20 / 71
一章 四人の勇者と血の魔王
第20話 悲しい過去がある奴が偉いのかよって誰か言ってくれ
しおりを挟む
ルリマと俺は家が隣同士じゃなかったら恐らく関わっていなかっただろう性格と立場だ。
俺はお調子者の採掘師。と言っても採掘師へのモチベも腕前も並程度。
対するルリマは生意気な剣聖の娘。傲慢な性格も『まぁそうなるか』と納得出来てしまう肩書きと、それに見合った剣の実力があった。
別に親父の採掘師という職業を嫌っている訳じゃない。むしろ誇りに思っている。
『他人から見て泥臭くても』
『お前から見てカッコイイならその道を歩めよ』
真っ当に生きろ、じゃなくて俺に判断を委ねるような言葉を毎度口うるさく言ってきたのは、ロクトという人間を信じ、期待していてくれたから。
ただ─────ルリマは父親以外にも、無数の人間からの期待を背負っていた。
その重圧を実感するのは、俺がルリマの聖剣を奪ってからの事だ。
ーーーーーーー
赤刃山脈 小屋
ーーーーーーー
「俺は勇者あぁぁああああぁぁあああ!?」
「はい、自己紹介ありがとうございます」
「へ?」
自分でも意味不明すぎる目覚めの声を上げて飛び起きたかと思うと、フカフカのベッドが俺を包んでいたことに気づく。そして横には──────めっちゃ可愛い人。クール系のショートカットで胸はそんなだけど、人気が出るタイプの人だ。
「師匠、彼が起きました」
「む……そうか」
女性は部屋のソファの上で本を片手に目を瞑っていた男の肩を叩いた。白銀の長髪が目立つ……エルフ族の男だ。
「あんたが助けてくれたんだよな?マジでありがとうございます!俺、あの時本当に危なくて───」
さっきに場面を思い出していくうちに、俺には一つ聞かなければいけないことがあったのを思い出した。
「ってか、小屋!多分ここだよな!?俺が落ちたせいでどこか壊れてたりとか、誰か怪我してたりとかは……」
「問題無い。防御魔法を展開していたからな。怪我人は強いて言うなら君自身だ。回復魔法で治療はしたが、すぐに無理はしない方がいい」
「え、あぁ、ども……」
確かに全身のどこにも傷は無かった。回復魔法治療後の特有の違和感があるし、怪我してたのは間違いないんだが、この完璧な治療具合、回復魔法のレベルはまるで────
「申し遅れた。私はルタイン・アネストフール。こちらは弟子のテラだ」
「……テラ・オリミー。覚えなくていいけど」
「あぁ、ロクト・マイニングですぅ……ん?ルタイン・アネストフール……?」
そりゃもう、聞けばわかるくらいのビッグネームだった。寝起きじゃなきゃ聞いた瞬間に驚いてただろうよ。
「ってアンタ、大賢者の……!?」
「そうだ」
「そんでサヴェルの師匠の!?」
「兼、保護者だ」
大賢者ルタインと言えばすごいすごい人で────って感じに具体的にどう凄いのかは俺はよく知らん。大昔から生きてるって事しか。後、魔界との関係が良かった時の人間界側の交渉人の代表だったっけ?ただ……一番魔法を上手く扱える人間って事だろ、大賢者って。それにアイツの師匠だ。凄いに決まってる。
「それにしても、いつも世話になってるサヴェルの親御さんにも迷惑かけちまうなんてな……申し訳ない」
「いや、いい。というか……君が気にするべきはそこじゃない」
……含みのある言い方に、俺は息を呑んだ。
「あそこに立てかけて置いてある剣に見覚えはあるか?」
指さされた方向は、玄関があるあたり。
一本の剣があった。壁に寄りかかっていたその剣は、目立たない茶色の刀身で一般的な剣より少し細く、どこか頼りなさそうにも見えた。が─────それを上回る神聖さが、滲み出ていた。
「ま、さか……岩の聖剣?」
「……ほう、よく分かったな。君は刀身を見た事はないはずだが」
「相棒っすからね。後、柄の部分にめちゃくちゃ見覚えがあった。……じゃなくて!!」
「む?」
「聖剣の周りの岩!あんたが剥がしてくれたのか!?」
……岩が剥がれたくらいで、実際の強さが変わる事はない。俺がいきなり本物の勇者になることも無い。ただ────嬉しかった。
やっと素顔を見れた。
「いや、私じゃない」
「え」
「……師匠、コイツ物分かり悪くてイラつきます」
「いや仕方なくね!?確かに俺は馬鹿だけどもう少し判断待とうよ!?」
テラちゃんから毒を吐かれながら、俺はルタインの次の言葉を待った。
「……いいだろう。そこも含めて私から話をしよう。岩の聖剣と君の今後についての、だ」
「聖剣と……俺の?」
「聞くだけでは退屈だろう。せめて……おぉ、もうやっていてくれたか」
「どうぞ」
テラちゃんから微妙に嫌そうな顔でコーヒーらしき香りのするコップを手渡される。なんでもう嫌われてるんだ?ってかコップが絶妙に熱い。持てはするんだけど熱いから手を離したくて仕方がない。でも俺はベッドの上にいて周りにテーブルっぽい置き場所はない。あ、これ熱さに我慢しながら大賢者のお話聞くしかない感じ?
「どう?ワタシの業火は」
「やっぱわざとかよ!」
「まず最初に、軽く私の事について触れよう」
テラちゃんの言葉をスルーして、大賢者は語り始めた。
「大賢者と呼ばれている。まぁ、現時点では魔法技術のトップだろうと自負している。が……私が主に行っている研究は『聖剣の研究』だ」
「……聖剣の?」
「友の遺産だからという理由もあるが……これは人間と魔族の平和を保つための装置。人を救うためのものだ。加えて圧倒的な力を持つ。此度のような魔王、マジストロイ相手には必須となる……そもそもレナの奴が職務放棄しなければ良い話だったがな」
現魔王、マジストロイ。前魔王レナの旧体制を破壊し、魔界に君臨した統率者。別名は……【血の魔王】。具体的な情報こそないが、『強い』という噂はあちこちで広められている。
「誰かが知ってなくてはならない。もし何らかの理由で聖剣を扱えない勇者がいたらどう対処すべきかを……な」
「!」
「話はサヴェルから聞いている。自分を偽の勇者だと?」
「……そうっすよ。岩の聖剣は俺を認めていない」
ルタインは腕を組み、眼鏡を指で押し上げる。冷静に、俺と俺の言葉を分析するような目だ。
「アイツが、サヴェルが話したって事はアンタは良い人なんだろうし、多分サヴェルは俺の事を相談しようとしたんだと思う。だから話すよ。聖剣を扱えない勇者がいたら……って言ったけど、俺はそもそも勇者じゃない。ただの採掘師だ」
「……」
「もし他に岩の聖剣に相応しい奴がいるんなら、そいつに握らせてやってください。聖剣もそっちの方が喜ぶだろうし、何よりサヴェルとゴルガスと肩を並べられるくらい強いと思う。王国には俺が話をつけるから─────」
「あぁ、馬鹿だな君は」
「何アンタも突然!?いや確かにさっき俺は馬鹿だって言ったけど」
ため息をついたルタインは……言葉の割には怒っていなさそうだった。……呆れというよりかは、もう少し優しさがある顔だ。
「聖剣には不適合者を『拒絶』する機能がある。知っているな?」
「ま、まぁ」
手に取った瞬間に分かるらしい、握った人間側が。この剣は自分に持たれたくないのだ……って。俺は当時焦りまくりでそんな事感じる暇はなかったけど。
「実は、聖剣によってその拒絶の強弱が分かれているのだ。例えば黒の聖剣は誰に対しても拒絶はしない。あの聖剣が少し特殊というのもあるが……」
「へぇ……」
「岩の聖剣は全ての聖剣の中で拒絶が『最も強い』聖剣だ」
「……そう、なんすか」
「不適合者は触った瞬間に正体の分からない違和感が襲う。握り続ければ頭痛、吐き気、めまいを起こし最悪死に至る」
「……」
「ここまで言わなければまだ分からないか。いや、その演技をやめられないか」
分かっている。この人が何を言いたいかは。でもそれは────少しばかり、いやかなり、信じられない事だったんだ。
「ロクト・マイニング。君は『聖剣の適合者』だ。頑固者で有名な岩の聖剣はとっくのとうに─────君を認めていた」
「……だったら」
俺は自分でも、その事実が嬉しかったのか、そうでないのかが分からなかった。でも。ただ、今は……これだけが聞きたい。
「─────だったらなんで俺は勇者じゃないんですか」
「それだ」
「は?」
特にどこかを指差しているわけでもない。目の前の大賢者は……ただ俺を見つめている。
「君のその『態度』だ。それが君が勇者である事を妨げている」
「な、なんじゃそれ。どういう事すか?」
「君を【勇者】だと認めていないのは岩の聖剣ではなく────君自身だった、という事だ」
「……そんな」
そんな事が本当な訳ない。なんて言葉を言いたかったが、残念ながら腑に落ちている。確かに俺は……うん、認めていなかった。ルリマを差し置いて聖剣を手にした自分を責めて責めて責め続け、ここにいる。
「そんな事が原因だったなら……はは、岩の聖剣に申し訳なさすぎる」
肝心な俺が俺を認めていなかったのに、俺は聖剣のせいにし続けてきた。不甲斐ないどころじゃない。なのに────失望せずにずっと力を貸していてくれたのか。
初めて手にした時も。
さっきマリちゃんと戦った時も。
ずっと───────。
「今になってその真の姿を岩の聖剣が見せたのは、君が何かしら『自分は勇者だ』という精神を持ったから、違うか?」
「……」
『─────俺は【勇者】だァァァァアアアアッ!!!』
あの時ヒビが入ったように見えたのは、俺の都合の良い幻覚なんかじゃなかった。聖剣は俺が俺を認めるのをずっと待っていた。そして……今も。
─────どうして俺なんかを。
「まだ自分自身の事を認められないという顔だな」
「そりゃ無理っすよ。岩の聖剣は見る目が無い。適任は……他にいただろうに」
「……良かったら、話してくれないか」
「え?」
「君が聖剣を手にした時や……君が抱えている確執にまつわる出来事を、だ。もちろん自分のペースで構わない」
ソファに座り直したルタインは本を手に取る事なく、レンズの奥から俺を見たままだ。
「君と岩の聖剣の間には奇妙な経緯があるのだろう?私は聖剣研究家として、滅多に自分を握らせない岩の聖剣が認めた人間の事を知りたい。それに────誰かに話せば何か変わるかもしれない。そう思わないか?」
大賢者の微笑んだ顔を、その時初めて見た。性格は似てなさそうだけど、眼鏡を触る仕草や良いヤツだって所は……師匠譲りなんだな。
「それもそうっすね……じゃあ、まずは俺がこの世に生まれ落ちた日の事」
「……ん?」
「え、あ、すんません!ちょっと昔すぎたか。じゃあ……まずは俺がまだ10歳くらいの事」
「あ、いや、どっちにしろ遡りすぎでは」
「その日────俺は腐れ縁の幼馴染と初めて出会ったんだ」
「これは……長くなるな。テラ、私にもコーヒーを──────」
ーーーーーーー
ナルベウス王国 小さな村
ーーーーーーー
「あぁ、まずいなこれ思いっきり上に場面転換の ナルベウス王国 小さな村 がある。確定で長くなる過去編だ」
『いっでぇ!何すんだよ親父~!』
『いっでぇじゃねぇ!レディのハートを掴むには第一印象が大事っていつも言ってんだろッ!』
「怒る所はそこで合っているのか……?」
まぁ親父はそういう人なので!俺みたいな奴の親っすからね、そこは納得でしょ?
え、初めて出会ったルリマはどうだったかって?
「いや、別に聞いてないから早く聖剣の事を……」
うん、剣聖の娘ってだけなのに自分まで偉いと勘違いしてるガキ感は結構あった。
「……そうか…………」
『何、あんた……変なやつ』
こんな感じで睨んできて。
でも、ですよ。
当時俺はクソガキ真っ只中。イタズラとかすれば親父にこっぴ「あぁ、ありがとうテラ。ところで今炎魔法を使っていたのは何故だ?……見間違え?大賢者である私も歳か」どく叱られるから悪さはしてなかったけども、活発な子供だったとは思う。
そんな男の子がお隣にめち「待ってくれテラ、熱すぎるぞこのコーヒー。大賢者である私に【極界】を撃たせるとどうなるかは分かっているはずだろう」ゃくちゃ可愛くて、ツンツンした態度と目線を送ってきて、将来のサイズが見通せてしまう、同年代では全く存在を確認できなかった胸の膨らみを目撃してしまったら──────
そいつに惚れちまうには十分すぎやしませんk「あ“っづ!……いや、取り乱してなどいない。続けたまえ」
いやうるさいって!!今俺が小さい頃ルリマの事好きだったっていう衝撃的な告白したの!!話してる途中でコーヒー飲むなっていやこれあ”っっづ!!??
「別に衝撃など受けてないが。というか君も飲んでいるじゃないか」
ま、まぁサヴェルとかゴルガスにはルリマの事全然好きじゃないみたいなテンションで通してたからな。
「ふむ。まぁとりあえず─────次の1話でまとめてくれないか。長いし」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
聖剣について。
聖剣は全部で12本あると言われています。現在、作中で名称が出てきたのは3本。
岩の聖剣。
雷の聖剣。
黒の聖剣。
世界で最も規模が大きく小競り合いを続けるナルベウス王国、ツーキバル、コンロソン帝国がそれぞれ所持しています。
が、三国は他にも聖剣を隠しているという噂もあります。魔王が倒されれば聖剣は身を隠し、魔王の代替わりに合わせて聖剣は姿を現します。レナが就任した時に現れた4本の聖剣のうち3本は、岩、雷、黒と今回と変わりません。別の聖剣が現れた時の記録は既に途絶えているため、あくまで噂としか言われていません。
この時の4本目が、『白の聖剣』です。元々狂信者はいないような善良な派閥だった白剣教が、信仰する『白の勇者』の再来によって凶暴化したきっかけでもあります。
俺はお調子者の採掘師。と言っても採掘師へのモチベも腕前も並程度。
対するルリマは生意気な剣聖の娘。傲慢な性格も『まぁそうなるか』と納得出来てしまう肩書きと、それに見合った剣の実力があった。
別に親父の採掘師という職業を嫌っている訳じゃない。むしろ誇りに思っている。
『他人から見て泥臭くても』
『お前から見てカッコイイならその道を歩めよ』
真っ当に生きろ、じゃなくて俺に判断を委ねるような言葉を毎度口うるさく言ってきたのは、ロクトという人間を信じ、期待していてくれたから。
ただ─────ルリマは父親以外にも、無数の人間からの期待を背負っていた。
その重圧を実感するのは、俺がルリマの聖剣を奪ってからの事だ。
ーーーーーーー
赤刃山脈 小屋
ーーーーーーー
「俺は勇者あぁぁああああぁぁあああ!?」
「はい、自己紹介ありがとうございます」
「へ?」
自分でも意味不明すぎる目覚めの声を上げて飛び起きたかと思うと、フカフカのベッドが俺を包んでいたことに気づく。そして横には──────めっちゃ可愛い人。クール系のショートカットで胸はそんなだけど、人気が出るタイプの人だ。
「師匠、彼が起きました」
「む……そうか」
女性は部屋のソファの上で本を片手に目を瞑っていた男の肩を叩いた。白銀の長髪が目立つ……エルフ族の男だ。
「あんたが助けてくれたんだよな?マジでありがとうございます!俺、あの時本当に危なくて───」
さっきに場面を思い出していくうちに、俺には一つ聞かなければいけないことがあったのを思い出した。
「ってか、小屋!多分ここだよな!?俺が落ちたせいでどこか壊れてたりとか、誰か怪我してたりとかは……」
「問題無い。防御魔法を展開していたからな。怪我人は強いて言うなら君自身だ。回復魔法で治療はしたが、すぐに無理はしない方がいい」
「え、あぁ、ども……」
確かに全身のどこにも傷は無かった。回復魔法治療後の特有の違和感があるし、怪我してたのは間違いないんだが、この完璧な治療具合、回復魔法のレベルはまるで────
「申し遅れた。私はルタイン・アネストフール。こちらは弟子のテラだ」
「……テラ・オリミー。覚えなくていいけど」
「あぁ、ロクト・マイニングですぅ……ん?ルタイン・アネストフール……?」
そりゃもう、聞けばわかるくらいのビッグネームだった。寝起きじゃなきゃ聞いた瞬間に驚いてただろうよ。
「ってアンタ、大賢者の……!?」
「そうだ」
「そんでサヴェルの師匠の!?」
「兼、保護者だ」
大賢者ルタインと言えばすごいすごい人で────って感じに具体的にどう凄いのかは俺はよく知らん。大昔から生きてるって事しか。後、魔界との関係が良かった時の人間界側の交渉人の代表だったっけ?ただ……一番魔法を上手く扱える人間って事だろ、大賢者って。それにアイツの師匠だ。凄いに決まってる。
「それにしても、いつも世話になってるサヴェルの親御さんにも迷惑かけちまうなんてな……申し訳ない」
「いや、いい。というか……君が気にするべきはそこじゃない」
……含みのある言い方に、俺は息を呑んだ。
「あそこに立てかけて置いてある剣に見覚えはあるか?」
指さされた方向は、玄関があるあたり。
一本の剣があった。壁に寄りかかっていたその剣は、目立たない茶色の刀身で一般的な剣より少し細く、どこか頼りなさそうにも見えた。が─────それを上回る神聖さが、滲み出ていた。
「ま、さか……岩の聖剣?」
「……ほう、よく分かったな。君は刀身を見た事はないはずだが」
「相棒っすからね。後、柄の部分にめちゃくちゃ見覚えがあった。……じゃなくて!!」
「む?」
「聖剣の周りの岩!あんたが剥がしてくれたのか!?」
……岩が剥がれたくらいで、実際の強さが変わる事はない。俺がいきなり本物の勇者になることも無い。ただ────嬉しかった。
やっと素顔を見れた。
「いや、私じゃない」
「え」
「……師匠、コイツ物分かり悪くてイラつきます」
「いや仕方なくね!?確かに俺は馬鹿だけどもう少し判断待とうよ!?」
テラちゃんから毒を吐かれながら、俺はルタインの次の言葉を待った。
「……いいだろう。そこも含めて私から話をしよう。岩の聖剣と君の今後についての、だ」
「聖剣と……俺の?」
「聞くだけでは退屈だろう。せめて……おぉ、もうやっていてくれたか」
「どうぞ」
テラちゃんから微妙に嫌そうな顔でコーヒーらしき香りのするコップを手渡される。なんでもう嫌われてるんだ?ってかコップが絶妙に熱い。持てはするんだけど熱いから手を離したくて仕方がない。でも俺はベッドの上にいて周りにテーブルっぽい置き場所はない。あ、これ熱さに我慢しながら大賢者のお話聞くしかない感じ?
「どう?ワタシの業火は」
「やっぱわざとかよ!」
「まず最初に、軽く私の事について触れよう」
テラちゃんの言葉をスルーして、大賢者は語り始めた。
「大賢者と呼ばれている。まぁ、現時点では魔法技術のトップだろうと自負している。が……私が主に行っている研究は『聖剣の研究』だ」
「……聖剣の?」
「友の遺産だからという理由もあるが……これは人間と魔族の平和を保つための装置。人を救うためのものだ。加えて圧倒的な力を持つ。此度のような魔王、マジストロイ相手には必須となる……そもそもレナの奴が職務放棄しなければ良い話だったがな」
現魔王、マジストロイ。前魔王レナの旧体制を破壊し、魔界に君臨した統率者。別名は……【血の魔王】。具体的な情報こそないが、『強い』という噂はあちこちで広められている。
「誰かが知ってなくてはならない。もし何らかの理由で聖剣を扱えない勇者がいたらどう対処すべきかを……な」
「!」
「話はサヴェルから聞いている。自分を偽の勇者だと?」
「……そうっすよ。岩の聖剣は俺を認めていない」
ルタインは腕を組み、眼鏡を指で押し上げる。冷静に、俺と俺の言葉を分析するような目だ。
「アイツが、サヴェルが話したって事はアンタは良い人なんだろうし、多分サヴェルは俺の事を相談しようとしたんだと思う。だから話すよ。聖剣を扱えない勇者がいたら……って言ったけど、俺はそもそも勇者じゃない。ただの採掘師だ」
「……」
「もし他に岩の聖剣に相応しい奴がいるんなら、そいつに握らせてやってください。聖剣もそっちの方が喜ぶだろうし、何よりサヴェルとゴルガスと肩を並べられるくらい強いと思う。王国には俺が話をつけるから─────」
「あぁ、馬鹿だな君は」
「何アンタも突然!?いや確かにさっき俺は馬鹿だって言ったけど」
ため息をついたルタインは……言葉の割には怒っていなさそうだった。……呆れというよりかは、もう少し優しさがある顔だ。
「聖剣には不適合者を『拒絶』する機能がある。知っているな?」
「ま、まぁ」
手に取った瞬間に分かるらしい、握った人間側が。この剣は自分に持たれたくないのだ……って。俺は当時焦りまくりでそんな事感じる暇はなかったけど。
「実は、聖剣によってその拒絶の強弱が分かれているのだ。例えば黒の聖剣は誰に対しても拒絶はしない。あの聖剣が少し特殊というのもあるが……」
「へぇ……」
「岩の聖剣は全ての聖剣の中で拒絶が『最も強い』聖剣だ」
「……そう、なんすか」
「不適合者は触った瞬間に正体の分からない違和感が襲う。握り続ければ頭痛、吐き気、めまいを起こし最悪死に至る」
「……」
「ここまで言わなければまだ分からないか。いや、その演技をやめられないか」
分かっている。この人が何を言いたいかは。でもそれは────少しばかり、いやかなり、信じられない事だったんだ。
「ロクト・マイニング。君は『聖剣の適合者』だ。頑固者で有名な岩の聖剣はとっくのとうに─────君を認めていた」
「……だったら」
俺は自分でも、その事実が嬉しかったのか、そうでないのかが分からなかった。でも。ただ、今は……これだけが聞きたい。
「─────だったらなんで俺は勇者じゃないんですか」
「それだ」
「は?」
特にどこかを指差しているわけでもない。目の前の大賢者は……ただ俺を見つめている。
「君のその『態度』だ。それが君が勇者である事を妨げている」
「な、なんじゃそれ。どういう事すか?」
「君を【勇者】だと認めていないのは岩の聖剣ではなく────君自身だった、という事だ」
「……そんな」
そんな事が本当な訳ない。なんて言葉を言いたかったが、残念ながら腑に落ちている。確かに俺は……うん、認めていなかった。ルリマを差し置いて聖剣を手にした自分を責めて責めて責め続け、ここにいる。
「そんな事が原因だったなら……はは、岩の聖剣に申し訳なさすぎる」
肝心な俺が俺を認めていなかったのに、俺は聖剣のせいにし続けてきた。不甲斐ないどころじゃない。なのに────失望せずにずっと力を貸していてくれたのか。
初めて手にした時も。
さっきマリちゃんと戦った時も。
ずっと───────。
「今になってその真の姿を岩の聖剣が見せたのは、君が何かしら『自分は勇者だ』という精神を持ったから、違うか?」
「……」
『─────俺は【勇者】だァァァァアアアアッ!!!』
あの時ヒビが入ったように見えたのは、俺の都合の良い幻覚なんかじゃなかった。聖剣は俺が俺を認めるのをずっと待っていた。そして……今も。
─────どうして俺なんかを。
「まだ自分自身の事を認められないという顔だな」
「そりゃ無理っすよ。岩の聖剣は見る目が無い。適任は……他にいただろうに」
「……良かったら、話してくれないか」
「え?」
「君が聖剣を手にした時や……君が抱えている確執にまつわる出来事を、だ。もちろん自分のペースで構わない」
ソファに座り直したルタインは本を手に取る事なく、レンズの奥から俺を見たままだ。
「君と岩の聖剣の間には奇妙な経緯があるのだろう?私は聖剣研究家として、滅多に自分を握らせない岩の聖剣が認めた人間の事を知りたい。それに────誰かに話せば何か変わるかもしれない。そう思わないか?」
大賢者の微笑んだ顔を、その時初めて見た。性格は似てなさそうだけど、眼鏡を触る仕草や良いヤツだって所は……師匠譲りなんだな。
「それもそうっすね……じゃあ、まずは俺がこの世に生まれ落ちた日の事」
「……ん?」
「え、あ、すんません!ちょっと昔すぎたか。じゃあ……まずは俺がまだ10歳くらいの事」
「あ、いや、どっちにしろ遡りすぎでは」
「その日────俺は腐れ縁の幼馴染と初めて出会ったんだ」
「これは……長くなるな。テラ、私にもコーヒーを──────」
ーーーーーーー
ナルベウス王国 小さな村
ーーーーーーー
「あぁ、まずいなこれ思いっきり上に場面転換の ナルベウス王国 小さな村 がある。確定で長くなる過去編だ」
『いっでぇ!何すんだよ親父~!』
『いっでぇじゃねぇ!レディのハートを掴むには第一印象が大事っていつも言ってんだろッ!』
「怒る所はそこで合っているのか……?」
まぁ親父はそういう人なので!俺みたいな奴の親っすからね、そこは納得でしょ?
え、初めて出会ったルリマはどうだったかって?
「いや、別に聞いてないから早く聖剣の事を……」
うん、剣聖の娘ってだけなのに自分まで偉いと勘違いしてるガキ感は結構あった。
「……そうか…………」
『何、あんた……変なやつ』
こんな感じで睨んできて。
でも、ですよ。
当時俺はクソガキ真っ只中。イタズラとかすれば親父にこっぴ「あぁ、ありがとうテラ。ところで今炎魔法を使っていたのは何故だ?……見間違え?大賢者である私も歳か」どく叱られるから悪さはしてなかったけども、活発な子供だったとは思う。
そんな男の子がお隣にめち「待ってくれテラ、熱すぎるぞこのコーヒー。大賢者である私に【極界】を撃たせるとどうなるかは分かっているはずだろう」ゃくちゃ可愛くて、ツンツンした態度と目線を送ってきて、将来のサイズが見通せてしまう、同年代では全く存在を確認できなかった胸の膨らみを目撃してしまったら──────
そいつに惚れちまうには十分すぎやしませんk「あ“っづ!……いや、取り乱してなどいない。続けたまえ」
いやうるさいって!!今俺が小さい頃ルリマの事好きだったっていう衝撃的な告白したの!!話してる途中でコーヒー飲むなっていやこれあ”っっづ!!??
「別に衝撃など受けてないが。というか君も飲んでいるじゃないか」
ま、まぁサヴェルとかゴルガスにはルリマの事全然好きじゃないみたいなテンションで通してたからな。
「ふむ。まぁとりあえず─────次の1話でまとめてくれないか。長いし」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
聖剣について。
聖剣は全部で12本あると言われています。現在、作中で名称が出てきたのは3本。
岩の聖剣。
雷の聖剣。
黒の聖剣。
世界で最も規模が大きく小競り合いを続けるナルベウス王国、ツーキバル、コンロソン帝国がそれぞれ所持しています。
が、三国は他にも聖剣を隠しているという噂もあります。魔王が倒されれば聖剣は身を隠し、魔王の代替わりに合わせて聖剣は姿を現します。レナが就任した時に現れた4本の聖剣のうち3本は、岩、雷、黒と今回と変わりません。別の聖剣が現れた時の記録は既に途絶えているため、あくまで噂としか言われていません。
この時の4本目が、『白の聖剣』です。元々狂信者はいないような善良な派閥だった白剣教が、信仰する『白の勇者』の再来によって凶暴化したきっかけでもあります。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)
朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】
バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。
それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。
ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。
ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――!
天下無敵の色事師ジャスミン。
新米神官パーム。
傭兵ヒース。
ダリア傭兵団団長シュダ。
銀の死神ゼラ。
復讐者アザレア。
…………
様々な人物が、徐々に絡まり、収束する……
壮大(?)なハイファンタジー!
*表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます!
・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~
昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる