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一章 四人の勇者と血の魔王
第9話 それってあなたの聖剣ですよね?
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「蘇っていたのなら知らせくらいはしろ、全く」
喋る事がまるで当たり前のように、その獣は佇んでいる。この空間は、赤い鳥の少女と獣が対峙している状況一つによって異常なものと化してしまった。
「えーっと……人違いじゃない?」
「…………何?」
獣の目つきが変わった。
「ひ、ひーちゃん、知り合い?」
「うーん分かんない。会ったことないと思うけど……忘れてるのかな?」
あっけらかんと、少女は言った。
対する白い獣は────────
「…………そうか」
錯覚だろうか。さっきまで圧倒的な存在として覇気を充満させていた獣はどうしてか、とてもちっぽけな存在に見える。
飼い主が返ってくるのを待ち続けている犬のような……。
「記憶を失っているのなら仕方ない。今の貴様が満足しているのなら、我は何も言うまい」
静かな口調で話した獣は、身体をブルっと震わせると毛並みを逆立たせ、元の覇気を取り戻したかのように感じた。
「…………む?」
「……な、なに、ですか……?」
獣の鋭い眼光の先は……アルマ。
「……ガン見されているぞ、アルマ君」
「……」
「って今度は俺……!?」
アルマに向けられていた突き刺すような視線は俺に移った。
……無言で睨まれ続けている。喋っているのが違和感でしかなかったけど、喋らずにずっと見てるだけなのはそれはそれで怖い……!
「おい、小娘」
「ん、なに?」
今までずっと座って待っていた獣人の少女が白い獣に駆け寄ってきた。白い袋を肩に担ぎ、薄汚れてはいるが冒険に適している服装の少女。
((……かわいい))
俺とゴルガスは全く同じ感想を嚙み締めた。
白と黄の輝くような髪。荒っぽくもおしとやかさのある印象だ。目つきは若干鋭いように見えたが、温和そうな彼女の雰囲気によって二面性が映し出されている。
かわいい。
(──────いや、待て)
この瞬間、俺の脳内の点と点が勢いよく稲妻のように繋がり、一つの結論を導き出した。
俺の本能が、急げと言っているのだ。
アルマが仲間にしているのは心なしか獣人が多い。もしそれがアルマがテイマーである事に由来するのなら?
今俺の目の前にいる少女は…………アルマの五人目の仲間になってしまうのかもしれないのだ。
────────そんな事は絶対に許せない。
「こんにちはああああああ!!」
俺は全身を躍動させ、少女の前に誰より早く立ちふさがった。
「うわ!……こ、こんちは」
「どもっス───俺、ロクトっつーんすけど────よろしくっていうか─────永遠によろしくしたい的な─────?」
「ッ!出たぞ……!!」
「ロクトさんのド下手すぎるナンパ…………」
外野が何やらうるさいが、これでも俺は真剣なんだ。黙っていてもらおう。
「んー……あぁ!確かに一度よろしくした人とはずっと仲良くしていたいよねー。よろしく!」
これは──────『手応えアリ』じゃないか!?
「なっ────」
「ロクトさんのナンパに引いていない!?一体何者なんだ……!?」
そろそろ外野には本当に黙ってもらいたくなってきた。
「……ふん。良いのか?貴様ら。そんな軽率に会話などしていて」
「え?どういう事よポチさん」
獣の嘲笑うかのような声に少女が振り返った。
…………え?この厳つい魔物の名前が?ポチさんなんすか?
「なんだ貴様ら、気づいていないのか。まぁいい……」
獣はあくびをするような仕草をしてから、さりげなく言った。
「元より、『勇者同士』が争うなど可笑しな話だからな」
「「────────」」
場を支配したのは、沈黙。
それか、声にならない声だ。
俺は後者だった。
(『勇者同士』……って─────!!)
今日は無駄に頭の回転が良い。
今の言葉だけで、全てを理解した。
俺の目の前にいる美少女は。
獣人は。
ツーキバルの勇者──────
「……『雷の勇者』、で合ってるか?」
「……そういうあなたは『岩の勇者』ってことだよね?」
じりじりと……後ずさりをしていく。
少女は獣の方へ。俺はゴルガス達の方へ。
「まさか……こんなところで、二人の勇者が遭遇するなんて─────」
アルマの声が聞こえる。それは俺が一番言いたい言葉だよ。
魔王討伐は言ってしまえば一種の戦争だ。
より速く魔王を倒した国はそれだけ強大な戦力を持っているというわけで。そうなりゃ国際的立場も有利になる。
そのためなら……勇者が勇者を殺す可能性だってあり得るんだ。もちろん俺はそんなことするつもりはない。この少女もあるようには見えない。
ただ──────四人の内、誰か一人くらいやってもおかしくはないかもしれないじゃないか。だから、警戒は解けない。
「別にここで殺り合おうって訳じゃないのに、どうしてそんなに距離を取ってるの?」
「!!」
さっきとは雰囲気を一変させた少女が、そこには立っていた。誘うように、凍てつくような眼光で。
「まさか、怯えてる訳じゃないよね?」
─────いや、戦いはもう始まっている。
口喧嘩という名の戦いが!!
「ハッ!相手はか弱い女の子と来た。いつまでも近くにいちゃあ怖がらせちまうだろ?紳士として当然の対応だ」
「性別で舐めてかかってると魔王の首は持って帰れないよ?獣人と人間じゃ基本的なスペックが段違いなんだから」
「君と魔物、一人と一匹で俺達より先に魔王を倒すつもりか?こちとら優秀な仲間がいるんでね。負けるつもりはないけど」
「だから、そんくらいあたし一人でも十分だって言ってるの。頭数だけ立派で何の意味があるの?」
「あれ、旅の仲間は本当にその魔物一匹だけなのか。おぉ、ツーキバルの勇者は人望に恵まれていないらしい!」
「あ、あ……あたしの聖剣の性質上仕方ないのよ。あまり人が多ければ傷つけちゃう。あなたも聖剣を持ってるなら分かるんじゃない?それとも聖剣の力を引き出せてないのかな?」
「ぜ、全然引き出せてるけどな。てかむしろ引き出せすぎてコントロール完璧だし。周りに人いるって理由で全力出せないとか苦しい言い訳だわ。聖剣初心者か?」
「ぜ、ぜーーんぜん使えてるし??聖剣熟練者だし??あたしの『雷の聖剣』の力はあなたも噂で聞いたことあったりするんじゃない?一瞬で魔物とか消し炭にしちゃうから仲間とか正直いらないんだよね。むしろぞろぞろ引き連れて仲間を危険に晒してるのは勇者としてどーなの?」
「仲間を信頼してるんでーーーーす。あ、そうだ。今度酒場に行ったら『雷の勇者』の噂に『友達がいない』ってのを追加しとかなきゃな!ついでに張り紙とかどうだ?『雷の勇者、お友達募集中』……ってな!」
「あーもうちょっとやばいかも。あたしの聖剣が暴走しちゃうかも。いやいつもは制御できてるんだけどあまりの分からず屋が目の前に現れちゃったからあたしの聖剣も言ってるね。理解させてやるって言ってるよ」
「じ、じゃあ見せてみろよその聖剣とやらをさぁ!!」
「えっ……」
「え?」
「あ……その……」
このまま一生止まらないんじゃないかと思い始めてきた口論は突如として終焉を迎えた。少女の沈黙によって。
「本当に一生こうやっているかと思ったぞロクト君」
「あぁ……はは、すまんすまん」
勇者同士出会ったら敵対視しちゃうみたいなシステムあるのかな?もしそうだったらこの世界を裏で動かしている存在がいる事に──────あ、でも俺採掘師だったわ。
「……小娘が。墓穴にも程があるぞ」
獣に叱るような一言を言われた少女は……急に黙りこくって。しおらしくなっちゃって。
手に持っていた袋を何度もチラ見しながら、もじもじしている。
「あ、あははぁ~!その、なんていうか……あたしの聖剣派手だからさぁ!そのー『岩』?ってなんか地味そうだし(笑)先にそっち見せてもらった方がいいかな~って(笑)あ、言っちゃった(笑)」
「ハァァァアアアアアアア?????」
脳の血管がブチブチと切れるような音が聞こえた。絶対切れてないだろうけどキレてはいる。
───────呆れたぜ。急に大人しくなってどうしたのかと思えばそんな事を……ッ!
「じゃあ見せてやるが???あ、万が一君の聖剣壊しちゃったら申し訳ない。賠償金はナルベウスに請求してくれよ……ッ!!」
俺は右手を突き出し、一度だけ深呼吸をする。
……冷静なんかでいられるものか。
「【次元──────」
「待ってくださいロクト!」
「っ!?」
俺の次元魔法を強制解除しながら右手を掴んできたのは……サヴェルだった。いつの間に起きたんだい君は。ってか、魔法の強制解除なんてこの場で出来る奴はこいつくらいしかいないわ。
(迂闊に聖剣を見せるなんて事をしたら、バレるかもしれませんよ……あなたが勇者ではない事が!)
「っ!」
サヴェルの耳打ちで一気に体温が下がっていくのを感じた。
確かに……もし本当の勇者にしかできない聖剣の真の力!的なのがあったら────────
『うわぁ……『岩(笑)の勇者(笑)』弱すぎるでしょ(笑)何それ?ピッケルじゃない?(笑)』
なんて言われちまうううううううう!!
「それだけは……それだけは絶対に阻止しないと」
「……分かってくれたようで何よりですよ」
俺は汗を垂らしながらこちらを見つめる少女に対して言う。
「あのー……民間人も近くにいるし……?」
少女は途端に耳を立たせ、期待に満ちた眼差しで喋り始めた。
「……ここに魔物はいないし……?」
「ミネスの無事を確かめないといけないし……?」
「今は……」
…………シンクロするのを感じた。
「「聖剣を抜くべき時ではない」」
「……よな!」
「……よね!」
俺達は再び歩み寄ってゆく。そして─────右手で握手を交わした。堅い握手を。
「ロクト・マイニング」
「リェフル・サンヴァリアブル」
…………よかった、バレなくて。
喋る事がまるで当たり前のように、その獣は佇んでいる。この空間は、赤い鳥の少女と獣が対峙している状況一つによって異常なものと化してしまった。
「えーっと……人違いじゃない?」
「…………何?」
獣の目つきが変わった。
「ひ、ひーちゃん、知り合い?」
「うーん分かんない。会ったことないと思うけど……忘れてるのかな?」
あっけらかんと、少女は言った。
対する白い獣は────────
「…………そうか」
錯覚だろうか。さっきまで圧倒的な存在として覇気を充満させていた獣はどうしてか、とてもちっぽけな存在に見える。
飼い主が返ってくるのを待ち続けている犬のような……。
「記憶を失っているのなら仕方ない。今の貴様が満足しているのなら、我は何も言うまい」
静かな口調で話した獣は、身体をブルっと震わせると毛並みを逆立たせ、元の覇気を取り戻したかのように感じた。
「…………む?」
「……な、なに、ですか……?」
獣の鋭い眼光の先は……アルマ。
「……ガン見されているぞ、アルマ君」
「……」
「って今度は俺……!?」
アルマに向けられていた突き刺すような視線は俺に移った。
……無言で睨まれ続けている。喋っているのが違和感でしかなかったけど、喋らずにずっと見てるだけなのはそれはそれで怖い……!
「おい、小娘」
「ん、なに?」
今までずっと座って待っていた獣人の少女が白い獣に駆け寄ってきた。白い袋を肩に担ぎ、薄汚れてはいるが冒険に適している服装の少女。
((……かわいい))
俺とゴルガスは全く同じ感想を嚙み締めた。
白と黄の輝くような髪。荒っぽくもおしとやかさのある印象だ。目つきは若干鋭いように見えたが、温和そうな彼女の雰囲気によって二面性が映し出されている。
かわいい。
(──────いや、待て)
この瞬間、俺の脳内の点と点が勢いよく稲妻のように繋がり、一つの結論を導き出した。
俺の本能が、急げと言っているのだ。
アルマが仲間にしているのは心なしか獣人が多い。もしそれがアルマがテイマーである事に由来するのなら?
今俺の目の前にいる少女は…………アルマの五人目の仲間になってしまうのかもしれないのだ。
────────そんな事は絶対に許せない。
「こんにちはああああああ!!」
俺は全身を躍動させ、少女の前に誰より早く立ちふさがった。
「うわ!……こ、こんちは」
「どもっス───俺、ロクトっつーんすけど────よろしくっていうか─────永遠によろしくしたい的な─────?」
「ッ!出たぞ……!!」
「ロクトさんのド下手すぎるナンパ…………」
外野が何やらうるさいが、これでも俺は真剣なんだ。黙っていてもらおう。
「んー……あぁ!確かに一度よろしくした人とはずっと仲良くしていたいよねー。よろしく!」
これは──────『手応えアリ』じゃないか!?
「なっ────」
「ロクトさんのナンパに引いていない!?一体何者なんだ……!?」
そろそろ外野には本当に黙ってもらいたくなってきた。
「……ふん。良いのか?貴様ら。そんな軽率に会話などしていて」
「え?どういう事よポチさん」
獣の嘲笑うかのような声に少女が振り返った。
…………え?この厳つい魔物の名前が?ポチさんなんすか?
「なんだ貴様ら、気づいていないのか。まぁいい……」
獣はあくびをするような仕草をしてから、さりげなく言った。
「元より、『勇者同士』が争うなど可笑しな話だからな」
「「────────」」
場を支配したのは、沈黙。
それか、声にならない声だ。
俺は後者だった。
(『勇者同士』……って─────!!)
今日は無駄に頭の回転が良い。
今の言葉だけで、全てを理解した。
俺の目の前にいる美少女は。
獣人は。
ツーキバルの勇者──────
「……『雷の勇者』、で合ってるか?」
「……そういうあなたは『岩の勇者』ってことだよね?」
じりじりと……後ずさりをしていく。
少女は獣の方へ。俺はゴルガス達の方へ。
「まさか……こんなところで、二人の勇者が遭遇するなんて─────」
アルマの声が聞こえる。それは俺が一番言いたい言葉だよ。
魔王討伐は言ってしまえば一種の戦争だ。
より速く魔王を倒した国はそれだけ強大な戦力を持っているというわけで。そうなりゃ国際的立場も有利になる。
そのためなら……勇者が勇者を殺す可能性だってあり得るんだ。もちろん俺はそんなことするつもりはない。この少女もあるようには見えない。
ただ──────四人の内、誰か一人くらいやってもおかしくはないかもしれないじゃないか。だから、警戒は解けない。
「別にここで殺り合おうって訳じゃないのに、どうしてそんなに距離を取ってるの?」
「!!」
さっきとは雰囲気を一変させた少女が、そこには立っていた。誘うように、凍てつくような眼光で。
「まさか、怯えてる訳じゃないよね?」
─────いや、戦いはもう始まっている。
口喧嘩という名の戦いが!!
「ハッ!相手はか弱い女の子と来た。いつまでも近くにいちゃあ怖がらせちまうだろ?紳士として当然の対応だ」
「性別で舐めてかかってると魔王の首は持って帰れないよ?獣人と人間じゃ基本的なスペックが段違いなんだから」
「君と魔物、一人と一匹で俺達より先に魔王を倒すつもりか?こちとら優秀な仲間がいるんでね。負けるつもりはないけど」
「だから、そんくらいあたし一人でも十分だって言ってるの。頭数だけ立派で何の意味があるの?」
「あれ、旅の仲間は本当にその魔物一匹だけなのか。おぉ、ツーキバルの勇者は人望に恵まれていないらしい!」
「あ、あ……あたしの聖剣の性質上仕方ないのよ。あまり人が多ければ傷つけちゃう。あなたも聖剣を持ってるなら分かるんじゃない?それとも聖剣の力を引き出せてないのかな?」
「ぜ、全然引き出せてるけどな。てかむしろ引き出せすぎてコントロール完璧だし。周りに人いるって理由で全力出せないとか苦しい言い訳だわ。聖剣初心者か?」
「ぜ、ぜーーんぜん使えてるし??聖剣熟練者だし??あたしの『雷の聖剣』の力はあなたも噂で聞いたことあったりするんじゃない?一瞬で魔物とか消し炭にしちゃうから仲間とか正直いらないんだよね。むしろぞろぞろ引き連れて仲間を危険に晒してるのは勇者としてどーなの?」
「仲間を信頼してるんでーーーーす。あ、そうだ。今度酒場に行ったら『雷の勇者』の噂に『友達がいない』ってのを追加しとかなきゃな!ついでに張り紙とかどうだ?『雷の勇者、お友達募集中』……ってな!」
「あーもうちょっとやばいかも。あたしの聖剣が暴走しちゃうかも。いやいつもは制御できてるんだけどあまりの分からず屋が目の前に現れちゃったからあたしの聖剣も言ってるね。理解させてやるって言ってるよ」
「じ、じゃあ見せてみろよその聖剣とやらをさぁ!!」
「えっ……」
「え?」
「あ……その……」
このまま一生止まらないんじゃないかと思い始めてきた口論は突如として終焉を迎えた。少女の沈黙によって。
「本当に一生こうやっているかと思ったぞロクト君」
「あぁ……はは、すまんすまん」
勇者同士出会ったら敵対視しちゃうみたいなシステムあるのかな?もしそうだったらこの世界を裏で動かしている存在がいる事に──────あ、でも俺採掘師だったわ。
「……小娘が。墓穴にも程があるぞ」
獣に叱るような一言を言われた少女は……急に黙りこくって。しおらしくなっちゃって。
手に持っていた袋を何度もチラ見しながら、もじもじしている。
「あ、あははぁ~!その、なんていうか……あたしの聖剣派手だからさぁ!そのー『岩』?ってなんか地味そうだし(笑)先にそっち見せてもらった方がいいかな~って(笑)あ、言っちゃった(笑)」
「ハァァァアアアアアアア?????」
脳の血管がブチブチと切れるような音が聞こえた。絶対切れてないだろうけどキレてはいる。
───────呆れたぜ。急に大人しくなってどうしたのかと思えばそんな事を……ッ!
「じゃあ見せてやるが???あ、万が一君の聖剣壊しちゃったら申し訳ない。賠償金はナルベウスに請求してくれよ……ッ!!」
俺は右手を突き出し、一度だけ深呼吸をする。
……冷静なんかでいられるものか。
「【次元──────」
「待ってくださいロクト!」
「っ!?」
俺の次元魔法を強制解除しながら右手を掴んできたのは……サヴェルだった。いつの間に起きたんだい君は。ってか、魔法の強制解除なんてこの場で出来る奴はこいつくらいしかいないわ。
(迂闊に聖剣を見せるなんて事をしたら、バレるかもしれませんよ……あなたが勇者ではない事が!)
「っ!」
サヴェルの耳打ちで一気に体温が下がっていくのを感じた。
確かに……もし本当の勇者にしかできない聖剣の真の力!的なのがあったら────────
『うわぁ……『岩(笑)の勇者(笑)』弱すぎるでしょ(笑)何それ?ピッケルじゃない?(笑)』
なんて言われちまうううううううう!!
「それだけは……それだけは絶対に阻止しないと」
「……分かってくれたようで何よりですよ」
俺は汗を垂らしながらこちらを見つめる少女に対して言う。
「あのー……民間人も近くにいるし……?」
少女は途端に耳を立たせ、期待に満ちた眼差しで喋り始めた。
「……ここに魔物はいないし……?」
「ミネスの無事を確かめないといけないし……?」
「今は……」
…………シンクロするのを感じた。
「「聖剣を抜くべき時ではない」」
「……よな!」
「……よね!」
俺達は再び歩み寄ってゆく。そして─────右手で握手を交わした。堅い握手を。
「ロクト・マイニング」
「リェフル・サンヴァリアブル」
…………よかった、バレなくて。
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