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一章 四人の勇者と血の魔王

第19話 女風呂ではいつも乳繰り合いが起こってると思っている童貞の少年よ、大志を抱け

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 ???
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「(えーと、映ってるのかな?)」

誰もいない、果ての無い荒野。……と表現するのは少し適切ではない。
妙な喋り方をする、黒髪の男。周囲にボロボロの布を纏った彼以外の人間はいない。

「(さて始まりました『勇者の俺が追放したテイマーがチート能力を……』クソ、長すぎんだろこのタイトル!!略称募集しますね。えー、第19話!ここで一旦現状を整理してみましょうか)」

なら、たった1人で彼は何に対して喋りかけているのか。

答えは『目』だ。空中に多数浮かぶ眼球達。
───────『傍観者ロズ』と呼ばれる、この世界の七災害の一つ。

「(まず西の勇者、ロクト視点!見事マリナメレフをゲットしましたね!まさか現実でモンスターボ●ルが見られるなんてね。あ、モンスターボーリュか。しかしロクト君ですが油断してマリナメレフに吹き飛ばされ……なんと大賢者ルタインの小屋へ不時着!いったいどうなっちゃうんだ~!?)」

咳払いをし、男は続ける。

「(続きまして北の勇者、リェフル視点!聖剣修復の為にルリマと共にハムちゃんの血をゲット!しかし思いがけない情報を入手。魔王レナが初代勇者の仲間だったなんて……いったいどういうことなの~!?)」

大量の目と目を合わせ、彼は屈託の無い笑顔を絶やさない。

「(次は東の勇者、ディグマ&風の四天王、ストゥネア視点!2人は協力してイキって現れたお前ら傍観者を撃退!雑魚で草ァ!え、何々?ストゥネアみたいな騎士は勇者じゃなくて触手とかオークが似合う?どうやら視聴者の皆さんはディグマくんアンチのようですね。敵同士なのに協力関係を結んだ2人はどうなっていくんだ~!?)」

動きが激しくなる眼球の集団を心地良さそうに眺めながら、男は続ける。

「(さて、時間軸上ではディグマくんが1番進んでいて、ロクトくんが少し追いつきそうで、リェフルちゃんがかなり遅れていますね。という事で今回見ていくのは瘴気の森!イェ~イ!!初代勇者の戦い以来の大盛り上がりだからね、見逃すなよ~!)」

男が腕を上げ、はしゃぐと同時に一部の眼球が震える。

「(……え?『南の勇者』はいつ見せるんだって?まぁまぁ落ち着けって!僕は語り部としてちゃんと順序良く見せていくから─────)」

男は目を見開き────言った。

((よ……な?))






















ー ー ー ー ー ー ー











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 勇者の爪痕
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「はい、はい……はい。しっかりと全部の材料が集まっていますね。これで雷の聖剣を修復出来ます」

「やったぁぁぁぁああああああ!!!」

クレーターの地下の小さな空間で、あたしは強く拳を握りしめた。

「もう本当に嬉しい……聖剣壊れた時は人生終わったかと思ったけど、これでようやくあたしの勇者生活が始まる……!」

「しかし、聖剣の修復素材なだけあって集めるのにも少し苦労しましたね」

ハムちゃんに血を貰ったあと、残りの素材を手に入れる為に瘴気の森の魔物を倒しに回ったんだけど……。

「ふふふ、【チェリーオークキング】の涙……なんて苦労したんじゃないですか?」

メモ書きにあった素材の一つ。
森の奥に1人佇んでいた巨大なオークで、集団で行動する事の多いオークにしては珍しかった。やっぱりこの瘴気の森には突然変異体……みたいのが多いのかな?

「いや、確かに強そうだったけどそこまで苦労しなかったよ。急に涙流しちゃって無抵抗だったし、戦わずに帰ってきた」

「あら?そうでしたか。チェリーオークキングはあまりにも生殖器が小さすぎるせいで、同族から仲間はずれにされ怨嗟に支配された悲しきオークなのですが」

「いや悲しすぎるでしょその背景!確かに全裸だったのにアレが見えないなとは思った、け、ど……」

「どうしました?」

あたしは言葉の途中で、童貞オークくんに向かって言った言葉を思い出した。

『ん?なんかアレが無くない?メスなのかな。でもおっぱいも無いし……』

今の言葉を出会い頭に言ってしまったような気がしてきた……。

「なるほど、久しぶりに女性に出会えたと思えばリェフルさんがオスであろうとメスであろうと思いやりの無さすぎる言葉を放ってしまった故、流れた涙というわけですか」

「わざわざ説明しなくていいよルリマさん。うーん、ちょっと申し訳なくなってきたな……」

「フン、小さい方が悪い」

あたしに気を遣ったのならそれは間違ってる言葉だよポチさん。

「聖剣の修復には早くて一晩ほどかかります。そろそろ日も暮れてくるので……お二人はスプトで休みを取られては?」

「それもそっか。ルリマさん、お世話になってもいい?」

「壁に穴の空いているギルドマスター室なら貸せますが」

「フツーに宿泊まるよ……」

「冗談です。私の家はどうですか?ちょうどベッドも二つありますし」

ルリマさんは悪い人じゃなさそうだけど、ちっともテンションが掴めない。西の勇者……ロクト・マイニングの前だとデレデレだったりするのかな。想像出来ない……。

「そういえばレナ陛下」

「もう魔王じゃないので『レナ様』でいいですよぉ」

「そこは様も外せ。謀反で失墜したコイツなど『人望ゼロ元魔王』とでも呼んでやれ」

「人望ゼロ元魔王レナ様、少しお聞きしたい事があるのですが」

「どうぞ?」

「ルリマさん、ほんと肝据わってるよね……」

あたしも結構やんちゃでおてんばな性格だって自負はあったけど、普段落ち着いてそうな人が急に猛ダッシュで突き抜けていくテンションを見せるのはびっくりしちゃう。

「レナ様が初代勇者のお仲間だったというのは事実ですか?」

「いやそれは肝据わりすぎでしょ!!??どう考えても聞かない流れだったよね!?」

肝も据わりすぎてもはや座って足痺れてるレベル。

「あら……ふふ、あの龍……デブバカムートから聞きましたね?隠すつもりもありませんでしたが」

「すごい、あたしのハムちゃんがマシに聞こえるあだ名!」

「フン……昔の話だ、聞いて何になる」

ポチさんは喉を唸らせて遠くの方向を見つめる。

「……そういやポチさんはレナさんの事、『同じ主に仕えていた』って言ってたよね。もしかして──────」

「えぇ、そうですよ」

墓石を撫でた元魔王の表情は、魔を統べる支配者というよりかは……どこにでもいる一人の少女に見えた。

「私とポチとサクラちゃんとルタイン。元魔王と犬っころと不死鳥と大賢者が、初代勇者の旅の付き添いでした」











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スプト ルリマ宅
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レナさんとポチさんが昔話をしようとすると、もう周りがどんどんジメジメした空気になっちゃって。特に聞きたいわけでもなかったあたしはルリマさんを強引に引っ張り、スプトで風呂に入っている。
全裸で。2人きりで。超至近距離で。

「剣聖の娘って言うんだから、もっと身体中に傷とかあるもんだと」

「……ジロジロ見ないでください」

スプトの公衆浴場はあるにはあるんだけど、ほとんどが魔物の血を洗い流す冒険者達で溢れかえっているそう。
だからあたしとルリマさんは──────鉄製の錆びついた、大きめの筒に木の板を敷いて風呂を堪能している。ルリマさんが炎魔法を覚えたのはこれをするためらしいけど……。

「あったかいねぇ~……気持ちいい~!」

「ちょっと、手足を伸ばさないでください。全く……なんで一緒に入る必要があるんですか……」

「いや?」

「嫌に決まってるでしょう。今日初めて会った人とこんな至近距離で全裸で」

「裸の付き合いって言うじゃん?っていうかこんな外から見えちゃう庭で毎日これに入ってるルリマさんが恥ずかしがる必要なんてないんじゃないかな。変態なの?」

「まさか。覗く方が変態です。それに町を支えるギルドマスターの入浴を覗けば先に待っているのはこのスプトというコミュニティ内での死です。覗かれた事なんて数回しかありませんよ」

「数回あるんじゃん……」

と、ここであたしは大袈裟に咳払いをする。

「んでさ、いい加減疲れたんだよね」

「何がです?」

「さん付けするのが!!ねね、ルリマって呼んでいい?」

「……いいですよ。いえ、いいわ、リェフル」

「おぉ~そうそう!これであたし達お友達って訳!んで、友達なので……」

あたしの視線は、自然と下の方へと吸い込まれていく。自然とね、自然。

「覗かれちゃうのも仕方ない、おっきいおっぱいも友達だから触っちゃうのよん」

両手の人差し指で二つの丘をツンツン……と突く。しかしルリマさんの反応はいたって淡白で、

「リェフルのは小さいので覗かれる心配は無いって事?」

「残念だったね、あたしゃチェリーオークキングじゃないからそんな事言われても泣かないよ」

傷こそないが、剣の腕が凄まじいだけあって筋肉が引き締まっている。あぁ……ロクトさんはこの身体を自由に出来ちゃうのか。許すまじ西の勇者!

「ってアレ?そういえばロクトさん、恋人いる癖にあたしの事口説いてきたような……これって浮気?」

「……」

「……あ、やべ」

間違いなく、絶対に言わない方が良かった言葉なのは言ってから気付きました。

でも────その時のルリマの表情は、一切驚いてなくて。それよりかは、知っていた上で悲しんでいるかのような?

「リェフル、実は私とロクトが恋人同士というのは嘘だったの」

「え?」

「あなたがロクトに危害を加えようものなら、剣聖の娘という存在が彼の大切な人であると。圧をかけたかった」

「あぁ……そういう」

少しだけ気まずい空気が流れる。
でもきっと……ルリマがこの事を話してくれたのはあたしを信用してくれたからだと思う。ロクトさんを国のために傷つけるかもしれないあたしを。

それが少し嬉しいと、前向きに捉える事にした。

「約束してたわよね、私とロクトの馴れ初めを話すって」

「あぁ……そっか、その約束も無しか。聞きたかったなぁ」

「話すわ」

「!」

「幼馴染としての……私とロクトの事を」

「へぇ、幼馴染だったんだ!」

あたしは顔を上げ、ルリマの話に耳を傾けようとした。
……でも、そういう軽いテンションで聞くものではないと、感覚的に察知した。

その時のルリマの表情は、どこにでもいる少女というよりは──────やり直せない過去に囚われ続ける、罰を待つ罪人のようだった。



















ーーーーーーー
ナルベウス王国 小さな村
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私、ルリマ・グリードアはひたすら不満で仕方がなかった。

「お父さん剣聖なんでしょ!?なんでこんな田舎の村に引っ越さなきゃいけないのよ!」

今思えば、父さんには悪い事をしたと思っている。母さんを亡くした原因が父にあるのは別に、仕方のない事だから受け入れていたつもりだったが……心の底ではどこか恨んでいて、そのせいで必要以上に強く当たってしまっていた。

「はは……ルリマ、そう大声を出さないでくれ。近所の人に聞こえちゃうだろ」

「……ふん!別にいいもん、誰とも仲良くなるつもりはないし!」

その頃の私は漠然と、『勇者になりたい』と願っていた。理由は簡単。剣聖より強いから。剣聖より格好良いから。剣聖より偉大だから。

親に敷かれたレールを走る人生が嫌だった。父さんは私に剣聖になれと強制したことは一度もないのに。
母さんを守れなかった剣聖なんかになりたくないと思っていた。それを一番悔やんでいるのは他でもない父さんだったというのに。

そんな私は─────出会った。

「ハッハッハ!元気な嬢ちゃんだなぁ!」

泥の染みついた服装の、ガタイの良い男。ツルハシを肩に担いだその男はどうやら隣人のようで、父さんは彼に挨拶を済ませていた。

目に入ったのは、男の横に立っていた私と背丈の近い少年。

「ねぇ、君のお父さん剣聖って本当!?」─────と、言われると思っていた。
彼が私に近づいてきた時に放った言葉は、私の想像など軽く破壊した。

「ねぇ、おっぱいって揉むと大きくなるらしいんだけど、今から俺と一緒におっぱい育成しない!?」

「……は?」

「こらロクト、テメェ!レディにはそういう一面を見せるなって言っただろ!」

頭に思いっきり拳骨を喰らった少年、ロクト・マイニング。
私の未来を奪い、私が未来を壊した彼と───────出会った。





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魔法についての小話。

この世界の魔法技術では、『自身の魔力をそのままの形で体外に放出する』初代勇者の魔法は再現不可能だと言われています。魔力を純粋な形で留めるのは困難で、炎や風などに変換しなければ魔法は発動できません。初代勇者がその魔法で自身の全ての魔力を放った場所が、あの『勇者の爪痕』と呼ばれているクレーターです。そのため初代勇者の異質な魔力が、そのままの純度と濃度の高い状態で森に立ち込めています。彼の魔力で作られた聖剣の修理に、彼の魔力で育ち、それを含んでいる魔物達の体液が必要なのは理にかなっているでしょう。
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