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一章 四人の勇者と血の魔王
第31話 舐めてたヤツに限って変な才能があるというあるある
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「早速目覚めさせたか、ユニオンスキルを……」
小屋の中。ルタイン・アネストフールはコーヒーを口に含む。
彼の視線の先の壁には魔導具から映し出された光。────帝国のとある草原の景色を投影している。
「興味深い。岩の聖剣の外装を、自身の【アイテムボックス】内の岩石に変更させたか」
「と言うより……いつの間に忍ばせたんです?監視用魔導具」
今度は適温に調節したコーヒーを眺めながら、「悪趣味ですよ」とテラが呟く。
「ただの飛行型投影魔導具だ。……ロクトの懐に入れておいた『別のモノ』の反応を追跡させている」
「同じようなものですよ。……で、別のモノとは?」
彼の脳には過去の記憶────執着と愛憎というしがらみ、剣戟と斬鉄の音に酔いしれた男たちの姿がよぎる。
「なんて事はない、ただ─────永い時を越えたアップデートを、な」
ー ー ー ー ー ー ー
『東の勇者の力になる』って頼みの本質は何だろうねって話。
魔王討伐を手伝って欲しい?最強の勇者を俺なんかが手助け出来るもんかね。
仲間になって欲しい?帝国軍っつー強力なバックがあんのに他国の勇者1人がそれに匹敵するかね。
つまり。ルタインは黒の聖剣がディグマ・キサカを『洗脳』している事を分かってたんだと思う。
東の勇者を正気に戻せ─────多分これがアイツの頼みの本質だ。
「さァー攻撃してみろよ!出来ねえよなァ!ギャハハハハ!!勇者たる者、戦場に弱みは置いとくもんじゃねーぜ?」
と言う事で俺はディグマ君の妹を人質に取っている。
流石にやり過ぎたかもって後悔しかけてるけど、実は最善の選択だったんじゃないか?とりあえず話が出来る状態に持ち込みたいっつーか、最強の勇者は伊達じゃない攻撃の威力にビビったし。それに……目の前で俺が勇者にあるまじき行為をしまくれば正気に戻ってくれる説はあり得る。
「……何が望みだ?」
「別に、ただ争いを止めて欲しかっただけなんだけどなァ~!」
黒の聖剣は俺の足元にある。もうディグマ君は触れていないと言うのにまだ洗脳を受けているのか?少しでも触ったらアウトなら、小指の先っちょも付けたくないね。
この洗脳を解けと大賢者が任せたなら、俺でも出来るはず。何か、鍵は──────
(いや何も思いつかねェ)
外道風に言ったけど本当に争い止めて欲しいだけだし。そもそも俺って採掘師だから洗脳解くとかそんな聖職者っぽい要求されても困りますが。
「ギャハハハハ!帝国最強と聞いてたが拍子抜けだなァ!?あぁそうだな、要求は──────」
とりあえず、悪者ぶるのには慣れている。普段の俺を誇張するだけだからな!
ー ー ー ー ー ー ー
「この西の勇者ロクト、実は嫁探し中でよォ~……」
「ッ!」
「言いてェ事は分かるよな?」
隊服の中を汗で濡らし、刀の柄を握るシャーグはしゃがんだ姿勢のまま動けない。
(いくら何でも外道すぎるだろ……そもそもどういう経緯でこの戦いが始まったんだ)
流れる溶岩は紛れもなく本物。西の勇者の言う事がハッタリなのかどうかをディグマは見分ける事が出来ない上に、仮に出来たとしても……妹が死ぬ可能性を僅かに感じてしまう彼は動けなかった。
(今動けるのはォレしかいねぇ。だが下手に動けばディグマの我慢を無駄にしちまう……)
奥歯を噛み締め、ディグマに届かない視線を送った。
(……洗脳。様子から見て黒の聖剣の洗脳を受けてしまったか)
それはシャーグの淡い希望が潰れてしまった瞬間だった。
(避けられなかったのか──────『血筋』を持つお前でも)
「っつー訳でだ。この勝負は俺の勝ち。……妹ちゃんは貰うぜ」
ロクトが爪先で指した足元の黒い刀は少し溶岩と触れていたが、熱に負け溶ける様子を見せていなかった。
ザラはただ─────撃たれた手を抑えながら、震えているのみ。ロクトの声が聞こえているのかも、この状況を理解しているのかも曖昧。
「ギャハハハハハ!女の子に手ェ上げるようなカスは勇者失格だからなァ!しっかりと目に焼き付けておけよ……俺が本物の勇者だ」
大声を上げ、男は高らかに笑う。溶岩の熱はその場の者の判断力や精神力を削り、汗に変換する。
ロクトの手が、少し強引にザラの顔を寄せた。
彼女の視界もまた、熱で揺らいでいた。彼女は地面から落ちた黒の聖剣と、勇者にあるまじき行為をする勇者に─────ターゲットを定めた。
「ギャハハ、ぎゃはぎゃは……あの、本当に貰っちゃうけd──────」
「吐き出せ……【風飲剣】」
暴風。それは金髪の男の左手を的確に狙い─────
「へ?」
聖剣を溶岩の池に落下させた。
「え、何急に……誰──────えあゔぇっ!?」
振り向いたロクトは泡を吹き出しそうになりながらも何とか情けない悲鳴を上げるだけで済んだ。
「───────ネア、さん?」
手から力が抜け、銃を草原に落とす。
「すまない、少し────気絶するほどのショックを受けたものでな。ディグマ、改めて貴様の申し出に返答しよう」
首を片腕で抱えた騎士は魔剣を担いで言った。
「私の名はストゥネア・モーウェン。先代風天……『首無し騎士』ことデュランド・モーウェンが娘。魔王軍四天王であり、魔剣の継承者」
首をあるべき場所へ戻した彼女は黒刀を拾い上げ、真っ直ぐとディグマを見つめる。
「という事でだ……さぁ行くぞ、ディグマ」
「え……あ……え?ネアさ……え?何で生きて……四天王!?」
「詳しい事は後だ!ほら……」
強引に黒い刀を押し付け、代わりに彼の手を握った。
「──────私に仲間になって欲しいのだろう?」
ー ー ー ー ー ー ー
「……では、途中から正気に戻ってはいたのだな?」
「えぇ、まぁ……」
大橋に大分近づいた木陰。虫と小鳥の囀りまでもがボクへの責め立てに聞こえてしまうくらい……端的に言うと、落ち込んでいた。
「勇者失格ですよ。洗脳を受けないように、いつも気を付けてたのに……ネアさんが斬られて、ボクは……」
あろう事か、妹を撃った。
「ふむ。黒の聖剣の洗脳とはそこまで強力なモノなのか?さっき握っていた私は特に……」
「誰にでも洗脳する訳じゃないんです。誰にでも自分を握らせる黒の聖剣だけど、洗脳をするのは『黒の聖剣の所有者になってしばらく経った』者のみなんです」
誰も理由は分からない。こんな特徴があるせいで、他の聖剣にはある適合という概念が無いはずなのに、まだそっちの方が人間に優しいと思ってしまう。
「あの西の勇者……とても違和感があった。勇者という存在があそこまで非道な行為をしている事に対してだと思います。それ以上に酷い事をボクはしたって……気付くまで暴れ散らかしてました……」
「私達の居場所は戦場だ。敵と組む状況や、その敵が仲間を殺したり、仲間に殺されたりなどという出来事も全く無いと言い切れない。精神力の訓練も必要なようだな」
「ははは……面目無いです」
「……」
「……」
「……」
「だから、その……」
「!」
しゃがみ込み、木にもたれかけているネアさんと目を合わせる。
「これからも、ご指導お願い……しても良いですか?」
「……本当によく考えたか?私は貴様の敵である、魔王陛下直属の……」
「それを言ったらネアさんだって、ボクは勇者ですよ?……互いに考えてる事は同じだと思います」
─────争いを止めたい。
「……陛下は慈悲深く、高潔な方だ。故にこの状況を作ったのにも理由があると思っている。だからこそ─────確かめたい。もし道を誤っているのなら私が正さなければならない。……陛下一人に抱え込ませる訳にはいかないからな」
「ボクだって本当なら、誰も殺したくない。勇者でも悪い奴は悪いし、善悪に種族は関係無い。……皆分かってるはずなんだ、こんな簡単な事は」
ネアさんは微笑み、立てかけていた魔剣を握った。
「陛下の考えによっては敵対するかもしれないぞ?」
「一応、帝国最強って呼ばれてるので。……死にませんよ、そう簡単には」
立ち上がったネアさんは首筋の辺りを撫で、ボクの視線に気付き……そこを隠した。
「……本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫だと何度も言っているだろう。私の仲間にも常に燃えている者や傷付いても再生し続ける者がいる。首が取り外し可能なくらい、大した事はない。さっきは随分と久しぶりに首が外れたから気を失ってしまっていただけだ」
「そういうモノですか……」
先代四天王デュランド・モーウェン。座学の時間で習った覚えがある。魔剣の担い手であり、戦場では容赦なくその力を振るっていたという。
首が取れるという特徴もかなり個性的で記憶に残っているけれど……まさかネアさんがその子供だったとは。
「……さて、行くとするか。魔王城へ」
「と言っても、どうやって行けば良いんでしょう。ボク1人で正面突破するつもりだったんですが、ネアさんは仲間を傷つけたくは無いでしょうし」
「正面突破!?……魔王軍も舐められたものだな」
「えっ、あぁいやそんなつもりじゃなくて!この大橋は帝国と魔界のアクセスのために作られたモノだし、厳重に防御を固めててもそもそも破壊してないのならここから行くのがボク的には一番速いって言うか……」
ボクが早口になって弁明してみると、ネアさんは顎に手を当てて考え込むような表情をした。
「……そうだ。アドミニーラだったか、ヴァイロだったかが大橋の破壊を提案した時に陛下は強く反対していた。これが勇者を通らせる為だったとしたら─────」
「……どういう事です?」
「いや、ただの憶測に過ぎない。ひとまず今は──────」
ネアさんの手がボクの手を握り。
次にボクの足を支えたのは────風だった。
「うおあ、地面がどんどん離れ……っ」
「『飛んで』一気に向かうぞ!陛下の元へ……!」
ー ー ー ー ー ー ー
少年と女騎士は飛行し、魔王城を目指す。東の勇者である彼はそんな日が来るとは夢にも思っていなかったが─────南方では既に、4人目の勇者が通った方法だった。
「あれが魔王城だ。準備はいいか?ママロ」
ホウキの上に立った灰色の髪の少年は、風を浴びながらそのホウキを操縦するとんがり帽子の少女に言った。
「……言われなくとも」
濃いピンクの色の髪が風に煽られ、帽子から靡く。
(……嘘)
感情の読み取りにくい表情の無さ。冷たい眼差し。南の勇者、ママロという魔女はその内心で─────ビビり散らかしていた。
(本当は全然準備出来てないよぉおおおお!!何で聖剣無しで魔王城前まで来ちゃってるのよわたしはっっ!!)
ついに最後の勇者が姿を見せた。だが彼女も彼女で聖剣に関する問題を抱えている。4人の勇者が聖剣を携えて揃い踏むのは……まだ少し後のようだ。
ーーーーーーーーーーー
ロクトと岩の聖剣に、ルタインが忍び込ませた魔導具は一切関与していません。ルタインは12人の賢者に12本の聖剣をそれぞれ観測させていますが、サヴェルとテラは例外です。サヴェルはただの任務放棄ですが、テラが観測するはずの『南の勇者』が持つ聖剣は特別な状態となっているため、ルタインが直々に観測しています。
小屋の中。ルタイン・アネストフールはコーヒーを口に含む。
彼の視線の先の壁には魔導具から映し出された光。────帝国のとある草原の景色を投影している。
「興味深い。岩の聖剣の外装を、自身の【アイテムボックス】内の岩石に変更させたか」
「と言うより……いつの間に忍ばせたんです?監視用魔導具」
今度は適温に調節したコーヒーを眺めながら、「悪趣味ですよ」とテラが呟く。
「ただの飛行型投影魔導具だ。……ロクトの懐に入れておいた『別のモノ』の反応を追跡させている」
「同じようなものですよ。……で、別のモノとは?」
彼の脳には過去の記憶────執着と愛憎というしがらみ、剣戟と斬鉄の音に酔いしれた男たちの姿がよぎる。
「なんて事はない、ただ─────永い時を越えたアップデートを、な」
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『東の勇者の力になる』って頼みの本質は何だろうねって話。
魔王討伐を手伝って欲しい?最強の勇者を俺なんかが手助け出来るもんかね。
仲間になって欲しい?帝国軍っつー強力なバックがあんのに他国の勇者1人がそれに匹敵するかね。
つまり。ルタインは黒の聖剣がディグマ・キサカを『洗脳』している事を分かってたんだと思う。
東の勇者を正気に戻せ─────多分これがアイツの頼みの本質だ。
「さァー攻撃してみろよ!出来ねえよなァ!ギャハハハハ!!勇者たる者、戦場に弱みは置いとくもんじゃねーぜ?」
と言う事で俺はディグマ君の妹を人質に取っている。
流石にやり過ぎたかもって後悔しかけてるけど、実は最善の選択だったんじゃないか?とりあえず話が出来る状態に持ち込みたいっつーか、最強の勇者は伊達じゃない攻撃の威力にビビったし。それに……目の前で俺が勇者にあるまじき行為をしまくれば正気に戻ってくれる説はあり得る。
「……何が望みだ?」
「別に、ただ争いを止めて欲しかっただけなんだけどなァ~!」
黒の聖剣は俺の足元にある。もうディグマ君は触れていないと言うのにまだ洗脳を受けているのか?少しでも触ったらアウトなら、小指の先っちょも付けたくないね。
この洗脳を解けと大賢者が任せたなら、俺でも出来るはず。何か、鍵は──────
(いや何も思いつかねェ)
外道風に言ったけど本当に争い止めて欲しいだけだし。そもそも俺って採掘師だから洗脳解くとかそんな聖職者っぽい要求されても困りますが。
「ギャハハハハ!帝国最強と聞いてたが拍子抜けだなァ!?あぁそうだな、要求は──────」
とりあえず、悪者ぶるのには慣れている。普段の俺を誇張するだけだからな!
ー ー ー ー ー ー ー
「この西の勇者ロクト、実は嫁探し中でよォ~……」
「ッ!」
「言いてェ事は分かるよな?」
隊服の中を汗で濡らし、刀の柄を握るシャーグはしゃがんだ姿勢のまま動けない。
(いくら何でも外道すぎるだろ……そもそもどういう経緯でこの戦いが始まったんだ)
流れる溶岩は紛れもなく本物。西の勇者の言う事がハッタリなのかどうかをディグマは見分ける事が出来ない上に、仮に出来たとしても……妹が死ぬ可能性を僅かに感じてしまう彼は動けなかった。
(今動けるのはォレしかいねぇ。だが下手に動けばディグマの我慢を無駄にしちまう……)
奥歯を噛み締め、ディグマに届かない視線を送った。
(……洗脳。様子から見て黒の聖剣の洗脳を受けてしまったか)
それはシャーグの淡い希望が潰れてしまった瞬間だった。
(避けられなかったのか──────『血筋』を持つお前でも)
「っつー訳でだ。この勝負は俺の勝ち。……妹ちゃんは貰うぜ」
ロクトが爪先で指した足元の黒い刀は少し溶岩と触れていたが、熱に負け溶ける様子を見せていなかった。
ザラはただ─────撃たれた手を抑えながら、震えているのみ。ロクトの声が聞こえているのかも、この状況を理解しているのかも曖昧。
「ギャハハハハハ!女の子に手ェ上げるようなカスは勇者失格だからなァ!しっかりと目に焼き付けておけよ……俺が本物の勇者だ」
大声を上げ、男は高らかに笑う。溶岩の熱はその場の者の判断力や精神力を削り、汗に変換する。
ロクトの手が、少し強引にザラの顔を寄せた。
彼女の視界もまた、熱で揺らいでいた。彼女は地面から落ちた黒の聖剣と、勇者にあるまじき行為をする勇者に─────ターゲットを定めた。
「ギャハハ、ぎゃはぎゃは……あの、本当に貰っちゃうけd──────」
「吐き出せ……【風飲剣】」
暴風。それは金髪の男の左手を的確に狙い─────
「へ?」
聖剣を溶岩の池に落下させた。
「え、何急に……誰──────えあゔぇっ!?」
振り向いたロクトは泡を吹き出しそうになりながらも何とか情けない悲鳴を上げるだけで済んだ。
「───────ネア、さん?」
手から力が抜け、銃を草原に落とす。
「すまない、少し────気絶するほどのショックを受けたものでな。ディグマ、改めて貴様の申し出に返答しよう」
首を片腕で抱えた騎士は魔剣を担いで言った。
「私の名はストゥネア・モーウェン。先代風天……『首無し騎士』ことデュランド・モーウェンが娘。魔王軍四天王であり、魔剣の継承者」
首をあるべき場所へ戻した彼女は黒刀を拾い上げ、真っ直ぐとディグマを見つめる。
「という事でだ……さぁ行くぞ、ディグマ」
「え……あ……え?ネアさ……え?何で生きて……四天王!?」
「詳しい事は後だ!ほら……」
強引に黒い刀を押し付け、代わりに彼の手を握った。
「──────私に仲間になって欲しいのだろう?」
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「……では、途中から正気に戻ってはいたのだな?」
「えぇ、まぁ……」
大橋に大分近づいた木陰。虫と小鳥の囀りまでもがボクへの責め立てに聞こえてしまうくらい……端的に言うと、落ち込んでいた。
「勇者失格ですよ。洗脳を受けないように、いつも気を付けてたのに……ネアさんが斬られて、ボクは……」
あろう事か、妹を撃った。
「ふむ。黒の聖剣の洗脳とはそこまで強力なモノなのか?さっき握っていた私は特に……」
「誰にでも洗脳する訳じゃないんです。誰にでも自分を握らせる黒の聖剣だけど、洗脳をするのは『黒の聖剣の所有者になってしばらく経った』者のみなんです」
誰も理由は分からない。こんな特徴があるせいで、他の聖剣にはある適合という概念が無いはずなのに、まだそっちの方が人間に優しいと思ってしまう。
「あの西の勇者……とても違和感があった。勇者という存在があそこまで非道な行為をしている事に対してだと思います。それ以上に酷い事をボクはしたって……気付くまで暴れ散らかしてました……」
「私達の居場所は戦場だ。敵と組む状況や、その敵が仲間を殺したり、仲間に殺されたりなどという出来事も全く無いと言い切れない。精神力の訓練も必要なようだな」
「ははは……面目無いです」
「……」
「……」
「……」
「だから、その……」
「!」
しゃがみ込み、木にもたれかけているネアさんと目を合わせる。
「これからも、ご指導お願い……しても良いですか?」
「……本当によく考えたか?私は貴様の敵である、魔王陛下直属の……」
「それを言ったらネアさんだって、ボクは勇者ですよ?……互いに考えてる事は同じだと思います」
─────争いを止めたい。
「……陛下は慈悲深く、高潔な方だ。故にこの状況を作ったのにも理由があると思っている。だからこそ─────確かめたい。もし道を誤っているのなら私が正さなければならない。……陛下一人に抱え込ませる訳にはいかないからな」
「ボクだって本当なら、誰も殺したくない。勇者でも悪い奴は悪いし、善悪に種族は関係無い。……皆分かってるはずなんだ、こんな簡単な事は」
ネアさんは微笑み、立てかけていた魔剣を握った。
「陛下の考えによっては敵対するかもしれないぞ?」
「一応、帝国最強って呼ばれてるので。……死にませんよ、そう簡単には」
立ち上がったネアさんは首筋の辺りを撫で、ボクの視線に気付き……そこを隠した。
「……本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫だと何度も言っているだろう。私の仲間にも常に燃えている者や傷付いても再生し続ける者がいる。首が取り外し可能なくらい、大した事はない。さっきは随分と久しぶりに首が外れたから気を失ってしまっていただけだ」
「そういうモノですか……」
先代四天王デュランド・モーウェン。座学の時間で習った覚えがある。魔剣の担い手であり、戦場では容赦なくその力を振るっていたという。
首が取れるという特徴もかなり個性的で記憶に残っているけれど……まさかネアさんがその子供だったとは。
「……さて、行くとするか。魔王城へ」
「と言っても、どうやって行けば良いんでしょう。ボク1人で正面突破するつもりだったんですが、ネアさんは仲間を傷つけたくは無いでしょうし」
「正面突破!?……魔王軍も舐められたものだな」
「えっ、あぁいやそんなつもりじゃなくて!この大橋は帝国と魔界のアクセスのために作られたモノだし、厳重に防御を固めててもそもそも破壊してないのならここから行くのがボク的には一番速いって言うか……」
ボクが早口になって弁明してみると、ネアさんは顎に手を当てて考え込むような表情をした。
「……そうだ。アドミニーラだったか、ヴァイロだったかが大橋の破壊を提案した時に陛下は強く反対していた。これが勇者を通らせる為だったとしたら─────」
「……どういう事です?」
「いや、ただの憶測に過ぎない。ひとまず今は──────」
ネアさんの手がボクの手を握り。
次にボクの足を支えたのは────風だった。
「うおあ、地面がどんどん離れ……っ」
「『飛んで』一気に向かうぞ!陛下の元へ……!」
ー ー ー ー ー ー ー
少年と女騎士は飛行し、魔王城を目指す。東の勇者である彼はそんな日が来るとは夢にも思っていなかったが─────南方では既に、4人目の勇者が通った方法だった。
「あれが魔王城だ。準備はいいか?ママロ」
ホウキの上に立った灰色の髪の少年は、風を浴びながらそのホウキを操縦するとんがり帽子の少女に言った。
「……言われなくとも」
濃いピンクの色の髪が風に煽られ、帽子から靡く。
(……嘘)
感情の読み取りにくい表情の無さ。冷たい眼差し。南の勇者、ママロという魔女はその内心で─────ビビり散らかしていた。
(本当は全然準備出来てないよぉおおおお!!何で聖剣無しで魔王城前まで来ちゃってるのよわたしはっっ!!)
ついに最後の勇者が姿を見せた。だが彼女も彼女で聖剣に関する問題を抱えている。4人の勇者が聖剣を携えて揃い踏むのは……まだ少し後のようだ。
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ロクトと岩の聖剣に、ルタインが忍び込ませた魔導具は一切関与していません。ルタインは12人の賢者に12本の聖剣をそれぞれ観測させていますが、サヴェルとテラは例外です。サヴェルはただの任務放棄ですが、テラが観測するはずの『南の勇者』が持つ聖剣は特別な状態となっているため、ルタインが直々に観測しています。
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