まずい』。

「何者だ……貴様は」

 魔剣を抜いたネアさんが立ち上がり、その切先を獣人に向ける。

「獣人差別、女性差別を世界から根絶するために1人奮闘するのは誰?良くぞ聞いてくれました、このあたしこそが!」

 強者というよりも異常者。殺気よりも滲み出る悪意にも似たモノが不快感を煽る。

「─────『北の勇者』、リェフル・サンヴァリアブルなのです。以後……というか死後もお見知り置きを」

 雷光に覆われたその少女は、聖剣を構えていなかった。拳を胸の前に置き、臨戦態勢を取る少女の身体には─────雷を放つ防具のようなモノ。

「……なんだ、仲間はいたのか」

「ん?もしかして君も差別と戦っている戦士なのかな!?」

「違う」

 もう片腕の銃口を向け、引き金に指をかける。

「勇者だからって必ずしも聖剣を使うとは限らない……そうだろう?」

「……は?」

「え」

「何それ。聖剣じゃなくて銃なんか構えちゃってさ。それってあたしの事を聖剣使わずに倒してやるって事?」

 ……虚ろな瞳がボクを貫く。え、なんか間違った事言った……?

「舐めてるよね。あたしなんて聖剣使わなくても勝てるって思ってるって事でしょ?……君、東の勇者だよね?魔王城にいる人間って限られるし、コンロソン人って優しいみたいなイメージで通してるけど遠回しの皮肉が好きな性悪だし。やっぱそうなんだね」

「え、あ、ちが……」

「軍事国家ってやっぱダメだよね。何?帝国最強って。そんな物騒な称号貰って喜んでるのなんてコンロソン人だけだよ。本当に酷い……同じ人間とは思えない。やっぱり人族と獣人族って『格』が違うよね。獣人族みたいに素の戦闘能力が高くないから変に知恵をつけて人を殺す道具とかたくさん作るしもっと平和に暮らそうとか思わないの?ちなみにあたしの友達に剣聖の娘がいるんだけど、無闇に魔剣の力を使おうとしないし普通に恋とか楽しんでる良い子なんだよ。ナルベウス人の人族なんだけど、常識がしっかりしてる。コンロソン人は自覚あるのかな?野蛮な人種だって事の。っていうかそもそも仲間に魔族がいる時点で論外だよね。コンロソン帝国って魔族を完全に敵対視してるでしょ。軍人のくせに母国の命令聞かないとかプライド無いの?魔族は悪い人だけじゃないって言うのは分かるけどね。あたしの友達に先代魔王がいるんだけど、頼み事したら快く聞いてくれたし。でもそれって魔王っていう高貴な立場についていた人っていう理由だと思うんだよね。その魔族、剣とか持っちゃって……物騒にも程がある。そういう魔族はどうせ駄目なんだよね。低脳で魔物と同じ。ずっと地底で暮らしてればいいのにわざわざ地上に来ないでくれるかな。あたしの友達に異世界から来た神狼がいるんだけど、そのくらいにならないと理知的で力のある上位存在にはなれないんだなって分かったの。そう思うと魔物って本当に哀れ……冒険者みたいな野蛮な人間に狩られる事しか存在意義無いもの。結局君も……東の勇者もそうなんでしょ。魔物殺して自分の力を実感して気持ちよくなってる。弱者を虐げてるだけなのにね。獣人差別もそれが目的でしょ?君なんか勇者になるべきじゃないよ、絶対。誰でも勇者にしてくれる黒の聖剣だから勇者になれたに過ぎないって事分かってる?っていうかあたしが来てなければ魔王が君みたいな人に殺されてたとか考えるだけで恐ろしい。よく分からないけど平和的な考えの魔王らしいし、コンロソン人なんかに殺されるなんて屈辱でしかないだろうね。もしそうなれば帝国の国際的権威がどんどん上がってって魔導兵器の実験とかで森林が破壊されてって世界中の環境が崩れていって住処を失った魔物が人々を襲って……。まさに悪夢でしかないよ。怒りで震えて涙が止まらない……」

「──────」

 今まで戦ったどの相手とも違う戦い方、とかの問題じゃない。

 今まで出会ったどの人とも違う人間性……!例えるなら『災害』のように神出鬼没で話が通じない上に実力を持ってしまったタイプ!

『いいかディグマ。ォレが一番気ィつけてるコト……女には優しく、だ。ザラちゃんはもちろん、全ての女にだぞ。女は甘く見てると絶対にいつか後悔するんだワ。……めちゃくちゃに強い剣士も、女1人の事で落ちぶれてくんだからな──────』

 シャーグの言葉はともかく……相手は女の子。軍人として、勇者として、男としてボクは乱暴はしたくない。
 でも本能が。このリェフルという少女を忌避し、吐き気を催している。性別も種族も立場も関係無しに、不快感が止まらない……!

「やるしかないです、ネアさん」

「っ、しかし……!」

「殺さなければいい。そして魔王に早く会うために迅速に」

 ……というより、早くこの少女の気持ちの悪い視線から逃れたい。

「ボクとネアさん、2人なら出来ます」

「……そうだったな。私達が連携すれば【傍観者】さえも撃退出来る」

 魔剣を握り直したネアさんから、リェフルに視線を移す。

「長々と色々言っていたが、要するに『死ね』という事だろう?四天王として北の勇者に返答するが……『お引き取り願おう』!」

 どう考えても不毛な争い。意味は無い。だからこそ────全力で挑む。あらゆる争いを根本から終わらせるために……!






ーーーーーーーーーーー

コンロソン帝国は地球で言う、日本に近い文化を持っています。その原因は日本に近い環境だった事も考えられますが、日本人である初代勇者が帝国を気に入り、長く滞在していた事もその一つだと言えます。その証拠に大きな戦争の起こる事が無くなった世の中でも帝国は軍事国家であり、日本で言うところのアニメや漫画などの文化を継続して排出できていません。刀や和食という断片的なモノが不自然に歴史に残されているのです。
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