上 下
7 / 71
一章 四人の勇者と血の魔王

第7話 久しぶりに会った奴が変貌してたって事あるよね。メデューサになってたりとか

しおりを挟む
 スプトを発って、数日が過ぎた。

「はぁ……」

 飛び出してきた魔物の群れを俺達は倒し……自然とため息が零れた。

「なんか……旅ってこんな辛かったっけ」

 聖剣を次元の穴にしまい、俺は言った。
 およそ十匹の狼型の魔物程度、聖剣を抜くまでも無いはずだ。なのに、八つ当たりするかのように俺は聖剣を取り出し、魔物達を蹂躙した。

「うむ。ここ数日で思い出したが、我々三人の旅というのは元々このようなものだったはずだ」

「……言いたい事は分かりますよ、ロクト。アルマが入ってからこのパーティは雰囲気がかなり変わりました」

 聖剣を掘り起こしてしまった俺。そして、俺に付いて行くよう命じられたサヴェルとゴルガス。望んで集まったメンバーじゃなかった。仲が悪いわけじゃなかったけど、各々が抱えた問題の事しか頭に無くて、空っぽな毎日を過ごしていた。

 アルマはパーティに勧誘した俺達に感謝していると言っていたが、本当に感謝したいのは俺達の方だった。アルマの前ではかっこよくありたい……勇者らしくありたいって思うようになって。なんていうか、自信が付いたのかもしれない。

「……そうだ」

「む?」

「思いついたっ!」

 俺は急いで地図を取り出し、二人に見えるように印を付けておいた所を指さした。この先にある少し小さめの街、ミネスだ。

「ミネスですか。それがどうしたのです?」

「求めるんだよ、出会いを」

 ミネスは小さめとはいえ冒険者ギルドは普通にある。

「具体的には、女の子を─────!!」

「「!!!」」

 俺達に必要なのは『癒し』だ。
 色っぽくなってた元同級生に殺されそうになった俺なんかはもう今すぐ癒しがないと死んでしまう。そこでだ。冒険者ギルドで可愛い女性冒険者を勧誘する……っ!

「なるほど……確かに、勇者パーティともあろうものが男三人組など悲しすぎる。華が!華がなければな!」

「フッ……この賢者サヴェルをも唸らせる妙案。気に入りましたよ!早速ミネスに行くとしましょうか」

「あぁ!」

 さっきまでのどんよりとした雰囲気は切り払った。
 今の俺達を待っているのはそう、明るい未来しかあり得ない。

「さて……と。ゴルガス、身体強化魔法をかけておきましたので、頼みますよ」

「おぉ!望むところだ」

 ゴルガスは俺とサヴェルを両肩に担ぎ、膝を折り曲げる。向かうはミネス一直線。
 本当に急ぐ時にしかしない荒業だ。

 次の瞬間、景色が切り替わる。木々、鳥、魔物、土……物凄いスピードで風を感じながら、俺とサヴェルは目を瞑る。

「ぶつけないでくださいよぉ!また私の眼鏡を弁償したくはないでしょう!」

「分かっている!」

 面白いのが、時々魔物の断末魔とかが聞こえるんだ。これを初めてやった時は俺とサヴェルの悲鳴で他の音なんて全然聞こえなかったけど今は大分慣れた。

「ふんっ!」

 ゴルガスが土煙を起こしながら地面を削り、減速していく。段々と視界がはっきりしてきた。

「あれ?ミネスじゃないじゃん」

 地面を踏みしめながら周りを見渡すと、そこは森林の中だった。……いや、少し遠くだけど門っぽいのが見えた。なんだ、少し遠いけどミネス辺りじゃんか。

「おや、らしくないですね。止まり際を間違えましたか?」

「いや……あそこだ。何かが見える」

 ゴルガスが指さした先は……空。一見何の変哲もないように見えたが───────

「なっ……あれは……!」

「ワイバーンじゃねえか!?」

 この先にあるだろうミネスの上空。それを埋め尽くす飛竜の群れ。

「十匹は超えていますね……十七、十八匹です」

 ワイバーン種といったら一流の冒険者が二人いてようやく安定して倒せるレベルだ。そんな奴らの群れが襲ってくるなんて、規模が小さいミネスからしたら危機でしかない。

「急ぐぞ!サヴェル!!」

「もう準備しています!」

 サヴェルの周囲にいくつもの魔力で出来た円盤が展開される。円盤はどんどん形を大きくしていき、やがて先が丸い筒のような形へと変化した。
 上空にいたり遠くにいる魔物を倒すときにサヴェルが良く使う禁忌とやらの一つだ。

「まとめて打ち落とします。【追尾ホーミング───────」

 まさに、サヴェルの魔法が発射される直前の事だった。

 新たに、もう一つの魔物が上空に現れ、ワイバーン達を焼き尽くしたのは。

「なっ────!?」

 燃え盛り落下していく飛竜。代わって空中に佇むのは……巨大な、真っ赤な鳥だった。翼は炎に覆われ、羽一枚一枚が輝いて見えるような……幻のような存在。

「あれは……まるで──────」

 俺達三人が、いっせいに同じ言葉を言いかけただろう。

『フェニックス』、と。

 実際の写真や映像は残っていない。見た事があるという人もいない。投影魔法はかなり昔から存在しているはずなのに。ただ、言い伝えや絵画だけの情報が、俺達が生きる今まで浸透している。
 そんで、あの鳥がその絵画そっくりだったんだ。

 しかし、空を飛んでいたはずの鳥は陽炎のように姿を消してしまった。

「……あ、あれ?どっか行きやがったぞ」

「……急ぎますよ。アレが伝説上の生物かはどうでもいいのです。問題はワイバーンを倒しただけで味方とは限らない点です」

「っ!そうだな……」

 あんなデカくてヤバそうなやつが牙をむいたら今度こそミネスは終わりだ。

「よし。じゃあゴルガス、もう一度───────」

「お疲れ様、よく頑張ったね」

 ──────声が、聞こえた。

 耳によく馴染む声。

 俺も、サヴェルも、ゴルガスも、石化したかのように動きを止めた。

「偉いね、ひーちゃん」

 段々と声の方向へと視線を持っていく。

 真っ先に視界を支配したのは、赤。
 さっき空中を舞っていた赤い鳥が、いつの間にかこの森の地面に足を付けていた。


 そして、それを宥める一人の少年。
 巨大な生物に狼狽えもせず、笑顔で撫で続けていた。

「─────アルマ」

「……え?」

 アルマの顔が、俺達を向く。
 こっちに気付いてほしかったような、気付かずに去ってほしかったような。
 まとまらない感情を現実は待ってくれやしない。

「……ロクトさん?」

「アル──────」

 手を伸ばそうとした。足を踏み出そうとした。
 だけど、また石になった。

 俺を、俺達を拒絶するような眼差しを受けて。
















 ー ー ー ー ー ー ー














 ……ナルベウスに亡命中の雷の勇者ことあたしリェフルはとんでもないものを見てしまった。

「な、なんだったのあのでっかい鳥~!」

 ポチさんが来たことがあるという、走って走ってようやくたどり着いた街。ミネスという名前らしいけどワイバーンが襲撃してくるなんて聞いてない!もっともっと驚いたのはそいつらを一瞬でやっつけちゃう赤い鳥!勇者の出番かなって思ったけど先を越されちゃった。

「まるでフェニックスみたい……あんなのが街中に現れるなんて、ナルベウスってやっぱ怖いとこだったんだぁ……」

 ツーキバルに戻りたい……って一瞬思ったけど、その方が怖い。
 聖剣を壊しちゃった事、お父様すっごい怒ってるだろうし。

「……寒気してきた……ん?」

「……あれは」

 いつもの調子なら「勇者たるもの常に堂々と」的な事を言ってくるだろうポチさんが……呆然と空を、あの鳥がいた場所を見つめていた。
 嬉しそうでいて、悲しそうな?気のせいかな。

「─────蘇っていたのか」

「どうしたの?……うんちしたいの?」

「な訳があるか!!」

 毛を逆立ててポチさんが吠える。相変わらず眼差しはあたしじゃない何かを想い続けてる。

「……行くぞ」

「へ?まだミネス来たばかりだよ?」

「行かねばならない。行かねばならないのだ。悪いが付き合ってもらうぞ」

「うぇっ!?ちょ、ちょっとぉ!?」

 そう言ったポチさんは……あたしのフードを噛んで─────首を大きく振った。

「うわえぇ!?」

 ポチさんは大変器用なようで。
 世界がぐるんと回ったと思ったらあたしはポチさんの背中に跨がっていました。

「落ちるなよ」

 それを言う頃にはもうポチさんは走り出していた。

 ─────伝わってくる、軽快なリズム。ゴワゴワの毛並みを堪能しながら、股でそれを感じた。
 やっぱり、喜んでるのかな?…
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル
ファンタジー
 異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!  主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。  亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。  召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。  そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。  それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。  過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。 ――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。  カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。

勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~

秋鷺 照
ファンタジー
 強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

異世界召喚されたと思ったら何故か神界にいて神になりました

璃音
ファンタジー
 主人公の音無 優はごく普通の高校生だった。ある日を境に優の人生が大きく変わることになる。なんと、優たちのクラスが異世界召喚されたのだ。だが、何故か優だけか違う場所にいた。その場所はなんと神界だった。優は神界で少しの間修行をすることに決めその後にクラスのみんなと合流することにした。 果たして優は地球ではない世界でどのように生きていくのか!?  これは、主人公の優が人間を辞め召喚された世界で出会う人達と問題を解決しつつ自由気ままに生活して行くお話。  

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

処理中です...